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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
9章

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第223話 戦神は嗤い、自らを剣で語る


「これは……また。人の子は千差万別だとは思っていたけど」


 目の前の光景に、思わず乾いた笑い声を零してしまった。

 私は龍だ。

 だからこそ様々な人の姿を見て来たし、その中には狂人と呼べる様な存在だって居たのを記憶している。

 けどもまぁ……まさかあの一行の中にも、こんなのが居たとはねぇ。


「どうした? もう終わりか?」


『……殺せ』


 二人の剣士が、荒れ果てた地に立っていた。

 一人は真紅の鎧を身に纏い、黒い双剣を掴んでいる。

 もう片方は黒い鎧に身を包んで、赤い双剣を……掴んで、いたのだろう。

 既に一本の剣は折れ、もう一本は腕ごと斬り落とされ、その柄を握り締めたまま地面に突き刺さっている。

 そして周囲の建物……こちらは、私が見て来た街並みと同じ物だったはず。

 龍と龍の戦闘で、最後にはほぼ何も無くなってしまったが。

 こちらの大地も、似たような状況になっていた。

 剣士たちの周りだけ、障害物と呼べる物がろくに残されていないのだ。

 粉微塵に吹き飛ばされていたり、本来燃える筈も無い様な石造りの建造物さえも轟々と燃え上がっている。

 それ等は徐々に灰に、砂に変わり。

 残されるのは、戦っていた戦士が二人だけ。

 片方は死を覚悟し、もう片方に関しては……笑っていた。

 楽しそうに、嬉しそうに。


「ほら、回復してやる。もう一度だ」


『……生き恥を晒せと?』


「そうだ、貴様如きのプライドに付き合うつもりなどない。お前は俺だろう? なら遠慮する必要も、義理立てしてやる必要も無い。敗者は敗者らしく、俺の“糧”になれ」


 ゾッとする程冷たい声を放ちながら、彼女は相手に回復薬を振りかけ。

 傷が癒えた相手は舌打ちを零しつつも、ボロボロになった鎧を毟り取り。

 斬り離された自らの手首が握っている柄を掴みなおし……掴んでいた腕を乱暴に剥がしてからその辺に投げ捨てた。

 切断されてしまった腕さえも復元させる薬というのも凄いが、この光景を前に、両者共何も感じていない雰囲気なのだ。

 とてもではないが、“普通”という感覚がある様には見えない。

 少なくとも私が見て来た“人”という存在は……こうでなかった。

 自らと同じ存在なんて前にすれば慌てふためき、混乱しうろたえるモノだ。

 しかも本来この戦闘は、互いの実力が拮抗している筈ではないのか?

 私の場合は、皆からもらった“攻略法”……つまりズルをして勝ったようなもの。

 だが彼女の場合は?

 そんなモノは存在しないし、そもそも何かしら裏がある様な行動を取った所で、それは相手も条件は同じ筈。

 相手には持ちえない道具の類を使用したというのなら納得だが、今の様子からして本当に剣を交えただけにしか見えない。

 それはつまり……この戦闘だけで、あの“赤い双剣使い”が成長している事に他ならない。


「片方は折ってしまったからな……俺の予備を貸してやろうか?」


『貴様からの施しなど受けると思うか?』


「エリクサーを使ってもらっている時点で、どの口が……と、言いたい所だが。まぁ、“俺”ならそうだろうな」


 気安い言葉を交わしながら、赤い剣士は自らの剣を片方地面に突き刺した。

 そして、相手と同じ様に一本だけ残った刃を正面に構え。


『癪に障る……これだから、戦闘馬鹿は』


「お互い様、だろう?」


 ニッと口元を吊り上げたかと思えば。

 合図も何も無い状態で、両者は一斉に踏み込んだ。

 そこからは……なんだろう。

 本当に相手は、彼女の“複製”だったのか?

 なんて、疑いたくなってしまう光景が広がっていた。


「フハハハ! どうした、この程度か!? 貴様はコピーしたその“瞬間”、成長を止めたのか? なら、もう学ぶ事は無いかもしれないな?」


『黙れぇぇぇ!』


「ガラ空きだ、阿呆が」


 連撃を放ってくる相手に対し、赤い剣士はまるで剣筋を完全に読み切っているかの様。

 ほんの少し、回避という言葉を使うのですら大袈裟に思える程小さな動きで、敵の刃を紙一重で躱していく。

 まるで、その緊張感さえも楽しんでいるのかと感じてしまう程。

 しかし、容赦という言葉は持ち合わせていないらしい。

 隙が出来た所を的確に叩き、鎧を剥ぎ取ってしまった相手の身体には深い裂傷が刻まれる。


『ぐっ!?』


「弱い、遅い、脆い。そして何より……“楽しめ”よ。それが出来ていない時点で、お前は弱い」


 そこからは、あまりにも一方的な試合。

 いや、紛れも無い“殺し合い”。

 だというのに……ブルッと、身体が震えた。

 黒い刃を掴みながら、赤い鎧の剣士が踊る。

 その度に舞う鮮血さえも、この戦場を飾っているかの様。

 狂気、狂乱、怪物の宴。

 思いつく限りの言葉を並べても、そんな言葉しか出てこない。

 アレはもはや……人の枠組みに収めていいのか?

