第67話 フラグ、今回は成立せず
結局居酒屋で出会ったおじ様達からは、もしも見つけても単独で戦闘は避けろ、という警告を頂き。
「これは独り言だけどなぁ、俺達の詰め所は~」
なぁんてボヤいてから、おかえりになられた。
いやはや、随分と気を使って頂いた様で。
もしもその女と鉢合わせても、彼等の所まで逃げて来いって訳か。
攻撃部隊だって言ってたもんね、カ~ッコイー。
「なかなか興味深い話が出て来たな」
「まぁ……会いたくはないけどねぇ」
イズとダイラがそんな言葉を洩らし、トトンに関しては首を傾げ。
「さっきの人達がどれくらい強いのかは分かんないけど、なんか話を聞く限り俺等みたいな……そういう存在なのかな?」
「それは俺も思った。てか、考えてみるとあの人達が戦闘の専門家なら、冒険者なんかよりずっと強くてもおかしくない訳だもんな。そんな人達が手も足も出ないってなると……可能性としては、な?」
だとすると、価値観としては俺達と同じ筈。
しかし辻斬りなんぞしているというのなら、間違いなく仲良くは出来ないだろう。
異世界転生して価値観がバグっちゃったのか、それとも全く別の何かなのか。
こればっかりは、直接会ってみないと分からないが。
「まぁ、何事もなければ関わる必要はないだろ。それに、この街に長期滞在するつもりはないからな」
「だねぇ。最初はちょっとテンション上がったけど、あんまりウマミは無いかなって。聖女だなんだって言われ始めちゃうと、また違った意味で変な事に絡まれそうだし」
やれやれとため息を溢すダイラと、残る二人も同意したように頷いている。
そだねぇ、そんなのに絡まれる前に街出ちゃおうか。
明日にでも旅の予定立てて、道中必要な物とか買い出しして。
ギルドに転移届け作って貰わないとだけど、その時にもしかしたら仕事頼まれるかなぁ……。
なんか重要そうな依頼だったら、それがこの街で最後の仕事って事で良いか。
他の面々でも問題無さそうな仕事なら、そのままバイバイって事で。
「んじゃそういう事で、撤収~」
何となくフラッと夜の街に出て来た訳だけど、それなりに良いお話が聞けて何より。
という訳で、本日は大人しく宿へと戻っていくのであった。
うぇーい、あんな水みたいなお酒だったのに、ちょっとフラフラするー。
※※※
「すみません、転移届けは作っておきますから……コレだけ、最後にコレだけ受けては頂けませんか?」
数日後、ギルドに顔を出したらやっぱり食い下がられてしまった。
何でも前回のサメやら何やらの討伐が効いたのか、ちょっと大型の魔獣討伐を依頼されてしまったそうで。
いつもだったらギルドからお断りを入れる様な依頼だったのだが、今回は俺達が居ると言う事で受理してしまったんだとか。
あらまぁ、見事にアテにされちゃってますね。
「これくらいなら、まぁ……」
一応この街では、普通の冒険者みたいな扱いで仕事させてもらった訳だし。
あまり大きな問題も起こらなかったので、あえて後腐れある様な別れ方をしなくても良いか、と言う事になった。
そんな訳で、本日もまた街の外へとやって来た俺達。
今回も魚介類かなぁとか思っていたのだが、今回は怪鳥の類。
ソイツが飛んで来る方角にある山の調査&可能なら討伐。
普通なら結構長期間かかりそうな依頼な訳だが。
「どうだー? トトン」
「んー……あ、それっぽい所発見。巣があるっぽいねぇ」
俺の羽で飛行、トトンの目による調査。
これで駄目だったら、ちょいと騒ぎでも起こして向こうから来てもらおうかとも思ったが。
無事発見出来て何より。
と言う事で地上へと戻り、皆揃ってトトンが見つけた巣まで足を運んでみると。
「おぉ~完全に番だねぇ」
「依頼では一匹の筈だったんだけど……」
「卵もあるのか? なら、気性が荒いのも納得だな」
皆がそれぞれ感想を残していると、二匹の怪鳥が威嚇しながら巣から歩み出して来た。
怪鳥とは言っているが、どっちかというと恐竜みたいな見た目だ。
顔は鳥っぽいのに嘴がやけにデカい。
身体の表面はゴツゴツした……プテラノドンみたいな?
所々甲殻も付いてるし。
「そこまで強いエネミーでもないんだけど、飛ばれるとまた探すのが面倒なんだよな」
「卵があるから、そこは大丈夫じゃないか?」
そんな事を呟きながらイズが双剣を抜き、無言のままトトンが先頭に躍り出た。
さて、やりますかねぇ。
「いつも通り、なるべく死体は残したい。ダイラ、前衛にバフ」
「わかった!」
「イズは部位破壊メインで、当然追加攻撃の魔法は無し。トトンは防御しつつ引っ叩いて、可能なら相手の意識を奪ってくれ」
「了解した」
「はいなー」
非常に緩い感じではあるものの、怪鳥が襲い掛かって来た事で戦闘開始。
行動はマジで鶏みたいな動きで、鳥キックをかまして来たが。
初撃は難なくトトンがパリィ、バランスを崩した相手にイズが飛び込み、片翼を根元から切り裂いた。
店で売られていた長剣なので、切れ味の心配もあったが……そこはダイラのバフの影響もあり、甲殻さえもスパッといけた様だ。
「あとはコッチでやる! トトンとイズは後方の奴を警戒!」
目の前でぶっ倒れた怪鳥の頭に雷魔法を叩き込み、ビクンビクンと痙攣してから大人しくなった事を確認。
残る一匹に視線を戻してみると、翼をはためかせて飛び上がっているではないか。
「わっぷ! 風すごっ! 目に砂が入る!」
こういう所も、リアルだと普通に実害が出るんだよねホント。
トトンもイズも眼球を守る様にして、腕を構えて目を細めている。
全く、厄介な。
「ダイラ! 風を遮れ!」
「了解! プロテクション!」
魔法防御で風は遮って貰ったが、その間に相手は空へ空へと向かって行った。
このまま逃げられると厄介、なんて思っていたが。
どうやら相手もそのつもりはないらしく、ある程度の高度を確保したと同時に一気に滑空してくる。
デカいのが空から物凄い速度で突っ込んで来るのだ、当然迫力はある。
が、しかし。
「ブワァカ、鳥頭め」
突っ込んで来た先には、未だダイラの防壁が張られているのだ。
怪鳥は自ら良い勢いで壁にぶつかり、ベチャッとその場に落ちて来た。
「首を落とすぞ」
最後にイズがスパッと一閃してお終い。
いやはや、今回も終わった終わった。
「お疲れー。んじゃ死体回収して、あとは卵どうすっかだなぁ」
「食べるか?」
「食べられる……のかな?」
「わっかんないし、売っちゃえば良いんじゃない?」
そんな会話をしながらも、のんびりと仕事の後処理を始めるのであった。
おかしな存在が出てこない限り、結構平和に過ごせてない?
今では仕事の報酬と買い取り金でも、わりと裕福に過ごせているし。
こういう生活も悪くないんだが……ま、次の街に向かう間にまた皆と相談するか。
なんて事を思いつつ、怪鳥の卵を回収するのであった。
デッカ……。
とりあえず、今回は話に聞いたボスとかレイドとか発生しなくてよかった。




