第220話 ブラックサレナ
「“プラズマレイ”!」
『“飛行”』
建物の影に隠れる様にして、高速で飛び回る相手に対し。
此方は範囲攻撃をぶっ放すが……だぁクソ! 死角が多くて当たらねぇ!
近代都市の市街地戦なんて当然初めてだし、慣れている筈も無い。
構造や街中のイメージが出来るからって、ならすぐに馴染めるかと言われれば間違いなく否。
俺の読み通り、相手はMP回復などのアイテムは使用できないのか。
こちらに比べて魔力を出し惜しんでいる感じはするものの。
この状態で呑気にポーションを飲めるかと言われると、そう簡単な訳が無い。
すぐに建物の影に隠れる様にして飛行されると、システムメニューがあってもとてもじゃないがインベントリを漁っている暇があるとは思えない。
相手は此方と同じ範囲殲滅特化の攻撃魔術師。
例え一瞬だったとしても、向こうの攻撃に呑まれればこっちだって一撃で灰になる可能性があるのだから。
『“プラズマレイ”』
「どわっ!? あっぶねぇ!」
慌てて飛行スキルを使用し、ギリギリ避けられはしたが。
アイツ、こっちを全く目視せずにビルを貫いて攻撃して来やがった。
つまり。
「チッ、イロージョン使ってやがるな!?」
死角に入った瞬間、周囲の建物に対して探索系スキルを行使。
こっちの位置を確かめてから、マップの表示を頼りにぶっ放して来たって訳だ。
「くっそが! そっちに関しちゃステ情報を最大限使って、“効率”を求める戦い方をしてくるってか!? かぁぁ……やってくれるぜ運営」
性格やら記憶までコピーしている様子はあるものの、基本的な戦法というか、相手の動きは元から組まれたアルゴリズムがベースとなっている筈。
つまりこの戦闘、ゲームで言うならかなり“自分を見直す”事になるってこった。
スキルツリーの都合で習得したが、他のスキルの方が扱いやすくて使用しない。
または上位互換の様なスキルが発生し、そちらにシフトしてしまった結果“死にスキル”が発生する。
こんなの、プレイヤーの中じゃ当たり前だ。
それこそざっくり方向性を決めて適当にやってきた人物なら、「そんなスキルあったっけ?」なんて事態だって発生する事だろう。
本人でさえ忘れていた様なモノや、普段はアイテムに頼り切って思いつかなかった戦法まで使って来る相手。
同じ条件に立てば思いつく様な事柄なのかもしれないが、いきなりやられると流石に焦る。
というか下手すりゃコレ、初見殺しのイベントかもしれない。
いや、その為のエレーヌとバディを組むイベントか。
2対1での戦闘なら、これらに振り回されながらも彼女に頼る事になる。
そのお陰で、プレイヤーとしては彼女の存在意義がここでグッと上がる……的な?
だとしたらふざけんな! エレーヌ呼べよ! 普通にタイマン張らせるなよ!
「だぁクソ! “ウィジャボード”! “エージング”!」
相手が的確にこっちを狙って来るのなら、俺はフィールド全体を包み込んでやる。
その盤面を崩してやれば、相手だってどんどん戦い辛く――
『“シャドウバインド”』
「っ!?」
何処から撃って来たかの、空中に居る俺に対し足元から伸びて来る拘束魔法。
それが此方の足に絡み付き、一時的に行動を封じられた。
焦るな、焦ったら負ける。
これは間違いなく囮、解除しようとコレに意識を向けた瞬間、間違いなく襲い掛かって来る筈。
なんて、分かっていた筈なのに。
『“チェインライトニング”』
そのまま、ごく普通に姿を現した相手が小技を使って来た。
だが、この程度なら俺のHPや防御力でも耐えられる。
だからこそ相手の攻撃はそのまま受ける事を決断し、その代わり大技の一つでもぶち込んでやろうかと杖を構えたが。
「なっ!?」
敵の雷撃が、目の前で弾けた。
でも、当たってない。
予想出来るのは、ギリギリ“射程範囲外”だったという事。
攻撃対象に届かず、スキルが消失する前に眩い光を放つだけの無駄撃ち。
本来の効果だけを考えれば、それだけなのだが。
「クソッ! 上手いじゃねぇか……」
目が、眩んだ。
すぐ近くで弾けたその光に、一瞬とは言え完全に視力を持っていかれた。
当然このタイミングを相手が逃すはずもなく。
『“テレポート”』
「逃がすか! プラズマ――」
『“いつも”だったら、距離を空けるだろうな?』
その声は、俺の真後ろから聞えた。
俺の癖とも言える、ここぞというタイミングで距離を空ける行為。
しかも視界を奪ってからのテレポート、こちらから視線が外れた瞬間に、相手の死角へと移動してからの大技。
だからこそ相手もそうするかと思い、俺がテレポで飛びそうな場所に向けて攻撃を放射して牽制しようとしたのだが。
なんで……真後ろ?
