表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
9章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

222/223

第222話 清く美しく、聖女は泥に塗れる


「“乱舞”!」


『チッ! 剣なんか持ってない癖に、鬱陶しい!』


 相手が展開しているプロテクションに対して、こちらはひたすらに杖を叩きつけた。

 指輪に付与してもらった皆の魔法を使いながら、ひたすら攻め続ける。

 言われている通り、剣じゃないから本来の効果なんてほとんど発揮しないし。

 そもそも俺は剣士どころか、運動だって苦手なのだ。

 だからこそすっごくヘッポコな攻撃を繰り返しながら、それでもスキルによって付属効果が発生している。

 でもこんなヨワヨワ攻撃でも、相手はちゃんと防いでくるのだ。

 だって俺のステータスじゃ、一発でも当たったら本当にどうなるか分からないから。

 剣術も駄目、武器も剣じゃない、けど皆の魔法だからこそ下地の威力は発生する。

 こんな訳の分からない状態になってしまえば、マイナス補正の方が多過ぎてダメージ計算なんて出来たものじゃない。

 けど“もしも”があるからこそ、相手だって防ぐしかないのだ。


『いつまでもこんな事をしたところで……』


「全部防げば勝ちだって? なら、ちゃんと防いでみなよ! 俺なんかをコピーした事、後悔すれば良いよ! “フレイムボム”!」


 立て続けに攻撃を放ち、また一つ……指輪が破損した。

 まずい、本当にジリ貧だ。

 けど、やるしかない。

 皆から借りた力が無くなった瞬間、多分俺は“心”で負ける。

 だからコレがある内にどうにかしないと……なんて、焦りはするものの。


「“エアハイク”!」


『っ!』


 相手のプロテクションにフレイムボムをぶつけて弾幕を張り、爆発の煙で視界を奪う。

 その間に、トトンから借りたエアハイクで空中の足場を作って、これを頼りに一気に後ろに回り込んだ。


「“スマッシュ”!」


『舐めるな! お前の打撃なんてっ!』


 真後ろから攻撃を叩き込んだのに、向こうは細かく張ったプロテクションで防御して来る。

 しかも角度を調整して、バットみたいに振るったこっちの杖を明後日の方向へ逸らされた。

 けど……これくらい、想定済み!

 というか今なら、プロテクションも細かくしか張ってない!


「“金切り”!」


『なっ!?』


 本来は耳の良いエネミーに使用する、高周波牽制攻撃。

 元々の使い手のイズなら、目の前に現れた黒い球体を格好良く切り裂いてから、鞘に剣を戻す所までがセットなのだが。

 俺にそんな事が出来る筈もなく。

 空振りしたスマッシュの威力を乗せて、そのまま球体を情けないポーズのまま杖で殴りつけた。

 この瞬間球体は弾け、周囲には甲高い音が響き渡る。

 すぐ近くでこんな事をすれば、当然こっちの耳だっておかしくなるが。

 それは相手も同じ事。

 顔を歪めながら、耳を押さえて後ずさったではないか。

 あれなら、回復するまで耳は使えない。

 そうなってしまえば……間違いなく、俺は“焦る”。

 向こうが俺と同じ存在だっていうのなら、冷静な判断など出来なくなる筈!


「“プラズマレイ”!」


 杖を振り回し、思いっきりずっこけたけど。

 すぐに起き上がってからすぐに、クウリの魔法を放つ。

 とはいえ、流石は火力特化の極振り攻撃魔法。

 コレに関しては、一回撃っただけで指輪が砕け散った。

 でも効果はあった、確実に。


『お、お前ぇぇ……』


 放ったレーザーの内の一発が、相手の脇腹を貫いたのだ。

 そこを押さえて、杖さえも取り落とし、ガクガク膝を震わせて此方を睨んで来る。

 当たった。

 まずはそこにホッと息を零しそうになるが、ここで一気に決めなきゃ駄目だ。

 回復は俺の得意分野。

 だったら少しでも時間を置けば、相手はすぐ元通りに治療を済ませてしまう。

 けど、そんな激痛に耐えながら。

 はたして俺は……冷静な判断が出来るのかな?


