第214話 情報の欠如、未知の領域
そこにあったのは……遺跡、っていうより……やっぱ神殿?
何か古代の建物風なのに、そこら辺全体がボウッと青く光っているというか。
よく分からん文字なんかもびっしり書かれており、雰囲気的にはゲームあるあるのSFチックな古代遺跡のステージって感じ。
正面の門を盛大にノックしてお邪魔したというのに、玄関を潜ってみれば中は静かなものだったが……。
「ここが北の門の内部……って事で良いんだよね?」
キョロキョロしながらも、トトンがその辺の壁なんかを触っている。
今の所エネミーの出現も無いし、何かに触れたからといって、警備システム的なモノが作動する様な様子も無し。
以前お邪魔した遺跡よりも、随分と平和そうな雰囲気が漂っているが……果たして。
「全員警戒を怠るなよ? マジで何が出て来るか分から――」
全体に警戒を促そうとした時。
俺の視界にあるシステムメニューから、ポポポポン! とばかりに、鬱陶しい程の通知音が。
思わずビクッと震えてしまい、一瞬で仲間達からの注目を集めてしまった。
「クウリ? どうした」
「す、すまん。ちょっと待って、お知らせ……かな? めっちゃ一気に通知が来た。北の門に着いた影響かも」
イズに声を返しつつも、お知らせのメールメニューを開いてみると。
そこには、新たに送られて来た多くのメールと、以前はデータが破損していたメールが復元……というか、改めて送り直されている御様子。
一旦通知が落ち着くまで待ち、改めてソレを確認してみれば。
「多すぎだろ……流石に」
「あ~結構大量に送られて来た感じ? それじゃ、しばらくココで待機する? 外で戦ってくれてる皆には申し訳ないけど……」
そんな声を上げるダイラは、少々気まずそうに今しがた閉じた玄関扉へと視線を向けた。
その向こうでは、未だにノーライフキング達と砂の海賊が戦っているのだ。
だからこそ、あまり時間を掛けるって訳にもいかなそうだよな……。
「いや、少しゆっくりめに進もう。俺はこっちを確認しながら進むから、皆警戒強めで頼む。今必要無い文章だった場合は後回しか、ある程度読み飛ばすからさ」
呟きながらもいくつかメールを開き、目の前に現れる文章を横目に見つつ足を進めた。
そこに書かれていたのは……何というか。
これまでアイツ……“トレック”が、どれだけ俺達みたいな奴等に手を貸そうとしていたかの証が残されていた。
この世界は何なのか、自分達の元の存在はどうなったのか。
そして転生そのものや、世界の仕組みについて、彼が知る限りの説明などなど。
今となっては、もう本人から聞いた様な内容だったり、当時の考察としては少々食い違いがあったのか。
ちょっと疑問に思ってしまう様な個所は見受けられたが……それでも、俺達プレイヤーに可能な限り情報提供しようとしているのがよく分かる。
更に言うなら、“北の門”に辿り着かないとメールが受け取れないという事も最初は理解していなかったのか。
まさにスタートダッシュボーナスと言える様な金や、プレイヤー達が有利になりそうなアイテムの数々。
それらを、“運営”の力を使ってこれでもかって程送りつけられたりもしている。
こればかりは、流石に笑ってしまったが。
だがこれらを見たり、受け取ったりしても。
これまでの転生者が“クリア”まで辿り着けなかった理由、それが……この先。
世界そのものと関わった事により、プレイヤーが“夢から覚める”瞬間が訪れるという事例。
文章を見ている限り、“招待”を受けてこの地に来たプレイヤーに関しては。
それこそアニメなんかに出て来る、“異世界主人公”ってヤツに近い能力を貰っている可能性さえあるみたいだ。
何でも一人で出来てしまったり、ゲームの時以上に自由度の高い能力の数々。
もしくは……俺みたいな、“誰か”を求めてしまったりと色々。
そして最終的に、ココでその“夢”が覚める。
つまり、これまで頼っていた力や存在そのものが全て消え去ってしまった訳だ。
残るのは、ゲームの時と同じくキャラクターの能力のみ。
これだって相当な物だとは思うが、これまでそれ以上の何かを持っていた人間からすれば、このマイナスはかなりデカイ。
