第41話 初めて感じた身の危険
翌日、研究者達への答えも出さぬまま再び火山に向かった俺達。
そして今回の目的は発掘ではなく、戦闘メインという話だったのだが。
「あはははっ! 何ですか、何ですかコレ! 物凄いじゃないですか!」
ミラさんが、壊れた。
イズが使用を諦めた長剣、というか蛇腹剣? を彼女に詳細を伏せて渡し。
鞭とか使えますか? という雑な質問の元譲渡した結果。
彼女が、無双していた。
わぁお、ちょっとヤバメな女王様。
などとやっている内にデカ目な相手も出現し始める。
グランドベヒモスの成長途中というか、アンダーベヒモスと呼ばれる個体なのだが。
「シッ!」
ミラさんは臆することなく突っ込み、魔法で牽制しながら相手の首に剣を巻きつけた。
わーお、見た目以上に伸びるのね、あの武器。
そして彼女が一気に刃を引き抜いてみれば。
「凄い凄い凄い! こんなモノでも簡単に斬れる!」
蛇腹状になって巻き付いた刃は、引き抜かれた事によって相手の首を大いに傷付けた。
硬い皮膚などお構いなしに首への攻撃として成立したらしい。
その際相手の首からは血液が噴射し、まだ生きている筈なのにヨタヨタと情けない姿を晒していた。
うんむ、やっぱりこういう意味でも“ゲームより弱い”というのは確定なのだろう。
とか何とか、無理矢理納得しようとしていたのだが。
怖い、今のミラさんが単純に怖い。
あんな物で攻撃されたら、俺等でもどうなるか分からないよ。
あともう一つ、この武器を使ってしまうと俺達のメイン装備とは違う意味で“目立つ”。
傍から見ていても、コレだけ派手だしね。
いやうん、使い方次第なのかもしれないけど。
「アンダーベヒモス、討ち取ったり!」
やがて出血量の限界を超えたのか、魔獣は地に伏せるわけだが。
うん、なんて言うか。
俺達が求めている“普通に見える冒険者”ではないかな、あの武器使うと。
現地の人だって、コレだけ派手に戦えてしまうのだから。
「いやぁ……どうすりゃ良いんだ? 短剣とかナイフはセーフか? 他に使いたいのあるかー?」
「俺としては、ギミックの無い武器の方が扱いやすいからな……他の物もあんな感じだと、個人的にはいらない、かな……」
「使えるとしたら槌とか大剣、後は斧。その辺はトトン次第かなぁ? 変な機能とか無ければ。俺には無理無理、短剣でも上手く使えないって。逆に怪我しちゃいそう」
イズとダイラから、そんなお声を貰ってしまった。
駄目だぁコレ、ちょいと派手過ぎる。
こんなんじゃメイン装備を使っても変わりない……事はないけども。
コレは駄目だぁ。
今のミラさんが、まさにソレである。
コレ、完全に無双系主人公だわ。
「武器だけでも、これくらい出来るようになるって事か。強化値に関してもしっかりと反映してるみたいだ。ちなみにトトン、アレって強化値幾つくらいだ?」
「+30くらいの感覚で盛ったけど、正確にはわっかんない。数字表示されないし」
破損覚悟で俺達の装備が+90以上に持って行ってると考えれば、かなり大人しい数字なのだが。
それでもこれ程になってしまうのか。
ネトゲと言えばね、武装の破損とか当たり前だし。
ソレを何度も繰り返して強化に強化を積み重ねた武装。
腕だけで此処まで来られれば良かったのだが、生憎とゲームの世界は数字がすべてな訳で。
俺達に関しては、惜しげもなくその低確率に金を使っただけの人間に過ぎないのだ。
つまり今回の武器は、トトンにとって武器破損などが発生しない範囲で強化しただけ。
でもそんな気軽な数字で、ここまで出来てしまうという……ある意味“魔剣”みたいな扱いになるのかな。
実際プラス値が付いた影響なのか、ミラさんの腕力や魔法も強化されてるっぽいし。
「お疲れ、ミラさん。どうよ? その長剣の使い心地は」
「最っ高です! コレだけ気持ち良ければ、コッチに戦い方を変えてしまいそうな程の爽快さでした!」
これもまた、ゲーマーあるあるというか。
自分に合った武装を見つけると、楽しくなっちゃうよね。
しかもこれまで経験した事無い強化値付きの武器とか、ハマっちゃうよね。
だって、楽だもん。
ある種の恐怖を覚えつつも、今回の武器で無双する彼女を見届けるのであった。
これ系の武器、これ以上トトンが直さない方が良いのかもしれない。
※※※
「せっかく来たんですし、少し採掘してきませんか?」
なんて、ちょっとお茶にでも誘われる感覚で採掘ポイントまで連れて来られた俺達。
こっちの世界の人は、皆アクティブだね。
いやまぁ、ゲームだったら俺達も同じような事をしていたんだろうけど。
「これらの武装がまだ眠っている可能性は高いですからね! 可能な限り探索してから帰りましょう!」
完全に太古装備にハマってしまったらしいミラさんにため息を溢しつつ、壁に手を当ててスキルを発動。
前の時に結構ガッツリ掘っちまったからなぁ……まだ残ってんのかねぇ?