「こっちを見ろ! “ヘイトコントロール”!」


 思い切り叫んでからトトンのスキルを使えば、相手は治療を始めながらも間違いなく俺の事を見つめている。

 なら、やれ。

 大袈裟に、ちゃんと相手が怖がってくれる様に演じながら。

 全力で、皆の真似をしろ。


「残り全部の指輪を使うよ! たった一発の為に、“分割”して付与してもらったんだから!」


 金切りのスキルの影響で聞こえ辛いだろうが、それでも向こうは此方の言葉に思い切り警戒したのが分かった。

 魔法の分割、なんて本来は出来ない。

 でも弱体化覚悟で付与してもらって、ソレをいっぺんに発動させ威力を乗せる事は出来るのだ。

 だからこそ、警戒しない訳が無い。

 ボソボソッと小声でスキル名を呟き、思い切り杖を振り上げた。

 俺の背後にある、白く輝く月に向かって。


『なっ!? あり得ないよ! “ソレ”だけはあり得ない筈だ! 奥義を付与するなんて、劣化版だとしてもそこら辺の道具じゃ絶対に不可能――』


「なら、受けてみなよ! 弱体化されても、“俺自身”を消し飛ばすくらいの威力はあるよ!」


 大声で叫びつつ、輝かしい光がこの場を包み込んでいくのが分かる。

 スキル前に発生する、この光。

 それを知っているからこそ相手の顔は青ざめ、治療もままならない状態で慌てて杖を拾い上げた。

 そして。


「サテライトレイ!」


『覚醒! “テオドシウスの城壁”!』


 クウリの奥義を防ぐのなら、それしか選択肢は無い。

 デウスマキナならまだしも、サテライトレイに関してはソレでも防ぎきれる保証など無い。

 でもやらないと消滅するから、もしも自分にこの攻撃が向けられれば、間違いなく“その奥義”を使うと分かっていた。

 瞬く間に周囲は光の城に包まれ、もはや大技のぶつかり合いになる他無い――


「なんてね? 実はただの“フラッシュ”と“ライト”でしたぁ、普通なら目眩ましとか明かりに使うヤツ」


『……は?』


 トトンのスキルを使った事により、こちらが近接戦を選んだ様に見せる。

 この時点で、数字にすれば……焦りは80ポイント。

 補助術師が急に殴りかかって来たら、俺は絶対悲鳴を上げる自信がある。

 けどどうにか見栄を張って、なんとか防いだまでは良い。

 でもこれも作戦の内でしたって雰囲気で、続くイズのスキル。

 それの影響で聴覚に異常が発生し、ここで焦りポイントは累計180点というところか。

 もう既に、パニックなのだ。

 でも俺達は一緒だから、お互いの事が大嫌いだから。

 自分にだけは、情けない所姿を晒したくなくて。

 お前なんかに負けないって気持ちが先行して、どうにか表情には出さなかったのだろう。

 しかし……クウリのスキルによって、ダメージを負った。

 確かな痛みと、死の恐怖。

 更に言うなら、“大技”をこのまま連続で撃ちこまれたら……っていう、最悪な想像ばかり頭を駆け巡った事だろう。

 ここまで来ると、焦るポイントなんかカンストまで急上昇。

 もはや冷静な思考など出来る訳が無い。

 だからこそ、こんな分かりやすい嘘にだって……平気で引っかかる。

 俺はそれくらいに、駄目な奴だから。


「使っちゃったね? 奥義。つまり、スキル終了まで待てば……“俺”の勝ち」


『お、お前……お前ぇ! ふざけるな! ホントにふざけるなよ! 絶対皆から教えてもらったんだろ! “私”一人じゃ、こんな騙し討ち思いつくはずない!』


 そうだね、本当にその通りだ。

 でも今回は、直接指示を貰った訳じゃない。

 皆から沢山の物を借りて、凄く心配してもらって。

 トトンなんて、いくら使い潰しても良いから! とか言い出して、全身使っても装備しきれない程のアクセサリーを出してくれたし。

 イズもクウリも、あっちもこっちもっていっぱい付与してくれた。

 本来俺は、前に立つ職分じゃないから。

 でも絶対防御なんて呼ばれたくらいに守る事が得意だから、それを貫けるだけの力を借りた。

 そう、“借りた”のだ。

 やっぱり一人じゃ何も出来ないし、自信なんて欠片も無い。

 相手の言う通りだ、本当に。

 全然駄目で、皆にも嘘をつき続けて。

 でも、一緒に居たかったのだ。

 自分も本当に男だったらどれほど良かったか……こんな気持ちにならず、気兼ねなくもっともっと曝け出せたのだろうか?

