第62話 PVP
翌日、ギルドにて。
「聖女様に対し、指名依頼が入っております。聖職者の皆に、演説を行って貰いたいなどの――」
「……無理です」
「では、こちらは如何でしょう? 今度お祭りがあるのですが、その主役級の一員として、中央広場の会場で少しの挨拶と握手など――」
「クウリ助けてぇぇ!」
ウチのダイラ、大人気。
わぁ凄い、とかで片付けられたら良いのだが。
この街の聖職者に対する“位”って、こんなにも重要なのね。
「すみません。ウチの性女、人見知りなんで。その手の“お話する”系の依頼はお断りいたします」
受付嬢との間に入って、良く分からない仕事の依頼をシャットアウトしようとしたのだが。
相手はニコッと微笑んでから。
「報酬、かなり高いですよ? 良いんですか? お祭り関連の……それこそ、“もう一度あの魔法を見たい”という一文が付いている依頼なんて……それはもう、びっくりするほどのお値段です」
そういって依頼書を差し出して来る受付嬢。
その依頼書に目を通してみれば。
なんでも件の“祭り”とやらでは、少々派手なイベントも行われるらしく。
他の所でいう“決闘”みたいな催しの、“防御バージョン”と言って良いのか。
魔法防御術師、補助術師、回復術師が多い街だからなのかもしれないが。
相手からの攻撃を防ぐ、という項目で競い合う場があるらしい。
ここで試験の際に見せた技、つまり“奥義”を披露してほしいという内容だった。
そして受付嬢の言う通り、金額は目が飛び出るようなモノ。
グランドベヒモスの死骸を売り払った時の、総支払金額程度だろうか?
今の所そこまで金欠という訳では無いが、もうダイラも一回目立っちゃってるし。
この際一回にも二回も変わらないんじゃ……。
「コレだけだったら……受けても……」
「クウリ!? いやいや街中で奥義使うの!? 目立つよ!? 良いの!?」
「いやでも、もう使っちゃってる訳だし……報酬貰ってから、さっさと引っ越せば……」
「完全に報酬に目がくらんでるよね!? 誰に攻撃させるのさ! 適当な攻撃じゃ普通に通らないし、防いでいる演出も不可能だからね!? 相当な攻撃じゃないと、守ってるって言うより“攻撃できない”みたいな感じで終わっちゃうよ!?」
ダイラが必死に止めて来る訳だが……報酬が、魅力的だ。
それこそもうこの街で仕事しなくて良いじゃんって感じだし、これからの軍資金にもなる。
でも言われた通り、適当な攻撃では本当に意味が無いのだ。
守っているって雰囲気など一切無く、“寄りつけない空間”が出来てしまうだけ。
いやそれでも凄い事だし、スキルも派手なんだけど。
このイベントは、“守る、防御する”事がメインみたいだし。
後はスキル使用後にMPが空になるので、そのタイミングで攻撃を止めてくれる相手じゃないと――
「あっ」
「あっ、じゃないの。止めてね? 絶対今思い付いた事言葉にしないでね?」
居るじゃないか。
派手な攻撃が放てる上に、ちゃんとダイラが“守っている”事が証明できる人間が。
更に言うなら、コイツの奥義『テオドシウスの城壁』は基本的にダメージ無効。
あまりにも掛け離れた能力値の相手とか、特殊条件を無効化する様なスキルとかを使わない限り、“絶対防御”に他ならない。
つまりダイラ以上のプレイヤーが、コイツを完封するような奥義を使わない限りは怪我をする心配もない。
なら。
「これ、攻撃側に参加出来たりは……?」
「事前に申し込めば、問題無く。それに貴女が参加すれば、闇魔法の認識も変わるかもしれませんね。見た所、お強いんでしょう?」
受付さんからブイサインを貰った瞬間、グッと拳を握ってからダイラの方へ振り返った。
本人は物凄く嫌そうな顔をしているが。
「俺が攻撃して、ダイラが防御。たったそれだけで、大金が手に入るんじゃね? しかも、俺ならスキル終了後に追撃する心配も無し!」
