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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
2章

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第52話 塩焼き! 雑炊!


「今回街を出ちゃったのは早計だと思う人、手を上げてー」


 夕飯時、そんな声を上げてみたが。

 トトンは首を傾げ、ダイラは苦笑い。

 料理中のイズに関してはフッと軽い笑い声を溢すのみ。


「別に良いんじゃない? 面倒臭くなる前に逃げたんでしょ?」


「トトンの意見に、俺も賛成。政治やら貴族やら、そう言うのは嫌だよ。まぁ~残された側には迷惑かけちゃってるけど」


 二人はそんな言葉を残しながら、特に意見無しと言ってくれる訳だが。

 イズに関しては……どうだろう?

 未だに簡易キッチンで忙しく料理をしている為、声を掛けるのでさえ躊躇ってしまうが。


「俺も特に不満は無い。それこそ何かしら目的が見つかったのなら、もっと真剣に向き合うべきかもしれないが。今の俺達には、それらしいモノがないからな。住みやすい場所を探したり、もしくは“元の世界”への帰還方法を探すのなら、旅を続けた方が良いとも思える」


 と言う事は、今の所は間違った道筋は進んでいないのかな?

 なんて、一安心してしまいそうになるが。


「それでも、“安全”だけを考えるなら誰かに寄生するのも有りだ。あの姫様が、俺達をどう使おうとしていたのかも定かではない以上、もしかしたら良い方向に転ぶ事もあるのかもしれない」


 そう言ってイズは調理を終えた品を皿に盛り、次々と此方に運んで来る。

 だよなぁ、姫様の存在が良く分かっていなかったけど。

 本当に俺等を悪く使おうとしないのなら、頼るのもありなんだよなぁ。

 とはいえ、本気出しまくっていたら絶対兵器だろうけど。


「イズは……俺の行動方針、反対か?」


「いいや? さっき言っただろう? クウリの判断に不満は無いと。今言ったのだって“例えば”だ。王家に付いて働いていれば、間違いなく今の様な生活は出来なくなる。それに危険が迫れば俺達が使われる、それは間違いない」


「だ、だよな!?」


「それに、こうして旅を続ける事も。俺としては悪くないと思っている。気の置けない仲間達で異世界を旅する、そんな体験普通は出来ないからな。あとは……俺としては、他にも気になる事があってな」


「気になる事?」


「あぁ、俺達のアバター……というか認識、思考のズレというか。いや、まぁ食べてからにするか。長くなるからな」


 などと言いながら、イズは今日の晩飯を並べて行った。

 そして、目の前に現れたのは。


「鮎の塩焼きがご希望だっただろう? 鮎……ではないが、似た味の魚の塩焼き。それから雑炊、後は漬物だ。少々質素に見えるかもしれないが、とにかく魚が旨い。ソレだけじゃなく、合わせに味噌ダレも作ってみた。雑炊にもしっかりと味を付けている上に、具沢山。漬物はゲーム内で作った物をそのまま出してみたが、味は良いぞ? 食べてみてくれ」


