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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
3章

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第58話 奥義


「酷い目にあった……」


 翌日、げっそりとした顔でベッドから起き上がってみると。

 非常~に体がだるい。

 というか、頭痛い。


「おはよう、クウリ。酷い顔色だな……すまん、まさかあの酒でもここまで酔うとは思わなかった」


 申し訳なさそうな顔を浮かべながら、イズが此方に水を差し出してくれた。

 どうやらいつでも水分が取れる様に、ベッド脇に用意しておいてくれたらしい。


「うぅぅ……こっちこそスマン。なんか全員に迷惑かけた気がする……もう甘酒とかから慣らして行かないと駄目かぁ? 二日酔いとか久々だわ……」


「それでも飲む気でいるんだから、お前結構酒好きだな?」


 イズから呆れ顔を向けられてしまったが、水を喉の奥に流し込めば。

 口の中がスッキリすると同時に、ぐぅぅと情けない音が腹から聞えた。


「食欲はあるみたいだな。シジミ汁、作ってあるが飲むか?」


「飲む……二日酔いと言えば、それだよなぁ……」


 インベントリから取り出されたソレを受け取り、ズズッと吸い上げてからホッと息を吐き出した所で。

 周囲にイズ以外のメンバーが居ない事に気が付いた。


「なぁ、トトンとダイラは?」


「あぁ、あの二人なら出かけてるよ。今日一日は掛かるかもしれないと言っていた、だからお前も今日は休め。その状態で仕事という訳にもいかないだろ?」


 やっべ……結局ダイラとはあのままだし、というか昨日滅茶苦茶迷惑かけたっぽいし。

 あんまり覚えていないけど、完全酔っぱらってたな。

 はぁぁ、とため息を溢してから空になった器をイズに返して、そのままベッドに横になった。


「駄目だなぁ、俺」


「またソレか。クウリは一度落ち込むと、結構引きずるんだな?」


「リアルだとこんな事無かったんだけどな……もっと適当な人間だったし。コレもアバターの影響なんかね。なぁんて、言い訳なんだろうけど」


「さて、どうかな? 今後も色々検証してみないと、何とも言えない。しかし今回は、現実で久しぶりに“友人”と喧嘩したから。とかかもな?」


「あははっ……それもありそ。これまでは、友達なんぞろくに居ない社会人だったからなぁ。仕事の関係者となんか、本気の喧嘩なんぞしないし」


 乾いた笑いを浮かべてから、瞼の上に掌を乗っけて目を閉じた。

 余計な事して、仲間を本気で怒らせて。

 その事に対して、想像以上にショックを受けているのかもしれない。

 しかも現状何も対処出来ていないから、今でも不安になってんのか。

 ダッサ、俺。


「まだ体調も悪いだろう? しばらく寝ていろ」


「ういっす。なぁ、イズ……ダイラ、怒ってた?」


「そりゃもう、カンカンに怒ってたな。あそこまで怒ったアイツを初めて見た程だ」


 うぐっ!?

