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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
2章

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第35話 クウリというプレイヤー


「いやぁ……食べたねぇ、イズ」


「本当にな、まさかコレだけハシゴするとは……大丈夫か?」


 ダイラの声に答えてみれば、相手はそれなりに酔っているのかいつも以上にポワポワしている。

 男のままであれば、それこそ色々思う所のあった環境なのだろうが。

 生憎と今では呆れたため息と、二日酔いにならないかという不安の方が勝ってしまう。

 以前にクウリが派手に酔っぱらったのを見ているからな。


「なんかイズと二人で話すのも久しぶりだねぇ、お姫様の所のお茶会開始時以来?」


「かも、しれないな。ハハッ、俺達は殆ど四人で動いているから、というかクウリが居ない状況が珍しいだけなんだろうが」


 現状クウリとトトンに関しては、帰って来た瞬間「温泉!」と言い始めて風呂へ向かってしまった。

 それに釣られて、向こうのパーティの面々も温泉に向かった様だが。

 思い返せば、ゲームの時からあまり俺とダイラに関しては、誰かと“二人きり”になると言う事は少なかった。

 ログインすれば大体トトンは居たし、クウリがゲームに入る時間は割と決まっていたのだ。

 だから自然と、パーティーリーダーのログイン時間に合わせるような生活になっていた気がする。


「過去の話というか、リアルの情報も含むからアレかもしれないけどさ……イズはどうしてクウリと組んだの? そういえば、聞いた事無かったなぁって。俺が加入したのが一番最後だったし、ちょっと気になっちゃって」


 ほろ酔いのダイラが、ふとそんな事を言いだした。

 アイツと組んだ理由、か。

 とはいえ俺の場合、本当に大した理由があった訳じゃない。

 ただ、憧れたのだ。

 新しい道を示してくれたアイツに。


「俺は……その、対人戦メインのプレイヤーだったんだ。それこそ、モンスターとの戦闘や、ストーリー攻略に対してあまり興味を持てなかった」


「なんか、イズらしいねぇ」


「茶化すな、本当に馬鹿みたいな理由でこのゲームをやっていたプレイヤーだよ」


 ウチの家系は、武道家というか。

 戦闘術は端からやらされたし、そもそも実家が道場を持っていた。

 師範である爺ちゃんから、常日頃から言われていた事。

 ソレは。


「お前は色んな事をやって来ただろう? それら全部を使って、混ぜ込んで。儂も知らん様な剣術を作ってみないか? 古いモノはいつか廃れる、だから新しい物を自分で考えてみろ。ソレを使って儂に勝てたら、お前は一人前だ」


 なんて、偉そうな言葉を頂いてしまったのだ。

 新しい剣術って何だよ、流派を一から作れというのか?

