第78話 新しい可能性
「ニューシティー!」
相も変わらず、トトンが両手を振り上げて叫ぶわけだが。
今回は結構掛かっちまったな。
ダイラもかなり疲弊している様だし、早い所用事を済ませて宿屋を取ってしまった方が良いのかもしれない。
なんて事を思いながらも、この街の案内を読みながら口元が吊り上がっているのを感じる。
「クウリ、顔」
「分かってんよ、分かってるんだけどさ……イズ。ハハッ、コレがご都合主義って奴か? 今の俺達にピッタリな街じゃねぇか」
最初召喚された国とはまた別の、というかお隣の国に入った俺達が最初に訪れた街。
そこは別名、“訓練都市”と呼ばれているらしい。
各地からこの街に人が集まり、基礎的な事から叩き込んでくれる様な場所。
更に言うなら、職業ごとに……それこそ“ギルド”と言っても良い集まりが出来ているらしい。
つまり、教習所が集まっている街みたいなもんだ。
ちなみに学校も結構あるらしいけど、そっちは関係ないので無視。
「まずはギルドで転移届け出してぇ~、それからどうする? 皆して今よりもっと強くなるって言っても、目的が定まってないしね。足りない所を補うのか、それとも今ある物を伸ばすのか。その辺りはどう考えてるの?」
ちょっとお疲れ気味のダイラがそんな事を言って来るが。
まずは……どうしよっか! 未定!
「今日はアレだね、宿にしよう。一旦落ち着いて、皆で話し合ってから方向性を決めよう。な? ソレが良い。片っ端から修練受けても、金と時間ばっかり掛かるし」
方向性、全然決まっておりません!
いや色々考えたんだけどね!? 結局どうすれば良いのか分からないのよ!
だって俺等の中身は普通の一般庶民な訳で、強くなろうぜ! って言ったところでどうすれば良いか分からないよ!
と言う事で、いつも通り冒険者ギルドで転移手続きを済ませてから。
「魔術適性を調べるには、鑑定所か……お? 鑑定士がいる教会などでも出来るらしい。今日、行ってみるか?」
「うい、それだけは済ませちゃうか。どっかに教えを乞うにしても、ソレが分かんないと色々手間だし」
イズの提案に乗っかる形で、街の案内図を片手にそのまま教会へと向かった俺達。
そんでもって、諸々事情を説明し金を払ってみれば。
目の前に用意されたのは水晶玉の様な代物。
コイツに触れる事で、魔術適性とやらがわかるらしい。
ここに来て、やっと異世界生活初期イベントが発生した気分だ。
本来最初にこなすイベントでしょ、コレ。
などと思わず溜息を溢しつつ、ソレに手を触れてみると。
「お、おぉ!?」
何が何だか分からないが、相手は興奮した様子を見せ始め、俺が触れている水晶玉を覗き込んでいる。
これはまさか、このアバターにはまた別の凄い能力とか秘められていた的なイベントとか、そういうのが発生してしまうのだろうか?
そんな事を思いつつ、ちょっとだけ期待しながら待っていれば。
「素晴らしい闇魔法適性ですね……これ程までハッキリと適性が分かれている方は非常に少ない。その他にも適性があるようですが、闇魔法が特に強い。間違いなく、貴女はソチラの道に進むべきです」
ありゃまー、見事に予想通りというか。
このアバターの基礎情報通りだ。
その他の適性ってあれでしょ? 初期の元素系も使えるよ、みたいな。
知ってます、実際使えるんで。
あちゃぁ、これは全員やるのは金の無駄かぁ?
なんて、思い始めた所で。
「あとは……そうですね。貴女は聖属性の適性も強い様だ、もちろん闇属性に比べれば見劣りしてしまいますけどね? 適正というのはもちろん遺伝なども関係しますが、心の在り方で変わって来るものです。貴女は何と言うか……非常に極端な様だ。身体は闇に適しており、心は光を求めている。反発するそれらがそのまま具現化した様な、不思議な適性持ちですな」
はい?
いやいやいや、ちょっと待て。
俺の得意属性は闇、聖属性なんて言えば全く真逆だ。
スキルツリーで言えば、普通にやってたらまず間違いなくスキルを綺麗に取れない位置にある属性なのだ。
でも、その適性が……俺にはあるって事か?
つまり、スキルツリーとか関係なしにそっちも使えるようになる?
「えと、今から修道院とかで働けば……聖属性も使えるって事ですか?」
「そればかりは貴女次第ですけどね? 適正があっても、それだけでは魔法は使えない。ですが、これ程までに適性があるのなら……そうですね。闇属性が大きすぎて見劣りしてしまっているが、中級……頑張ればもしかしたら、上級初期の聖魔法を授かれるかもしれませんね」
そう言って、神父は笑っていた。
コレが、新しい可能性。
イズの言っていた、俺達が強くなれるかもしれない手段。
その一辺が見えた事により、思わずガッツポーズを取りそうになってしまったが。
よりによって、聖魔法かよ……え、えぇぇ。
ウチにはダイラ居るし、中途半端な能力とか身に着けてもなぁ……とか思ってしまうが。
「と、とにかくやってみようよクウリ! コレも新しい可能性って事でさ! ホラ、俺達も他の可能性が無いか調べてみるから!」
なんか、ダイラに滅茶苦茶励まされてしまった。
まぁ、ね。
コイツは聖魔法を極めた様な存在だからね。
更に言えば俺のサブ職とか色々、死にスキル多いし。
今更役に立たない才能が見つかったところで、こうなりますよね。
思い切り大きなため息を溢しつつ、意識を明後日の方角に飛ばしていれば。
「ほほぉ……貴女達は何と言うか、凄いですね。特出した何かを持っているのに、絶対にもう一つ燻っている才能がある」
「それは?」
「無属性です。身体に影響するという、分かりやすく感覚的な魔法の使い方。貴女には、その才能がある様だ」
「それは本当か!?」
どうやらイズは当たりを引いたらしく、神父に対して詰め寄っていた。
本来“炎”の特性を持ったイズに、無属性まで追加されてみろ。
そりゃもう強い剣士が生れる事だろう。
これはとても喜ばしい事だ、なんたって本人が言っていた“強くなれる”環境が完璧な形で揃い始めているのだから。
ということで。
「おめでとう、イズ。よかったな」
涙を溢しながら、パチパチと拍手を送った。
この調子で、皆強くなれ。
今後を気にしなくて良いくらいに、稼ぐんだぞ?
そんな事を思いつつ、涙を溢した。
俺、結局中途半端な術師にしかなれなそうなので。
などと思いつつ、イズを祝福していれば。
「何を言っているんだ? クウリ」
「うん、何がだい? 超万能型になりそうなイズさんや」
フッフッフと優しい笑みを溢しつつ、そのまま拍手を続けていたのだが。
イズは俺の手をガシッと掴んでから。
「可能性は全て試す、しかもこの街では短期訓練も受けられるらしい。勿論お前は、修道院に行くんだよな?」
「……マジで? いや、俺絶対ハズレ適性じゃん。ダイラ居るし」
「手札が増えるのは悪い事じゃない。それに……こういうことは言いたくないが、一度浄化されて来い。クウリは魔王テンションになると、手に負えないからな」
そんなお言葉を頂いてしまうのであった。
……いや、え? マジで?
俺、シスターになるの?




