第38話 鍛冶屋さんとのお取引
翌日、ギルドから昨日の鍛冶師達の店を教えてもらい現地へと足を向けた。
彼等は研究者側と鍛冶師側で仲良く? 物品を分けて一旦持ち帰ったらしい。
そんでもって、本日はレンタル料をどうするかって話も出たのだが。
ミラさん達のパーティが受付さんと相談し、結構ぼったくるという結論に辿り着いたそうな。
研究者側の相談と交渉は彼女達に頼り、俺達が鍛冶師の方を任された訳だ。
こっちはこっちでお任せされてしまったので、あまり勝手にやってしまうのは不味いかとも思えたのだが。
「何かまた考えがあるみたいですね? 良いですよ、皆様が居なければ手に入らない武装だったんですから。そちらは好きにやっちゃって下さい。此方の貸出料金に関しては全員に分配するようにしますが、鍛冶師達の方は全てクウリさんにお任せします」
妙に低姿勢というか、我儘言わないよなぁこの子達。
普通ならもっと自分達が儲けられる、または物品がより多く手元に残す方法を取りそうなのに。
などと思いつつ、鍛冶屋にお邪魔してみれば。
……何故だろう、店は開いているのに店員が居ない。
「ごめんくださーい、誰か居ますかー?」
玄関で大声を上げてみると、奥からはバタバタと走る足音が聞え始め。
「す、すみませんお客さん! お待たせしました! えぇと、どういったご用件でしょうか? 今ある物の販売とかは出来るんですけど、修理とかオーダーは……今はちょっと受けられそうにないんですけど」
何やら申し訳なさそうな顔をした若い店員さんが、ペコペコと頭を下げて来た。
あっ、もしかしてアレか?
太古の武器とやらに、職人全員使ってるのか?
だとしたら、店の運営にかなり影響が出そうなんだけど……。
「あぁ~その、親方? 大将? まぁココで一番偉い人に、“錆び落とし”を頼んだクウリが来ましたって伝えて貰って良いですか?」
「っ! 貸出料の件ですよね!? すぐに店長を呼んで来ます!」
物凄く慌てた様子で、再び店の奥へと駆けこんでいく店員。
ありゃま、なんか借金取りにでもなった気分だ。
此方としては、あまりガツガツ請求するつもりはないのだが……。
などとやっている内に、昨日の鍛冶師達が姿を現し。
そして。
「すまん! こんな事を頼める側じゃねぇってのは分かってるんだが、もう少し待ってくれ! それから、もう少し交渉させてくれねぇか!? 頼む! アレを復元するには、かなり金が掛かるって事が分かっちまったんだ!」
皆一斉に、土下座し始めたではないか。
えぇぇ、何この状況。
※※※
「ほーん……つまり、コイツを完全に復活させるにはかなり多くの鉱石が、何種類も必要だと」
「あぁ、こんなにも色々なモンが使われてるとはな……しかも、かなり細かいんだ。パーツごとに折り重なるように出来ていて、手間も掛かる。だから、その……貸出料金を高めに設定されると、修理どころの話じゃなくなっちまってだな……」
結構あけすけに話してくれる鍛冶師達。
修理の為に鉱石各種は集めなきゃだし、修理した所でソレが成功するかも分からない。
更に言うなら、難しい武器の為に職人もコレに掛かりきりになってしまう。
んで、更に言うなら。
こういった珍しい武器を修復したという実績は、この店にとって大きな宣伝材料になるのだそうで。
現物として一つは手元に置いておきたいと言う事らしく、俺達から一つだけは買い取るつもりだった様だ。
つまり相手の予定としては、修繕に掛かった費用は此方に吹っ掛け、その分貸出費用を抑える。
更には完成品の一つを譲渡、または買い取りの話に乗ってくれるのなら、色々と交渉するつもりだったらしいが……。
明らかに物と金と手間が掛かる代物だという事が分かったと。
ありゃまぁ、初手から詰んじゃいましたか。
「ちなみに、今の状態でこの武器を使い続けた場合はどうなるの?」
「戦えねぇ事はねぇさ。しかしながら、本来の能力は発揮出来ねぇだろうな。完全修復が出来ていないから切れ味も落ちている、更にはぶっ壊れるのも早い」
何故そう言い切れるのかと、ちょっとだけ首を傾げてしまったのだが。
隣に居たイズが件の長剣を取り出し。
「見てくれ、クウリ。昨日色々弄っていたのだが、彼が言っているのは多分こういう事だ」
とか言いながら、軽く剣を振ってみると。
ジャラッ、みたいな音を立てながら刃が分裂し、鞭の様に変化したではないか。
おぉぉ! 漫画とかで見た事ある! 蛇腹剣って言うんだっけ?
刃が幾つにも分かれて、ブンブン振り回すヤツ!
しかしながら。
「何か……繋がってるワイヤーが痛んでる? 動きが悪いな」
「その通りだ。恐らくこの手の武器には、こういうギミックが仕組まれているのだろう。つまり一度バラして修繕する必要がある。コレはかなりの手間だ。それに錆びたまま相手に叩きつけるような真似をすれば、当然破損も早いだろう」
なるほど、それは確かに大変そうだ。
しかしながら、コレをトトンが修理できるのか? と言われると。
「んー自信無い!」
と言う事らしい。
まぁそうだよね、今まではゲームだったからね。
実際にやれって言われて、すぐに出来る程簡単じゃないよね。
この辺りに関しては、ダイラのサブ職業の錬金術師だって似たような事になるのだろう。
だからこそ、今から調べておかないとって訳なのだが。
「そんな訳で、直すだけでもかなりの出費になっちまうんだ。この辺りも含めて、相談させてくれねぇかな……もちろん、お嬢ちゃん達が納得しねぇってんなら、持ち帰ってくれて良いんだが……」
何かもう可哀そうになるくらいに、悲しそうな顔を浮かべている鍛冶師が此方に懇願してくる。
つまり、彼等はこの仕事をしたい。
けど懐の余裕がないから出来ない可能性の方が高い。
ふふ、ふふふ?
