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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
3章

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第55話 初めての内輪揉め


 翌日、ギルドに向かってみると。


「ねぇ貴方達、攻撃職なのよね!? 良かったら私達と組まない!? お願い!」


「全く慎みも無い態度で……おはようございます、皆様。私は教会の検定で上位まで上り詰めた回復術師で――」


 なんか、えらい事になった。

 ギルドに入った瞬間、シスターというか……明らかに回復職って方々が押し寄せて来たのだ。

 というか教会の検定って何、何それ。

 凄い聖職者選手権みたいな事やっているのだろうか?

 などと思いつつ、周りの勢いに慌てていれば。

 この状況を一番満喫出来そうな奴は、後ろで頬を膨らませていた。

 だから、拗ねるなと言っているだろうに。


「えぇと、すみません……ウチにはもう専属の補助、回復職が居ますので……」


 適当な事を言って断ろうとしてみたのだが、相手も金が絡んでいる影響なのか。

 幾分かしつこい方々もいらっしゃる様でして。


「しかし、そちらの女性……資格も持っていなければ、検定も受けていない様ですが。間違いなく私達の方が、有能な魔法で支援できると思います。如何でしょう? この際、パーティの入れ替えなど考えてみては」


 おーおーおー、すげぇ事言い出す子もいるもんだな。

 やけに自信満々に、そんな事を言い放って来た気の強そうなシスター。

 コレが攻撃魔術師だったら「よし、今から勝負しようぜ」って吹っ掛ける所だが。

 相手は回復職。

 いくらなんでも俺が喧嘩する訳にもいかない。

 と言う事で、チラッとダイラの方へと振り返ってみれば。


「資格……? 検定? そんなのあるの? ランクとかレベルは無いって話じゃ……」


 ダイラが呟いた瞬間、目の前のシスターがクスクスと笑い始めた。

 ついでに、その取り巻きみたいなのも。

 他の方々に関しては、少々気まずそうに視線を逸らしているが。


「貴女……この街に来て、そんな事も知りませんの? この地では我々の様な存在を区分するために、明らかな線引きがされております。それさえも突破していない、資格さえ持っていない回復術師や補助術師は、ほぼ無能と評されて当然。他の地域の教会でも、この制度が徐々に採用され始めていますが。普段教会に行かないのかしら? 聖職者なのに」


 クスクスと意地悪く笑うシスターが、襟元にぶら下がっている綺麗なロザリオを見せて来た。

 あんなものゲームでは無かったし、ダイラはこの地に来てから二日目だ。

 当然、そんな物を持っているはずも無く。

 相手の取り巻きからケラケラと笑い声を溢されてしまう始末。

 実力差で考えるのならこんな相手屁でもねぇだろ、とか思ってしまったのだが。

 ダイラは真っ赤な顔をしたまま下を向き、口を噤んでしまった。

 コイツとは、あんまりリアルの話をした事は無かったが。

 まぁ、“そういう性格”なんだろう。

 だからこそ散々言いたい放題言って来る相手に対し、少々イラついたため息を吐いた。

 すると、流石に仲間達が間に入り。


「そういう制度が流行り始めているのを知らなかったのは事実だ。しかし、あまりにも不躾ではないか? 此方の事を知りもせず、パーティの入れ替えを提案するなど」


「ちょっと感じ悪いよねぇ。そもそもローカルルールでマウント取られても、気分悪いだけし」


 イズとトトンが、そんな風に反論したのだが。

 相手の勢いは止まらなかった。

 随分とまぁ自信があるのだろう。

 なかなかどうして、本人は良い性格をしている様で。

 随分と見下した様な態度でダイラの事を見つめている。


「きっと他の者達の実力を知らないからですよ。ですから私が参加して、聖属性魔法とは何なのか。その“本物”をお見せいたしましょう。そちらの資格なしの方より、間違いなくお助けできるかと思いますよ?」