 などと思っていたのだが、爺ちゃんが勧めてきたのはゲームや映画。

 それらに登場する様な剣術を参考に、派手な感じに頼む! とか訳の分からない事を言われてしまった。

 何でも若い子が集まりそうな、恰好良い剣術道場にしたいんだとか。

 おいおいとため息を溢しつつも、プレイしている内に楽しくなってしまったのだ。

 適当なモーションのゲームも多かったが、たまにあるのだ……専門家が関わっているのではないか? そんな風に思えるような剣術を見せてくれるゲームが。

 そして俺達がやっていたネットゲーム“ユートピアオンライン”は、それをより強く感じさせた。

 モーション中も無駄な動きが少ないし、何より踏み込みから剣の重量の逃がし方、連撃に持って行く為の身体の使い方。

 本当にこういう剣術があったのではないかと言う程に、とても良く作り込まれていた。

 それらを研究しながら、オープンフィールドで対人戦を繰り返していた俺の前に。

 ある日、魔王が現れたのだ。


「くははっ! いいねぇいいねぇ楽しそうだ! 俺も混ぜてくれよ!」


 チャットでそんな声が送られて来たかと思えば、視線の先には術師と盾を持つ小さいプレイヤー。

 最初は初心者か何かかと思った。

 対人戦に対して、しかも集団戦で。

 術師とタンクのパーティなど有り得ない。

 ストーリーメインで進めていたプレイヤーが、賑やかしに来たのかと本気で思った程だ。

 でも、それは俺の勘違いだったのだ。


「トトン! 四人抑えられるか!?」


「あいよぉクウリ! トトンにお任せ!」


 小さいプレイヤーは、俺達の攻撃を端から防いでみせた。

 あり得ない、どんな反射神経をしているんだ。

 しかも状況把握能力が異常に高い。

 取り囲まれているのに、全てを見通しているかの様な動き。

 そんな訳で、当時のトトンにも圧倒されてしまった訳だが。

 後ろで構えていた術師は、そこら中から申請される対戦を端から許可するという暴挙に及んでいた。

 当然そんな事になれば、乱戦も乱戦。

 そこら中にプレイヤーが入り乱れる、もはやどれが仲間なのかも分からなくなる程になった頃。


「そろそろ良いだろう、トトン下がれ!」


「うっしゃ!」


「カオスフィールド! プラズマレイ! ついでに煙幕と毒もいっておくかぁ!?」


 この状況を作り出した人物が、広範囲スキルを連発した。

 呪いと毒を全力で重ね掛けした上で、攻撃魔法で派手に目くらまししてから、逃げの一手に走ったのだ。

 本来の対戦であれば、この手のスキルは死にスキルと呼ばれていた。

 こんな事をしても、相手を一発殴れば効果が切れるモノが殆ど。

 だからこそ、対人戦で使う人間はほぼ皆無だったのだが。


「ふははははっ! どうしたどうした対人戦特化! 俺を殴れば呪いが解けるぜ? 解毒薬飲めば解毒も出来るぜぇ!? ホラホラ毒追加! ついでに老化もだ! “エージング”!」


 周りからは、罵詈雑言が飛び交っていた。

 マナーってモノが無いのかと、誰もが口々に叫んだ。

 この場に集まったのは結局、20名程のプレイヤー達。

 誰も彼も、対人戦特化に仕上げている見た目をしている。

 確かに彼等の言う様に、今彼がやっている事は“場を荒らすだけ荒らす”というモノ。

 しかしこれも作戦の内なのか、互いが互いを邪魔し合ってしまい、思う様に二人を追う事が出来ない。


「視野がせめぇなぁ、勿体ない。非常に勿体ない。と言う事で、ホイ、テレポート」


「逃げちゃうよーん」


 二人の気の抜ける様な声をだけが残り、彼等の姿が掻き消えたかと思えば。


「“エアハイク”」


 上空に盾を構えた小さいのが、空に立っていた。

 そしてその盾の上にしっかりと足を付けたプレイヤーが。


「綺麗に楽しく戦闘するってのも良いけどさぁ、俺みたいなのが挑んで来た時の対処がまだまだって感じ? そら、避けてみな。“デウスマキナ”!」


 明らかに対モンスターに特化した様なプレイヤーが、たった二人で俺達に喧嘩を売った結果。

 2対20以上という対戦を、平然と勝利したのだ。

 ただただ“ぶっぱ”しただけに見えて、間違いなく計算されている。

 全てのスキルが連携されているし、リキャストタイムも完全に計算されていた。

 そんな戦闘を繰り広げた彼等は、その後度々狙われる事になったが。


「ハッハー! 今日も経験値とドロップアイテムご馳走様! 皆、また元気に装備集めてくれよぉ!? あ、なんかメイン装備っぽいものドロップしちゃっている人も居るけど、大丈夫ぅ~?」


