第226話 変わらないモノ、変わらぬ為に
「やぁ、魔王。お目覚めかい?」
「だから近けぇって言ってんの!」
これまたシュウに膝枕されながら目を覚まし、相手が此方を覗き込んでいたので。
しつけぇ! 何度繰り返す気だよこのやりとり!
即飛びのき、ズサッっと情けない体勢のまま回避行動を取ってみれば。
「クウリ!」
今度は俺の近くで起き上がったトトンが、これまたいつも通りに引っ付いて来た。
とはいえ、相手の中身を知ってしまった以上。
「近い! だからどいつもこいつも近けぇ! なんで距離感バグった奴しかいねぇんだよ!」
「えぇ~……いつもの事じゃん」
確かに、ちびっ子の場合はいつもの事な気がする。
現状は同性だし、もはやどうでも良いか。
そもそも、今それどころじゃないしね。
うん、諦めよう。
という事で、スンッと感情を抜き放っていると。
「二人共無事!? ちゃんと勝った!?」
「おかえりなさい、二人共」
やけに心配そうな表情のダイラが駆け寄って来て、それに続くエレーヌ。
そんでもって、最後の一人。
イズに関しては、しっかりとした距離感を保ちながら座っており。
「無事だったか、何よりだ。得るモノはあったか?」
「イズ!」
「お、おう? どうしたクウリ」
思いっ切り反応して、サササッと四つん這いで近付いてみると。
相手は思いっ切り引いた感じの反応をしているが。
「イズは、“元”男だよな? な? 俺と一緒なんだよな? そうだと言ってくれ」
「あ、あぁ……そうだが? 急だな、どうした。そもそもお前とは、ゲーム時代もいくらか仕事の話はしただろう? 一応言っておくと、男性キャラに比べて女性アバターの方が、攻撃モーションが美しいからコッチにしたまでだ」
「だよなぁ!? そうだよなぁ! 近接型のモーションはよく分かんねぇけど……あぁ、なんかすげぇ安心した。俺一人だったら、マジでどうしようって思った」
大袈裟な程安堵のため息を零していると、イズは少々困った様に笑ってから。
「なるほど、“今更”気がついたと言うところか?」
え、何その反応。
イズに関しては元から知ってたみたいな? というか、もしかして俺だけハブられてた?
なんて思いつつ、ギギギッと音がしそうな程鈍い動きで仲間達を振り返ってみると。
「あ、あぁ~……えぇと、ね? ごめんクウリ、今まで黙ってたけど……俺、女」
ごめんね? とばかりに掌を合わせながら、えらく軽い感じでカミングアウトしてくるダイラ。
これを見て、やっぱりか~みたいな反応のトトンも。
「もうクウリにはさっき言ったけど、俺もだよー。黙っててごめんねー?」
思い切り乗っかる形で、物凄く軽い感じに秘密を明かしておりますが。
ダイラは「お? やっぱり」みたいな反応だし、イズに関しては「ほぉ?」みたいな雰囲気。
あれ? 皆の中では情報共有が済んでいたとか、そういう事じゃないっぽい?
どう言う事? ってな感じに、もう一度イズの方へと振り返ってみると。
「薄々……という感じではあるがな。まぁ俺やクウリと比べれば、些か違いがあったのは確かだ。トトンの場合は“幼い”と言える行動とも取れるから、判断出来なかったが。まぁ、なんだ。ダイラと俺は度々一緒に酒を飲んでいたからな、ちらほらと見える事情もあったという事だ」
なんて、少々困った様な顔で笑われてしまった。
ねぇぇぇぇ! そういうの俺にも教えて!?
今の俺酒飲めないんだから、そういう席での“ぶっちゃけ話”的なの参加出来ないんだからさぁ!
