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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
3章

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第72話 デウス・マキナ


「ちゃんと意識ありますか!? もう大丈夫ですからね!?」


 リザレクションの魔法を使って、欠損した戦士たちを復活させてみた結果。

 死者はゼロ。

 いよしっ! なんて拳を握ってから、皆の元へと駆け出した訳だが……。

 ちょっと!? どこまで飛んでいったのクウリ!

 イズとトトンなら、身体能力で追いつけるかもしれないけど。

 俺には流石に無理だって! 遠い! 遠いよ!

 などと思いながら、パタパタと走っていれば。


「聖女様! お許しを!」


「うへぁっ!?」


 急に後ろから腰に手を回され、そのまま担ぎ上げられた。

 肩に。

 まるでお米を担ぐみたいな体勢で、マトンさんの上に乗っけられた俺。


「行くぞお前等ぁ! あの切り裂き魔をひっ捕らえるチャンスだ! 殺しても構わん!」


「「「ウオォォォ!」」」


 よく分からないけど、兵士の方々が進行し始めたらしい。

 そして足の遅い俺は、見事隊長さんの肩に担がれて荷物の様に運ばれている、と。

 わぉ、めっちゃ足手まとい。


「じ、自分で走りますから!」


「いいえ、そのままで! 俺が担いで走った方が速いです! あの嬢ちゃん達に、聖女様は絶対必要なんでしょう!? だったらしばらく身体を休めて、戦闘に参加したらかましてやってください! 俺達も援護します!」


 そんな事を言われると、此方も反論できず。

 しばらく大人しくしていれば、遠くからでも分かる程の爆発やら魔法やらが見えて来る。

 派手にやってるなぁもう……なんて、最初は思っていたんだ。

 だけど近付く程に、皆の戦っている姿が見えて来る程に感想が変わっていく。

 だって、こんなの……あり得ないでしょ。

 皆が、“たった一人”に苦戦しているなんて。


「皆! 来たよ!」


 叫んでみれば、クウリは物凄く鋭い目を此方に向けてから。


「ダイラ以外は近づくな! 邪魔になる! 俺達に任せろ!」


 これまで聞いた事の無い程、鬼気迫る怒号を上げた。

 えっと、今の……クウリだよね?

 クウリの指示だよね? 俺だけは近づいて良いって事だよね?

 困惑しながらも、隊長さんの肩から降り。

 恐る恐る足を向けてみると。


「ダイラ! バフ! 現状治療は必要無いが、奥義も準備しておけ!」


「う、うんっ! 分かった!」


 嘘でしょ? 本気で本気の、マジバトルが炸裂してるみたいなんだけど。

 これで苦戦しているって、何事?

 イズは相手と打ち合っていても攻め切れていないし、トトンはタイミングを見て防御に飛び込んでいる。

 近接戦闘が途切れず、更には的が小さい上に相手が張り付いてくるため、後衛攻撃職が手を出し辛い状況を作られていた。

 クウリがなかなか手を出せずに居るって……結構異常事態なんじゃないの?

 だってこれ、イズとトトンが押されてるって事だよ?

