第51話 旅に出ます、探さないで下さい
「ちょっと支部長! どうなっているんですか!?」
物凄い勢いで、支部長室に駆け込んで来るミラ。
先日はクウリ達の件でバタバタしたというのに、今日はコレだ。
思わず溜息を溢しながら彼女の話に耳を傾けてみると。
「クウリさん達が、本日古代武器の全権を私に預けて出て行ってしまいましたよ!?」
「はぁぁ!?」
いや、待ってくれ。
だって先日、こちらに溶岩神ペレのコアとやらを渡してくれたじゃないか。
未だ調査中ではあるものの、とんでもない魔力を帯びた塊である事は判明している。
そんな重要な物を渡して来たのだ、このタイミングで出て行くなど有り得ないだろうが。
最初から逃げるつもりだったのなら、普通ならさっさと身をくらまし、後の事は知らないと夜逃げの様な形にする筈。
更には太古の武器を全てミラ達に譲渡する様な形にするなんて……何を考えているんだ?
あまりにも彼女達にデメリットが多過ぎる気がするのだが。
「おい! 誰か! 誰か来てくれ!」
大声を上げてみれば、慌てた様子の職員が部屋に顔を出し。
相手にクウリ達の移転届けの手続きをした受付は居ないか探せ、と指示を出した結果。
すぐに見つかった。
彼女達を最初から対応している、いつもの受付嬢だった。
「どういうことだ! 何か聞いていないのか!?」
「いやぁまぁ、色々聞いちゃいますけど。冒険者が別の街に行くなんて、別段珍しい事じゃないでしょうに。なぁにを焦ってるんだか」
「焦るだろうが! 普通! 彼女達は普通じゃない!」
「へぇ? 私にとっちゃ普通の冒険者ですけどねぇ。なので、サラァっと手続きしてバイバイしちゃいましたわ」
いったい何を言っているのかと、思わず頭痛を覚えてしまったが。
彼女の話では、鍛冶師達には鉱石を渡して来たから武器の修繕は何とかなるだろうとの事。
ソレが完成した暁には、一つは彼等に譲渡して欲しいとの事だった。
何でもそういう約束をしてしまったので、どれを選ぶのかはミラ達と相談して決めてくれとか。
研究者側の取引に関しては全てミラに一任し、利益は彼女達が独占して問題ないとの事。
いやいやいや、これだけデカイ金が動いているのに。
アイツ等は何故それらを欲さない? 金だけじゃない、貴重な武器もそうだ。
ミラが最近使い始めた“古代武器の完成系”。
これまでに無い程の効果を発揮し、ここ最近の戦績はうなぎ上り。
それらを目にしているのに、冒険者がソレを自ら手放すなど有り得ない筈だ。
「本当に……何を考えているんだ、アイツ等。と言うか、王家の調査の返事……書き直さないと」
「フラッとこの街にやって来た様な旅人モドキなんですから、王家から狙われればそりゃ逃げるでしょうよ。貴族と関わるのだって面倒なのに、それが一般人ってもんですからねぇ。何があっても守ってやる、くらい胸張って言ってやりゃよかったのに。頭皮ばっか気にして来るからですよー」
「煩い! 私程度が反論出来るような相手じゃないだろうが! あとハゲとか言うな!」
「言ってねぇだろハゲ!」
と言う事で、彼女達が旅立ってしまったのは事実らしい。
つまり……ディアス王家からの取り調べと、依頼人への交渉は全て私がやるのか。
もはや、ため息しか零れて来ない事態になってしまったのであった。
※※※
「まぁた、サクッと出て来ちゃったねぇ」
「だなぁ……温泉だけは、心残りだ」
ボヤキながらも、次の街に向けて足を進める俺達。
忙しいねぇ本当に。
でも今回の一件で、レイドさえ対処出来るのだと証明出来たのは良い成果だ。
今後もしもこう言った脅威が襲い掛かって来るのなら、自信をもって対処出来る。
と、言いたい所だが。
