第218話 嫌悪
「だぁぁぁぁぁ!」
『そうやって嫌な事から目を逸らそうとする。全力で逃げて、逃げられないと分かったら“否定”しようとする。だから弱いんだよ、俺は』
「うるさいうるさいうるさい!」
目の前に出現した相手。
俺と同じ見た目をした、色違いの自分自身。
これを見た瞬間理解した。
“最後の試練”って、自分を見つめ直せって事なんだ。
そして同時に、両手の大盾で殴り続けた。
でも。
『“パリィ”』
「うぐっ!?」
『ホラ、冷静さを欠いた。一人じゃ何も出来ない、誰かが一緒に居てくれないと不安で仕方ない』
相手の盾が、こっちの攻撃を弾いた後。
腹に敵の盾が思い切りめり込んで来て、派手にふっ飛ばされた。
ステータスは同じだって、そう言ってたじゃん。
なら、少なくとも“負け”は無い筈なのに。
なんでだ、なんでだよ!
全然、勝てる気がしない……。
『残念だね? 皆に頼り切って実績ばかり積み上げた。その結果、コレだよ』
「……え?」
向こうの言葉が理解出来ず、ゲホゲホとむせ込みながら顔を上げてみると。
すぐ目の前に、敵の大盾が迫っていた。
あ、これマズ――
『ホラ、やっぱり何も出来ない。“いつも”は違った? でも今は出来ない。何でなのか分かる? “依存”してる皆が、誰一人居ないからだよ。俺は一人じゃ、やっぱり何も出来ない。不安ばっかり胸に積もって、普段通りの事が何も出来なくなる』
「ぶがっ……ごはっ!」
盾を顔面に叩きつけられ、思い切り鼻血が噴き出した。
そのまま地面にも激突して、泣きそうになる程の痛みが身体を貫くが。
相手の攻撃は、それだけでは止まってくれなくて。
『ホラ、ホラ戦えよ。どうしてそんな所で蹲ってるんだよ、お前は皆より前に、戦場で一番前に立たなきゃいけないタンクだろうが』
「ぐっ! ガッ! ゴホッ……」
『戦えって言ってるんだよ! いつまで芋虫みたいに丸まってるんだよ! あぁもうっ、気持ち悪いなぁ!』
何やら怒り始めた敵のつま先が腹に叩き込まれ、また吹っ飛んだ。
マジで鎧にめり込んだんじゃないかって程、加減なんて知らない“無属性”の物理攻撃。
俺のステータスなら、確かにこんな威力だって出るのは分かる。
アクティブスキルの取得を極限まで減らし、その分素の身体能力を上げる様なパッシブスキルメインのツリーだったから。
常時発動スキルばかりを取得し、難しい事を考えない。
それが俺の戦闘スタイル。
だって馬鹿だから、手札ばかり増やしても全部扱えるほど器用じゃないから。
でもそれで良いよって、皆が言ってくれた能力。
だというのに、ソレと同じ物が……今の俺に襲い掛かって来ていた。
「助け……て、クウリ……。イズゥ……ダイラァ……無理だよぉ……」
“こっち側”に来てから、多分今一番痛い思いをしている。
俺のキャラは頑丈だから、ちょっとした事じゃピンピンしていたのに。
でも今は……凄く、痛い。
『そうやって……そうやっていつまで逃げるんだよ! 現実から逃げて、家族からも逃げて! 一人で部屋に引き籠って、嫌われている“フリ”ばっかりして!』
「や、だ。嫌だ……聞きたくない……」
『ゲームに逃げて、それでも誰かに見つけて欲しくて、構って欲しくて、それだけでも贅沢なのに! わざわざ自分の見た目に近付けたキャラなんか作っちゃったりしてさ! 恥ずかしいったらないよ! その上で皆にも嘘をついて、“こんな所”にまで来ても本当の事が言えない。それで仲間? 笑わせんなよビビリ!』
相手の言葉が……凄く、痛い。
身体も痛いのに、胸の奥がズキズキする。
こんなの嫌だ、こんなの“トトン”じゃない。
トトンはもっとお気楽で、馬鹿な事ばっかやって。
いっつもふざけて、皆から呆れられながらも構われる様な。
そういう“キャラクター”じゃなきゃいけないんだ。
