第59話 共に歩むからこそ
「た、ただいまぁ……」
トトンに背負われた状態で、宿まで帰って来てみれば。
「大変、申し訳ありませんでしたぁ……」
「えと、なにしてるの?」
クウリが、部屋の真ん中で土下座していた。
近くの椅子に座るイズに関しては、やれやれと首を振っているが。
え、本当に何。
「すまんダイラ。調子に乗って、まだ派手にやらかして、お前にも嫌な気分にさせたし。それにギルドに行っても、やっぱり他の皆も奇異の目で見られると思う。全面的に俺が悪いし、なんも考えずキレたのが原因だ。本当に、悪かった……だからその、パーティ解散とかは……ちょっと言い出さないで欲しいというか……」
「いや、言う訳ないでしょそんな事。俺に一人で異世界生きていけって? 無理だよ、むしろ俺の方こそ捨てないで下さいだよ」
思わず即座に返事を返してみれば、クウリはバッと顔を上げてから。
すぐさまギョッとした瞳を此方に向けて来た。
どうやら、頭を下げていた影響で俺が背負われている事に気が付いていなかったらしい。
「なっ!? どうした!? 誰かから奇襲でも受けたのか!? 早く治癒魔法を!」
「違う違う、全然平気だから。ちょっと奥義使って、MP空にした後遺症」
「お前が奥義スキルを使う様な相手が居たって事か!? ごめんっ! 攻撃役が二人して不在で……トトンだけで、どうにか防ぎ切った感じか? トトンも、すまん……肝心な時に近くに居なくて。大丈夫か!?」
「クウリー? 落ち着けー?」
慌てふためくリーダーに皆して苦笑いを溢し、トトンにベッドに運んでもらってから。
腰を下ろして、改めて一息ついた。
まさか奥義発動がココまで負担が掛かるモノだとは。
クウリの最大MP量なら、デウスマキナでも一発でMPを0にするという事はないが……でもこれまでだって、相当負担が掛かっていた事だろう。
そんなのを毎度切り札として使ってくれていたのかと思うと、此方の方が申し訳なくなってしまう。
正直、動くのもしんどい程のダルさが残るモノだとは思っていなかった。
「俺からもゴメン、ちゃんと謝らせて? クウリは俺の為に怒ってくれたのに、俺はそれを否定しちゃった。自己肯定とか苦手でさ……俺のせいで、皆に負担が掛かるの……凄く怖いんだよ。だから今回の件は完全に俺の我儘だし、俺が対処すれば良かっただけ。本当にごめん、クウリ」
そう言ってみれば、クウリは何やら困った様な顔を浮かべながらワタワタと動き回り。
結局何を口に出したら良いのか分からなかったのか、口を閉ざして大人しくなってしまったが。
「でも今度あぁいう事態になったら、人間相手に実力行使は禁止。絶対問題になるし、この後ギルドから警告が来る可能性だってある。それにクウリの場合、お酒はマジで注意。飲むなとは言わないけど、慣らしていかないと大変な事になるよ?」
「……おう、了解。なんか、色々ゴメン」
「別に良いって、仲間なんだから。それにクウリだけが悪い訳じゃないし」
これで一応、仲直り。
という事で良いと思うんだけど……コミュ力ないから、確信は持てない。
今後もクウリが気まずそうにするのなら、此方から声を掛けて行こう。
などと思っていると。
「でも、さ。やっぱギルドで騒ぎ起こした訳だし、それにまたアイツ等がお前にちょっかい出して来る可能性も……」
「あ、それは大丈夫かな」
え? と声を上げるリーダーに向かって、本日頂戴してきたロザリオを胸元から取り出した。
やけに豪華な作りで、素材も高級。
しかも真ん中には、宝石まで埋め込まれている代物。
それを揺らしながら、ニッと口元を吊り上げ。
「俺、現状現場で最上位の神官に認められちゃった。この街専属って訳じゃないから、教会のトップ層って訳じゃないけど。コレを首から下げていれば、多分今後嫌味を言われる心配はないよ。それに教会側からギルドにも通達が行くって言ってから、無駄に重い刑罰も発生したりはしないと思う」
そんな事を言いつつ、ロザリオを外して渡してみると。
クウリは恐る恐るという様子で、ソレを眺め。
そして。
「え、凄くね?」
「でしょ? そもそも今後“あの事態”が発生しない為に、俺の方で釘を刺しておく事にしました。これでもう心配ないね? 俺達に喧嘩を売って来る冒険者は、多分居ないよ」
あの程度の嫌がらせで、仲間達と喧嘩するのはもう御免だ。
と言う事で、凄く偉くなってみました。
どんなもんだい! と、胸を張ってみると。
「いやほんと……すげぇよ、マジで。すまんダイラ、本気で俺の早とちりと言うか、お節介だったわ。ほんと、すげぇよお前」
なんて事を言いながら、目尻に涙を溜めているクウリの姿が。
え、えぇ!?
