第40話 どんどん巻き込んで行こう
結局俺達の手元にあった武器達は修繕を終え、そのまま残りは鍛冶師にお願いして帰って来た。
ちなみにあぁいうのって、どうやって新しい材料突っ込むの? とか疑問に思ったのでしばらく見学していたのだが。
なんか、凄くファンタジーな光景を見せられてしまった。
俺達の用意した鉱石に魔力と火を通して、何か光り出した所で必要部位とくっ付け金槌で叩いていたのだ。
すると光っている鉱石が液体みたいに馴染んで行くという、凄く不思議な光景を目撃してしまった。
そっか、全部火に入れてもう一回ガンガンやるとかじゃないのか。
ちょっと残念な気持ちになりつつも、これならトトンがやった事だって別に珍しくないんじゃ……とか思ったのだが。
「鉱石も消えるし一叩きで修繕が終わるなんぞ、見た事が無いわ」
だそうです。
やっぱり相手の工房貸してもらう約束は取っておいて正解だったと言う事か。
他の人に見られたら不味いのね。
そしてやはり順当な手段だと結構時間が掛かるらしく、数日じゃどうしようもないとのお言葉を頂いてしまった。
はてさて、どれくらい掛かるのやら。
ま、急ぐ用事は無いからゆっくり待つけどさ。
などと思いつつ、宿でのんびりしていると。
「クウリさん、ちょっとよろしいですか? 今回の件の情報共有をしたいのですが」
ミラさんが、俺達の部屋へとやって来た。
そういえば、研究者側はどうなったのかまだ聞いてなかったな。
やばい、なんかこの身体になってから社会人癖が抜けている。
何故か戦闘以外の事となると、結構いい加減になってしまうのだ。
まぁ元からそこまで真面目な性格、という訳でも無かったけど。
駄目だなぁ、金が関わっている以上もうちょっとちゃんとしないと。
なんて事を考えながら、彼女達を部屋に招いてみれば。
何やら色んな書類をテーブルに並べていく彼女。
う、うへぇ……。
「料金の設定は此方の書類に、相手が保管している間ずっと支払われる形として交渉したんですけど、やはり長期的な保存を考えるのなら買い取りの方が安いと言う事でして。この値段で交渉されました、どうしましょうか? コレを拒否すれば、相手は貸出の料金を飲むしかなくなります」
向こうとしても、調べ終わったら返すわ! というつもりはやはり無い様で。
手元に残しておきたいんだねぇ、まぁそりゃそうか。
文化遺産? みたいな物なんだろきっと。
俺達としてはいつまでこの街に居るかも分からないし、どうでも良いんだけど。
ミラさんのパーティからすれば長期貸し出しの方がありがたいんだろうな。
ずっと不労所得が入って来る訳だし。
「んじゃ貸し出してる武器の中で、完全にいらないって物は売り払っちゃおうか。今後もしかしたら使えるかもって物だけピックアップして、そっちは貸出にするとか」
「クウリさん達としては、手元に戻したい代物はありますか?」
「ん~……遊び程度で欲しい、くらいだからなぁ……見た目で牽制するって意味では、今ある物でも充分そうだし。鍛冶屋の方はこっちで結構好き勝手やっちゃってるから、そっちはそっちで好きにしちゃっても構わないけど……」
などとボヤキつつ、修繕の終わったナイフを引っ張り出してみれば。
俺の手を、ガシッと掴んで来るミラさん。
え、何。
「あの……クウリさん? 気のせいですかね? 前に見た時よりも物凄く綺麗になっている上に、どう見ても修繕が終わっている様に見えるのですが……流石に気のせいですよね?」
あ、ヤベェ。
やっぱ現地の人だと、刃の状態とか見ただけでもすぐに分かるモノなのか。
確かに前見た時より物凄く綺麗になってるけど。
「まさかもう終わったんですか!? 物凄く凄腕の鍛冶師達じゃないですか!」
「あーうん、ソウダネー」
「他の物は!? どれくらい費用が掛かりましたか!? せめてレイピアと短剣は、コチラも早い段階で修繕を依頼したいのですが!」
「うーん、それはちょっと難しいカモネー。とりあえず完成したのも、これ一本だけだしー」
「だとしても凄い事ですよ!? 明日は私達がソチラに向かいますね!」
やっべ、こんな状態で鍛冶師との取引内容を伝えたらどうなってしまうのか。
貸出料金ほぼ無料みたいなもの、最終的に買い取りか譲渡かは武装の出来を見て決める。
あとは俺達に工房を使わせる事と、鉱石の買い取りとか……明らかに、ミラさん達に得が無いもんね。
最悪鉱石の売り上げを彼女達にも分配する形にするか?
