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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
3章

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第73話 可能性と叱咤


「クウリィィィ!」


 これまで直接攻撃魔法が仲間、もしくは自らに影響を及ぼすかどうかの検証はしていない。

 あまりにも危険過ぎるから、当然の判断だ。

 だというのに、クウリは自らをも巻き込む形で“デウス・マキナ”を使った。

 馬鹿野郎、本当に大馬鹿野郎だ。

 あんなモノ、プレイヤーのHPだって簡単に消し飛ぶ威力なのだ。

 更にココは現実。

 跡形も残らない程に消し炭になってもおかしくない。

 だからこそ、絶対にやっちゃいけない一手だった筈なのに。

 アイツは、何の迷いも無くそれを実行した。

 俺達を、守る為に。


「え、あ、え? そんな、駄目だよ……灰になったりしたら、蘇生魔法だって意味が無いって……」


 ダイラはガクガクと震えながら、その光景を見つめていた。

 紫色の光が、全てを飲み込む光景。

 超広範囲殲滅魔法、更には攻撃術師の奥義。

 そんな物が、クウリ自身に振りかかってしまったのだ。

 絶望しないはずがない。

 更には。


「クウ……リ? えと、あの……無事、なんだよね? それ、平気だから使ったんだよね? そう、なんだよね? 無計画に使ったりしないよね? クウリは、俺達より、ずっと頭良いもんね……?」


 もはや絶望どころではない。

 乾いた瞳を向けるトトンが、ガクガクと震えながらその場で座り込んでしまった。

 くそっ、クソっ! 本当に最悪だ。

 こんな事なら、俺が奥義を使う方がマシだった。

 だというのに、クウリの声に従って順当に攻めようとした結果。

 ヘイトはリーダーに向かい、しかも相手の身体能力を読み切れなかった俺は敵の攻撃を許してしまった。

 こんなの、前衛の名折れどころじゃない。

 俺はこのパーティの前衛として、全く役に立っていないという事を意味するのだ。

 結局クウリに頼ってしまい、リーダー自身が直接対処した。

 だったら、最初から俺が居なくても同じではないか。

 そんな思いに駆られながらも、クウリの無事を祈っていれば。

 背後で、ドサッと何かが落ちる音がした。


「……流石に、コレは予想外。どこまで強いの、貴女達は」


 まるで焼けただれた肉塊の様になったソレが、徐々に回復しながら女性の身体に戻っていく。

 そして、件の魔剣を杖の様にして立ち上がってみれば。


「まだ……生きているのか? 嘘だろ、奥義を食らったんだぞ……」


 慌てて両方の剣を構え、戦闘体勢を整えるが。

 仲間達は……無理だ。

 とてもではないが戦える状態じゃない、だからこそ俺一人で対処するしか……そんな事を思っていれば。

 彼女はスッと此方に掌を向けた。


「……もう、無理。戦えない」


 裸になった女が、両手剣を杖代わりにしながらも立っている光景。

 一見すれば絵になる、なんて言えてしまいそうなソレだったが。

 この光景が、俺には何より恐ろしく感じた。

 クウリの奥義でも倒し切れなかった相手。

 レイドボスでさえ一撃で粉砕したソレを受けて、まだ生きている上にすぐに全回復した。

 こんな生物が、この世界には居るのか?