 けど、今更そんな事を言ってもどうしようもないのは分かっているし。

 何より性別が違ったくらいで、多分皆なら全然変わらないだろうって予想は出来るんだけど。


「何やっても上手くいかないし、一人じゃ何も出来ない。だから誰かに“使ってもらう”方が楽だなって、最初はそう思ってたよ」


 光の城に包まれながらも、ポツリとそんな言葉を洩らした。

 こんな所で、こんな相手に言葉を紡いだところで意味は無い。

 そんな事、百も承知だけど。


「でも、皆と一緒に居る間だけは……ずっと、俺でも何か出来ないかなって。そう考える様になったんだよ。皆の為に、何かしたいって。本当にそう思える様になった」


『…………』


「そうしている内にね、なんか結構上手くいくようになってさ。これも俺の勘違いかもって、皆のお陰で上手くいってるんだって、分かってるんだけど。でも……このゲームが終わるって知った時に、皆の連絡先を聞けた時。ビビりながらもさ、ちゃんと決めたんだよ。そっちも“俺”なら、知ってるでしょ?」


 そう言ってみれば相手は視線を逸らし、そのまま俯いてゆく。


「パニックになったり、バタバタして結局言いそびれて、ズルズルこのままになっちゃったんだけどさ。ちゃんと、皆に話そうって。実は俺、女でしたって。嘘ついてゴメンって、けどこれからも皆で一緒にゲームしたいって、連絡しようとしてたんだよ」


『あのままだったら、また逃げそうだった癖に……』


「あ、あはは……それは、否定出来ないけど」


 また痛い所を突かれて、思わず苦笑いを浮かべてしまったが。

 相手は、ちょっとだけ悔しそうな顔を上げてから。


『ズルいよ……私はまだ、一人なのに。そっちは一人になっても、皆が付いてるんだもん』


「だね。やっぱり俺はズルや、ゴメン」


 此方の言葉と共に、相手はフッと表情を緩めた。

 これと同時に、“テオドシウスの城壁”は光の粒になって消滅して行き。


『降参、サレンダー。あぁ~もう、止め止め。そもそも補助術師同士で、どうやってPVPするのさ』


 呆れた様な声を零すと、ポイッと装備を投げ捨てて両手を上げた。

 すると、徐々に相手の身体透けていき……足元の方から、“存在”が消滅していく。


「ごめんね……でも、ありがとう。ちょっとだけ、決心がついた気がする。これから“こっち側”でちゃんと生きて行く覚悟と……それから、“向こう側”の俺も、きっと大丈夫かなって。そう思えた」


『どうせすぐ不安になるんだから、勢いに任せて全部言っちゃいなよ? “私”は、どこまで行ってもダメ人間なんだから』


「ん、知ってる。“俺”はやっぱりダメだけど、でも皆が居るから。どうにか、頑張るよ」


 そんな会話を最後に、俺のコピーは完全に姿を消すのであった。

 お、終わったぁぁぁ……なんて、ベショッとその場に倒れ込んでみると。


「お疲れ様、聖女。私が手を貸すまでも無かったわね? 迎えに来たわよ」


「うわぁぁぁっ! エ、エレーヌ!?」


 寝転がった俺の上から、魔女様がヌッて感じで覗き込んで来た。

 この空間には俺と相手しか居ないと思っていたから……心臓止まるかと思った。

 どうにか呼吸を整えながら、ノソノソと起き上がってみると。


「元から女だったのね? あぁでも、お風呂の時。魔王に比べて、反応が割と普通だったわね。皆に合わせて、慌てて視線を逸らしている、みたいな」


「うっぐ!?」


 おかしいな、皆には話すつもりで居たのに。

 知られても問題無い人にバレただけでも、結構ダメージがある。

 むしろこの人にだったら、ノーダメージで良いでしょって気はするのに。


「皆には、まだ黙っておいた方が良いのかしら?」


「出来れば……お願いシマス……ちゃんと、話しますので」


「別に、そのくらいどうでも良いと思うけどね。聖女が男でも女でも、貴女は貴女じゃない」


「男女間の問題って、色々発生しやすいんデス……」


「そう、まぁ良いわ。帰りましょう?」


 なんだか締まりのない終わり方になってしまったが、エレーヌに掌を掴まれた瞬間。

 周囲には濃い霧が発生して行く。

 とりあえず……このイベントは、クリアしたって事で良いのかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