 戦う為に存在しているみたいに、自らの天命を受け入れ、心から楽しんでいるかのような姿。

 こんな光景を見れば、人は“英雄”と呼ぶのだろう。

 強敵を、更なる力で狩り取る存在。

 例えそれが、蛮族や狂人と呼ばれる類だったとしても。

 今の彼女は、これまで私が見て来た魔法剣士ではない。

 戦場を舞い踊る、狂乱の戦乙女に他ならない。

 そして戦闘とは、強い者が弱い者を狩り取る行為に他ならない。

 だからこそ、終わりの時はすぐに訪れる。


「覚醒……」


『っ!? 覚醒!』


 相手が慌てて距離を取ったかと思えば、両者共剣を鞘に収め。

 そのまま姿勢を低くし、グッと脚に力を入れたのが分かった。


「奥義」


『奥義!』


『「“一閃”!」』


 赤と黒の輝きが混じり合い、その閃光は交差して突き抜ける。

 この場の音が全て、二本の刃に切り裂かれたかと錯覚してしまう程の静寂が広がり。

 燃え上がる炎の中、駆け抜けた両者が剣を振り抜いた状態で止まっている。

 どっちが勝った? なんて、疑う余地も無いか。


「……見事なり。流石は魔王一行の一人、“焔の剣”と言ったところかな?」


 私でも恐ろしいと思える様な戦場に、ポツリと一言。

 思わず、言葉を残してしまった。

 黒い炎は力なく消え去り、残ったのは紅の焔。

 この静寂に、剣士の決闘に言葉は不要。

 相手は力なくその場に倒れ、生き残った剣士はチンッ! と音を立てて、自らの牙を鞘に納めた。

 そして、静かに此方へと視線を向け。


「シュウ……か? 本物で良いのか?」


「おっと、邪魔してしまったかな? それに……もしも、“私は偽物だ”と言った場合……どうするね?」


 クスッと微笑みながら相手を見つめてみれば、剣士はニッと口元を吊り上げてから。


「丁度次で“試してみたい”事も多くなったのでな……幸甚の至り、とだけ」


「これはこれは、魔王も恐ろしい前衛を味方に付けたものだね」


 そんな言葉を言い放ってから筆を動かし、相手の頭の上に大量の水を作り上げる。

 そのまま頭からぶっ掛けてやり、水浸しになった剣士を眺めてから。


「少しは頭が冷えたかね? 貴様は魔王一行の前衛、“イズ”であろう? あまり狂気を振りかざせば、仲間さえも怯えさせるぞ? 孤独の戦神になりたい訳ではなかろうに」


「……だな、これは失礼」


 まったく、うつけが。

 やれやれとため息を零してから、スッと掌を差し伸べ。


「沢山遊んで、思い切り“発散”する事が悪いとは言わない。しかし場と状況を考える事だね? さぁおいで、もう“帰る”時間だ。仲間達をあまり待たせるものじゃぁないよ?」


「やはり、これは“夢”か?」


「あぁ、そうだね。自らと向き合う為の、心の鏡。普通なら、思う存分苦しみながら自らの暗い部分と向き合う空間なのだろうが。君にとっては……遊び場にしかならなかった様だ。楽しかったかい?」


 思い切りケチを付けながら言い放ってみると、相手はハハッと乾いた笑い声を上げながら此方の掌を掴んだ。


「そうでもないさ。俺自身と戦う事で、自らの悪癖と向き合う結果となった。そして何より、自らの弱さをありありと見せつけられた。だからこそ、何処を直せば良いのか明確に分かった」


「その発想が、既に戦闘馬鹿だと言っているのだよ。君はもう少し仲間達の“幼さ”を学ぶべきだと、私は思うな。さぁ、とっとと帰ろう。私は魔王の指示によって君を迎えに来た、あまり待たせては文句を言われてしまうからね」


「そうか、待たせてしまったか。これはまた、後で謝罪しないとな」


「そうしたまえ。仲間達がどれ程心配そうな顔を浮かべていたのか、見せてやりたいよ。そして皆にも、どれ程君が“遊んで”いたのか。是非見せてやりたいね」


「勘弁してくれ……ダイラ辺りから、本気で説教を貰ってしまう」


 二人して馬鹿な事を呟き合い、そのまま周囲を霧に包んでいく。

 さて、早い所戻るとしようか。

 あまり遅くなっては、私まで文句を言われてしまいそうだからね。


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