「だからソレだけは嫌なんだってばぁぁぁ! 防御する方の身にもなってよ!? 数字的には通らないと分かってても、滅茶苦茶怖いんだからね!? クウリの能力だと、どこかしらで抜けて来そうで怖いんだってば!」
そんな悲鳴が響き渡るが、コレはかなり稼げるチャンスだ。
この機会を逃すのは、非常に惜しい。
だって俺等の目的は、ほぼ“異世界観光”に集中してしまったのだから。
つまり、今の所旅を止めるつもりは無い。
だからこそ、稼げるウチに稼いでおかなければ。
そんでもって楽して稼げる、こんな美味しい話はない。
という事情も、他二人は分かっているらしく。
「ダイラ、スマン、やってくれ。近々街を離れる予感がするから、稼げる内に稼いでおこう」
「ダイラがーんば、久々のパーティ内のPVPだね。遊び遊び、スキルのチェックみたいな感じになるって」
両サイドから肩に手を置かれたダイラは顔を青くし始め、此方にギギギッとブリキ人形の様な動作で顔を向けて来るが。
「久々に、やろうぜダイラ。俺の攻撃を平然と防ぐ“幸運の性女”、また見せてくれよ」
ニッと口元を吊り上げて見せれば、ダイラはその場で膝を付いた。
そんなに怖がらなくても、奥義は使わないって。
なんて声に出してみたのだが、相手はソレ所ではないらしく。
「馬鹿ぁぁぁ! クウリなんて嫌いだぁぁぁ!」
めっちゃ、泣き叫ぶのであった。
でも仲間内同士のPVPって、結構楽しいんだけどな。
スキルの具合を見る為にも、ゲーム中でよくやったし。
もっと言うなら、個人で俺の攻撃を防ぎきるのなんてダイラくらいだったのだ。
だからこそ、俺としては良い思い出なのだが。
「えぇっと……本気で嫌なら、止めるけど……」
「クウリはそのアバターでそんな顔するのズルいって! やるよ、やれば良いんでしょ!? でも奥義は禁止だからね!? 絶対だからね!? あとスキル終了後も攻撃禁止! ソレが守れるならやるよ! やるからそんなしょんぼりした顔しないでよ! 分かったよ! 稼ぐよ!」
と言う事で、幸運の性女とのPVPが決まった。
いやぁ、凄い。
“こっち側”に来てから俺は初めての対人戦な上に、相手はダイラと来たもんだ。
真正面からでは絶対に攻略出来ない“不落の要塞”。
そこに馬鹿みたいにスキルを撃ち込むっていうのも、結構楽しいし。
更に言うなら、リアルになってからは大型スキルの連発なんてほぼ出来ていなかったのだ。
今回はソレが出来る上に、相手は絶対防御のダイラ。
なら、ハメを外し過ぎない限りは……“安全な戦争”が出来る訳で。
「楽しくなってきちゃった」
「楽しくなって来ないで!?」
ダイラからの許可も取り、今回のPVPが現実のモノとなった。
色々とルールを決める必要もあるし、見どころを作らないと不味い事態ではあるが。
久しぶりに昔みたいに戦える相手であり、ペレの時みたいに一発撃って終わりって事は無いのだろう。
であれば。
「本気で喧嘩しようぜ、ダイラ」
「いやぁぁぁ! クウリの本気って、マジで容赦ないんだもん! 魔法防御職なんか何で選んだの俺!? クウリの試し撃ちに何回付き合った!? 嫌だってばぁぁぁ!」
聖女と言われる女が、ひたすらに絶叫を上げるという異常事態。
周りの冒険者達が何だ何だと視線を向けてくるが。
しかし、コレは中々面白い状況だ。
コイツの防御は、数字的には“奥義”を使わないと破れない。
だったら、“搦め手”を使うのが基本。
でもそれら全てに対処して来たダイラが相手なのだ。
奥義は使用禁止とは言われたが、つまりそれ以外は使用可。
だったら、やるしかないでしょうに。
派手に目立っちゃうけど、この街にはもうあんまり滞在するつもりもないし。
「クウリがヤバイ顔してるぅぅ! 絶対崩す気だ、絶対俺の防御貫くつもりだよコレ!」
「ダイラ、頑張れ。いつも通りやれば大丈夫だ」
「ダイラ、ファイトー」
「いやぁぁぁぁ!?」
悲鳴が上がってしまったが、俺にとっても目標ではあるのだ。
ダイラの防御を抜く。
それくらいに、コイツの防御はとんでもない領域に達しているのだから。




