第39話 生かして使え
「んじゃ試しにやってみるよー?」
「おーう、頼むわトトン」
軽い言葉を交わしつつ、太古装備に対してトトンが槌を振り下ろした。
なかなか様になっている様には見えるが、鍛冶師の皆様からすると不満だったらしく。
妙にハラハラした雰囲気でコチラを眺めているではないか。
「うーん?」
「どうよ?」
「やり方が良く分かんないな……えぇと、鉱石を準備して……魔力を通しながら、と言うかスキルを使う感覚でやれば良いのかな? “武装修復”!」
ゴロゴロと鉱石の類を取り出したトトンが、今度ばかりはガツンと思い切り槌を武器に叩き込んだ。
今試しているのはナイフ。
コレが失敗する様なら、長剣と短剣も鍛冶師に任せようという話になったのだが。
「あーえっと。マジで感覚の話になるけど……半分成功?」
「と言うと?」
「多分耐久値は回復したけど、マックスじゃない、みたいな」
「素材が足りないのか? とはいえまぁ、本格的な鍛冶をしなくてもサブスキルで何とかなったってのは朗報だな。これもアバターの影響かな」
とかなんとか言っていれば、鍛冶師の面々は顎が外れたんじゃないかった程に口を開けて此方を見て来たが。
「今……何をした? 鉱石の類も、消えてなくなったが……」
そらそうよね、金槌一回振っただけで武器の状態が回復したんだから。
プロから見れば、相当異様な光景だった事だろう。
「アレっすかね、魔術的な何かの実験って事で。コレも、口外禁止でお願いします」
「言わん! 絶対に言わんから何をやったか教えてくれ! 一振りでこんな事が出来る奴なんぞおらんぞ!? そのちっこいのはいったい何をした!?」
と言う事らしく、質問攻めにあってしまったが。
適当に乗り切り、俺達はあっちもこっちもと素材を出しつつナイフの修繕に取り掛かった。
結果。
「オッケーイ。修繕しようとしても、スキルが発動しなくなった。多分コレで、最終段階まで行ったと思う。ステータスが見られないからよく分かんないけど、一応強化値を上げる作業もやったから。そこらのナイフより斬れると思う、試してみて」
それだけ言って渡されたナイフを受け取ってみれば、あの錆び錆びだったのが嘘の様に輝いている。
これにも何かギミックがあるのかな? などと考えていれば、鍛冶師達がすぐさま丸太やら巻き藁を用意し始めたではないか。
凄いな、ホント。
と言う事でナイフを一振りしてみると。
「お、おぉ? 結構すごいじゃないんか? コレ」
刃渡りのせいで真っ二つとはいかなくとも、刃が通った場所はスパッと斬れた。
それこそ、熱したナイフでバターを云々かんぬんみたいな。
ついでに言えば、術師の俺が使ってもコレだけの事が出来るのだ。
やはりこっちの世界で用意したものなら、職業による装備不可の項目とかはないみたいだな。
しかしそんな成果を上げてしまえば、鍛冶師の面々が黙っているはずも無く。
「この短期間で、コレを完全修復したって事か!? すげぇじゃねぇか嬢ちゃん!」
「あーいや、クウリの言う通りゲームシステム……じゃなくて魔法的な意味が強いんで」
などと言いつつ、追及を避けては居たが。
彼等の熱量は収まる事を知らず。
「うっしゃぁ! 今の見てたな!? 必要な鉱石と量は分かって来た! これから本気の仕事に取り掛かるぞ!」
「あ、材料はコレ使ってください。余ったら売る方針で、もちろん売り上げはこっちに渡して下さいね?」
インベントリから大量の鉱石を取り出し、ボトボトと落としてみれば。
再び彼等は顎が外れそうな程口を開いて此方を見つめて来た。
実際改めてアイテムを出してみて思ったけどさ、やっぱ個人がそのまま売るのは駄目だ。
俺等がこの前採掘したモノより、ずっと“綺麗”なのだ。
それこそ研磨されたりとか、汚れを完全に落とした状態で保管されている物品達。
やっぱり物凄く綺麗な状態で保管されている“アイテム”でしかないって事なのだろう。
だからこそ専門の人間を通して販売するか、自分達で使ってしまうのが正解だと思われる。
これだって彼等に格安でも良いから売りつけた方が都合が良いのだが、それでは相手が破産してしまう可能性がある。
それでは駄目なのだ。
使える人材、取引先。
そう言った物はちゃんと“生かしながら”、最大の利益を求めなくては。
そして今俺達が欲しい物、それは知識と生きていくのに必要な金。
後者に関しては、割と冒険者の仕事でもどうにかなりそうだけど。
トトンのサブスキルに関しては、出来る時に可能な限り確かめておかなくては。
「コレ全部……好きに使って良いのか?」
「でもちゃんと古代武器直してくださいね? んでもって、残りは金に替えて下さい。こればかりは個人より業者の方が、後々言い訳も出来ますし」
なんて事を言ってみれば、彼等はブンブンと顔を縦に振ってくれた。
はっきり言ってしまうと、このままトトンに全部任せてしまった方が早いのは確かなのだが。
実際リアルの鍛冶師というのが、どこまで出来るのか知っておきたいというのもある。
「企業秘密、ですから。ちゃんと余ったら売りさばいて下さいね? 仲介手数料くらいなら払いますから」
クスクスと笑いつつ、貴重な鉱石を適当にインベントリから排出していく。
コレだけ出しても、一割に満たない程度ってのはアレだが。
しかし彼等は嬉しそうに鉱石を手に取り、快く使用と販売の約束をしてくれるのであった。
うっしゃぁぁ! やっと売れた!
俺達のインベントリの肥やしが、やっと少しだけ金になった!
そんな言葉を飲み込みながらも、拳を握っていれば。
「武器は……どうする? 完成系を見せてもらった以上、適当な仕事はしねぇ。だがしかし、鍛錬が終わった武装に関しては、どうする?」
やはり残しておく武装というのは重要な様で、彼等はそんな事を言って来るが。
しかしながら、俺達としてどっちでも良いので。
「完成してから、相談してくれよ。アンタ等の最高傑作を全部取り上げたりしないと約束するから、存分に宣伝材料にしてくれ。但し、これからまた別の“お願い”はするかもしれないけど」
まだ何かありげに口元を吊り上げて、ニヤッと微笑みを溢してみた訳だが。
すみません、後の事はあんまり考えていません。
とりあえずこのまま工房の一角を貸してもらう事だけは要求しておこう。




