第215話 挑戦
それから暫く、皆で話し合ってはみたものの。
やはり予想は予想でしかなく、結局イベントを発生させてみないと分からないという結論に。
とはいえ、試しに一人ずつ踏み込む真似など出来る筈もなく。
少しだけ時間を作って、ひたすら下準備を整えてから。
「全員、インベントリはある程度整理したな? もしかしたらこのまま無理矢理団体戦に持ち込める可能性もある。けどどういう原理かは知らんが、ガチの個人戦になった場合……ステータス完コピエネミーに勝てるとすれば、アイテムだ。回復はもちろん、攻撃用のアイテムもすぐ取り出せる位置に整理したな?」
此方の一言に、皆頷いて見せるが……あと一つ、懸念があるのだ。
もしもココが最奥というか、目的地だった場合。
踏み込んでイベントが発生したところで、“夢が覚める”恐れがある事。
メールでは可能性は低いと分かっているが……あくまでそれは“プレイヤー”に対しての情報。
そしてコレが発生した場合はガチで最悪。
北の門にアクセスするやり方すらまだ判明していないのに、俺は仲間達を失う事になるのだ。
上手くいけば、一時的……にはなるかもしれないが。
だが再度“転生”というイベントを繰り返した場合に、皆がどうなるのか。
これまで共に旅して来た記憶が残っているとも限らないし、もしかしたら“こちら側”に来た時と同じ状態で再召喚される様な状態になるのかも。
だとしても、俺は皆を受け入れる……が。
それはつまり、“こっち側”に来てからの仲間達は……“無かった事”になってしまうのだ。
もしもコレが現実になった場合は。
正直、冷静で居られる自信はない。
そして何より、どの可能性もまだ“出来る”と決まった訳では無いという不安要素も付きまとう。
「すぅぅぅ……」
思い切り息を吸い込み、どうにか気持ちを落ち着かせようとするが。
なかなかどうして、小心者の俺の心はいつまで経っても冷静にはなってくれず……。
もしかしたら、俺一人で踏み込んだ方が良いのかもしれない。
いやその場合は、ストーリー通りエレーヌは連れて行っても問題無いのか?
しかし皆の存在が、俺の存在ありきでこの場に残っているだけなのだとしたら。
俺が物語を進める事で、結局同じ結果に陥るのかもしれない。
なんて、色んな思考がグルグルと巡っていると。
「クウリ、早く行こー? ちゃちゃっと終わらせて、ユートピアオンラインをクリアした初のプレイヤーになろうぜぃ!」
いつもの調子で、トトンが俺の腕にしがみ付いて来た。
「いつまで悩んでいても、結局はやってみないと分からないさ。もしかしたら俺達が正式な“転生者”ではない以上、コピーされるのはクウリだけかもしれないぞ? そしたら……パーティ全員で、お前をフルボッコにすれば良いだけだ」
反対側の肩を叩いて来るイズ。
思わず「おいコラ」とか言いたくなったが……気を使ってくれていると、嫌でも分かる。
「あはは、そうなって来ると警戒するべきは奥義を三つ持ってる事かなぁ。せめてサテライトレイを撃たれる前に、皆で何とかしないとねぇ」
冗談みたいに言い放つダイラも、隣に並んでニコッと微笑みを浮かべた。
あぁ、そうだな。
先の事を考えても分からないなら、進むしかない。
そんでもって、試しにやってみて、駄目だったら次を考える。
その方が、俺等“らしい”って事なのかもしれない。
極振りで少人数のパーティだからこそ、常にトライ&エラーばかり。
こんな事ばかりを繰り返してここまで上り詰め、そして共に旅して来たパーティなのだから。
「最後まで迷惑をかけてごめんなさい……なんて、ここで私が謝るのは違うのかしらね。“これからもよろしく”って、そう言っておこうかしら」
棺桶を下ろして身軽になったエレーヌも隣に並んでから、御自慢の魔剣を肩に担ぐ。
「各々準備はよろしいかな? さぁて、皆で世界の扉から“真理”ってヤツを覗いてみようじゃないか。これは夢の終わりではあるが、夢の始まりでもある。そして私は“夢の黄龍”……是非、観察させておくれ? なぁに、君達の事は気に入っているからね。私の手くらいは、貸してあげるさ」
相も変わらず偉そうな事を言うシュウも、最後に俺達の隣に並んで来た。
さぁ、始めようか。
これだけの面々が揃い、それぞれ覚悟を決めたのだ。
だったらいつまでも、リーダーの俺がビビっていたら話にならないだろう。
だからこそ、笑った。
無理にでも、無理矢理にでも口元を吊り上げ。
牙を見せる様にしながら、悪い顔で思いっ切り笑った。
