第30話 大物狩り
壁が崩壊してから改めて現場に近付き、反射石を翳して目的の品を探した結果。
先程のドラグナイトよりも大きな、“マナライト”という鉱石が見つかった。
良かった……砕けてなかったか。
などと思いつつ、ソイツを回収した訳だが。
これもまた、ゲームにあった鉱石。
ドラグナイトが軽装の前衛に好まれる物であり、マナライトに関してはどちらかと言えば術師向き。
この鉱石から作られる武器などは、非常に魔力を乗せやすいってのがゲーム内での設定だったのだが。
どうやらこの世界でもそれは同じ様だ。
あと、かなり高く売れるって言っていた。
やったぜ。
俺とダイラのインベントリなら、マナライトは大量に入っている。
術師だからね、保管しちゃうよね。
と言う事で、俺達はそのまま帰路に着く事になった。
ゲーム感覚で言うと、この程度で帰っちゃって良いの? という感じではあるのだが。
「コレだけ大きな鉱石があれば、四人で分けても結構な金額になるわよ? それこそ、しばらく遊んで暮らせるくらいには」
だ、そうで。
すごいね、特殊鉱石。
今回の物がデカかったのもあるのかもしれないが、そんなに価値があるんだ。
インベントリにあるドラグナイトとマナライト、まとめて売ったら市場が崩壊するんだろうなぁ……などと思いつつ、帰り道を歩いていれば。
この場所がどうして立ち入りが難しいのか。
その理由が、目の前を横断していた。
「うはぁ……」
「グランドベヒモス……だよな」
「でけー」
「あの……いや、戦闘とか……しないよね?」
グランドベヒモス。
全身を岩の甲殻で守っている、超巨大な竜。
喰うモノは岩と鉱石、あとは肉。
この時点で頭おかしいのかって思ったけど、性能はもっと頭おかしい。
マグマにも潜るし、身体に溜まった高熱を吐き出して攻撃してくるし。
しまいにゃあの巨体とゴツイ甲殻を纏いながら、ちゃんと翼を持っていて飛ぶのだ。
超重量級のモンスター。
適当な武器や魔法では傷一つ付かず、終盤に進む為の……ある意味“難所”と言われていたエネミー。
そんな奴が、現実世界に現れたのだ。
いやいやいや、でっけぇなオイ。
などと、ポカンとしていれば。
「皆こっちに! シッ! 絶対に大きな音を立てないで!」
小声で警告してくるミラさんに従い、岩陰に隠れた訳だが。
相手は何やら探しているかの様な態度を見せ、ウロウロキョロキョロと周囲を見渡していた。
「もしかしたら、さっきの崩落の音を聞いて寄って来たのかも……恐らく、自分の縄張りに敵が侵入したって警戒してるんじゃないかしら」
つまり俺等のせいでした、と。
本当に申し訳ありませんでした。
しかしながら、相手はいつまで経ってもこの場を去っていく様子もなく。
「突破とかしたら、不味いですか?」
「冗談、あんなのに勝てないわよ。もしも見つかったら、この火山地帯から完全に遠ざかるまで追って来るわよ? アイツ等、物凄く執念深いから。だからこの地域周辺に村が無いの。皆アイツに焼かれちゃったのよ」
だそうです。
うへぇ、超狂暴。
ゲームだとエリア移動とか、確かにしつこく追って来るイメージはあったが。
ソレでも村まで追って来る事なんて無かったからな。
これもまた、ゲームと現実の違いというものなのだろう。
「今回はダイラさんのお陰で本当に助かったわね。いつもの状態で、こんな事態に陥ったら……間違いなく死んでたわ。戦闘にならずとも、ね」
「あぁ、なるほど。相手が居なくなるまでココで待機するにしても、干からびると」
「その通り。そういう死者だって少なくない、それが火山地帯での戦闘よ。それに今軽くでも噴火が起きてみなさい、全員マグマに飲まれて死ぬわ」
改めて思うけど、こっわ!
リアルでの悪条件、本当に怖いわ!
