第37話 レアものは実験材料
「ですから、過去あの場所で何があったのか、そしてどんな技術力があったのかを調べる為にも此方で預かるのが最善策でしょうが!」
「はぁ!? 何を言ってやがる! これ等はかなり劣化している武器だ! 確かにこのまま使っても問題はねぇ程スゲェ代物ではあるが、本来の能力を取り戻す為に俺達が手を加えるべきだ!」
「はぁぁ!? 過去の代物に貴方方が手を加える? 馬鹿を言っちゃいけません、そんな事をすれば“価値”がどんどん下がってしまいます!」
「あぁ!? てめぇ今何て言った!? 俺等がボンクラだと言いてぇのか!?」
「それ以外に何と聞えましたかねぇ!? これ等は非常に希少価値の高い物品だ! だというのに貴方方が手を加えて、“それなり”に収まってしまったら責任が取れるんですかぁ!?」
「表に出ろクソ眼鏡集団が! 現場の知識ってヤツをその身に叩き込んでやらぁ!」
「上等ですよ筋肉馬鹿! 貴方達みたいな人が、過去の遺産を端から消し去っていくのですから!」
両者に発言を許可した結果、物凄く喧嘩していた。
すげぇ、対立する二つの派閥って感じで、真正面からぶつかり合っている。
つまり両者共“コレ”が欲しい訳で、お互いに目指す先が違うと。
片方はこのままの状態で調べたくて、もう片方は自らの手を加え過去のソレを再現しようとしている。
わかる、わかるんだけどね?
「あーそれじゃ、長剣と短剣。それからナイフだけ貰っていきますね? それ以外はお二方で話し合って、最終決定は後日また相談って事で。あ、依頼人も欲しがってるんだっけ。んじゃその辺も考えながら、“どうしても欲しい武具”を選んで下さい。貸出料金は後で提示しますから、それまでは勝手にやって下さい」
それだけ言って、その場を後にした。
こういう所の相場とか分からないので、受付さんに相談してから金を吹っ掛けよう。
などと思いつつ、その場を後にするのであった。
「あ、あの……良いんですか? まだ使えそうな武装はソレなりにありましたけど」
「あーまぁ大丈夫っしょ。俺等が使える武装少なかったし、仲間も納得してくれる筈」
なんて事を言いながら、騒がしい部屋を後にするのであった。
その後受付さんから、物凄く怒られたが。
何故だ。
※※※
「見てくれクウリ、コレは良いマントだ」
「あー確かに、綺麗な上に目立つねぇ」
ヒラヒラと布を揺らすイズに、呆れ声を洩らしてしまった訳だが。
ダイラから、妙に不審な目を向けられてしまった。
「あーえーっと。クウリ、マントってどんな意味があるか知ってる?」
「え? 自分の所属場所を示したりとか、そう言うのじゃないの?」
マントにデカデカと紋章が書いてあったりするから、そう言う物だと思っていたのだが。
両者からは溜息を貰ってしまい。
「ピンと四方を固定したシーツがあったとしよう。ソレに向かってナイフを投げるとどうなる?」
「穴が空く」
「大正解だ。では上の個所だけ固定され、下は風に揺らめいているシーツに投げた場合は?」
「え? ナイフでしょ? 穴が空くんじゃないの?」
そう答えてみれば、二人は大きなため息を溢してから。
「あのねクウリ、俺達は今日こういう装備を買いに行ったの。リアルだと遠距離武器って怖いでしょ? だから買ったの」
ダイラから、物凄く呆れた様なお言葉を頂いてしまった。
え、何? 俺なんか間違えた事言った?
思わずアワアワしながら、二人の様子を伺ったが。
両者共ため息を溢すばかり。
え、何。マジでなんなの?
とか思っている間に。
「ただいまー! 露店歩き回ってたら、滅茶苦茶オマケしてもらった! 皆で食べよぉー!?」
軽い調子のトトンが帰って来て、テーブルの上に買って来た食品を並べ始めた。
丁度良い、トトンに聞いてみようではないか。
「なぁトトン、率直に答えてくれ。マントって何の意味があると思う?」
「え、マント? 矢避けでしょ? 自分と馬を守る為の防具だよ? だから偉い人はクソ長いマント付けてるの。バサァッて振り回して、矢を落とすみたいなシーン見た事無い? それだよ。張り詰めてない布だし、簡単に飛来物を通す訳ないじゃん」
あっ、やばい。
知識としても、学生に負けてる。
つまりアレだよね? マントも立派な防具というか。
そういう代物な訳で。
「あの……ごめん、馬鹿にしてる訳じゃないよ? もしかしてクウリ、知らなかった? ちなみに毛皮とか使ったマントもあって、そういうの物凄く効果的だって言われてるよ? 布&毛皮だし。矢を防いだらボロボロになっちゃうけど、本人に当たらなければ買い替えれば良いだけだし」
「トトン! 違う! 違うの! お前に求めているのはそういうお利口なキャラじゃないの!」
「うわぁぁぁぁ! なんだよぉ!?」
出店巡りをして来たトトンを、ひたすらにワシャワシャした。
わかる、わかるよ?