まぁ、予想だけで色々語る訳にもいかないってのは分かるし。
それが分かってもイズの態度が変わらなかったのだから、まぁ“そういう事”なんだろうけどさ。
俺等のスタンスを変える必要はないって、そう判断を下した訳だ。
というか今なんか既に、思い切り問題無い状況だしね。
問題があるとすれば“向こう側”。
だからと言って、今更俺等に何が出来るって訳でもないのは確か。
「ぬあぁぁぁ! 何か納得いかねぇぇぇ!」
「ゴメンってばクウリ……やっぱりホラ、周りと合わせた方が馴染みやすいって言うか。もしも一人だけ性別違って、それが原因で問題起きたりしても嫌だし……」
「そもそも俺等、元から“男です”とは言ってないんだけどねぇ。クウリは滅茶苦茶言ってたけど」
そりゃそうですよ、こちとら外見だけはネカマプレイじゃい。
態度と行動で、“キャラクターとして”こういう見た目を使ってますよ。みたいなアピールというか……いやまぁ、これも俺が勝手に見栄を張って世間体を気にしてただけなんだろうけど。
「なんだクウリ、元の性別が違ったからと言って、今更態度を変えるか? それこそ、“出会い厨”ってヤツじゃないか?」
「やめろイズ! 鳥肌が立つわ! 俺はゲームにそんなもん求めてねぇ!」
「知っているさ。だからこそ、今まで通りで良いだろう。どうせ何も変わらない」
ハッハッハと笑っているイズに対し、うぐぐ……と悔しい眼差しを向けるが。
確かに、仰る通りな訳ですよ。
今更スタンスは変えられないし、変えた所で意味は無い。
しかも“こっち側”ともなれば、それこそこれまで以上に俺の“馬鹿”に付き合ってもらうしかない訳なんだけど。
「お前等は……本当にソレで良いんだな? 知っての通り俺はおっさんに片足突っ込んだ年齢だし、この馬鹿テンションでこの先もやっていくからな? そうじゃないと、とてもじゃないが生き残れる気がしない」
なんて、ダイラとトトンへ声を掛けてみると。
二人は気の抜けた様な微笑みを零してから。
「ん、俺はそっちの方が安心かな。これからもよろしくね」
「クウリは“魔王テンション”じゃないとねぇ。こんな所まで来て急にキャラを変えられても、反応に困るってば」
などと言いつつ、性女は安心した様に脱力して。
ちびっ子に関しては再びくっ付いて来てから、頭をグリグリとくっ付けてくる。
ちけぇってばホント、お前は羞恥心ってものを持ちなさい。
ある意味“こっち側”では問題無くなっちゃったんだけどさ。
「さて、色々と話が終わった所で……いいかしら?」
もはやいつも通りのテンションになり掛けていた俺達に対し、エレーヌが声を上げ。
静かに、部屋の中にある青いルービックキューブの様な物を指さした。
あぁ、そういえば忘れてた。
なんかもう終わった気でいたけど、まだ始まったばっかなんだよな。
「そうだったな……エレーヌ、教えてくれ。お前はいったい、何を見た? “トレック”と会ったってのは、どう言う事だ? 出来れば情報を細かい所まで教えてくれると助かる」
ラストイベントは、始まったばかりなのだ。
そして全員この“試練”を乗り越えたからこそ、最終章へと踏み込む資格は手に入れた筈。
このまま全てがあっさり終わってくれるのなら良いが、どう考えてもそうじゃないよね。
そもそも俺等、“普通のエンディング”を迎える為にココに来た訳じゃないし。
転生者の“特権”とも呼べるソレを、こっちの都合に合わせて使用する。
世界全体……というか“神様”ってヤツから見れば、そりゃもうすぐにでもBANしたいくらいにイカレた行動だろう。
こっちにとっては特別な何かだったとしても、相手からすれば俺等は“細胞の一つ”程度。
喧嘩を売るだのなんだの、御大層な事を言っては来たが。
相手のご機嫌取りに失敗すれば、俺等全員が即ログアウトさせられてもおかしくはないという訳なのだから。
「色々話したい所ではあるんだけど……えぇと、ね?」
若干気まずそうな顔をする魔女。
おい止めろ、今さっきまでバタバタとイベントをこなしたばかりだぞ。
今すぐその不穏な空気を引っ込めろ。
なんて、言いたくなってしまったが。
相手は。
「時間、あまり……無いかも。早い所“アレ”に触れて、貴女の目的を終わらせる。そうしないと……“ラスボス”ってヤツが、来るらしいわ」
「…………」
すぅぅぅぅ……ふぅぅぅ……。
あ、うん、そうだよね。
自分のコピーが最後の戦闘とか、普通無いよね。
コレ、元はゲームだし。
当たり前だけど、“ラスボス”は存在するよね。
これまでは前振りも良いところで、今までよりずっと強いボスってヤツが……当たり前の様に、設定されていますよね。
それに、これまでの“夢の中の会話”を思い出してみれば……正規ルートのフラグを踏んだの、俺等が始めてみたいだしね。
これまでの人達はそもそもイベントが発生せず、ラスボスが出現しなかった。
そういう事なんだろうけどさぁ……。
「何なんだよマジで! 正規ルートが一番難易度高いって、おかしいだろ! 普通こんなに苦労すんのは裏ルートなんだよ! 隠しボスとかそういう類なんだよ! 生き辛ら過ぎるわこの世界! 俺等ってアバターを保たせる為に、どんだけ手間とリソース使わされんだよ!」
「怒らないでよ、仕方ないじゃない。私を“拾った”んだから。それとも……後悔しているの?」
「お前までさっきの空気に合わせてくんじゃねぇよ! あぁもういい、全部ちゃちゃっと済ませてラスボスでも何でもブッ倒してやらぁ!」
「そう来なくちゃね」
という事で、俺達は忙しく立ち上がり。
皆揃って、件のオブジェに掌を当てた。
さぁ、どうなるか。
マジでこっからは運次第みたいなモンだ。
だが、俺等四人が“俺達のまま”で居る為には……絶対にクリアしないといけない条件。
ここまで来たんだ、ずっと一緒にやって来たんだ。
今更つまらないエンディングなんて見せられて堪るか。
全部夢だったって、無かった事にされて堪るか。
コイツ等は、間違いなく“夢”なんかじゃない。
共に旅をした、仲間達なのだから。
頼むぜトレック、というか“ユートピアオンライン”。
この世界に来て良かったって、そう思えるような結末を……俺に、仲間達に。
奇跡の一つでも、ちゃんと起こしてくれよ?
もはやここまで来てしまえば、ただの“プレイヤー”の一人である俺に出来る事は。
祈る……それしか、無いのだろう。
キューブからは光が溢れ出し、ソレに呑み込まれながら。
ただひたすらに、ハッピーエンドだけを待ち望むのであった。