「てめぇコラクウリ! それは返せ、頼むから返してくれ!」


「だったら俺に勝って奪い返してね? インベントリには入れておくからさぁ~」


「ふっざけんなコラァ! もはや対人戦でもランカーになってるお前からどうやって回収……おいおいおい死ぬ! 死ぬって! ステのマイナスがヤベェ!」


「ばいなぁ~」


 気楽な声が戦場に響く頃には、皆敗れていた。

 二対数十。

 そんな戦闘を常に繰り広げながら、あの二人はずっと生き残っている。

 分かっているんだ、彼等の能力が卓越している事くらい。

 タンクの方は単純に反射神経がヤバイ、術師の方は戦術的に戦っているが……何より、煽って相手を思い通りに動かすのが上手い。

 彼等の場合、多分見ているのはプレイヤー自身。

 キャラクター性能ばかり目を向けている間は、きっとこの二人には勝てないのだろう。


「凄いんだな、お前達は」


「ありゃ? まだ一人残ってたか。やるかい?」


 ククッと笑い声を上げながら、彼が使う妖艶なアバターが口元を吊り上げた。

 俺にとっての戦いは、剣術だ。

 でも相手は土俵が違う。

 明らかに相手がやっているのは、全てに対しての予測と調整。

 何をどうすれば、相手が嫌なのか、困惑するのか。

 それらを予想しながら、常に混乱を招くようにして戦っている。

 つまり俺一人では、将棋で言う“歩”の役割りしか持っていないのだろう。

 だからこそ、簡単に制圧されてしまう。

 数の不利など物ともせず、戦略的に全てを圧倒してみせたプレイヤー。

 強さとは、腕っぷしだけじゃない。

 それを痛い程思い知らされた瞬間であった。


「俺を、仲間にしてもらえないだろうか?」


「対人特化の前衛ねぇ……ちと扱い辛そうだけど。俺のやり方は、“そういうのじゃない”から」


「なら、お前の好きなように弄ってくれて良い。指示に従おう」


 そう言って、スキルツリーをリセットするアイテムをその場で使った。

 これには流石に相手も驚いたのか、ギョッとした瞳を向けて来たが。


「能力値もリセットした方が良いか? であれば、そうしよう」


 続けざまにアイテムを使い、今の俺は初心者と変わらないくらいのステータスになった。

 ポイントだけはたんまりとあるが、それでもステ振りを一切していない状態。

 このまま戦っても、勝てる見込みはないだろう。

 そこまでやって、初めて“魔王”は俺の瞳を見て笑った。

 本当に楽しそうに、これまでの演技掛かった笑い方ではなく。


「ぶはっ、あはははっ! すげぇなアンタ。マジで面白いよ、そこまでやる奴居ないって。あぁ~もう、これだからこのゲームは楽しいんだよ。そんで? アンタはこのゲームに何を求める? 何が出来る様になりたい? それによって、ステ振りも変わって来るよ?」


 ケラケラと笑いながら、彼が此方に近付いて来た。

 それはもう、楽しそうな様子で。

 全力でこのゲームを楽しんでいるかの御様子で。

 だからこそ。


「俺に、このゲームの楽しさを隅々まで叩き込んでくれ」


「あぁ~ね。対人戦ばっかで、良く分かんなくなってた口か。良いぜ、一緒にやろう。アンタが求めている項目を全て叶えて、俺等が求めている項目も織り交ぜて。強いもんな、アンタ。これから楽しもうぜ?」


 そんな事を言いながら、俺と握手を交わしてくれた。

 それが、クウリなのだ。

 俺の知らない世界に連れて行ってくれて、全てに対して頭を使い。

 俺達を本当の意味で使ってくれるプレイヤー。

 駒として使われようが、その駒として最大限に動けた時。

 凄く、楽しかったんだ。

 役割があって、全力で戦えて。

 尚且つどこに行っても負け知らず。

 そんなパーティの一員になれたことが、嬉しかったのだ。


「クウリは、昔っからクウリだねぇ」


「だな。アイツはどこへ行ってもそんな事ばかりだよ」


 のんびりとそんな会話をしつつ、自室でダイラと酒を飲みかわすのであった。

 たまにはこういう休日も、良いモノだな。


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