だって俺のスキルじゃ、近接戦に持ち込んだ所で旨味なんて――
「MPが狙いか!」
『ご名答。覚醒、“ドレイン”』
スキルを行使された瞬間、ガクッと身体から力が抜ける程魔力を持っていかれた。
しかもオーバードライブ状態まで使って、一気に盤面を崩すつもりの様だ。
となるとここらから一分程度で、勝負を“決め”に来る。
「“トルネード”!」
『どうしたよ、後手に回ってばかりだな? “テレポート”』
俺自身を包み込む形で竜巻を発生させてみたものの、こっちの攻撃が届く前に相手は再び転移。
くっそ、やりづれぇ!
というか、とにかく相手を引き剥がす為にこんなスキルを使ってしまったが為に、自分で視界を塞いでしまったではないか。
思い切り舌打ちをしながら竜巻を抜け、周囲に視界を動かしてみると。
「おいおいおい、マジかよ!?」
相手が居たのは、遥か上空。
別にこっちが向こうを見つけるまで待っていたという訳でもないだろうに、攻撃が止んだ理由。
それは。
『“サテライト・レイ”』
「っ! ざけんなぁぁぁ!」
赤い方の月に照らされ、自らの身体にその光を纏わり付かせながらも。
杖の切っ先を、俺に向かって振り下ろして来たではないか。
不味い不味い不味い!
あんなの対抗するなら、こっちも同じスキルで迎え撃つしかないというのに。
さっきのドレインの影響で、明らかに向こうの方がMP総量も多い。
あのスキルは魔力がある限り攻撃を続けるのだから、間違いなく押し負ける。
当然今からアイテムを使って回復など間に合う筈も無く。
だからこそ、こちらも今撃てる撃ちきりの強スキルを放って、どうにか威力を減らすしかない。
あとは、俺のHPが残ってくれる事を祈りながら。
「“デウス・マキナ”!」
スキルを行使した瞬間、マジで魔力がほぼ空になった事が分かった。
ガクッと身体から力が抜ける感覚を味わいながらも、何とかギリギリ足りた。
背後からは巨大な人形が出現し、俺を守る様に腕を回しながらも、カパッと口を開いて上空を見つめる。
『終わりだよ』
ニッと口元を吊り上げた相手の更に上空。
赤い月から、真っすぐ此方に向かって光が照射される。
これに抗う為、こちらも人形から紫のレーザーを放つが。
「……は?」
上から降り注いだ光を、デウスマキナの攻撃が簡単に打ち消したではないか。
いや、え? だって、ありえないだろ。
サテライトレイは、奥義の中でも最上位といえる“壊れスキル”。
だというのに、こっちの攻撃で相殺出来る筈がない。
なのに、それが叶った。
「違う……これは」
『“インスタントマジック”。道具に、俺のスキルを“付与”しただけだよ。残念だったな』
またテレポートしたのか、デウスマキナの攻撃から逃れた相手が……ニッと口元を吊り上げているのが見えた。
やられた。
今のは、完全にブラフ。
こっちの竜巻から逃れた後、アイツはすぐ道具に……あろう事か、“奥義を付与”しやがった。
だが大技になればなる程、マイナス補正も強く働く。
その為、デウスマキナの方が攻撃力を上回った訳だ。
けど、奥義だぞ?
トトンの本気アクセだって、そこまでは不可能。
もしもソレが出来るとすれば……それ以上に強化した装備。
インスタントマジックは、道具を完全に消耗品として扱う事が前提だ。
だからこそ、わざわざ火力を落としてまで使用する為に、とんでもない時間と金を費やして作った武装を犠牲にする馬鹿は居ない。
ただしそれは……“ゲームならでは”の話だ。
「贅沢な使い方しやがって……それ作るのに、どれだけ掛かったと思っていやがる」
『だが、“この戦闘”を終わらせる事は出来る』
相手が掴んでいた杖が、ビキビキッ! と酷い音を立てながら砕け散った。
チッ、そうだよな。
リアルなら、道具がどうこう言う前に自分が生き残らないといけない。
だったらどんなに愛着があろうと、どれ程苦労したソレだったとしても……命よりは、安いもんな。
気が遠くなる程の時間を費やして作った最高傑作を、たった一戦のPVPの為に消費する。
ハ、ハハハ……こりゃ確かに、ネットゲーマーには絶対無い発想だわ。
そして魔法付与は、普通戦闘中に使う様な“スキル”じゃない。
街中に居る時に、ある種ゲームの“オマケ”として存在する様なシステム。
つまりアイツは、そもそもスキルを行使していない。
MP消費どころか……リキャストタイムだって当然発生しない状況。
全て、“道具”で済ませてしまったのだから。
『終わりだよ、楽しかったぜ?』
無手になった掌を上空に向けると、相手の身体には再び赤い光が纏わり付いて行く。
「道具は大事に使いましょうって、親から教わらなかったのかよ?」
『道具は所詮道具なんだよ、貧乏性が』
それだけ言って腕を振り下ろし、真っすぐ俺に向かって人差し指を向けて来た。
あぁ……こりゃ本気で不味い。
