第24話 次回、マグロ
「クウリ、良かったの? 王様から御褒美くれるって話。貰ってから出発した方が良かったんじゃない?」
テクテクと街道を歩いて行けば、トトンがそんな事をボヤいている訳だが。
生憎と、その手のお話には絶対裏があると思っている。
良く出来ましたー表彰しますねー御褒美上げますねーなんてのは学生までだ。
社会人になれば分かるが、その手の話を受けてしまうと後々後悔する事になるのだ。
給料は上がらないのに、昇進して仕事が増えたり。
これくらい出来るんだから、これからはコレが平均で良いよね? みたいに基準そのものが上がってしまったり。
とにかく良い思い出が無い。
「いーの。そんなもん受け取ったら、多分この先もあの街にずっと住めとか言われるぜ?」
「姫様もあの調子だったからな、今後も国の戦力として使われる可能性が高い」
「それは嫌だなぁ……大物相手は、もうコリゴリだよ……それが毎回とか、どんな悪夢?」
トトン以外は俺の意見に同意してくれた様で、旅支度も急いでくれた程だ。
とはいえ俺等の場合、装備と私服さえどうにかすれば後は殆ど揃ってるんだけどね。
食べ物とか、回復アイテムとして大量に保管してるし。
ついでに言えば、サブ職業として各自役立つモノを取得しているので、割と俺達だけでも何とかなるのだ。
そっちの検証も、移動中にしておきたい所だねぇ。
「勿体ないなぁって思ったけど、そういう事なら別に良いかぁ~。ついでに言うと、どこに向かってる訳?」
「とりあえず近くの街だな。そっちに寄って、ギルドから貰った転移届けを提出。仕事しても良いし、観光しても良いな」
「ハハッ。こういう物語って言ったらもっと盛大な目標の元、旅に出たりするんだけどな。ある意味異世界の観光か」
「そんな御大層な目的、俺等には無いからねぇ~。でもとりあえず情報収集だよね? 売れる物が分かれば、それこそ戦闘なんかしなくて良いかもしれないし。俺はスローライフの方が良いよ……」
完全にのんびりとした旅が始まってしまった。
まぁダイラの言う通り、目的とか無いしね。
街を出たのだって、目立ちすぎたって理由だけだし。
それこそ“元の世界に戻る”とかを目標にするのは良いかもしれないが、今の所そっちの情報はゼロ。
だったら次の街に到着して落ち着いてから、皆と話し合っても良いのだろう。
そんな訳で、ひたすら何も無い田舎道をテクテクと歩いて行く。
「なぁクウリ~これあとどれくらい歩くの? この辺の地図貰ってたよね?」
とにかく暇なのか、トトンはずっと喋っているが。
「正確な地図かもわからんから、何とも言えないけど……あぁ、あの川が見えて来たって事は今この辺か。えぇと、なんか細かい数字が書いてあるけど……普通に歩いたら二週間とか掛かるんじゃね?」
「ちょ、二週間!? しかも一日ぶっ通しで歩くって事だよね!? 絶対俺そんな体力無いよ!?」
「あ、でも馬車基準なのかな、この表記。歩きだともっとかも」
「うぎゃぁぁぁ!」
俺の言葉に、ダイラが悲鳴を上げるが。
そうだよね、アニメとかだとアレから数日……とか、移動中とかのシーンはカットされるから気にならないけど。
現実じゃそれくらい距離があって当たり前なんだよね。
あぁ、車とかバイクとか欲しい。
馬車はあるが……アレ尻が痛くなるんだよな。
「デカイ川だな……食料の調達でもするか?」
「ん、それも良いかもなー」
サブ職業が“料理人”であるイズは、早くも現地の食材が気になったのかそんな事を言い出した。
しかしながらダイラの悲鳴は続いており。
「ねぇそんな事してたらマジで何日掛かるか分からなくなるよ!? 一回街に戻って乗合馬車探さない!? ね、そうしよう!?」
戻るのも面倒くさい上に、今戻ったら姫様に捕まりそうなので却下。
そう伝えるとダイラは更に叫び、トトンに笑われていた。
元気だねぇ。
「よく考えろ、ダイラ。単純な移動すら面倒くさがって、MP消費度外視でテレポートを繰り返すクウリだぞ。何も考えていない訳が無い」
「そ、そっか! テレポート使えばすぐ次の街に――」
「長距離テレポは現地に行った事が無いと無理だぞ? 短距離を連発して移動する事は出来るけど、適当に使うと壁や地面に埋まる。ゲームじゃバグるだけでどうにかなったけど、現実でやったら死ぬかもしれん」
「駄目じゃぁぁぁん!」
