第53話 水の都
「次の街、着いたー!」
門を潜った先で、いつも通りトトンが大声を上げながら両手を振り上げた。
元気だねぇとか思いつつ、俺達もその後に続いた訳だが。
「ここ、ぎりぎりディアス王国の管轄地か。それなりに移動したから大丈夫かもしれないが、また場所を移すなら早めの方が良いかもしれないな」
地図を見ながら、イズがそんな事を呟いて来る。
そうねぇ~そうなんだよねぇ~。
また指名手配モドキなんてされても嫌だから、少しばかり観光したらさっさと出てしまった方が良いのかもしれない。
なんて、思っていたのだが。
「すご……シスターがいっぱい居る」
一人、おかしな声を上げている奴が居た。
今の姿は女だし、服も店で買った普通の物だから良いけど……明らかに不審者の様な目を周囲に向けているお馬鹿。
ダイラである。
そして確かに俺達の視線の先には、結構な頻度で修道女さん達が歩いていた。
「相変わらず……好きだね、お前は。普通の聖職者っぽい服も姫様から貰ったし、もう混じって来たら?」
「俺にそんなコミュ力あると思う? 話しかけられたらどうするのさ。俺はシスターが好きなだけであって、本当に神様を信じてる訳じゃないんだよ?」
「それは知らん。間違っても本気装備なんぞ着るなよ? また聖職者から痴女だなんだと怒られるぞ」
もしかしたらでっかい教会とかあるのかね?
もしくは宗教活動が盛んな街で、幾つも教会があるとか?
よく分からないけど、ダイラは物凄くこの街が気に入ったみたいだ。
火山地域もそれなりの場所にあった訳だし、温泉とかこっちにもあるのかなぁ~って期待していたけど。
なんか街並みを見た感じだと、温泉というより綺麗な水の都って雰囲気。
あと露店には結構な頻度で魚料理が売られている。
大きな水路もあるみたいだし、マジで海が近いみたいね。
貰ったマップは白黒だし、“向こう側”の地図程鮮明に描かれてないから良く分かんなかったけど。
「というか、この身体になっても興奮するものなのか? 風呂でミラさん達に遭遇した時だって気まずいだけだったし、何かもうそういう感情湧いてこないんだけど」
まぁ未だにそういう感情が残っていたら、普段から色々不味い事になっていただろうが。
その辺に関しては、アバターの感覚の上書き? に感謝だ。
「いや、まぁ性的興奮はしないかな? 単純にシスターって存在が好きと言うか、服装とかもいいなぁ~って感覚? なんかもう見た目から優しそうだなぁって雰囲気あるじゃん。元々そんな感じだよ」
「わぉ、意外と普通の憧れ? しかしそこに邪な感情を乗せた結果が、あの装備だったと」
「うるさいな! 元々は男同士でふざけてた結果だってば。キャラ付けというか、そういうテンションの方が他の人も絡んできやすいでしょ!?」
あぁ~そういうの気にして、最初から布石を置いていたみたいな感情もあったのか。
まぁ確かにネトゲ時代だと、ごく普通のシスター衣装着ていても全く目立たなかっただろうし。
本人はこの通りの性格だから、相手から声を掛けて貰える様に見た目を派手にしてたって感じなのかもしれない。
「ね、ね。ギルドに転移届け出した後、少しだけ教会に立ち寄ってみても良い? ちょっと気になる」
「へいへい、一緒に付いて行けば良いのね」
「流石クウリ! 頼りにしてます!」
と言う事で今回は、本格的に観光メインになりそうだ。
ま、良いんだけどね。
※※※
「ほぉぉぉ……これは、また」
「なぁんか、街の中の仕事多いねぇ。お手伝いとか、治療とか」
「それ以外で言うと、戦闘職募集の告知が多いな。仕事は少ないが」
「すご……ギルドの中にも聖職者がいっぱい居るんだけど」
無事転移届けを提出した俺達は、とりあえずこの街の依頼を眺めていた。
クエスト掲示板に張り出されている内容は、なんというか……平和?
ご老人宅の草毟りと家の掃除を、とか。
清浄魔法を使える術師に、水門の掃除をお願いしたいとか。
とはいえ戦闘の仕事が無いわけでもない。
ただしそっちは随分と数が少ない上に、とにかく戦闘職が足りていない御様子。
こんな事あるんだ。
何かもう冒険者ギルドっていうより、福祉とか環境保護とかの施設みたい。
「何か気になるクエストでもありましたか?」
俺達の転移届けの処理をしてくれた受付さんが、ニコニコしながらそんな声を掛けて来てくれる訳だが。
前の街と比べて物凄く柔らかい物腰でびっくりしてしまった。
あっちの受付さんは、どっちかというとヤンキーみたいだったからね。
比べる方がおかしいのかもしれないが。
「あぁ~えぇと、戦闘系の依頼が凄く少ないなぁと思いまして。この辺は安全な地域って事なんですか?」
と言う事で、そのまま疑問をぶつけてみた結果。
受付さんは少々困った笑みを浮かべてから。
「そこまで安全か、と聞かれるとそうでもないんですけど……簡単に言うと“達成出来る事の方が少ない”ので、ギルドに仕事が回ってこない形ですかね。戦闘や肉体労働は特に」
え、何それ。
冒険者って言ったら、どっちかと言うと戦闘とか下働きで重宝されそうなのに。
はて? と首を傾げてしまう訳だが、彼女はニコッと微笑んで。
「なので、皆さんには期待しているんですよ? 何たって四人中三人が戦闘職なんですもんね。依頼を精査した後、明日以降は此方から指名で依頼を出させてもらうかもしれないです」
なんか、最初から面倒事を押し付けられそうな雰囲気が凄いんですけど。
それから、俺達が戦闘職だと聞いてから。
ギルド内に居る方々の目がギラついているんですけど。
怖い、非常に怖い。
見た目は結構若い子が多いのに、歴戦の狩人みたいな目でこっちを見て来るんですが。
「あの……それはどう言う……」
「この街は“セイレーン”の加護を受けた地と有名ですから、とにかく教会が多いんですよ。ですから、修道院から出る若い子達は皆補助や回復職がほとんど。戦闘に関しては、ほとんど兵士の皆様にお願いする様な形になってしまっています」
あ、あぁ~ね。
つまり元々攻撃職が少ない上に、ココでは冒険者と言っても補助系の職持ちばかり集まって来る。
その結果、戦闘に不向きなギルドが出来上がってしまっている訳だ。
教会が多いなら、聖騎士とか居そうなイメージあったけど……でも普通聖騎士って言ったら国とか教会の直轄か。
よく考えたら冒険者ではないわな。
あるとすれば“元、聖騎士”とかになりそうだけど、それはそれでどうなのって話だし。
あと、気になる事がもう一つ。
「セイレーンの加護って言いました? それ、詳しい話とかどこかで聞けます?」
「伝承などであれば、私からお話しますけど……詳しく知りたいというのであれば、ココを出て西に真っすぐ行った所に大きな教会があります。そこなら古くからの歴史の資料も保管されていますので、お話を聞いてみては如何でしょう?」
だ、そうです。
図らずとも、ダイラの目的が叶ってしまった訳だが。
まぁソレは良いとして。
俺達からすると、セイレーンって言ったら……イベントボスの一角なんだけどね。
まぁ、本物が居るとは限らないので。
必要以上に気にする必要はないのだろう。
と、思いたいのだが。
前回、溶岩神ペレが出て来たばっかりだしなぁ……コレがフラグにならない事を祈るばかりだ。