 マジかぁ、これ本気でヤバイかも。

 早い所動かないと、冗談抜きでパーティ解散とか……。


「クウリに酒を飲ませるな、ってな。解毒や回復魔法じゃ治るかも分からないんだから、もう少し気を付けろと、物凄く怒られてしまった」


「……はい?」


 なんか予想と違う台詞が聞えて来て、思わず起き上がってしまったが。

 イズは再び呆れたため息を溢してから。


「だから、怒られたのは俺だ。お前の事は物凄く心配していたぞ? それに今日だって……いや、これは本人の口から聞いた方が良いだろな」


 何やら意味深な事を言ってから、フフッと柔らかい笑みを浮かべて。


「いいから、休め。大丈夫だ、アイツはお前が思っている程弱くはないさ」


 そんな事を言われてから、再びベッドに横にされてしまうのであった。

 マジで……あの後どうなったんだろ。


 ※※※


「次の者、前へ」


「は、はいっ!」


「ダイラがんば~!」


 トトンに応援されながら、試験会場の真ん中に歩み出た。

 広い会場の真ん中に設置された女神像。

 周囲には、審査員であろう厳しい顔をした司祭達。

 いつもだったら、こんな目立つ場所に自ら踏み入れたりはしないだろう。

 それどころか、おっかない顔した人達に囲まれた瞬間に縮み上がっていたかもしれない。

 他にも試験を受けている子達の目もあるし、そちらの面々は俺よりずっと若い見た目をしている。

 やはりこの街の聖職者は、この試験を受けるのが当然の様で。

 正直俺の余所者感が半端じゃない。

 多分他の街でも、俺が知らないだけでこういう試験はあったのだろう。

 教会に足を運ぶって発想がそもそもなかったし、ランクとかが無いって聞いたから警戒していなかっただけ。

 では、何故俺が今更こんな事をしているのかと言えば。


「最終試験ですので、貴女の一番得意な魔法でお願いします。攻撃魔法の場合は、事前に申告を」


「あっ、えと! 防御魔法、です……」


「では、そのまま発動をお願いします」


 司祭にそんな事を言われ、杖を構えて祈りの姿勢を取った。

 服に関しては姫様から貰った普通の物だけど、杖に関しては俺の“本気装備”。

 こんな目立つような真似、もしかしたらまた良くない事態に陥ってしまうかもしれない。

 でもまた俺が馬鹿にされたら、多分クウリは黙ってない。

 止めてくれと言っても、自分を悪者にしてでも、ウチのリーダーは仲間の為に怒る人だ。

 だったら、そもそも俺が馬鹿にされない存在になってやれば良い。

 こういう試験も、何度も何度も挑戦して“格”を上げていくモノらしいけど。

 生憎と、俺にそんな時間はない。

 今日にでも最高位に認めてもらって、他の者の悪意を退けないと。

 そうしないと、またこうしたトラブルが発生しちゃいそうな気がして。

 それは、嫌なんだ。


「“覚醒”……」


 ポツリと呟けば、身体の奥底から力が漲って来る。

 アバターのオーバードライブ状態。

 俺やクウリみたいな術師のスキルは、この覚醒状態にする事で姿を変える。

 より派手に、強力なモノに変化する。

 そして俺のスキルの中で、影響を一番受けるのが。


「奥義……“テオドシウスの城壁”」


 その名を宣言してみれば、広範囲の地面が輝き始め、空からは神の祝福とも言える様な光が零れる。

 変化はそれだけに収まらず、光の幻術が次々要塞を生み出し、最後には超巨大な城壁が出現する……のだが。

 どうやら会場全体を包み込んでしまい、一番目立つ壁の部分は外に構築されてしまったらしい。


「コレは、いったい……」


 審査員も他の面々も、慌てた様子で周囲を見回していた。

 地面からも、空からも光が降り注ぎ、非常に幻想的な光景を作り出している。

 でもコレだって“奥義”なのだ、ただただ見てくれが派手という訳ではない。

 魔法防御の最高峰、俺の切り札の一つ。

 敵からの攻撃を一切受け付けない……と言うと、まるでチートの様に思えてしまうが。

 基本的には俺の魔法防御力の三倍までの数字はダメージ無効。

 それ以上となっても、格段に攻撃魔法の威力を下げるというスキル。

 効果時間は20秒、覚醒状態で40秒展開し続ける魔法防御。

 この中にさえ居れば、常時回復と環境的な状態異常以外は無効という壊れスキル。

 ただしスキルが終わった瞬間MPも問答無用で空になるし、リキャストタイムも馬鹿みたいに長い。

 だからこそ、大規模戦闘やレイドの際には戦況の“転換”として使っていた事の方が多い。

 ゲームで言えば40秒でレイドボスを倒し切る事など不可能。

 リアルで言うなら一発でMP0がそもそも問題な上に、前回のペレの様に環境的なデバフは防げない。

 もっと言うなら、“押せ押せ”の作戦が可能であれば使用する必要自体が無い。

 なので、俺の奥義もあんまり使い所とか無さそうなのだが……まぁ、演出としてこれ以上のモノは無いだろう。


「あの……どう、ですかね?」


 恐る恐る審査委員達に声を掛けてみれば。

 彼等はポカンと周囲を眺めた後、ゆっくりと俺の方を振り返り。

 そして……何故か膝を折って、祈りを捧げ始めた。


「えと……なん、でしょう? その反応は、どう捉えれば……」


 よく分からないので、とりあえずドン引きしながら皆様を見つめていると。


「過去の書物に残る聖女、ソレに匹敵するとも思える力……素晴らしい。貴女には他の者とは次元が違うと言える程、神の祝福を授かっている様だ。現世に蘇った聖女そのものだと言っても、皆納得するでしょう」


「うへぁ!?」


 変な声を上げてしまったが、今聖女って言った?

 “性女”とは呼ばれた事あるので、一瞬俺の二つ名が漏れたのかと思ってしまったが。

 あれ? でも聖女呼びされる程って……ランクとしてはどれくらいなんだろう?

 などと思っている内に、徐々に光の要塞都市は消滅していき。

 やがて完全に消えてなくなった瞬間。


「ダイラ! MP!」


「……あ」


 スキル効果が終わった所で、MPが全部持っていかれた。

 フラッとするとか、クラッとよろめいたとかでは無く。

 ブツンッと意識が途切れそうになる感じ。

 クウリが毎回調整頑張ってるけど、コレは確かに……戦闘時にこうなったら終わりだ。

 そのままパタッといきそうになった所で、すぐさま支えられて床へ横にされた感触と同時に。


「ダイラお疲れ~、ポーションだぞー」


 口の中に、ドバドバと液体を流し込まれるのであった。

 うわぁ……これは、MP切れ、キッツイわぁ……。


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