とかなんとか、あまりやる気の無い感じで調べていると。
「うん?」
俺の“イロージョン”のスキルに、何か妙な反応が引っかかった。
何だ? コレ。
壁やら地面やらに何か埋まっていたり、移動していたりする訳ではない。
けど、全体的に振動しているのだ。
地震? もしくは火山が噴火しそうになってるとか?
「なぁミラさん。この辺って地震多かったりする? あとこの火山って頻繁に噴火したりするの?」
「えぇと、それ程でもない気がしますけど……まぁ他の土地に比べたら多いですね。たまに噴火して、立ち入りを制限されたりもします」
ありゃま、それじゃ今回はそのまま帰った方が良いのかもしれない。
なんて事を考え始めた頃、ミラさんが追加のお言葉を放って来た。
「でもここの火山って、不安定というか……妙なんですよ。土地の研究者達がいくら調べても、こんな時期に活性化する筈がない~ってタイミングで噴火したり。逆に急に大人しくなったりもしますね。だからこそ、ココに近付く人が少ないというのもあります」
ここにきて、嫌なお言葉を頂いてしまった。
あー……えぇと、つまり? 火山活動を観測したり調べたりする人達でも匙を投げてる様な場所って事で良いのかな?
そんでもって、そういう人達でも訳の分からないタイミングで火山活動が活性化したりすると。
それってつまり、何かの影響を受けてるって事じゃないんですかねぇ。
「ねぇ、クウリ? 俺、ものっ凄く嫌な想像しちゃったんだけど……」
「ダイラ、言うな。言霊って知ってるか? 言ったら最後、本当になっちまうかもしれない。俺が言うのもなんだけど、これ以上フラグは立てない様にしよう」
視線を向けてみれば、ウチのパーティの面々だけはヒクヒクと口元を揺らしていた。
どうやら全員、同じ想像をしているらしい。
だってそもそも、この世界に出て来る魔獣やら魔物が、ゲームに出て来るエネミーと結構被っているのだ。
魔族やら魔人は完全に新顔だけど。
この時点で色々おかしいけど、もうその辺はそういう世界なんだと無理矢理納得しよう。
そんでもって、この条件に当て嵌められる火山地帯のボス。
更にはこの火山活動をめちゃくちゃにするっていう、ふざけたエリア攻撃を仕掛けて来る様な相手。
マグマに潜るとか、地面に潜ったりするくらいだったら普通のボスを想像するけども。
七面倒臭いフィールドを作り出して、環境からプレイヤーを困らせて来る相手なんぞ一体しか思いつかない。
「リアルのレイドボスって、四人でも何とかなるのかなぁ……?」
「言うなって言ってんだろトトン! こんな所で“溶岩神ペレ”なんぞ出て来られて堪るか!」
「クウリ……お前が一番明確に発言してるぞ……」
思わず叫んでしまい、イズに怒られてしまった。
だってもうコレだけ条件が揃ってると言いたくなるんだもん。
コイツのレイドは本当によく覚えている。
溶岩神ペレのイベントが発生している間は、火山地帯のモンスターが活性化。
素材や発掘などは美味しい思いが出来るのだが、ソレは初期だけ。
後半になるとそれら全てにバッドステータスが付き、そのままでは素材として使えなくなる。
更にはレイド期間中、火山地帯に特殊モンスターが出現し、ソレらの討伐数によって溶岩神ペレのステータスが変わって来る。
他の雑魚を無視してペレに挑んでみた事もあったが、足元全てをマグマの海にされて、とてもじゃないが戦える状況にならなかった思い出があるのだ。
救済措置の様なアイテムもいくつかあったが、あの状況がリアルで起きたら即死だわ。
「とはいえまぁ、なんか周りのモンスターを見る限り中盤から後半にかけて~って所みたいだし、流石にペレなんぞ出て来る訳が――」
