第74話 改めて、向き合う
「あぁぁ~……久しぶりに、ガツンッて響いたわぁ……」
「これに懲りたら、もう少し自分を大事にする事だ」
「そーだそーだ! 確証も無いのに、デウスマキナに飛び込むのは馬鹿のする事だ!」
イズからは静かに怒られてしまい、トトンからはブーブーとクレームを頂いてしまった。
まぁ確かに、アレは周りからしたら生きた心地しなかっただろうな……。
むしろ俺も普通に死ぬかもって思ったし。
「本当に大丈夫? 身体に違和感とかない?」
ダイラに関してはずっとこっちの事を心配してくれるのだが、イズのゲンコツで出来たこぶだけは治してくれない。
反省しろって事らしく、コレだけはそのままにされてしまった。
ごめんて。
とはいえこれだけ心配してるって事は、何かしら発生した場合はすぐに回復してくれるんだろうが。
「結局、君達に全て頼ってしまう形になったな……面目ない」
未だ同行している兵士の皆さんが、申し訳なさそうに頭を下げて来る訳だが。
もうこのやりとり何度目ですかって感じなのだ。
それくらい、この人達にとってはショックがデカかったって事なのだろう。
兵士なのに、冒険者……というか一般人に助けられたってのもあるのかもしれないけど。
今回は運が良かった、程度に思ってくれて良いんだけど。
そういう訳にもいかないのだろう。
「しかし俺達では、間違いなく“アレ”に勝てなかった……本当に、ありがとう」
やっぱりそこが、一番響いているみたいだ。
というか、俺達だって勝ってはいないんだけどね。
逃げられちゃったし、なんかまた変なフラグが立っちゃったみたいだし。
「いえいえ、そこはマジで気にしないで下さい。そもそも俺達だって“依頼”って形で同行してるんですから」
「ハハッ……本当に。強いな、君達は。こう言っては何だが、君達に頼って本当に良かったよ」
なんて言いながら、苦笑いを浮かべているマトンさん。
しっかし、なんだよ“魔女”って。
俺も前の街で魔女だなんだと謳われたが、本物の魔女ってあんなに強いのかよ。
魔人だけでお腹いっぱいだってのに、また変なのが出て来てしまった。
そんでもって、俺達が本気を出しても引き分けるのが精いっぱいという化け物。
しかも四対一でコレなのだ。
これまでの生活で、どこか慢心していたのだろう。
この世界では多分俺達が一番強いんじゃないかって気持ちが、少なからずあったんだと思う。
いやホント、世界は広いね。
今回の一件でよく分かったよ。
「これからどうすっかー……本当に目立たない様に気を付けて、隠れて暮らす? もうアイツと戦いたくねー」
歩きながらボヤいてみると、仲間達は神妙な表情を浮かべてから。
「俺は……更に上を目指すべきだと思う」
グッと拳を握り締めたイズが、そんな事を言って来た。
確かに、もっとリアルとゲームスキルの兼ね合いを勉強して、更に効率よく戦える様にしておかないと。
アイツがまた現れ、各個殲滅みたいな真似をしてみろ。
間違い無く秒で狩られるわ。
などと愚痴りつつ、はぁぁと大きなため息を溢してみれば。
「それもあるんだが……俺が考えたのは、一人一人の強化だ」
「と、言いますと?」
はて、と首を傾げてみれば。
隣に来たイズが少々声を落としながら。
「俺達はレベルカンスト。スキルツリーもこれ以上弄れず、普通のやり方ではスキルを増やす事が出来ない。そうだな?」
そうだね、細かい所はまだ“金と時間”を大量に使えば、もう少し弄る事は出来ただろうが。
それでもこれ以上は成長しないと言っても良いアバター。
しかし今ではそういうメニューすら表示できないので、完璧に成長が止まった個体と言って良い。
今更そんな確認をして、いったいどうしたのだろうか?