というのと。
「神様、神様ぁ……」
「リーダー! このまま一気に走り抜けよう! そうすればきっと!」
「絶対無理だよ姉さん! あんなの相手に、逃げ切れる訳が無い! 皆食われて死んじゃうよ!」
相手パーティの面々は、もはやパニックに陥りかけていた。
なるほどね、コレが一般的なグランドベヒモスの認識って訳か。
出会ったら最期、逃げ切る事は叶わない。
そんでもって……執念深いってのは本当らしい。
もうそれなりに時間が経ったというのに、未だ帰り道付近をウロウロしていやがる。
お前ネトゲの世界ではもう少し早めに立ち退いただろうが。
滅茶苦茶長時間通せんぼする敵エネミーなんぞ、運営にクレームが殺到すんぞ。
などと思いながらも、ため息を溢し。
「……やるか、仕方ない」
「クウリ、良いの? 俺の魔法なら、まだまだ使えるし。持久戦に持ち込めるよ?」
「時短を好むというのは同意だが、本当に良いのか? クウリ」
ダイラとイズからは不安そうな声が上がる。
確かに、俺達の実力を隠す意味ではこのまま耐え忍んだ方が正解なのだろう。
しかしながら。
「俺は、賛成……かな。皆滅茶苦茶怖がってるし、可哀想だよ」
トトンだけは、俺の意見に賛成してくれた。
ほんと、その通りなのだ。
普段彼女達が何を相手にしているのかは知らないが、さっきまで頼もしかった面々がガタガタと顔を青くして震えている。
こんなの、持久戦に持ち込んだら絶対トラウマになるだろ。
「何を考えているか知らないけど、余計な事しないで。アレだって2~3日すればきっとどこかに行くわ。だからこの場で耐え忍んで、皆で生還する道を選びましょう? 貴女だってパーティリーダーでしょう? それくらい、判断出来るわよね? クウリさん」
ミラさんからそんなお言葉を頂いてしまった訳だが。
その一言で、ダイラとイズの決心も決まったらしい。
このお言葉は、俺達にとって逆効果だわ。
「数時間ならまだしも、2~3日と来たか。何処まで執念深いんだ、あの岩トカゲ」
「うん、無理。それは無理。こんな所で数日とか、絶対無理。今日も温泉入りたいし」
やや一名、違う意味で心を決めたヤツも居る様だが。
まぁ、いいさ。
狩るか、グランドベヒモス。
「ミラさん達は、ちょっとココに居て。すぐ終わらせるから」
「ちょっと何考えてるの!? 相手が見えてない訳じゃないんでしょう!? 自殺行為どころじゃないわ! 私達だって気づかれる可能性が――」
「殺しちまえば、見つかる心配も無いよ」
それだけ言って、本気装備を展開した。
漆黒の鎧に、竜の翼と角。
見た目だけでも恐れられたソレだが、生憎とあんなのにナメプは出来ない。
だってアイツ、確定攻撃とか持ってるし。
「え? は? え?」
「あぁコレ、アクセだから。魔道具魔道具。と言う事で、お任せあれ」
そんな訳で、本気装備に変わった俺達は岩陰から姿を現した。
此方に気が付いたのか、馬鹿デカイ岩ドラゴンも俺達に向かって威嚇してくるが。
ハッ、後半序盤のボスなんぞ俺達にとっては素材集めの周回程度の認識なんだよ。
とはいえ、リアルで対面すると滅茶苦茶迫力あるけど。
つぅかそんなにデカイなら、俺達なんぞ食っても腹の足しにもならんだろうに。
オヤツ感覚か? この野郎。
「イズ、部位破壊メインで頼む。素材は残すぞ」
「了解」
「ダイラ、完全防御態勢。相手は確定ダメージまで叩き込んで来るからな、“オーバードライブ”状態での防御も視野に入れろ。お前なら防げるだろ」
「わ、分かった! でも“覚醒”状態は一分くらいしかないから、気を付けてね!」
オーバードライブ、プレイヤーには単純に“覚醒”なんて呼ばれていたが。
まぁゲームシステム根本にある、“一時的な強化”みたいなモノだ。
しかしながらソレは、能力値が跳ね上がる……だけではなく。
スキルによっては“オーバードライブ中は効果が変化する”みたいなモノだって多数存在するのだ。
前衛組に関しては攻撃力と手数のUPという物が多いが、俺達後衛に関しては見た目からして変わるモノも多い。
より派手に、より効果的になる訳だが……まぁ、俺の場合は使い所などないだろうけど。
「クウリ、俺は?」
「とにかくヘイトを集めろ、トトン。もしも回避不可、反撃不可の状況に陥った場合は、俺が何とかする」
「期待してるよんっ」
そんな事を話している内に、相手は四つ足でコチラに走り込んで来た。
おーおー、そんな重量級の割に意外と速いじゃないの。
どうやらそのまま突っ込んで、俺達を圧し潰すつもりの様だ。
と言う事で。
「トトン! お前の専門、物理攻撃が来たぞ!」
「はいよっ! “パリィ”!」
突っ込んで来た相手に対して、トトンの盾が相手の頭を横に弾き飛ばした。
しかし勢いは殺せず、岩トカゲは壁に激突してしまったが。
「さて、戦闘開始だ……イズ! トトン! 展開しろぉ!」
「了解だ、リーダー。各所から削っていく」
「オラオラコッチ向け! “ヘイトコントロール”!」
両者は自らよりも何倍もデカイ相手に対し、臆する事なく突っ込んでいく。
あぁもうほんと、頼もしい限りだよ。
そんでもって、此方に残ったダイラはと言えば。
「クウリィィ! 俺何したら良いのぉ!?」
「お前は……いい加減慣れなさいよ」
ため息を溢しつつも、俺達は再び“大物狩り”を始めるのであった。
今回ばかりは、ちゃんと死体にも金になって貰うからな。