正直もうレイドなんざゴメンだ、平和に生きようぜ平和に。
どうせ“元の世界”への帰り方も分からないのだ、だったら“こっち側”でのんびりと生活しながら、その手の話も調べたい所なのだが。
「もういっその事、隣国を目指してしまうか?」
「とはいえ、生活の為には街によって仕事しないとなんだよねぇ……今回は一応儲けたし、最後の最後で鍛冶屋の人達がある程度支払ってくれたから良かったけど」
そう、ソレだ。
今回の一番の痛手。
鉱石の売り先が見つかったというのに、すぐに離れる事になってしまった事。
あの契約のままミラさんに引き継がせるのも気が引けるので、修繕に必要そうな鉱石は置いて来たが。
事情を聞いた彼等が、少しでもと言って鉱石の買い取りを申し出てくれたのは助かった。
古代武器が完成しない事態が一番不味いので、無理しない程度の金額にはなってしまったが。
それでも、それなりの金額が手に入ったのは嬉しい。
「アイテムもこんな使い方ばっかりしてたら、いつか無くなっちまいそうだなぁ」
「そうだな、恐らく全員分を使い切るのには何十年と掛かるだろうが」
「つまり安泰じゃねぇ~? しかも普通に働いても結構稼げてるし。ねぇねぇ今回も釣りしようよ釣り、どうせ夜までは歩くだけでしょー?」
「今度の所では、ホントにそっちメインで行こうね? もう魔人だとかレイドとか嫌だし。あとクウリはデウスマキナ禁止、被害がデカすぎるよ」
何てことを話しつつ、テクテクと歩いて行く俺達。
問題ほっぽり出して逃げて来たって現状ではあるのだが。
現地をそこまで知らない俺達にとっては、完全に他人事というか。
俺等が消えればそれで済むってんなら、それでいいじゃんって感じだ。
こっちとしても、どっかのお抱えになるつもり無いし。
「つっても、太古武器どうなんだろうなぁ? やっぱミラさんみたいに、皆無双したりすんのかな?」
とかなんとか、適当に声を洩らしてみれば。
珍しい事に、トトンがいの一番に首を横に振った。
「俺等が持ってるナイフと短剣の効果を見るに、ソレは多分ない。あの長剣は、イズが使うって事で強化した訳だから。プラス値を付けない限りは、ちょっと特殊な武装って事で終わると思う」
「切れ味だけでも結構なんだけどねぇ……ナイフだって、あんなにスパッといったんだよ? なら、結構凄い事になるんじゃない?」
「とはいえ、修繕にはかなりの鉱石が必要だからな。あの切れ味が何処まで保つか……たとえ良い形に収まったとしても、ミラさんが使っている武器の様にはならないさ。例え成果が出ても、補修の方が高くなる恐れもある」
と、いうことらしい。
まぁあの人が使ってる武器、補正+30くらいは付与されてるからね。
その辺に関しては、現地の鍛冶師でも付与できるのかは謎だ。
そっち方面も、もう少し調べたかったんだけどなぁ……まぁ良いか。
全部を全部調べてたら、キリがないだろうし。
知る機会がありそうなモノは調べたいが、チャンスがある時だけって事で。
「ま、今更難しく考えても仕方ない。またしばらくは、のんびり旅を楽しみますかー」
「いぇーい、異世界放浪記ー」
などと気楽にやっていれば、やがてまた大きな川が見えて来たではないか。
「今日はもう難しい事考えず、また釣りやろうよ釣り。俺川魚食いたい、こう……釣って焼いてモグモグしたい」
「お、いいねトトン。俺も鮎の塩焼きとか食いたい」
「では、釣ろうか」
「ホントもう……気楽だよねぇ、こう言う所は。普通はもっと大きな目標とか掲げるんじゃないの? 嫌だけど」
そんな事を言いながら、皆して河原に向かって突っ込んでいくのであった。
どうせ夜には長距離移動をするのだ。
昼間の内くらい、楽しもうではないか。




