第217話 反発
「み、皆~? どこー? えぇと、これって……やっぱ、もう“個人戦”始まってる? ねー! 無理なんだけどー!? 俺に攻撃系スキルなんてほぼ無いよ!? 普通に考えたら、どうやって戦えば良いのさ!」
無駄に荒れ果てた街並みの中に立ち尽くし、ひぃん……と泣きそうになりながら叫んだ。
ねぇコレ無理じゃない? 本来ならエレーヌが一緒に来てくれるイベントなんでしょ?
確かにあの人が居れば百人力というか、ほぼ勝ち確のエンディング序章みたいになるのかもしれないけど。
俺だけじゃ絶対無理だってば!? 倒せる訳無いじゃん!
適当な雑魚モブに囲まれただけでも、やられはしなくても討伐は出来ないよ!?
時間制限とかあって、プロテクションの中に引き籠っていればクリアなら良いけど。
絶対違うよね? 何かが出て来て、倒さないといけないんだよね?
もぉぉぉ! これは完全に“詰み”だってばぁぁ! 進行不可! バグですって運営にメール送ってやる!
などと、ひたすらに悲鳴を上げていたのだが。
『一人になった瞬間、コレ。本当に、見ているだけでも嫌になるよ。本気で雑魚、人として終わってる』
「うんそれは知ってる! ていうか誰!?」
声の聞こえた方向へと振り返ってみれば……瓦礫に腰掛ける様にして、こっちを見つめている人が居た。
その恰好は……なんか、こう。
「その恰好は……どうかと思うなぁ」
『ソレ、自分で言う?』
一瞬本気で理解出来なかったけど、そこに居たのは俺のアバターと一緒の見た目の人。
でも色が違って、何か褐色銀髪だけど……。
「なんと言うか、そういう色合いにすると余計フェチっぽいんだけど……」
『どうしてこんな見た目と格好にしたのか、自分で忘れたの? 皆からは記憶力が良いなんて言われてたのに、それすら駄目になったら……本気で、良い所無くなるね?』
うぐっ!? と苦い声を上げてしまった。
いや、うん、大丈夫……覚えてます。
というか、情けない理由過ぎて忘れる事なんか出来る筈がない。
『最初はもっと普通だったもんね? でも何をやっても駄目で、上手くいかなくて。段々声を掛けてくれる人も居なくなって。ゲームの中なのに、いつも一人ぼっちになって。だから“サポーター”になれば、凄い人にならなくても誰かが声を掛けてくれるかもって。そんな理由で補助術師を始めたんだもんね?』
「う、うるさいなぁ……」
なんか、見た目の話をしていた筈なのに違う事までズバズバ言って来るんだけど。
多分このイベント、2Pカラーの自分自身と戦うって事なのだろう。
そしてゲームであった時なら、単純にステータスの完全コピー。
ただそれだけだった筈なのに、現実になってしまったからこそ……“自分そのもの”をコピーされている。
だからこそこうして話しかけて来るし、記憶まで共通のモノを持っているという訳か。
レイドボスが話しかけて来たりっていう、ゲームとリアルの差異がこんな所でも発生しているんだと思う。
『それで少しは仲間に入れてもらえる事が増えたのに、性格のせいでいつも最後には一人になる。だったらキャラクターの見た目だけでも話のネタになる様に、というかそれだけの為に新キャラ作ったんだもんね? あんな恥ずかしい名前まで付けて。構ってもらいたくて必死過ぎ、気持ち悪い』
「本当にうるさいなぁ!? でもそのお陰で、初対面でもふざけて声掛けて来た人も多かったもん!」
『現実だったら、そんな事されても怯えるくせにね? ゲームの中でしか、こんな事出来ないもんね』
「っ!」
相手の言葉に、グッと唇を噛みながら怯んでしまった。
確かに、現実だったらこんなふざけた格好出来ないし、元々のキャラネームみたいな名前を名乗ったり出来る筈も無い。
だって、“大淫乱お姉さま”だもんね……ただの変態じゃん。
いやぁ、今思い出しても馬鹿だなぁって思うけど。
でもそれくらい吹っ切ってしまった方が、他の人から構って貰える事が多かったのも確か。
知らない人達と組む事になっても、プレイヤーネームを見るだけで笑ってくれたし。