純粋に力を求めた人達なら、分かりやすく個人の戦力ダウン。
こっちは極振りキャラ複数人だというのに、北の門に辿り着くまでアレだけ苦労したのだ。
もしもゲーム時代の能力値以上のモノがあり、ここで剥奪なんて事になったら……それこそ、帰り道だってかなり苦労する事だろう。
苦労、で済めば良いが。
この建造物を守る様に湧きまくっていたエネミーを考えると、正直“一人”では帰れる気がしない。
でもこれまで頼っていた力は、世界からの一時的な優遇措置。
要はチュートリアルの様なモノだったと考えると、文句が言える筈も無い。
というか、文句を言う相手すら居ないという訳だ。
しかも……俺の様に、“誰か”を求めた人物だった場合。
ここまで一緒に来た仲間を、もしくは大事な人を。
この場で、永遠に失う事になるのだ。
こうなってしまえば、もはや生きる意味を失ってもおかしくはない。
現に、もしも。
もしも何も知らずにここへやって来て、いきなり全てが取り上げられた場合。
俺は全てに絶望したまま、この地を去る事すらせずにココで朽ち果てるのを待っていたかもしれないのだから。
「クウリ……どうだ? まだ調べる時間を置いた方が良いか?」
「ちょぉっとこれは、調べものしながら進める雰囲気じゃないっぽい」
「事前情報が何か見つかりそうなら、ちゃんと休憩してからの方が良さそうだね……」
仲間達の声に、一旦視線をメールメニューから外してみると。
俺達の前には、随分と広い空間が広がっている。
そしてその中央に、青く輝くデカいルービックキューブの様な物が浮かんでいるではないか。
いやぁ……うん、見ただけでも分かるね。
何かのイベント部屋か、もしくはボス部屋だわ。
踏み込んだら即座にムービーとか始まっちゃうヤツでしょ絶対。
という事で、仲間達には一旦待機指示。
今必要な情報以外は全て読み飛ばし、北の門内部に関する情報を探していけば……。
「やっぱ、ラスイベだなこりゃ……あのキューブに触れる為に、最後の試練みたいなイベントが発生するっぽいわ」
まとめて送られて来たメールの最後の方。
北の門攻略について書かれているモノを見つけ、その文章を読んでいたのだが。
「だけど……ちょっと分かんないなコレ。少なくとも、踏み込んだだけで“夢が覚める”って現象にはならない事が分かった」
書かれていたのはステージの詳細や、開発の情報などなど。
普通ならプレイヤーが読む事は出来ないであろう資料の数々な訳だが……どれも、“ゲーム設定”に過ぎないとしか思えない内容なのだ。
というのも。
「挑んだプレイヤーのステータスを完コピした相手が出て来るみたいだ……しかも、ここで求められるのは個人戦」
「一人ずつ踏み込まないといけないという事か?」
不思議そうに首を傾げたイズに対して、こちらは首を横に振るしか無かった。
だってこれ……“リアル”になった場合どうなるのか、それが書いてないのだ。
「いや、そうじゃないみたいだが……でも、プレイヤー一人一人が対処する必要あり。しかも……ここまで協力して来たNPC、エレーヌ・ジュグラリスを連れた状態での戦闘になるって……」
「私? どう言う事?」
この先、“最後の試練”に関しては。
ゲームマスターである筈のトレックも観測出来ない様な事が起こるのか、過去の人物達がどうであったのかが書かれていないのだ。
こうなる可能性がある……みたいな、予想の様なモノは綴られているにも関わらず。
「あー、えぇと。もしかしてアレかな? ゲーム通りならプレイヤーは、個別でエレーヌと二人組になる状態で。尚且つコピーされたプレイヤーと同等の力を持ったエネミーと戦う事になる、みたいな。それこそ回復職の俺みたいなプレイヤーだった場合は、そうじゃないとクリアできないもんね」
コレか! とばかりにダイラが呟くが、確かにそういう設定だったのかもしれない。
相手がどんな状態で現れるのかは知らんけども、確かにダイラの能力をコピーして戦闘が始まった場合。
本当に個人戦だった時は、はっきり言って無理ゲーも良い所。
攻撃手段がほぼ無しの状態では、どうやってボスを倒せというのか。
多人数でやるネットゲームな訳だし、時間制限付きで耐えきればクリアとか?