こういう人ほど他人は付け入りやすいって、営業やってた時に教わっちゃったもんね。
と言う事で。
「そうですねぇ……レンタル料も払えない、修繕も約束されない。鉱石も足りないから金も時間も掛かる。でも完成した後には、一本は欲しい。これは、困っちゃいますねぇ。なかなか我儘な要求だ」
「そ、そこを何とか! ちゃんと買い取る! 言い値で払う!」
「しかし材料費の段階でカツカツ、これで買い取りなんかしたら、借金まみれになっちゃいません?」
「例えそうなろうとも、コレにはソレだけの価値があるんだ! 頼む! 俺たちにやらせてくれ!」
多分大手の商会とかを間に挟めば、あっさりと解決出来た問題なのかもしれないけど。
彼等の場合は、個人でやっている腕利き集団ってイメージが強い。
ギルドの方でも、この武器を理解出来る人材を見繕ったんだろうし。
なればこそ、こちらにも使いようってモノがある訳で。
「いくつか、此方から提案しても良いですか? コレが全て飲めないのなら、我々はこれらの武器を他所へ持って行きます」
「何でも言ってくれ! 俺達は何をすれば良い!?」
彼の言葉に、ニッと口元が吊り上がった。
今、なんでもするっていったよね?
なら、約束してもらおうではないか。
「クウリが悪い顔してる……」
「シッ、今は黙っておこうトトン」
なんか聞こえた気がするが、まぁ良い。
「一つ、俺達にも工房を貸してくれる事。二つ、修繕が終わったとしても武器は此方に全て一度返却する事。状況を見て、譲渡や買い取りは考えます。三つ、コレが一番重要なんですが……俺達に関する情報を、一切他者に口外しない事。この三つが飲めるのであれば……貸出料金はかなり安く設定しても構いません」
「……え? は? うん? いいのか? ソレだと、俺達にしかメリットが無い様に思えるが」
「何を言っていますか、かなりの案件ですよ? だって俺達が工房を貸せと言ったら明け渡さないといけない。状態を見て、全て此方が使うと言われれば完成品は全部持っていかれる。更には、どんな事を言われても、無茶な要求をされても。貴方達は口外する事が許されない。この意味を、理解していますか?」
そう伝えてみれば、店長さん? らしき人は渋い顔を浮かべ。
周りの人たちは不安そうな顔でヒソヒソと話し合っている。
そうだ、考えろ。そして疑え。
それこそが、相手を知るチャンスなのだから。
「その条件を飲んだ場合……お前達が要求しようとしている事と、そっちにどんなメリットがあるのか。ソレを知りたいんだが」
「今はお答えできませんね。特に三つ目、俺達の事を口外しない。コレが承諾されない限りは、これ以上何も言う事はありません」
「そこだけは約束する! アンタ等が何をしても、何を言っても絶対に口外しない! だから此方にも考えられるだけの猶予をくれ!」
再び頭を下げる店長に対して、ニィィッと口元を吊り上げてから。
「本当に約束できますか? 例え兵士でも、例え王家の人間に命令されても、口を塞ぎますか? それが約束出来るのなら、此方としても最大限の譲歩をすると約束しましょう」
これさえ飲んでくれるなら、かなり楽になるのだ。
何たって、“現地人”の協力者が出来るのだから。
「約束しよう。お前等もソレで良いな!? 魔術契約書を用意する、ココに居る全員の名前を書こう。それで、納得してもらえるか? そして……契約を交わす前に、アンタ等が考えている譲歩とやらを、聞かせてくれ」
それだけ言って、カウンターの引き出しから一枚の紙を取り出し。
殴り書きで『俺達は今回の件に関して、クウリのパーティが口外するなと言った情報を一切外部に漏らさない』と書き綴ってから、この場に居る全員が名前を書いた。
コレがどれ程の効果があるのかは知らないが、本人たちの雰囲気からして相当効力のあるものなのだろう。
であれば、良いか。
今後不手際があっても、俺等に関してはまた引っ越せば良いだけだしな。
「貸出料金は物凄~く安く、そっちの協力次第ではタダにする事も考えよう。それに欲しい素材があるなら言ってくれ、検討するから。しかしながら……三つ目の約束はこの時点から絶対であり、俺達がココで何をしようが口外する事は禁止する。それが守られるのであれば……修繕に必要な物資は、コッチですぐ準備出来るかもしれない。物は試しとばかりに、何でも要求してみてくれ。ついでに、コッチで余っている物品を売りさばく手伝いをしてもらいたい」
そう言いながら掌を翳して瞼を閉じた。
そのままオリハルコンやらミスリル、そして現地でも手に入ったドラグナイトやマナライト鉱石を適当に排出してから。
「こういうので足りる? まだまだあるから、何でも言ってくれ」
俺の足元に積まれた鉱石に、鍛冶師達は目を見開いて固まっているのであった。
やったね。
武器の件よりも、こういうのが売れる取引先が見つかったのが何よりの成果だ。