いやぁでも、そんな事をするならいっそ彼女達も巻き込んでしまった方が納得するかもしれない。
ウーム、と悩みながら渋い顔を浮かべていると。
「ミラさんがレイピアを選んだ理由は、今回発見された長剣が今使っている物よりも“重そう”だから。そう聞いたんですが、間違いないですか?」
そんな事を言いながら、イズが助け舟を出してくれた。
流石は頼れる前衛な上にしっかり者。
頼む、ココはもっともらしい言い訳の一つでも――
「そこに間違いが無いのなら、武具の交換を検討して頂きたいんですが……明日、また一緒に火山に行きませんか? クウリが許可してくれるのなら、そこで実物をお見せします」
イズが、何か凄い事言いだした。
いやいや待って? それだとさっきの俺の言い訳が完全に無効化されてしまうのだが?
完成品二本目をお披露目しちゃうんだけど?
思わずポカンと口を開けて、ウチの前衛を眺めていれば。
「クウリ、これからも関わっていく以上彼女達にも協力してもらうべきじゃないか? それから……すまない、俺にこの長剣は扱えない。完全に宝の持ち腐れになってしまう。であれば、売るくらいしか使い道がないんだが……鍛冶師達は成果として手元に武器を置きたいんだろう? 恐らくコレを差し出した所で、納得してくれないと思うんだ。トトンが修理したものだしな」
だそうです。
蛇腹剣、駄目でしたか。
イズの事だから、多分帰って来てから少し試したのだろう。
その結果、無理と判断したと。
まぁうん、慣れない武器程危ない物は無いって言うしね。
怪我しなくて良かったです。
「えぇと? 武器の交換は、此方としては問題ありませんけど……修繕が終わったのはそのナイフだけなのでは?」
驚きと同時に、ジトッと疑わし気な瞳を此方に向けて来るミラさん。
うーん、コレはイズの言う通り巻き込んじゃった方が良いのかなぁ。
ギルドに報告とかされちゃうと、面倒臭いけど。
とはいえ、騙し続ける方が面倒か。
多分この子達も、鍛冶師の方にも足を運ぶだろうし。
「とにかく、明日って事で……そんでもって、また無茶を言う事になるかもしれませんけど……ギルドの報告とかしないのであれば、色々と便宜を図ります」
「詳しく」
「言える事だけは、明日説明しますから……今は勘弁して下さい」
と言う事で、本日はこれにてお開きとなった。
確かにね、鍛冶師に対して何故ソレだけの温情を図ったかという説明も必要だしね。
実物というか、色々隠さずに話しちゃった方が楽なんだけどね?
あぁ……人と関わると、いつだってアバターの能力が邪魔になって来るな。
まぁコレが無かったら、俺達生き残れなかったんだけどね。
「はぁぁ……またかぁ」
「すまないクウリ、でも協力者を増やすのは良い事だと思うんだ。完成品の一つでも渡して黙らせる方が早いかと思って」
「ま、良いんだけどさ。でも出来れば今度から相談してくれ」
「そこは本当にすまない、リーダー」
いやまぁ、俺が絶対権を持っているパーティって訳では無いし。
ゲームでも交渉の時にイズが助け舟を出してくれて何とかなった、という事例も少なくない。
だからこそ、そこまでうるさく言うつもりはないのだが。
「どうなるかなぁ……今回のは」
「アレだけ鍛冶師に都合をつけてしまったからな。隠してばかりでは、逆に問題になりかねない」
「もうちょっと、鍛冶屋からもふんだくるべきだったかなぁ」
そういう細かい所まで頭が回らないのは、俺の悪い所だよなぁ……。