慣れている訳では無いけど、他の人が言って来る下ネタとかに軽く合わせていれば、浅い付き合いだとしても結構続いていたし。
まぁ、クウリ達と組んでからは……もはや後悔しかないけど。
だってこの名前でランカーとして登録されたし、羞恥しかない。
服装に関してだって、普通の物にしようとすると皆揃って……。
「無理しなくても良いんだぞ? そういうのが好きなら、俺等は気にしないから」
なんて、逆に気を使われてしまった程。
もはや後に引けなくなり、完全ネタキャラで突き進んで来た訳なんだけども。
『でも、根っこの部分は一緒かもね? 自分に自信が無くて、だからせめて見た目だけでも気を使ってみたり。それで相手から声を掛けてもらうのを、ソワソワしながら待ったりして。でも逆にソレが原因で、何回失敗した? 他人から好かれそうな恰好はするくせに、声を掛けてもらうとビビッて逃げ出す。何をやっても中途半端、でもそれくらいしかないんだもんね? 実力じゃないも得られないもんね』
「う……ぐ」
『ゲームって良いよね、全部嘘がつけるんだもん。普段なら絶対しない様な、こんなビッチみたいな恰好をしても本当に襲われたりしないし。リアルの顔がバレる訳でも無いから、“それっぽい言葉”さえ吐いていれば、相手が勝手にこっちのキャラを想像してくれる。そして何より……』
煩い、煩いよ本当。
俺と同じ顔で、同じ声で。
全部知ってますみたいな顔しながら、俺の事を語らないでよ。
そんなの全部分かってるんだよ、今更言葉にされなくたって知ってるんだよ。
あのパーティで一番“中途半端”なのは俺で、多分トトン以上にリアルの事を知られたくないのは。
直接話したり、実際に顔を合わせたりなんかしたら……今後関係性が変わってしまいそうで。
それを本気でビビっているから、“帰りたくない”なんて言い出した弱虫。
皆にもずっと隠している、俺の秘密は……。
『ゲームのボイチェン使ってれば……私が“女”だって、バレないもんね? ネカマプレイヤーを演じてるフリをすれば、皆悪乗りに付き合ってくれるもんね? というか……皆“に”合わせられるもんね? 変に気を使われる事も無ければ、トラブルの原因になる事も無い』
「う、うるさぃ……」
『今の環境だと、本当に過ごしやすいでしょ? 一番仲の良かった皆が、全員女の子になっちゃったし。自分も皆と一緒だよって嘘をついていれば、私にとってこの身体は“普段通り”だもんね? そうやっていれば、もう仲間外れにされる事も無い』
「もう喋るなよ!」
叫びながら、攻撃の為のアイテムを使った。
爆竹みたいな見た目の、初級ステージなら多少は使える程度の道具。
そんな物を相手に向かって投げつけたのだが……俺に投擲能力なんて皆無。
明後日の方向へ飛んで行き、相手からも遠いところでパンッ! と音を立てて弾けた。
『こんな物でさえ、ちゃんと使えない。何をやらせても駄目、求められる事が何も出来ないグズ。リアルで見てくれだけ整えても、それを特徴にも武器にも出来ない優柔不断』
「だから、煩いってば!」
ヤケになって大量のアイテムを取り出し、それらを相手に向かって放り投げてみれば。
『“プロテクション”』
敵は座ったまま、つまらなそうな顔で魔術防壁を展開した。
まぁ、そうだよね。
だって俺の得意分野、ソレだもんね。
『ねぇ、教えてよ。こんなに何も出来なくて、嘘つきで。そんな自分が、皆の隣に居る資格ってあるの? あっちも嘘、こっちも嘘。でも好かれたいから、皆に合わせてキャラクターを演じる。それってさ……“私”である意味、ある? 他の人でも代役が務まるんじゃない?』
「本当に黙ってよ! 戦えよ! そういうステージなんだろ!? なんで戦わずにお喋りばっかりなのさ! もう“俺”となんか、話したくないよ!」
『ホラ、また逃げた。でも良いよ? 戦ってあげる……“プロテクション”』
え? と声を洩らしてしまった。
戦うと言いながら、今使ったのは魔術防壁。
なら、こっちにダメージなんか無い筈――
「がっ!?」
『皆から、何を学んだの? 全然駄目、やっぱり私は役立たず。仲間が環境を整えてくれないと、指示をくれないと何も出来ない。もう、居ない方が良いんじゃない?』