『あら……貴女、私の事を知っているの?』
どっからか声がした、とかじゃない。
まるでこの空間に幾つもスピーカーが取り付けられていて、その全てから声が放たれた。みたいな。
そんな不思議な感覚と共に、ゾッと背筋が冷えたのが分かった。
そして反射的に火山の中心と言うか、マグマの中に鋭い視線を向けてみれば。
「初めまして、自己紹介の必要があるかは分からないけど、私は火山や溶岩を司る女神“ペレ”。初めてお目にかかる子達だと思うのだけど……どこで私の事を知ったのかしら?」
溶岩の中から、炎のドレスに身に纏った女が浮かんで来た。
マジでスーっと浮かぶ感じで、演出としては正直ショボい。
溶岩の中に沈んでたってのは凄いけど、コレでレイドボスかよって最初は笑ったものだ。
しかしながら、アレは本体じゃない。
「クウリさんこれはいったい何が!? あの人、今マグマの中から出て来ましたよ!?」
ミラさん達のパーティは完全に混乱している御様子で、彼女と俺に対して視線を往復させていた。
とはいえ、今は……悪いけど、ミラさん達に構っている状況ではない。
「ハッ! マジかよ……本気で出て来るとは思わなかったよ、“溶岩神ペレ”。しかもお喋りすると来たか。とはいえ、初めましては言わないでおこうかな? お互い顔を合わせて、本当の初めましてだろう? お前のソレは所詮、醜い身体を見せない為の人形だろうが」
「……貴女、どこまで知っているのかしら?」
そんな言葉を紡ぎながら、レイドボスは此方に掌を向けて来た。
まっずい、コレ本当にまっずい!
「ダイラ! 全力魔法防御! 追撃も来るぞ! トトンはパリィ!」
指示を出した瞬間に相手の掌からは炎が巻き起こり、それが終われば冷えた溶岩が大砲の弾みたいな勢いで飛んで来る。
魔法攻撃は物理防御低下のデバフ、物理攻撃に関しては魔法防御貫通の仕様。
第一形態から、マァジでタチ悪いんだよコイツ。
そんな様々な条件付きの物理と魔法を織り交ぜて来る攻撃。
これで、結構なダメージを貰ってしまう事が多いのだ。
しかしながら、こちらのパーティには両方の完全防御が居る訳で。
「へぇ……中々やるようね?」
「これでも、アンタに何度も挑んだ身の上でね」
ニッと微笑みを溢してみるものの、正直余裕なんか無い。
ダイラが魔法を、トトンが物理を弾いてくれたから良いが。
このままレイドのフィールドまで作られたら、今の俺達では勝ち目がない。
レイドに数人で挑む時点で頭がおかしいのに、しかもリアルの状態でソレをやれって?
無理だ無理、流石に怪我人どころじゃなくて犠牲者が出る。
「人間程度が私に挑んで来た記憶なんてほとんど無いのだけれど……名前を聞いていいかしら? 貴女は誰?」
「教えるかよ、ブワァカ。んでもって、今のままじゃ勝ち目がない事も分かってるんでね。今日はお暇させて頂くよ」
「逃がすと思っているの?」
そんな事を言いながら、溶岩神ペレが頭上に掌を上げる。
ヤッバイ、フィールドに影響する範囲攻撃が来る。
「全員俺の元に! 一旦逃げるぞ! “テレポート”!」
叫んでから冒険者ギルドを思い浮かべて、転移の目的地に設定する。
かなり距離があるから、MPは空になるかもしれないが。
ここでマグマに飲まれるよりマシだ!
「逃げるな! 人間!」
「お断りだね!」
次の瞬間には視界は暗転し、身体がグネングネンと混ぜられる様な気持ち悪さを覚えた。
しかしそれは一瞬だけで、再び目を開けた時には。
「お、おかえり……随分と派手な登場だねぇ、アンタ等」
驚いた顔の受付さんの目の前に、転移が成功するのであった。
こ、今回はマジで死ぬかと思ったわ……。