 相手、本当に何者なのさ。


 ※※※


 良かった、ダイラが来てくれた。

 そこに胸を撫で下ろしながらも、再び戦場を睨んだ。


「イズ、無理すんな! 全員で掛かれば良い!」


「分かっている、分かっているんだが!」


「あの状況じゃ引けないんだよクウリ! 下がった瞬間斬られる!」


「トトン! なんとか割り込めないか!?」


「怪我する覚悟で突っ込むかんね! 怒らないでよ!?」


 連撃を繰り返すイズとドレスの女。

 その間に、無理矢理トトンが割り込んでみれば。


「ちょっと邪魔、かな」


「グッ!」


 トトンの肌に、深い裂傷が出来た。

 ゲームあるあるの肌を露出した装備が、ココに来て裏目に出やがった。

 単純な全体防御数値では無く、各所弱点への攻撃。

 これまで俺達だって何度もやって来た事だろうに。

 此方に対してソレを使う相手と、初めて会った。


「ダイラはトトンの回復! コッチで足止めする!」


 ガツンガツンとトトンが攻撃を防御し、ダイラが前衛を治療する。

 その隙を縫う様にしてイズが攻め込んでいく訳だが、相手もソレは予想していた様で。


「凄く強い、速いし魔力量も凄い。でも……少し単純、かな? 戦場を知らない玄人みたいな、不思議な感覚。君達は……何?」


 相手は非常に落ち着いた様子な上、自然な流れで狙いをイズに変更した。

 まるで最初から分かっていたかのように、もしくはこの程度ならいくらでも連撃を調整できると言っているかのように。

 ヤベェってコレ……レベル云々とか関係なしに、相手は剣の達人だ。

 しかし、諦められるはずも無いので。


「シャドウバインド!」


「っ! また、いやらしいタイミングで」


 相手の剣に束縛魔法を撒きつけたが、ソッチは意味がないとばかりに断ち切られてしまった。

 アレはさっきも見た、だからこそ狙うは足。

 軸足は体重が乗っているから、踏み込む方の足を後ろから引っ張るみたいにしてみれば。

 見事に踏み込みは遅くなり、力も入っていない。

 結果剣技が遅れ、イズの刃の方が速く届いた。


「ぜぇぁ! っ! これでも死なないか!?」


「……強いね、君達。でも、無意味」


 例え斬撃を受けても、イズの剣の追加攻撃を受けて炎が上がっても。

 トトンの盾でぶん殴られて、それこそドレスなんか既にボロボロなのに。

 破れた布から見える肌には、傷一つ無いのだ。

 攻撃が効いていない訳じゃない、“回復”している。

 自己再生能力が半端じゃない。

 考えられるのは超強力なリジェネを使っているか、パッシブとして治癒魔法が発動している事。

 アレが初手のプラズマレイを食らっても、普通に生きていた理由なのだろう。

 つまり、風穴を空けた程度じゃ死なない。

 頭を吹っ飛ばしたり、存在そのものを消し去ったりしない限り倒せない相手なのかも。

 最悪だ、マジで強いぞコイツ。


「クウリ! 奥義を使う!」


「駄目だ! お前がこの状況で使える奥義は、間違いなくダイラと同じ様にデメリットがある! 倒し切れなかった時には、お前が死ぬぞ!」


 決着を急ぐイズを必死で止めながらも、どうにか相手に勝てる手を考えた。

 どこか一部、それこそコアを攻撃しないとダメージが入らない系のボス?

 ペレの様な状況を考えてみるものの、相手は各所をイズに切り裂かれている。

 更には追加の魔法攻撃まで食らっても、それらしい部位は見えなかった。

 であれば、やはり相手の魔力が尽きるまでは再生し続けるタイプだと思って良いのだろうか。

 俺がドレインを使い続けるか、それとも相手に大技を誘発させて魔力を削る。

 その後に一気に畳みかけるか?

 などと、考えなら魔法を放っていれば。


「決断が遅いよ、魔王様?」


「クウリィ! 避けろ!」


 さっきまで前衛付近に居たはずの相手が、一瞬でコチラに攻め寄って来たではないか。

 は? え? もしかして、テレポート?

 でも先程まで居た場所で、踏み込んだ際の舞い上がる土が見えた。

 つまりコイツは、素の能力ですら滅茶滅茶ヤバイ魔法剣士。

 更に相手の今の構えは、突き。

 もっと言うなら狙いは……俺の予想が外れていなければ、一撃で殺しに来てはいない。

 だったら、俺がすぐに取れる戦法は一つだけだ。

 捉えろ!


「ぐあぁぁぁっ!」


「クウリっ!?」


 誰が叫んだのか分からなかったが、とりあえず相手の剣は俺の肩に突き刺さった。

 そうだよね、露出してるもんね。

 俺を即死させるつもりは無いみたいだし、まずはそこ刺すよね。

 こればかりは、予想が当たってくれて良かった。

 滅茶苦茶いてぇけど、マジで泣きそうだけど。

 けど相手は、“脚を止めた”。


「この程度で、魔王? 本当の力を見せて、貴女が本物なら、私にとって重要な存在なの」


 どこまでも此方を試す様子のまま、相手は肩に突き刺した両手剣をグリグリと動かして来た。

 いってぇぇぇぇ! 動かすんじゃねぇよ! 貫通してんだから!