「ククッ、クハハハッ! んじゃちょっと、世界に喧嘩売ってみますか。転生だ他の世界だ、色々とメンドクセェ枠組みに俺等を放り込んだ事、後悔させてやろうぜ。そのシステム、丸っと良い様に使ってやらぁ」
虚勢を張りながらも、いつも通り杖を肩に担ぐ。
行け、踏み出せ。
未知を恐れず、楽しむ為に。
俺達はプレイヤーで、ゲーマーで。
無理だと思われて来た境地を、何度も潜り抜けて来た面々だ。
だったら今更恐れるな、全て上手くいくと信じろ。
むしろ都合の良い方向に進めるのだと、自らの手で勝ち取るのだと想像しろ。
自分を信じられない弱小野郎なら、一緒に居てくれる仲間達を信じれば良い。
ソイツ等に格好悪い所を見せない為に、俺は馬鹿みたいに笑いながら無理を可能にする術を考える。
本当に、“いつも通り”で良いんだ。
「行こうぜ、お前等。マジで最終ステージだ。個人戦で、しかも自分のコピーだなんて言うのなら……正直負ける気がしないね。運営の組んだアルゴリズムなんぞより、俺達の方が優秀なんだと証明しろ。そしたら……この世界でも間違いなく、俺等はランカーだ。今度は世界そのものに名前を刻むぞ!」
「「「了解!」」」
宣言と共に、俺達は大広間へと足を踏み込んだ。
勝つさ、どんな状況になろうとも。
ここには、それだけの面々が揃っているのだから。
そう思って、胸を張って、堂々と広間へと入った所で。
「……は?」
視界が、“切り替わった”。
周囲には荒廃した“現実世界”の光景が広がっており、夜の空に浮かぶ月は二つ。
やけに輝きの強い白い月と、血の様に赤い月。
瓦礫と化した見知った建築物やら、傾いて今にも倒れそうになっている大きなビル。
いやまぁ、最後の神殿だけ随分SFチックだったから、こういう展開も有りなのかもしれないが。
けど、変化はそれだけに収まらなかった。
俺の周りから、“誰も”居なくなったのだ。
書かれていた設定とは違って、エレーヌの姿さえない。
“こっちの世界”では、アイツもNPCではなくプレイヤーに近い存在。
だからこそのエラーか、それともまだ実装前のイベントだからこそ、何かしらのバグが発生したのか。
色々と不安になりながらも、キョロキョロと周囲を見回していると。
『それで強くなったつもりで居る訳? “あの人”に認めてもらう為に、恰好付けていただけの存在の癖に。ダッサィなぁ……お前』
「……あぁ?」
倒壊した建物の上から、一人。
他に誰も居ない大地で、たった一人だけ生きている存在を見つけた。
そしてソイツは、“巨大な翼”を開いてみせた。
「おいおいおい……コピーすんのは、ステータスだけじゃないのかよ」
そこに居たのは、俺の良く知っている顔と姿。
でも色合いが違う。
まさに2Pカラーって感じで、白銀の鎧を纏っている。
その手には散々苦労して手に入れた記憶のある杖を掴み、意地悪い微笑みを浮かべている性格の悪そうな面。
肌は褐色だし、パッと見の雰囲気はガラッと変わっている様に見えるモノの。
「ハ、ハハ。こういう“ド定番”って言えるコピーイベントも、今じゃ逆に珍しいと言えるのかもな」
『呑気に喋ってる暇があるのかよ? やろうぜ、俺を楽しませろ』
ソイツは更に口元を吊り上げ、牙を見せて笑う。
真っ黒い長髪に、黒い瞳。
だぁクソ。
肌の色は違うのに、その見た目でその色だと、嫌でも誰かさんを思い出すってもんだが。
「まさか本当に、“俺自身”とPVPする事になるとはなぁ? 元々そういうイベントだったかもしれんけど、リアルになった影響で性格やら記憶まで再現してるってか? ったく、やってくれるぜ」
どっからどう見ても、ソイツは俺と同じ姿をしていた。
かぁぁ……嫌だ嫌だ、こんなもん嬉しくねぇよ。
本来のゲーム通りならNPCとしてエレーヌも居る筈だから、その分楽になるのだろうが。
残念な事に、魔女は欠席みたいなので。
『口だけは達者な様で何より。んじゃ、死にな。“プラズマレイ”!』
「上等……テメェこそ俺を楽しませやがれ! “プラズマレイ”!」
両者の範囲攻撃が、互いにぶつかり合って対消滅を起こすのであった。
俺は“俺の攻撃”を防げるような防御スキルなんぞ持っていない。
だからこそ、ぶつけるしかない。
攻める事しか出来ない、頭の悪い攻撃術師だからこそ。
『「“シューティングスター”!」』
性格も戦略も同じ御様子で、相手もまた此方と同じ攻撃を放ってくる。
こりゃマジで……結構苦戦するかもしれねぇなぁオイ。
皆の方は、本当に大丈夫だろうか?