そういう豆知識が異世界で役立つのは。
でも違うじゃん。
トトンが俺の知らない知識をペラペラ喋るのは違うじゃん。
「てめぇ! 利口じゃねぇか!」
「やめれぇぇ! なんだよ、クウリ! 何でガシガシしてるんだよぉ!?」
帰って来たトトンの頭を、ひたすらにワシャワシャするのであった。
そっか、マントってすげぇのか。
アイツヒラヒラしているだけの存在じゃなかったのかってのと、あえて皆がこういう装備を買いに行った意味が、やっと分かった。
つまり人間からの奇襲を警戒してるんですね、そういう事ですよね。
ごめんなさい、その辺は俺が一番に気付くべきでした。
と言う事で、トトンを抱っこしながら皆には頭を下げるのであった。
本日、適当な武器選別をして来た事も含めて。
「これはやっぱもう少し貰って来た方が良かったと、今さら反省しました。ごめんなさい」
「えぇと……クウリ。何の話?」
「今日はどこかへ行って来たのか?」
イズとダイラから不思議そうな顔を向けられてしまった。
そっか、皆が出掛ける前までずっとダラけてたもんね。
出掛けた事にすら気が付かれていなかったらしい。
「んとね、前に見つけた錆びた塊。全部錆び落としが終わったらしいから、ギルドに行って来ました」
「ほーん? それで、良い物あったぁ?」
と言う事で、テーブルの上に今日貰って来た武器を並べてみた。
長剣、短剣、あとナイフ。
たったそれだけ。
後は槍とか大剣もあったし、その他もチラホラ。
これから汎用性を上げて色んな面を強化していくのであれば、他のも全部貰って来た方が良かったかもしれない。
そんな訳で、今日あった事を洗いざらい話してみれば。
「あー、そういう意味では大剣とか槌は俺が使えたかもねぇ」
「だよなぁ……スマン、トトン」
「でもまぁ~持ち帰った三つは正解だったんじゃない? 長剣はイズが使えるし、ナイフと短剣はダイラとクウリの護身用って事で。腰に下げておくだけでも、効果ありそうじゃん」
「あぁ~なるほど。見た目からして襲われない様にしておくって事か、たしかにダイラは常に武器装備してた方が良いかもな。だとすればレイピアも交渉するべきだったか……」
思い切り溜息を溢しながら反省ばかりしていると、長剣をしげしげと見つめていたイズが。
「鍛冶師も、コレは不完全だと言っていたんだよな? そしてソレを修繕する為に預かりたい、と」
「そうね。あぁ~だとすれば、修繕が終わった後に必要経費を渡せばコッチに戻してくれる可能性もあるか。他に欲しい武器ある?」
槍は~いらないかもしれないけど。
大剣とか、大斧とか、そういうのはトトンに良いかもしれないし。
大槌は向こうのパーティにあげちゃったけど。
「その可能性も十分あるだろうな、交渉してみよう。それから……俺が考えたのはまた別の事だ。これもしかしたら……俺達の持っている鉱石を使って、トトンのサブ職業の“鍛冶師”でどうにかならないか? これまでサブ職に関してはあまり試せていないだろう? 良い機会じゃないかと思ってな。はっきり言って、コレが俺達の武器より強いとは思えない。だからこそ、壊してしまっても問題無い“ある程度レア率が高い装備”としては、練習には最適じゃないか?」
イズの言葉に、ポカンと間抜け面をかましてしまった。
そっか、そうだよ。
このまま俺達の装備を使い続ければ、耐久値の限界というモノがいつかは訪れるだろう。
その時に頼れるのは、間違いなくトトン。
しかしサブ職までちゃんと機能しているのか、ソレを確かめておく必要がある。
いざって時に、メイン装備でぶっつけ本番は流石に不味い。
だからこそ、試せる内に全部やっておくべきなのだ。
「それだぁぁ! あ、でも場所は……今日の鍛冶屋にお願いするか。場所を貸してくれるのなら、レンタル料を安くするって相談してみよう!」
これはまた、色々と面白くなって来たぞ?