「本当にそうだろうか? この世界にレベルやステータスは無い、更にスキルツリーだって存在しない。俺達の使うスキルはゲーム通りのものだが……肉体的な技術や、魔法に関しての知識。それらを“正しい方法”で習得出来るのなら、まだ強くなれる気がするんだ」
「……つまりスキルでは無く、この世界の“魔法”や“技術”を覚えるって事か?」
「あぁ、それが可能なら各段に手が増える事になる上、スキルツリーに囚われないのなら、今まで不可能だった事だって出来るかもしれない。それは剣術でも同じだと思う。現に俺はマトンさんと試合をして、“強い”と感じた。レベルやステータスでは圧倒的優位に立っているのに、だぞ?」
確かに、そっちは試した事が無かったな。
剣術で言えば分かりやすいのかもしれない。
行動が自動化してしまうスキルを使った場合は、問答無用でその動きをしてしまうようだが。
それ以外に関しては、イズやトトンは自らの意思で手足を動かしているのだ。
であれば剣術や体術を習い、“素の状態”ならソレを行使できるのは間違いない。
というか、そういう意味では俺やダイラだって近接攻撃が行使出来る様になるかもしれない。
俺達がゲーム内から持ち込んだ武装の方が優秀なので、どうしてもそちらに目が行ってしまうが。
“こちら側の物”なら、装備が出来る事は確認しているんだ。
筋力値は当然低いが、それでもレベルの影響で一般人に比べれば怪力と言っても良い状態ではある。
実際ゴートの大剣を、重いと思いながらも持ち上げる事は出来たしな。
アレで戦えって言われると……ちょっと自信無いけど。
「やってみる価値はあるかもな……各々の能力アップ。魔法に関しては何とも言えないが、間違いなく近接戦の方は可能な気がする。俺とダイラがそっちも出来るようになれば、戦術の幅は大きく広がって来る」
「それは俺とトトンにも言える事だ。それこそあの魔女を、近接戦だけで完封できる様になるかもしれない。実際アイツは強かったが、それ以上に剣士としての実力差を強く感じた」
と言う事らしい。
なるほどなるほど、ならこれからはその方針で少し調べてみますか。
なんて、俺達だけで決める訳にもいかないんだが。
まぁ多分反対するメンバーはいないだろう。
「とはいえ、あぁいうのが出てこない時は……俺等の方が相変わらず化け物扱いなんだけどな」
ハハハッと乾いた笑い声を洩らしながら、ため息を溢してしまった。
「そればかりは今まで通り控えめにするしかないだろうな。だがまた魔女と戦う時に、今のままでは不味い。それに、アイツは言っていたぞ? “魔王と聖女によろしく”と」
「うげ……完全に目を付けられてんじゃん。やっぱ調子に乗って、安易にフラグ立てたのが不味かったか」
「クウリの魔王ロールプレイが完全に裏目にでたねぇ。今度からは口にも気を付けようねぇー災いの元だよー?」
隣で話を聞いていたダイラから、そんなお小言を頂いてしまった。
悪かったって、だってあの状況で他の奴に話が漏れるとか思わないじゃん。
とはいえ、実際に問題になってしまったのも事実。
俺がゴートに対して“魔王”がどうとか何て宣言しなければ、もしかしたら魔女も俺に目を付ける事も無かったかもしれないし。
いや、手加減した状態で勝ったってのと……俺達の能力にも興味を持っていたから、結局襲ってきたのかもしれないけど。
しかし、今度から本当に口には気を付けよう。
魔女の件だけじゃなく、他の所でも問題になる事多いし。
「でもさぁ、普通の魔法覚えたら今度こそクウリは無茶禁止だかんね? スキルじゃない以上、間違いなくフレンドリーファイア有りだからね? そっちはゲーム的なシステムがある訳ないんだし」
トトンの言葉に、思わずウグッと苦い声を上げてしまう。
そうだ、確かにその通りだ。
もしも新しい魔法が使える様になった場合、これまでの様に仲間や自分を巻き込む様な戦闘は一切できないだろう。
何だかんだいいつつ、今回とかエージングとかポイズンミストとか。
そんなもん使っている所に突っ込んじゃったしな、俺。
間接的なスキルなら“多分”大丈夫って程度だったのに。
デウスマキナの時の衝撃が強かったのか、仲間達はそっちに気が付いていないので黙っておこう。
言ったら絶対また怒られるし。
「とりあえず、アレだな。次の街に着いたら、“魔法適性の鑑定”だっけ? それ受けてみるか。俺達は自分で適性選んだけど、“こっち側”の身体なら、もしかしたら他にも出来る事あるかもしれんし」
「あぁ、なるほど。確かにその可能性はあるのか」
「それなら俺は“無属性”欲しいなぁ。身体能力が低くて、皆に追いつけない事が多いし。今回ホント身に染みたよ……クウリみたいに翼アクセを意地でも確保しておくんだった……」
「だったら俺闇魔法が良い! クウリと一緒に“ぶっぱ”したい!」
そんな会話をしながら歩いて行く俺達を、兵士の皆様は何が何やらって顔で見つめていたが。
やがて日が昇り、俺達の目的地であった国境の壁が見えて来た。
入国手続きの仕方はマトンさんが教えてくれるって言ってたし。
兵士と同行してきたのだから、変に疑われる事も無く入国出来る事だろう。
ついに、ついに……姫様の追跡から、逃げ切ったぜ!