 和食、マジで和食。

 こんなの食べちゃって良いの? って程に、異世界なのに和食。

 イズさえ居れば、故郷のご飯とか恋しくならなそうって前回も思ったが。

 マジで、本気で。

 超和食。


「いただきます!」


 勢いよく手を合わせ、声を上げた瞬間に晩御飯へと飛び付いた。

 まずは鮎? の塩焼き。

 ガブっと噛みついてみれば、パリパリと歯応えの良い皮と香ばしい香り。

 コレですよ、コレなんですよ。

 祭りで売ってたり、キャンプで食べる鮎の塩焼きって言ったら、コレしか無いでしょう。

 そんな“まさに”を味あわせてくれながら、噛みしめてみればどうか。

 ホクホクと柔らかい魚の身、口の中に広がる深い味わい。

 あぁぁぁ、うめぇよぉ……。

 そのまま雑炊を口に含めば、何だこれは。

 合う、滅茶苦茶合う。

 匂いの強い魚に対して、雑炊は山菜と鶏肉、更には香りづけにゴマを使っているのだろうか。

 しっかりと染みたダシの味が口内に広がり、口に含んだ米や山菜を噛みしめてみれば爽やかさえ広がっていく。

 魚を喰って、米、味噌汁でさっぱり! みたいな工程を、この雑炊だけで済ませてしまうクオリティ。

 お腹の中から、思わずホッとしてしまう様な温かい息が零れて来る様だ。

 ヤバイ、ヤバいぜコレは。

 マジで旨い。

 そのスッキリし終わった口の中に漬物を運んでみればどうだ。


「あぁぁぁ、コレだよコレ。こういうの待ってたんだよ……」


 そんな言葉を残してしまう程に、スッキリどころか“完全にリセット”してしまうお漬物。

 いいねいいね、ゆずも入ってるのか?

 これまた独特な爽やかさで、食事前みたいな“浸っていない”状況まで引き戻してくれる。

 こういうのもまた、柑橘類の不思議な所だ。

 その後イズが追加で出してくれた緑茶を口に含めば……何と言う事でしょう。

 もう一度いただきますを言いたくなる程、お口の中の環境は整ってしまった。

 だがしかし、焦るな。

 まだ、あるのだ。

 鮎の塩焼きに付けろと言っていた、味噌ダレ。

 ただの味噌な訳が無い、だってイズが用意したのだ。

 それに見た目だって、若干ソースっぽい。

 ソイツを掛けてから、もう一口。

 すると。


「うっま!? 何だコレ! この味噌何を混ぜてるんだ!? 滅茶苦茶ウメェ!」


 口に含んだ瞬間には、甘辛な感じだったのだ。

 でもしっかりとその後も味を主張し、魚の旨味と交じり合っていく。

 これまでに食べた事無い種類、経験した事のない後味。

 鮎の塩焼きなんて言えば、そのままでも旨いのだ。

 ソレを数段上のステージに持って行く、このソースはいったい!?


「色々混ぜて寝かせたりしているんだが……そうだな、秘密にしておこうか。ちなみに、焼き鳥なんかでも多分合う。一緒に焼けばまた風味が変わったり、後付けでも良いだろうな」


「焼き鳥! 喰いたい!」


「また今度な?」


 イズは悪戯を思いつた様な顔をしながら、クククッと笑って見せるが。

 いやでもコレマジで旨いぞ。

 カブカブと噛みついて、雑炊も掻っ込んで。

 漬物をパパッと食べてしまえば、目の前には空の器が並ぶわけで。

 あぁ……食べきってしまった。

 今回釣った魚は、そこまで多くなかった。

 だからこそ贅沢は言えないと、我慢するんだと自らを勇めていれば。


「どうせ足りないだろうと思ってな、小魚の天ぷらを作っておいた。頭から丸ごと食べられるぞ。酢橘を掛けて食べてみてくれ」


「「「イズ、流石です!」」」


 どうやら全員同じ状況だったらしく、彼が山盛りの天ぷらをインベントリから取り出した瞬間に飛び付いた。

 酢橘! 天ぷら! 魚丸ごと!

 こんなもん、食わない馬鹿は居ない!


「うんまい!」


「初めて食べた! 初めて食べたこういうの!」


「あぁぁ、美味しい。イズって料理だけでも、普通にお店とかやっても何とかなりそうだよね。あ、それこそ落ち着けそうな街があったら本当に検討する?」


 そんな事を言いながら、我らがオカンの料理を満喫するのであった。

 異世界飯、旅の間の飯。

 最初こそ不安があったのに。

 イズのお陰で、むしろこの期間の食事の方が楽しみになってしまった。

 よし、旅を続けるか。

 異世界転生って言ったら、旅するもんだろう。

 それに、色々な所を見て回るというのも実際面白いしな。

 何て事を考えながらも、もっしゃもっしゃと奪い合う様にして魚の天ぷらを頬張るのであった。

 うめぇよぉ、イズの料理は何でも旨ぇよぉ……。


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