第61話 結局は、労働大事
「どうよー? 売れそうな物あったかー?」
仕事が終わり、街に戻った後。
各々街中を歩き回り、売っている素材やら何やらを確認してみた訳だが。
「こういう街だし、聖職者用のアクセサリーとかを少し売ってみたんだけど……ちょっと良くないかも。ゲーム内のプラス値って、相当ヤバイ。完全に肥やしになってたいらない装備なのに、凄い金額になっちゃった」
部屋に戻ってくるなり、ダイラがドンッと凄い音を立ててお金の入った麻袋がテーブルに置いた。
うっわ、これまた凄い金額。
これはちょっと……俺等の保管してるアクセとか装備売るのは絶対ダメだな。
現地人が強くなるのは別に俺等が気にする事じゃないが、無用なトラブルに巻き込まれるのが目に見えている。
「素材に関してはやはり大っぴらに売らない方が良いな。今回の蛇と同じ素材を提供してみたが、それなりの金額になったぞ? まぁ運よくインベントリに残っていた程度で、数は無いが。しかしどうしても“アイテム”となると、状態が凄く良いみたいだ。解体した業者なども、買い取りの際にしつこく聞かれてしまった程だ。そんなものは存在しないが」
今度はイズの方からポスッと麻袋を渡される。
うんまぁ、多くはあるがこっちは普通だな。
カーススネークの素材とか、俺も保管して無いし。
こればっかりはまた仕事をしながら獲物を見繕って、状態が良くても怪しまれない様なモノを出すしか……となると雑魚エネミーしか売れない気がするけど。
などと、渋い顔をしながら悩んでいれば。
「みてみて! めっちゃ儲けたよー!」
最後に部屋に飛び込んで来たトトンが、ダイラが持って来たのと同じくらいのサイズをテーブルにズドンッ! と置いて来た。
うむ、何かダイラのヤツより重い音がしたけど。
「これは……何やった? 何売ったらこの金額になった?」
「え、何にも売ってないけど。なんかイベントやってて、こう……何? ハンマーで叩いて威力を競う、みたいな。パンチングマシーンの縦バージョンというか、なんて言うんだっけアレ」
「あー、あぁ~なんか、分かるような分からない様な。アレだろう? 叩いた威力の分だけ、メモリの書かれた所を上っていく……アレの正式名称、なんだったか」
「ハンマートライ、ってヤツかな? 設置型の大型遊具だったと思うけど」
「「「それだ!」」」
と言う事で、調査に出たのにトトンは遊んで帰って来たらしい。
まぁその優勝報酬として、普通の手段でたんまり貰って来たので問題無いが。
アレだね、外部からの干渉が無いと結構普通にお金稼げるね。
などと思いつつ、皆の稼いで来た金額を一括で俺のインベントリに突っ込んでいれば。
「それで、クウリの方はどうだったんだ?」
イズの一言に、ニッと口元を吊り上げ。
思いっ切りブイサインを向けて見せた。
そんでもって、俺の本日稼いで来た金額ズドンッ! とテーブルの上に置けば。
皆からは「おぉ~」という声と共に拍手が響く。
今回俺が売り払った代物……それは、情報。
「空のスキルノートを使うと、普通にノート代わりに使えたのは分かってたじゃん? だから中級魔法とかのスキルノート作ったり……あ、こっちはもちろんゲーム通りにやったら出来た。お前等もやってみ? 後は古書だな、レイドボスとかエリアボスとか。イベントで資料がドロップしたりするじゃん? スキルノートにソレを反映させてみたら、マジで古書っぽくなってさ。ソレを出したら、すげぇ金額払ってくれた」
スキルノートの効果としては、自らのスキルツリーでは取得していない技でも習得出来るという効果が一番強い。
しかしながら、やはりソレに適していなければスキル自体が弱体化はしてしまうのだが。
それでも使えるのと使えないのでは非常に大きな差が出る。
そういう意味でも、“金の掛かる”ゲームであったのは確かなのだが。
逆に今では、ソレが金の生る木となっている訳だ。
流石に高火力スキルは不味いと思って、弱いスキルばかり複製したが。
特殊な物品とスキルノートがあれば、スキルをコピー出来るという訳だ。
ココで予想外だったのが、ゲーム内では語られていない情報が本に書いてあった事。
正直俺には理解出来なかったが、魔導書として製作されたんだと思う。
本来のアイテムとしては『○○のスキルノート』みたいな感じで作られ、一度使うと消費してしまうアイテムだったのだが。
こっちでは普通に本として作られ、教科書みたいなモノになっていた。
ただまぁ……コレばかりはやはりというか、いつも通り。
俺が“スキルノート”を読むと物体が消え去ってしまったのだ。
でも他の人が本を読んでもそんな事は起こらなかった。
つまり、やはりゲームシステムに関しては俺等のみに適応されていると思って良いのだろう。
他の人からすればただの本、教科書。
ついでに珍しいモンスターの資料集もセットで売り払ってみた。
それはもう、良い金額になってくれましたと。
「なるほど……あえて物体に頼らず、情報を売るというのも手なのか」
「でもさぁ、そこら辺の皆が俺等みたいなスキル使える様になったら不味くない? 俺等が居る所だけ強くなるよ? 戦争とか起きない? 平気?」
「でも、ホラ。そこはスキルノートとしてちゃんと使えていないから、勉強して努力して。そこで使える様になる仕様なんじゃない? であれば、そこまで大きな被害は出ない……かな? 奥義とかは流石にヤバイと思うけど」
そう、トトンの疑念は当然考えたが。
ダイラの言う通り、ただの教科書になってしまったのは凄く有難い。
結局使えるかどうかは本人次第の上、必要とあればその本は別の場所へ流れていく事だろう。
つまり、俺等にあんまり関係なし。
今後複製されたりするのだろうが、売ったのは初期から中級のスキルが殆どだし。
ま、問題ないでしょ。
それこそ以前の街のリーンさんに、この方法でダイラの魔法を教えられるかもしれない。
現地の人達でもグランドベヒモスくらい普通に狩れる様になるかも、と考えれば悪くはないだろう。
下地アップのチャンスですよ! みたいな雰囲気で売ってしまったけど。
まぁ、技術は進化するモノだしね。
後は知らん。
「とりあえずこの方法である程度収入が得られる事は分かったけど……まず絶対変装は必要、こういう取引を他人に見られると後が怖い。あと言い訳も必須。俺等みたいな小娘が、そんな物を持っている訳がないって疑われるのがオチだ。つまり適当な理由付けと、相手がこっちを信じるだけの信頼が必要な訳だが……今回は、取引先の相手に俺をギルドで見た奴が居たんだ」
「あ、つまり“聖女”の仲間って事で……買って貰えた?」
「ダイラ、正解。これくらいの信頼が無いと、まず買って貰えなかったと思う」
と言う事は結局。
俺達は仕事をして信頼を稼ぎ、コイツの情報なら正確なんだろうという信用を得る。
その上でこう言った物品を提出し、高値で買い取ってもらう必要があるのだ。
なので……結局は。
「働かないと生きていけません……信用、大事」
ぐでっと、テーブルに突っ伏してしまうのであった。
前回の鍛冶屋みたいな繋がりでも無いと、定期的に取引するのは不可能。
流通の際に出所を疑われた時には、相手が此方を守ってくれる程の信頼関係が必要なのだ。
アイテムだけ売って生活するって、やっぱり大変なのね。
こんな事までするなら、普通に仕事して稼いだ方が早い気がして来た。
異世界も、楽じゃないねぇ……。