うぎゃぁぁ! と叫ぶダイラと、先程のイズの発言によりデカイ川に向かって走っていくトトン。
そしてため息を溢してから、イズは此方に視線を向けて。
「それで、実際は? 本気で歩くつもりじゃないんだろ?」
そりゃもちろん、誰がそんな面倒臭い事するか。
ゲーマーってのは時短が好きなんだ。
ただただ歩くだけの異世界生活なんぞ、誰が望むか。
俺はそんなに健康思想な人間ではない。
歩いて十分程度の場所に買い物にいくのだって、車を使うくらいだぞ。
「昼間は歩くか、今のトトン同様遊ぶ。というか現地を調べる。んで、暗くなってきたら……夜目が効くスキルを使いながら、飛ぶ」
「あぁ、なるほど。“シャドウウォーカー”か、アレを使いながらなら、確かに安全に飛行出来るかもな。それに空なら障害物は無いから、クウリの羽が存分に使えるって訳だ」
「イズ、正解。つーわけでダイラ、いつまでも叫んでねぇで釣りでもしようぜ。飯だ飯」
「そういうのちゃんと考えてるなら最初から教えてよ! クウリの悪い癖だよ! 作戦を勿体ぶって教えてくれない所!」
結局ダイラからはクレームを頂いてしまったが。
いや、それくらい思いつきなさいよ。
街から街への移動とか、そんな面倒な事普通にする訳ないじゃん。
目立ちたくないって理由で旅に出たので、昼間の間は普通に過ごすが。
人目が無くなればやりたい放題ですよ。
こんな便利な能力が揃ってるのに、使わないなんて損ですよ。
そんな訳で、俺達は街道を逸れて川遊びを始めるのであった。
とは言っても、普通に釣りだけど。
「わりとどんなゲームにも、釣り要素ってあるよなぁ」
「まぁ、定番だからな。また勝負でもするか?」
「おっ、いいねいいね! 俺もやるー!」
「皆さぁ、適応力高いよねぇ……まぁ良いけど」
完全に異世界観光みたいな状況になってしまったが、とりあえず釣り糸を垂らす俺達。
しかしながら、俺達の釣竿はゲーム内で使っていた物。
つまり、色々と能力とか付いちゃっている訳で。
「ぶははっ、滅茶苦茶釣れるじゃん! 大漁大漁!」
「ゲームアイテムだからなんだろうけど……凄いなコレは。普通はこんな簡単じゃないんだけどな」
「見てみて皆! タコ釣れた! 海近いんだっけ? いやでも、川にタコって来る?」
皆それぞれ獲物を釣り上げ、インベントリに端から魚やらなんやらを保管していれば。
やけに静かなダイラが、ダラダラと汗を流していた。
「おーい、どうしたー? 今は普通の修道女みたいになったシスター。お前釣り苦手だっけ? いやでも、ダイラ“幸運値”高いんだから頑張ってくれよ?」
そんな軽口を叩いた俺に対し、ダイラはブリキ人形みたいな動きでギギギッと此方に向き直り。
「クウリ、助けて……」
「え、何?」
「大物が来たんだけど……今、チラッと見えた。多分……物凄くデカイ、マグロ。でも釣り上げるの、俺じゃ筋力値足りない……」
「カバー! 絶対逃がすな!」
「「了解!」」
マグロ! マグロが来た!
流石は“幸運の性女”の二つ名の持ち主。
キャラステータスの“幸運値”もそうだが、リアルでもダイラはマジで運が良いのだ。
ガチャでも少額で、絶対目当ての物を引き当てるくらいには。
つまり、今回も大当たりだ。
デカイマグロを吊り上げれば、日本食が恋しくなる事も少なくなるぞ!
「もうヒットしてるならイズはダイラとスイッチ! トトンは網! ダイラは相手が逃げない様に水中にプロテクション! 徐々に狭めろ! 俺がデバフを掛ける!」
「クウリ! 毒とか使っちゃ駄目だよ!? 食べるんだからね!?」
「分かってらい!」
そんな訳で、俺達はマグロに対して本気で挑んでいる最中。
何か街道の方を、随分と急いだ様子の馬に乗った人達が走り去っていったが……まぁ気にしても仕方ない、俺達には関係ない上に今はマグロだ。
イズのサブ職は料理人な上に、リアルでもかなり料理男子らしいから期待値は高まっていくばかり。
俺達は、マグロを喰うぞぉぉぉ!
「“スリープ”! おら眠れぇぇ!」
「“プロテクト”! 釣り糸の強度も上げるよ!」
「うぉぉぉぉ! マグロォォォ! 逃がすかぁぁ!」
「イズがんばっ! おぉぉ、見えて来てた見えて来た! 来い来い来い! 網は準備万端だよぉ!」
結果、全員の連携により。
イズの身長よりデカいマグロを確保する事に成功するのであった。
この世界スゲェ、食材もハチャメチャビックサイズだ。