未だ出現し続けている人形が、必死で俺を守ろうとしてくれているが。
向こうは杖を失い、明らかに弱体化していたとしても……。
本物の“アレ”なら、いくら何でもデウスマキナの人形だけで防ぎきれる筈がない。
『死ね。これからは……俺が“魔王”だ。“サテライト・レイ”!』
今度こそ、終わった。
確かにそう感じた瞬間、MPも完全に空になったのか。
飛行すら出来なくなり、地面に向かって落下し始める。
あぁ……チクショウ、こんなの有りかよ。
ギリッと音がする程奥歯を噛みしながら、赤い月を背負う相手に掌を伸ばしてみれば。
月からは赤い光が降り注ぎ、俺の事を包み込んだ。
次の瞬間には、俺を中心としてこの一帯を消し飛ばす事だろう。
諦めて、瞼を閉じようとしたその時。
「笑わせないで、貴女なんか“魔王”にはなり得ないわ。だって……誰も“仲間”がいないじゃない」
俺の身体が、空中で抱き留められた。
何が起きたのか理解出来ず、こちらを包み込んだソイツに視線を向けてみると。
銀色の髪の毛をフワリと躍らせながら、赤く鋭い瞳を上空に向ける……魔女が居た。
彼女は敵に向けて、片手で剣の切っ先を向け。
「“覚醒”。本気を……これまで以上の全力で、牙を剥きなさい! “血喰らい”!」
これまでにも、コイツの大火力は目にして来た筈だった。
だというのにコレは……“次元が違う”。
何たって、相手のサテライトレイを此方の攻撃で相殺したのだ。
いくら俺のコピーが杖を持っていないとはいえ……魔女がまだ奥の手を隠していた? いや、そんな馬鹿な。
だとしたら何かの補正? もしくは強化魔法?
ひたすら混乱しつつも、彼女に抱えられたまま地面に降り立ってみれば。
「これが“オーバードライブ”ってヤツなのね……なかなかどうして、凄いわね」
「へ? は? え、えぇと?」
フラ付く俺をゆっくりと下ろし、こちらに向かってMP回復ポーションを差し出して来る。
魔女と黄龍にも、部屋に踏み込む前に渡しておいたのは確かだが……いや、え?
コイツは、何を言っているのだろうか?
今の“覚醒”って……マジもんの“オーバードライブ”?
は? どうなってんの?
「来たわよ、魔王。待たせたかしら?」
「ぁ……うん、はい。はい? え、と……何で、エレーヌがここに?」
「いいから、早く飲んで。まだ終わりじゃないみたいだから」
未だ険しい表情を浮かべる魔女が、もう一度視線を上げると。
そこには、ギリギリと奥歯を噛みしめる俺の2Pカラーが。
先程の魔女の攻撃は、本当にサテライトレイを相殺するだけに終わったみたいだ。
いや、それでも十二分にすげぇんだけどね?
という事で、慌ててMPポーションをがぶ飲みしてみると。
「それから……魔王。贈り物よ、預かって来たわ」
「はい? え、誰から?」
此方の質問に答える前に、空中でちょいちょいっと指を動かしたエレーヌが……どこからともなく一本の白い両手剣を取り出したではないか。
一見すると、魔女が使っている“魔剣”の色違い。
白銀とも呼べる輝きに、薄っすらと光る紫色の模様。
そんな物を、こちらに向かって差し出して来た。
「“受け取れば”……分かるそうよ。だって、“私達”にとって世界はそういうモノでしょう? このフレーバーテキストは、“隠されていない”から」
意味有り気に笑う彼女から剣を受け取ってみると。
あぁ……なるほど。
「確かに、チートでも寄越せって言ったけど……ハハッ、こりゃ流石にやり過ぎだろ」
触れた瞬間に、この両手剣のステータスが表示された。
馬鹿が作ったとしか思えない程の強化値に、装備するだけで頭おかしいだろってくらいのステータスが上昇する恩恵あり。
更には色々とクソ長い文章には、まさにチートかって内容がズラリと並んでいるではないか。
もっと言うなら、同時装備可能って何だよ……つまりなんだ? 俺は杖を掴みながら、この剣も装備出来るって事か?
そして剣その物のフレーバーテキスト、どういう物なのかを示すその場所には。
“創造主からの贈り物”。友人として、一人の仲間として、そして心からの感謝を示す為。世界から“魔王”に送られた、“魔女”と対になる一振りの両手剣。
その名も……“黒百合”。
「ク、クハハハッ! サービス終了間近で、他のプレイヤーに影響しねぇからってとんでもねぇ物作って実装しやがったな? 随分と好き勝手やったじゃねぇか、“トレック”!」
ったく、白いのか黒いのか分からねぇネーミングセンスは放置するとして。
とにかく、受け取った白銀の剣をブンッ! と一振りしてみせるのであった。
さぁて……せっかく貰った“ぶっ壊れ装備”だ、試し斬りと洒落込もうじゃねぇか。
「あ、意外と重……」
「ちょっと、大丈夫なの?」
俺、剣士じゃないんだけどね。
多分装備補正も出てるわ、コレ。




