第23話 その後
「調査隊を向かわせはしたが……はっきり言って、信じられる話ではないぞ。イーニステラ」
「それは調査隊が帰ってくれば分かる事ですわ、お父様」
私の父、つまりこの国の国王。
そんな相手に対し、第三王女という立場であれこんな啖呵を切ってしまうのは、あまり良くない事なのだが。
父は気にした様子もなく、ハッハッハと笑顔を洩らしている。
「それが本当なら、お前が普段から民達に目を向けている事が証明される。凄腕が現れた瞬間、その者達を雇い入れたのだからな。間違いなく周囲にも誇れる実績だ」
いよしっ! 他力本願ではあったものの、お父様に認められる実績を作る事に成功した。
そしてこの話が周囲に知れ渡れば、私もお見合いの時に少しは誇らしく出来るというもの。
とはいえ……問題が一つ。
「あの……お父様。一つだけ、良くない報告というか。こればかりは致し方ない事というか……」
「どうした? まさかその者達は性格に問題有り、などと言わないだろうな? まぁ冒険者をやっているくらいだ、多少荒っぽいのは仕方ないだろうが。調査が終わり、お前の報告が真実だと判明した暁には、その者達に勲章の一つでも与えないとな」
未だ機嫌よさそうに、ハッハッハと緩い笑みを溢している訳だが。
やはり、そうなりますよね。
国の問題とも言えるスタンピードを、たった四人で解決した者達。
褒美は当然の事、位を与え抱え込もうとするのが普通だ。
どう考えても、野放しにして良いとは思えない存在。
利用価値は測り知れないし、王家としては放置するなどありえない。
そして敵対など絶対しない様に、今の内からご機嫌を取っておこうという訳だ。
本来であれば、彼女達はこれから何不自由ない暮らしが待っていると保証された様なモノ。
だが、しかし。
「私からの報酬を受け取り、討伐証明としてダンジョンボスの武器を、此方に提出してから……その……」
「ほぉ、ダンジョンボスの武器を預かっているのか? それは興味があるな、是非見せてくれ。どれ程の相手だったのか、しかも武器を使うと言う事は人型だったのか?」
と言う事で兵に指示を出し、数名掛かりでえっほえっほと運ばれて来た大剣。
それを見た父は席を立ちあがり、真剣な表情でソレを見つめる。
「これはまた……とんでもない物だな。これ程の業物を扱う相手と戦ったのか……確かにこれは、そこらの魔物では手に入れられないだろう」
「相手は、魔族だったそうです。彼女達は、普通に会話もしたとか」
「魔族だと!? それを討伐したというのか!? だとすれば、勲章どころの話ではないぞ! あのダンジョンが異常な速度で活性化した理由はソレか……放っておいたら、とんでもない事になっていたな」
今更ながら事態を理解したのか、お父様は冷や汗を流していた。
だが、それ以上の大問題があるのだ。
それをこれから伝えなければいけないとなると、非常に胃が痛くなるのだが……。
「イーニステラ、今すぐその者達をココへ招待しなさい。その時の状況が知りたい、それに調査団もすぐに戻って来るだろう。宴の準備も急がせよう、この事実を民達にも発表すれば、その者達はこの国の英雄に――」
「もう、居ないんです」
ポツリと呟いてみれば、父はしばらく停止し。
何かを察した様子で真っ青な顔を浮かべ始め。
「まさか、その戦闘で命を落としたのか? だとすれば、宴では無く葬儀――」
「あぁぁ、違います違います! すみません、変な言い方をして! 本人達物凄く元気です! ですが、その、ですね……私の騎士に、とか。位を与えて、お父様の仰るように、褒美も出るでしょうし、立場も保証されますよーって、色々言ったんですけど……」
「……けど?」
騎士だの私兵だのは、最初から断られていたから仕方ないとしても。
勲章授与とか、国王からの褒美とか。
それくらいは受け取ってくれるかなって、思っていたのだが。
「いらね、それより目立ちすぎたからこの街出るわ。って言って……旅立っちゃいました……」
「……」
沈黙が、怖い。
そうですよね、普通何としてでも引き留めておきますよね。
でも無理だったんです! あの人達、報酬受け取った瞬間にそんな事を言い出して、そのまま「服買いに行くー」とか言ってどっか行っちゃったんです!
次に見つけ出した時にはもう旅支度を済ませたらしく、普通に手を振って街を出て行っちゃったんです!
私は彼女達の行動力を、完全に舐めていたのだ。
「な、な、なぁぁにをやっておるかイーニステラ!」
「すみませんすみません! 私も引き留めようとしたのですが、とにかくフットワークの軽い方たちでして! あれよあれよという間に、街を出て行っちゃいました!」
「お、追うのだ! 今からでも追いかけて、この街に永住してくれる様に説得しなければ! 誰か、誰でも良い! 足の速い馬を使ってその者達を探せー! イーニステラは、その者達の特徴を兵に伝えなさい! なるべく詳しく、迅速に!」
「は、はぃぃ!」
結局、こうなってしまった。
クウリさん、貴方達即断即決が過ぎますよ。
目立ちすぎたから旅に出ますって何ですか、普通はこんな偉業を成し遂げたら誇るモノなんですよ。
逃げるモノではないんですよ。
だというのに、彼女は。
「とりあえず目立たない様に生活するから、そんじゃまたねぇ」
あんなあっさり出て行きますか普通!?
冒険者というのは、こうも気軽にどこかへ行っちゃうモノなんですか!?
そもそも旅支度ってそんなすぐに済むものなんですか!?
色々思う所はあったが、集まった兵達に彼女達の特徴を伝え、兵士が出発した後は。
「イーニステラ、ちょっと話がある。私の部屋に来なさい」
その後はお父様から、“そういう時の対応”について色々とお説教を貰ってしまう結果になってしまった。
「クウリさぁぁん、戻って来てぇぇ……」
もう泣くしかないんですよ、こんなの。




