第60話 やっとお仕事
「仕事だぞー!」
「でもあんまりやる事ないぞー!」
俺が叫べば、トトンも叫んだ。
本日受けた依頼、なんか汚染されたらしい場所の浄化。
つまりダイラ担当。
と言う事で、俺等何も出来ない。
「浄化魔法掛けるよー? とは言っても、結構汚染されているみたいだから……何か居るのは確定かなぁ。敵が出て来たら対処よろしくー」
嫌そうな顔で杖を構えるダイラと、興味深そうに水の中を覗き込んでいるイズ。
今回は、ちょっとだけ街を離れた様な場所に訪れている。
だからこそ、遠慮などする必要はないのだが。
「水を汚染する系のエネミーって、何が居たっけ?」
「毒を持ってる魚とか、単純に汚い魔物とか。大きく考えるのならボス級も思い当たるけど……この程度の規模だと、ねぇ?」
そんな事を言いながら、ダイラが浄化魔法を掛けていく。
とはいえ、水質汚染を緩和する依頼。
聖職者が多いこの街だからこそって感じの仕事な気はするが……本人も暇になった様で、杖をそこら辺に突き立てて座り込んでしまった。
「釣りとか、して良い?」
「だーめ。まだ汚染されてるんだから、もうしばらくは遊び禁止」
「あとどれくらい? 暇だよー」
早速飽きてしまったトトンがゴロゴロし始め、イズに関しては。
「勿体ないな……」
何てことを言いながら魚を眺めていた。
いやまて、なんで汚染された状態の水の中を魚が泳いでいる?
逃げ場がないってのなら分かるが、ココは川の一角。
汚染されていない場所へと逃げてもおかしくない気がするんだが。
だとすると、単純に水が汚れてるって訳じゃなくて呪いの類か?
汚れた水はそのまま流れるだろうが、呪いなら範囲は決まっているので。
それに野生動物なら、呪われた事に気付かないというのも納得がいく。
「ダイラ、解呪も混ぜられるか?」
「へ? いけるけど、どうしたの?」
「んーむ、まだ分かんないけど、お試しで」
と言う訳でダイラは術を追加。
再び待つだけのお仕事になってしまった訳だが。
おぉっと? 上流から何か流れて来たぞ?
「お目当てが来たかもしれん。俺が攻撃……あれ? こういう広い水辺って、雷の効果も薄れるんだっけ? 水中の感電力ってどれくらい?」
「どうだったかな? 普通に効果は出るとは思うが、海に雷が落ちても全て死なないのは当然。確か水面には過電流が流れるが、水中はそこまででも無かった様な? 安全という訳ではないから、高圧電流を流し続ければ効くとは思うが」
そんなイズの意見を聞いてしまった以上。
上流から流れて来る“何か”に対して、一撃で仕留められる自信が無くなってしまった。
闇魔法以外は、本当に最低限って感じだしなぁ俺。
ということで、選手交代。
「イズ、近付いて来た所で“フレイムボム”。アレって水中でも爆発は起きたよな?」
「あぁ、なるほど。ダイナマイト漁か? まぁ、試してみるか」
気楽な声を上げながらも、相手が接近して来た所でイズがスキルを発動させた。
イズの得意分野は炎、しかしながら突き詰めていけば爆弾とも言えるスキルも手軽に使えるという。
本当に幅広い使い道がある魔法系統なのだ。
というか闇とか聖とか、そういう特殊な方向性以外はかなり幅広く使えるスキルが多い。
無属性に関してはほぼ身体の進化って程に何でも伸ばしてくれるし、元素系に関してはホントに「コレもその属性なの?」っていう様なスキルにだって派生する。
どう使うか、どう育てるかでかなり強みは変わって来る訳だ。
「“フレイムボム”」
イズが長剣を抜き放ち、その先から出現した火球が河原の中に飛び込んだかと思えば。
ズドンッという音と共に、派手な水柱が上がった。
やっぱ得意分野を使わせると、どうしても派手になるね。
そして、その衝撃により周囲に浮かんで来る魚たち。
更には。
「わぉ、デカい」
「“カーススネーク”……こんなのが上流というか、近くに住んでいれば……まぁ汚染された魚が流れて来るよね」
「とはいえ、所詮こんなものか。一発で気絶したぞ」
「でっけぇー、でも弱ぇ~」
色々お言葉を頂いてしまった訳だが、でも一応お仕事完了。
仕事にあった浄化も済ませ、その原因まで討伐してしまった。
いやまだ気絶してるだけで死んでないけど。
「手負いに近付くのも危ないか……“プラズマレイ”」
「はい、首落ちましたぁ。死亡かくにーん」
手軽に攻撃魔法を使ってみれば、トトンからそんな報告が上がって来る。
と言う事で。
「ダイラはプロテクションで死体が流れない様に。トトン、回収頼んで良いか? 泳ぎながらのインベントリ回収が難しそうなら、イズに網で引っ張り上げてもらう」
「「「了解」」」
そんな言葉を交わしながら、今回の仕事の後始末を始めるのであった。
結構肩透かしというか、ヤバい名前を色々聞いた後なので警戒はしたのだが。
まぁ、伝承だもんね。
今発生しているって事例な訳じゃないし、居なくても不思議じゃないのか。
なんて事を思いつつ、ため息を溢してみると。
「お疲れ様、クウリ。またレイドボスでも出て来ると思った? 良かったね、これくらいの相手で」
「警戒はしたがな……よく考えてみれば、俺達の行くタイミングでヤバいのが毎回現れる筈ないわな。以前みたいな、異常な火山活動とか無い限り」
などと言いつつ、ダイラと二人で拳を合わせる。
何かこう、割と普通に皆とスキンシップ取っているけど。
この辺りもアバターの影響で“慣れている事”に変換されているのか、それとも見た目通り精神年齢も若くなってしまったのか。
ダイラと喧嘩して情緒不安定になった時もそうだが、昔に比べて自分らしくない行動を平気で取っている気がする。
この世界で一番謎なのって、やっぱ俺等自身だよな。
「常に最悪を考えて行動しているのも、凄い事だと思うよ?」
「うるせぇやい。そのまま臆病だって、そう言えば良いのに」
「そんな風には思ってないってば」
笑うダイラに、そんなお言葉を頂いてしまう。
今回の仕事はこれにて終了。
報酬も貰えるし、呪い蛇の買い取り金額も発生することだろう。
非常に順調、今の所初回以外の問題は発生していない。
だからこそ、余計に警戒してしまうのはこれまでの経験があってこそ、なのだろう。
何かしらの変異が起きた際、真っ先に気が付かなくてはいけない。
その為に普段から周囲に鋭い瞳を向けている訳だが。
「俺達は、“異世界観光”してるんでしょ? だったら……そんなに気を張り詰めなくても良いんじゃないかな。俺等だって、気になる事があれば言うからさ。クウリばっかり、警戒しなくて良いよ」
「……わり、癖だから」
「ここ最近、クウリは短文が増えたねぇ。トトンが心配してたよ? 最近クウリがピリピリしてるって」
「お前等……いつの間にかすげぇ仲良くなったよな。前までは割と、普通の距離感だったのに」
「一緒に生活していれば、そんなもんだよ」
なんて会話を挟みつつ、二人がデカイ蛇を川から上げるのを見届けるのであった。
目の前にいる誰かと馴染む、ねぇ。
それってもしかしたら……今までの俺だったら一番苦手な項目かもしれない。
けどまぁ、何とかなるもんだねぇ。