「貴様は……何なんだ?」


「それこそ、コッチの台詞。魔人でも魔女でもない。なのに、この力……まさか、“天人”?」


「テン、ジン?」


「神から選ばれた人の事。それをそう呼ぶと、教わったわ」


 そんな事を言いつつも、女は何処からともなくポーションを取り出し。

 グイッと呷ってから再び鋭い瞳を向けて来た。


「教えて、彼女は本当に“魔王”なの? それから、そこの街で有名になっていた“聖女”。その実力は本物?」


「実力に関しては今見た通りだ、自分で判断しろ。しかしクウリは間違いなく“魔王”という二つ名を持っていた。それは事実だが……同時に、俺達は人間だ」


 それだけ言って、両手の剣を構えていれば。

 彼女は、大きなため息を溢してから。


「引くわ、今日はこれ以上戦えそうに無いし。魔王と聖女様によろしく、また会いに来るって、そう伝えておいて」


「……会いたいとは、思わないがな」


「私にとっては必要なの。私の目的を叶える為には、“大いなる存在”が要る。だから、また来る。それから……最後に一つだけ忠告」


「なんだ?」


「私の事を、“魔人”って呼ばないで。私は“魔女”よ、世界から忌み嫌われる存在、魔女。それを肯定してくれた人が居たから、私はソレを名乗っている」


「覚えておこう」


 そんな会話と共に、彼女は黒い影に呑まれて消えて行った。

 危機は去った、そう考えて良いのだろう。

 しかしながら、俺達としては。


「クウリ!? クウリ! クウリィィ!」


「死んでないよね!? こんな所で死ないよね!?」


 デウスマキナの攻撃が終わった瞬間。

 スキル発生地点に、皆して駆け寄ってしまった。

 あんな広範囲で、地形さえ変わってしまう程の高火力。

 普通の人間ならまず生き残る事は出来ない、攻撃魔法の奥義。

 少し飲まれただけでも跡形も無く消え去ってしまいそうソレに、全身を飲まれた本人は。


「……じ、自分のスキルなら、影響無いみたい。……ビビったぁ、マジで」


 地面に座り込み、疲れたため息を溢しながら、肩から血を流すクウリの姿が。

 コイツは、コイツは本当に。

 全員が安堵のため息を溢してから、目尻を吊り上げ。


「確証も無いのにやるな馬鹿! クウリの馬鹿! 馬鹿クウリ! 次やったら許さないからな!?」


「クウリ本当に平気!? 今すぐ傷治すから、他に痛い所とかない!? 全く何やってるの! 絶対次から禁止だからね!? こういう時だけ判断が早すぎるよ!」


 トトンは飛び付き、ダイラは心配そうにクウリの身体の至る所を確認しながら回復魔法を掛けている。

 であれば、俺の役目は決まっているのだろう。

 怒られて、心配されて、治療してもらって。

 そんでもって、元々は男同士なのだ。

 だったら男の友情なんて、分かりやすい方が良いだろう。

 そして俺は、そういう方法でしかコイツを叱咤出来そうに無いので。


「あ、あはは……よかったぁ、マジで死ぬかと思った……大丈夫、大丈夫だから。マジで自分のスキルなら影響無いみたいだし。お前等心配し過ぎだって」


 徐々に落ち着いて来たのか、クウリはそんな言葉を溢しているが。

 コイツは少々、自分の事を軽く見過ぎだ。

 どれ程俺達が心配したのか、理解させる必要がある。

 なので。


「クウリ、歯を食いしばれ」


「え、あ? イズ、どうした? そんな怖い顔して――」


「フンッ!」


 リーダーの頭に、本気のゲンコツを食らわせてやった。

 ズドンッ! と凄い音をして、そのまま気絶してしまったのか。

 パタリと倒れてしまったが。


「イズ何やってんの!? 今治療中なのに!」


「……グスッ、クウリはこれくらいしないと分からないよ。イズ、ナイス」


 それぞれのお言葉を頂いてから、叩きつけた拳を開いた。

 全く、本当に。

 色々迷って、悩んで、考え抜いて生きて来た筈なのに。

 どうしてお前は、こう言う時だけは決断が早いんだ。

 誰にも相談せず、すぐに決めてしまうんだ。

 だから、不安になるんだ。


「次は、お前に攻撃が向かわない様……俺も強くなる。だから、二度とこんな真似はするな、クウリ」


 レベルが無い、ステータスが無い。

 ソレに関して、俺達は悲観的な感情ばかりを抱いていたが。

 逆に考えれば、“制限が解除された”という事なのではないか?

 先程兵士の隊長と戦った時に、強く感じた違和感。

 そして先程の魔人……ではなく、魔女か。

 アレと戦った時の違和感。

 俺達とは別のベクトルで、二人共強かった。

 魔物や魔獣では気が付けなかったが……剣士としてだったら、多分二人の方が強い。

 俺の“イズ”というキャラクターは、ゲームではレベルマックス。

 スキルツリーのポイントだって使い切っている状態。

 だからこそこれ以上大きな成長は見込めない、筈だったのだが。

 その概念そのものが無いのなら、まだ強くなれるのではないか?

 今日の戦闘で、そう感じた。


「まだだ、まだまだ俺達は強くなれる。そしたら、アイツだって俺一人で抑えてみせる。だからこそ、クウリ。お前だけが犠牲になる様な選択は、もう絶対にするな」


 そんな事を言いながら、地面に倒れて伸びているリーダーを見つめるのであった。

 少々……強く殴り過ぎたか?


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