 派手にやらかさない様にしようと、普段から何度も言っている訳だが。

 正直、俺の仲間を馬鹿にされるのは納得いかない。

 コレがゲームなら速攻PVPを申し込んでいた所だが、そう言う訳にもいかず。

 チッと舌打ちを溢してから、杖を振り上げた。


「ダイラ、“聖域”だ。俺の魔法に続けてスキルを使え、俺の魔法を“殺して”みせろ」


「……え? いや、あの、クウリ? 大丈夫だから、変な事しないで!」


「嫌だね。仲間を馬鹿にされて笑っていられるなら、俺はリーダーなんかやってない。“リビングデッド”」


 振り上げた杖の先から、紫色の波紋が広がり。

 俺の周囲には、数多くのゾンビとスケルトンが出現した。

 こんなモノ、雑魚を大量に発生させるだけの足止めスキルに過ぎない。

 しかも出現させただけで、動かす命令を出していない。

 だが、周りの人間は慌てふためき。


「キャァァァ! コイツ等、どこから!?」


「落ち着いて! ここには聖職者が多いのよ!? こんなの、慌てる状況じゃ――」


「危ないっ! すぐ隣から現れましたわ!」


 もはや、パニックに陥っていた。

 前衛職が居れば、それこそ大いに活躍していた事だろう。

 実際数少ない前衛が剣を構え、周囲の人間の安全確保をしているようだが。

 遅いなぁ、本当に。

 聖職者が多いなら、連携してすぐ殲滅する事だって出来るだろうに。

 攻撃指示も出していない以上、本当にただ“出現した”だけなのだ。

 なのに、この慌てっぷりだ。

 だからこそ。


「ダイラ、やれ」


「本当に……何やってるのさ!」


 それだけ言ってから解呪の範囲スキルを準備するダイラ。

 周囲の地面に魔法陣が現れ、ソレはこの地全てを包む光を発生させていく。

 闇属性魔法とは違い、聖属性の範囲魔法というのはほとんど攻撃スキルではない。

 俺みたいな攻撃術師とは違う、どこまでも“神様の加護”ってヤツを得る職業。

 だからこそ、使い所が難しい場面も多い。

 しかしダイラは、欲しい所には絶対手の届くスキルを多く持っているのだ。

 というか、錬金術師に関してもそうだが。

 とにかく覚える事が多いし、特殊条件なんかも多く設定されている職業。

 だがソレを当たり前の様に、周りに不便さを感じさせない程に正確にこなして来たプレイヤー。

 それが、ダイラという聖職者だ。


「聖域発動! “聖者の丘”!」


 彼女が魔法スキルを使えば、ギルド内は完全に光に包まれ。

 俺が召喚した雑魚アンデットなど、すぐさま浄化され姿を消していく。

 この程度の死者に怯えていた聖職者ども、ウチの術師の力はどうだ?

 お前等に、これ以上の行動が出来るか?


「“上位”と呼ばれる聖職者さん達さぁ……ウチのダイラ以上の成果が残せる自信があるなら、仲間に入れてやるよ。さっきまでの勢いはどうした? ホラ、立候補したらどうなんだ?」


 ハハッ! と笑い声を上げてみれば、周りからは完全に怯えた瞳を向けられてしまった。

 更には受付の人達も腰を抜かしたらしく、パクパクと口を開閉しているが。

 ……やり過ぎた?

 いやでも、イジメっ子の腐った性根を叩き直すなら、これくらい必要じゃない?

 とかなんとか、ため息を溢しながら杖を肩に担いでみると。


「死霊術師……闇魔法の使い手……」


 おっと、此方にヘイトが向かってしまったか。

 まぁ、こういう地域だったら仕方ないのかもしれないが。

 それでも、ニィッと口元を吊り上げてから相手に顔を近付け。


「その通りだ、覚えておけ。俺はクウリ、闇魔法使いのクウリだ。攻撃術師だぞ? お前等に足りない部分を補うには十分だろう? いつでも呼んでくれよ、ウチのダイラ以上の実力を持っているならな」


 クハハッ! と、いつもの魔王テンションで脅しを掛けていれば。

 不意に、首元を掴まれて後ろに引っ張られてしまった。


「クウリ、それは違う」


「何がだよ、ダイラ。コイツ等お前の事を舐めてるとしか思えない態度で――」


「そんなのどうでも良いんだよ! クウリが悪役になる必要無いでしょ!? 流石にやり過ぎだよ! これじゃさっきの子達を悪く言う資格ないよ!?」


 それだけ言って、ダイラは涙目でコチラを睨んで来た。

 えっと……コイツのこんな顔、初めて見た。

 やべ、イラッと来て調子に乗り過ぎた。

 いやまぁ、目立つなって事で怒られたなら分かるんだが。


「えっと……いや、でも」


「いい、もう今日はいい。このまま宿に帰ろう、これ以上やる必要無いよ」


 そのまま、ダイラに引っ張られてギルドを後にするのであった。

 えっと、やべぇ……流石にやり過ぎた。

 なんて事を思いながら慌てていれば。


「違うんだよ、嬉しかったんだよ。皆が庇ってくれた事も、俺の為に怒ってくれた事も。でも、違うんじゃん。俺は、有能だって示して周りに威張りたい訳じゃないし、周りから称されたいわけじゃないんだ」


「分かってる……つもりだったんだが、でも違うじゃんか! お前はあんな風に笑われて良い存在じゃない! ダイラの方が間違いなく格上なのに、アイツ等――」


「だったらなんであんな事したの!? あんな事して目立つより、俺が我慢していれば良いだけじゃん! なのに……また。アバターと同化してから、ちょっとクウリ直情型になってるよ! らしくないよ!」