無色透明の魔術防壁、プロテクション。
本来コレには攻撃力なんてモノは無い。
けど今は、現実なんだ。
俺の目の前に防壁を張ってから、背後にもう一枚防壁を作って来た。
そしてそのまま“壁”を移動させ、こっちの身体を挟み込んだみたいだ。
結果、二枚の壁に挟まれる俺。
そしてそのまま、防壁の距離が縮まっていけば。
「あぁぁぁぁぁっ!?」
『ねぇ、このまま死んで? 私も、私を見ているのが辛いの』
非常に単純な、リアルだからこその使い方。
圧迫された肺から酸素が抜けていき、そのまま押しつぶされそうになる身体は痛いなんて表現じゃ生ぬるい。
しばらくすればベキッとか、ボキッとか嫌な音が響き始め。
これまで味わった事もない激痛が身体中を襲って来る。
「ヒ、“ヒール”……」
『馬鹿じゃないの? 潰され続けてるのに、身体を治せばまた骨が折れる所からだよ?』
こっちの回復魔法で、無理矢理身体が修復されていくが。
相手の言う通り、また鋭い痛みが全身を襲って来る。
無理だよ……コレ。
俺なんかじゃ、一人で敵に勝てる訳無いよ……。
なんて、ゲームの時だったら諦めていた事だろう。
けど。
「イ、インベントリから……装備、変更……」
『今更何を出した所で、適当なアイテムじゃ防壁を破れない。自分で分かるでしょ? 相変らず、パニックになると正常な判断もろくに――』
「“シューティングスター”!」
『っ!?』
普段クウリが使っているスキルが、前後の防壁を完全に破壊した。
着弾時の爆発で、こっちにもノックバックが発生して見事に吹っ飛ばされたが。
それでも、また回復スキルを行使してからすぐに立ち上がった。
「ステータスが同じNPCが相手なら、勝敗を分けるのはアイテム……ホント、クウリは事前準備が上手いよ。俺も見習おうって思ってるのに、なかなか上手くいかない。初めてのステージだって、こうやって“最悪”を予想するんだから……」
『……インスタントマジック』
相手が顔を歪めながら呟いたところで、こっちは指に嵌めていた指輪が一つ壊れた。
あ~ぁ……コレ、トトンが本気で強化したアクセな上、いざという時の為にインベントリにストックしていた物なのに。
預かっただけの身で、壊しちゃった。
でも、流石だよ。
本気のトトンの“鍛冶スキル”なら、クウリの魔法をコピーしても、三割減くらいの威力を叩き出せるんだから。
まさに、ゲーム上“ぶっ壊れ”。
もしもお金と必要素材度外視で、コレを惜しみなく使った場合。
俺達のパーティは間違いなくチーター扱いだった事だろう。
「預けてくれたトトンに悪いから、出来れば使いたくなかったけど……ごめん、また頼らせてもらうね」
『どこまで行っても他人任せ……そんなだから、いつまで経っても変わらないのに。残り九つ? 良いよ、使いなよ。全部防いで、そんな貴重なアイテムを無駄にしたって現実に押し潰されれば良いよ。皆に合わせる顔なんか無いって、そう思いながら死になよ』
相手の言う通り、こちらの指には全て指輪が嵌っている。
そんでもって、一個壊しちゃったから後九つ……けど。
「絶対に……勝つ!」
『一人で何も決められない優柔不断の癖に。格好付けても恥かくだけだよ? 皆みたいに上手くいく訳が無い。だって……“私”だもん』
「それでも、勝つ! こんな“俺”でも、皆頼ってくれたもん! 必要だって言ってくれたもん! だったらせめて、その言葉には意地でも応える!」
『雑魚の癖に……』
「だったらお前だって雑魚だ! 皆の魔法を借りて来た今の俺が、負ける筈なんかない!」
そう叫んでから、次のインスタントマジックを準備するのであった。
こっちは回数制限あり、本来の皆のスキルより弱体化しているとはいえ……仲間達の力を借りているのだ。
だったら、負ける訳にはいかない。
例え相手が、“絶対防御”なんて言われた自分自身だったとしても。
でも弱点だって、もちろん知っているのだ。
だって、“自分自身”なんだから。
こんな奴に……負ける筈ない!