 でもまぁ、ある意味願ったり叶ったりの状況だ。

 お前が最初から俺を狙っていたからこそ、俺を囮に出来る訳だ。

 んでもって、この状況なら俺だって思い切り攻撃出来る。

 コイツに勝つには、もうコレしか無い。


「シャドウバインド」


「また、それ?」


 相手の身体を、そこら中から拘束術式の黒い影が絡み付いて行く。

 更には、残っている方の腕で彼女の事を抱きしめ。

 グッと身を寄せて、相手の顔面に此方の顔を近付けた。


「何の、つもり?」


 困惑する相手を腕に抱きながら、ニィッと口元を吊り上げる。

 相手を引き寄せた掌は……無礼ながらも“女の命”なんて評される部分を、血に濡れた掌で思い切り鷲掴みにした。


「こういうつもりだよ、やっと前衛から離れたな? “覚醒”! デウス・マキナ!」


「っ!?」


 必死で逃げようとする相手を束縛魔法が押さえ、更には俺の掌は彼女の美しい銀髪を思い切り掴んでいた。

 悪いね、こういう事はあんまりしたくないんだけど。

 緊急事態だし、戦闘中だからお互い様だよな?

 そんな事を思いつつ髪の毛を放さずにいれば、彼女の回避は明らかに遅れた。

 そりゃそうだ。

 拘束場所の魔術を断ち切らないといけない上、更には髪の毛を掴まれるって。

 こんな泥臭い戦い方なんぞ予想外だろうし、“自然な痛み”ってのがこう言う場所では結構有利になるってどこかで聞いた事がある。

 んで、そんなモタモタしていれば。


「ゼロ距離でも耐えられるか? 魔人。もしも俺の目論見が外れたら、あの世で会おうぜ」


 背後から現れた巨大な人形の口から、極太のレーザーが照射されるのであった。

 彼女と、更には俺まで飲み込んで。

 これまで直接攻撃魔法、というか自らの攻撃に自分は攻撃判定になるのかという実験はしてこなかったが。

 それでも、やるしか無かった。

 高火力が叩き込める瞬間が、仲間を巻き込まずに使える瞬間が今しか無かったから。

 あぁ、ホント……こんな土壇場でテストする事になるとは。

 しかも奥義で試すとか、マジで最悪だ。

 俺の身体が塵にならない事を祈るよ。

 そんな事を思っている間にも、彼女の顔は歪みながら俺の事を睨んだ。

 その肌を、その身を、放たれたレーザーに焦がされながら。

 普通なら生きていない、ボロボロと崩壊する身体を携えつつも、相手は此方をジッと見ていた。

 それでも掌だけは力を入れ続け、彼女の髪の毛を掴み続けていれば。

 色々と欠損してるけど、やっぱ敵キャラにするには勿体ないくらいの美人だ。

 だというのに、俺の攻撃で徐々に傷だらけに……というか言っちゃ悪いが醜い姿に変わっていく美女。


「貴女、異常よ? 普通こんな事やらないわ、貴女だって無事ではいられないもの」


「お互い様だろ、魔人。お前を殺す為だ、これくらいしないと……割に合わないだろ?」


 ニッと口元を吊り上げてみれば。

 彼女は笑い、やがて力を抜いた。


「覚えておいて、私は魔人じゃないわ」


「え?」


「私は“魔女”よ。世界に嫌われた、古の魔女。貴女は、そうならないで」


 なんて言葉を残しながら、デウスマキナの攻撃に完全に呑まれていく相手。

 俺が視認出来る範囲では、間違いなく死んだと思われる負傷を負いながら吹っ飛んで行ったが……果たして、どうなる事やら。

 というか。


「レーザー内部に居て平気だって感覚、全然慣れねぇ……もう怖いよ、見てるだけでビクビクしちゃうよ」


 とりあえず、奥義のデウスマキナが終わるまで。

 俺は膝でも抱えて待っているしか、対処法は無かった。

 だってこっから飛び出すのも怖いし、また刺されそうだし。

 めっちゃ肩痛いし、ドバドバ出血していて泣きそうだし。

 負傷はしてたから、アイツは仲間達が対処してくれているかもしれないし。

 てか、あの負傷で生きている生物とか考えられないし。

 という言い訳ばかりを考えながら、レーザーの中で大人しくしている。

 情けないが、実行した本人なのに腰が抜けた。

 自身の攻撃は自らに効果なしと分かったが……コレ、怖ぇよ。

 これさえも今回の検証で分かった事なので、未だ心臓がバクバクしている。

 いやぁ、怖かったぁ……マジで死んじゃうかと思った。

 そんな事を思いながら、奥義のスキルが停止するまでジッと身を固めるのであった。

 自滅覚悟だったけど、上手く行って良かったぁ。


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