 俺の手を引いて外に出たダイラは、そんな事を言いながら両目に涙を溜めていた。

 多分俺の行動は、コイツの中では間違っていたのだろう。

 鬱陶しい事を言って来る人間を、実力差を見せつけて叩き潰す様な解決法を。

 ダイラは求めていなかったのだろう。


「すまん……ダイラ。もう少し大人しい方法の方が良かったのは分かるけど……けどさ、お前が舐められたままなのは――」


「そんなの後からいくらでも証明出来るでしょ!? あの場で無茶苦茶な事をしなくても、後からいくらでも……クウリはいつもそうだもんね。いつだって全力で、気に入らない事には正面からぶつかって来た。ソレで良いよ、それで良いんだけど……俺なんかの為に、危ない橋を渡らないで。俺が少し我慢すれば良いだけだったでしょ?」


 何やら本人の中では答えが決まっているらしく、そんな宣言をされてしまったが。

 俺としては、やはり納得出来ない部分も多い訳で。


「え、えっと……俺は、お前の有能性を示したくて……だって実際アイツ等、動いてもいないアンデットに怯えまくってたし――」


「だから、その“やり方”が問題なんだってば! 相手は普通の人間だし、戦闘職でもないんだよ!? 最初の街で模擬戦した結果を覚えてないの!? それにクウリが悪目立ちしたら意味無いでしょう!? 俺のせいで、結局クウリの立場を悪くするんじゃ意味無いよ!」


 ダイラはそんな言葉を放ちながら、引っ張っていた手を勢い良く放した。

 そして、グッと耐える様な悲しい瞳を向けられ。


「クウリは、根本から勘違いしてるよ。俺等全員をいつだって“快適”に過ごさせる必要なんかない、そこまで責任を取ろうとする必要なんかない」


「そう、かもしんないけど……でも」


「クウリだって“巻き込まれた側”なんだよ? 俺達の事ばっかり気にする必要なんかない! ……もっと考えてよ、お願いだから。俺は……俺のせいで皆に悪い印象を与えちゃうのが、一番辛いよ……クウリが全部背負う必要なんて、無いんだよ。俺等のコレは、もうゲームじゃないんだよ? 何でいつも全部自分にヘイトを向けようとするの?」


 それだけ言って、ダイラは涙を溢しながら俯いてしまった。

 何だ、何だコレ。

 これまでは、転生だとか自キャラになっちゃったとか。

 色々テンパっても、どこか気軽に考えていたり。

 戦闘に関しても、現実とゲームの差異ばかり考えていたのに。

 今の状況の方が、滅茶苦茶怖い。

 俺、リーダーなのに。

 仲間を傷付ける選択をしちゃった。

 失敗した、コレは間違いだったと実感した瞬間。

 ズキッと、これまでに感じた事の無い痛みが胸の奥に走るのであった。


「あ、あの……ダイラ。俺、別に……その、お前を傷つけようとか、そういうつもりじゃなくて……」


 口から零れたのは、本当に良い訳。

 だからこそ、次に何を喋って良いのか分からなくなってしまうが。


「そこまでだ、二人共」


 イズが声を上げ、俺達の口論の仲裁に入った。

 そして、俺に方に向かって微笑みかけ。


「クウリ、ちょっと俺と話をしよう。トトン、ダイラを頼んで良いか?」


「ういよ~。多分、ダイラは“俺に近い”から。大丈夫だよ、俺が話する」


 そんな事を言いつつ、俺達のパーティは二つに分断されるのであった。

 え、あれ?

 こんな事で、俺等のパーティってバラバラになっちゃうの?

 だって、これまで数えきれない程の難所を乗り越えて来たし、“こっち側”に来てからもずっと協力して……。


「クウリ、一旦落ち着け。現実であれば、共に生きていれば……こういう事だってあるさ」


 それだけ言って、イズに肩を抱かれて他二人から離れていくのであった。

 え、待ってくれよ。

 嫌だ、こんな形でダイラと別れるのは嫌だ。

 ゲームの時なら、冗談とか適当な言葉を紡げば済んだのだ。

 変な空気になっても、メールを送れば話が出来たのだ。

 でも今は、その機能がない。

 今の俺達は、ちゃんと生きている。

 ちゃんと顔を合わせて話さないと、伝わらないんだ。

 だから、このままアイツと別れるのが非常に怖かった。


「イズ、待って。俺、ダイラと……」


「トトンに任せろ、大丈夫だ。今はお互いに落ち着く必要がある」


 そんな言葉を貰いながら、ダイラに背を向けて離れていく。

 この状態が他のなにより、凄く怖く感じたのだ。

 嫌だ、嫌だよ。

 俺達は、この四人で居ないと、生き残れないよ。

 お前は、このパーティに絶対必要なんだよ。

 だから。


「ダ、ダイラ……」


「クウリ、今はダイラも落ち着かせてやれ。結局お前達は、互いの為に怒っているだけだ。それに……アイツもそうだが、確かに“らしくない”。感情が高ぶるとアバターの影響をより強く受けるのかもしれない、一度冷静になろう」


 イズの声によって、差し向けた手を下ろしてしまったが。

 コレ、一番駄目な状況だって。

 生存とか、ゲーム知識とか。

 そういうものとは別に。

 これまで以上の焦りを感じている俺が居るのであった。


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