アバターの影響も出ているのかもしれないけど、クウリを泣かせちゃった!?
やばい、コレどうしたら!?
などと今度は俺が慌て始めてみれば。
「良かったねぇダイラ、頑張った甲斐があったじゃん」
トトンはよしよしと俺の頭を撫でて来て。
「良かったな、クウリ。少しは不安が晴れたか?」
向こうは向こうで、イズがクウリに声を掛けていた。
なんか、俺等のパーティでこんな空気になるとは思ってなかったんだけど。
でもまぁ、たまにはこういう事も起こるのかもしれない。
何と言っても、今は“ゲーム”ではない訳だしね。
※※※
翌日、またギルドへと向かった俺達。
でも流石のクウリも、少しだけ引きずっている雰囲気が見受けられたので。
「ダイラ、本当に平気? 俺が先頭でも良いよー?」
「う、ううん。大丈夫、トトン。というか今、そういう事言わないで……普通に頼っちゃいそうだから」
本当に、本当~に珍しい事に。
引込み思案の俺が先頭に立っていた。
教会からも連絡が行っている筈だし、結構な位を手に入れたのだ。
だったら俺が最初に登場した方が、問題も起こらないはず……なんて、思っていたのだが。
バクバク言っている胸の鼓動を押さえながら、ギルドの扉を押し開いてみれば。
「っ!」
周囲の人たちの目が、一斉に此方に向いた。
こういう雰囲気は、本当にどこのギルドに行っても変わらない。
その注目を、ずっとクウリに任せて来たのだ。
だったらこの街くらい、俺が代わって良い筈――
「あ、あのっ! ダイラさん、ですよね? “聖女”の称号を得たというのは……本当でしょうか?」
一人の神官が、俺に向かって話しかけて来た。
ヒクヒクと頬を揺らしながらも微笑み、ぷるぷるしつつ胸元からロザリオを取り出してみると。
「ほ、本当に最上位のロザリオ……」
「凄い……アレに認められる人って実在したんだ……」
などと、周りがザワザワし始めたかと思えば。
人波を押し退け、パーティが一つ此方に向かって来た。
何だ何だ、また絡まれちゃったりする?
とかなんとか思っていビクついていれば、彼女達は一斉に頭を下げ。
「先日は……本当に失礼いたしました! まさか聖女様だとは知らずに、あの様な言動を……何かしら罰をお与えください! そうでないと、我々も納得が――」
あんまり顔は覚えていなかったが、前回俺達に絡んで来た子達だったみたいだ。
もう何と言うか、鬼気迫る勢いで謝罪の言葉を続けている訳だが。
此方としては、何と声を掛けて良いのか分からない。
アワアワしするだけで答えが出ず、やはり仲間達に視線を向けてしまうと。
「なぁ、そろそろ道を空けてくれないか? このままじゃ仕事出来ないんだけど」
杖を肩に担いだクウリが、低い声を上げるのであった。
だぁからさぁ……そういう魔王ロールプレイが……。
「ヒッ! 黒魔術師……」
「どーも、この街に嫌われる闇魔法専門術師でーす。そんでもって、君等の言う聖女も俺のパーティの一員でーす」
周囲から向けられる悪感情など、何処に吹く風という雰囲気でクウリは先頭に歩み出してみせた。
本当に、ウチのリーダーは。
こういう耐久性には、とことん特化しているのだから。
コレもまた、ネトゲプレイヤーあるあるの“煽り耐性”ってヤツなのかもしれないが。
「クウリ、だからその口調」
「分かってるよ、ダイラ。変な事はしない。でもこのままお前が祀り上げられるだけじゃ、また別の意味で目立つだろ?」
ニッと口元を吊り上げるクウリに対して、思わず笑ってしまった。
ホント、困ったリーダーも居たものだ。
いくら言っても俺達に向かうヘイトは背負おうとするし、困っていれば絶対に前に出て来てしまう。
非常に頼もしいのは確かだが、傍から見ていて不安になる事もしばしば。
だからこそ、大きなため息を溢してしまう訳だが。
でもまぁ、それも当たり前か。
全て完璧にこなせる人間など居ない。
それは、クウリだって同じなのだから。
「目立ちすぎない様にね?」
「今回は、お前の方が目立ってそうだけどな?」
お互いに口元を緩めながら、コツッと拳をぶつけるのであった。
このパーティは本当に、いつまで一緒に居ても飽きないよ。
それから、心配も尽きないけど。