『何にも出来ない癖に、相手には構って欲しい、褒めて欲しい。そんな奴誰からだって“鬱陶しい”って思われて当然だろうが! お前みたいに根暗で、ボソボソ喋って、何もハッキリしない様な奴! そりゃ両親からだって呆れられるよ、お姉ちゃんやお兄ちゃんだってお前を“見限る”よ! 皆の方が優秀で、駄目なお前に声を掛けてやってもろくに反応しない! なら親だってお前以外を褒めて当然だろ!』
地面に転がった俺に対して、相手は更に蹴りを叩き込んで来た。
サッカーボールみたいに吹っ飛んで、倒壊寸前のビルに突っ込んだ。
だというのに、相手のラッシュは途切れずに。
『“スマッシュ”!』
スキルまで使用され、こっちの身体はビルを貫き、反対側に突き抜けた。
まだ地面にすら落ちていないというのに、追って来た相手は空中で大盾を振り上げ。
『もう死ねよ! お前なんか大っ嫌いだ! 視界に入るだけでも気持ち悪いんだよ!』
その攻撃を、真正面から受けた。
急降下どころではなく、冗談抜きにアスファルトに身体がめり込んだ。
しかし物理防御にステを振っている俺の身体は、その攻撃にすら耐えてしまう。
けど……やっぱり痛い。
ゴホッとむせた瞬間、口から血が溢れたくらいに。
なのに向こうの怒りは収まらず、そのまま降って来てこっちに跨ったかと思えば。
『ダサいんだよ! 最初は家族だって皆気に掛けてくれてたのに、全部俯いて聞こえないフリをして! 学校でもそんな事ばっかりで、イジメられても反論の一つでもしないでさ! 今度は引き籠って、それでゲームを始めたら“自分を作る”って何!? 本気でダサいよ!』
「やだ……もぅヤダァ……」
『そうやって泣いてれば、“仲間”が助けてくれるとでも思ってる訳!? お前は“トトン”で、元々は皆と一緒の男子って設定じゃなかったのかよ!? そんな“嘘”さえ突き通せないなら、今すぐ止めちゃえよ! 意気地なし! バレたくないのに知って欲しいとか、本気で気持ち悪いんだよお前!』
また、攻撃のラッシュ。
連続で大盾を叩きつけられ、鎧なんかどんどんボロボロになっていく。
一生懸命作ったのに、頑張って強化したのに。
皆と一緒に居ても恥ずかしくない装備にしなきゃって、凄く……想いを込めて一から作ったのに。
『本当はいつも不安そうな顔してて、目なんか普段半分くらいしか開いてない不細工で! 顔を隠すみたいに前髪伸ばして、胸なんか今よりペッタンコの癖に! 無駄な所で無駄な見栄張ってキャラ作って、クウリに合わせて男のフリして仲良くなろうとして! それで自分を愛して欲しいとか……マジで、反吐が出るよ。格好悪い』
吐き捨てる様に言い放ってから、思い切り相手の盾が腹に突き刺さった。
口からはこれまで以上の血液が溢れ、もはやむせ込むどころか吐いている様な状態。
コレ……不味い、内臓……潰れたかも。
今ダイラは居ないから、どうにか……ポーション。
ポーション、飲まなきゃ……。
『させる訳ないじゃん……PVPで、敵の目の前で回復する馬鹿がどこに居る訳?』
一瞬だけ目を閉じて、すぐに取り出した回復ポーション。
けどソレは、相手の足に蹴っ飛ばされて視界の端に転がっていった。
『一人じゃ、本当に何も出来ないんだね。知ってたけど』
「ぅ、うぐっ……グスッ」
『パーティ皆年上で、男のフリして絡めば仲良くしてくれて、その上甘やかしてくれるもんね。今まで見て来た現実の同級生達とは全然違って、ちゃんと構ってくれるもんね? あの空間が心地よくて、自分は認めてもらってるって勘違いして。現実から目を背けたまま、自分は不幸なんですって雰囲気まで出して。ホントだっさいよね……イジメられて、ただ登校拒否してるだけの引き籠りで。なのに皆にも本当の事を言わない“嘘つき”の癖に』
「や、だ……もぉ、ヤダ……」
『そうやって、いつまでも泣いてれば? 本気で気持ち悪いよ……お前。もうずっと俯いてろよ、不細工な顔を周りに見せるなよ』
それだけ言って、相手は大盾を振り上げた。
ごめん、皆。
俺、ここでリタイアかもしんない……。