しかしまだ謎が多いのは確か。
「けどその場合、今ってどうなる訳? エレーヌが大量発生する訳も無いし。そもそもこれまで北の門に辿り着いた人たちは、エレーヌを連れていなかった状態だよ?」
「だな……その場合は、フラグ未達成となり何も発生しないとか? いや、シュウの話だと“夢”は覚めた状態になっていたのだろう? だとすると、ここに辿り着いた事で運営からのメール受信と、“結果”だけは訪れたという事か?」
そういう場合もあるかもしれない。
実際ネトゲでも、フラグを見落としたまま現地に訪れても、この空間があるだけ。
アップデートされているからこそ、場所自体は存在するがイベントは発生しない……なんてのも、他のゲームでは見た事がある。
でもその場合は、プレイヤーとしては“事実”を知る代わりに、これまであった大事な何かを失うだけ。
そりゃ絶望しかないかもな……。
だとしたら、ココに辿り着く前に“事実”だけを知る為、中間地点を作ろうとしたプレイヤーが居たというのも理解出来るが……少しでも長く、“夢”が続く様に。
しかも本物の北の門に触れない事で、“情報”としてだけこの事実を手に入れられる様にする、みたいな。
「だがこのステージが“ユートピアオンライン”のラストで、最終的な報酬の様な物……は何かしらあるだろうが。“分かりやすい報酬”ってのが無いイベントなのかもしれない。そうなって来るとこのステージの目的は、魔女が関わった物語を終わらせる事。その後エンディングが流れて~って状況なら……」
「待って、本当に。さっきからいったい皆何の話をしているの? どういう状況を予想しているのか、それすら私には分からないわ」
混乱した様子の魔女が、俺達の会話に無理やりにでも入って来ようとするが……。
本当に俺達の予想通りだった場合、これまでのプレイヤーは何も得られず、失っただけで北の門を去ったという事。
だがそのフラグを踏んだ俺達でさえ、何かが得られるという確証が無い。
賭けにも近い形で、この世界……というかユートピアオンラインだからこそ存在する、世界全体と繋がるような施設。
つまり北の門にアクセスし、仲間達に“招待”を送る。
本来無意識的にしか発生していない“転生者の権限”とも言えるソレを、意図的に発動させようとしている訳だ。
こりゃまた……ここに来て、また一つ厄介な事になってしまった。
だってつまり、この先発生するイベントに関しては、完全に“先人”が居ないという事になるのだ。
事前情報無し、僅かでも過去のデータがあれば予測くらいは出来るのに、本当に行き当たりばったりでソレすら無し。
しかも……これから求められる可能性があるのは、“個人戦”。
パーティ単位でしか機能しない俺等の、一番苦手な項目と言って良いだろう。
そしてストーリー上発生する筈だった、魔女とのバディイベント。
これが物理的に不可能になる可能性があると来た訳だ。
もっと言うのなら……ゲーム設計時と違い、今は現実のものとなったこの世界。
いよいよどういう状況に陥るのか、俺達だけでは予想がつかない。
「これはお前の為に作られた世界。だからこそ最後に待っているのは、お前の願いが叶うというエンディング。でも今の俺達には、そのエンディングはただの“物語”だったと分かっている状態。遊びじゃなくて現実のもの、結局は何も救えていないって分かっているからこそ、選ぶわけにはいかない選択肢って訳だ」
「けど、そもそも私の願いを叶えるって……」
「お前の願い、思い出せるだろ? 俺達と出会うまで、というかついこの前まで。お前は何を望んで北の門を目指していた?」
そう告げた瞬間、魔女はハッとした表情を浮かべてから……背負っていた棺桶を、その場にガツンと乱暴に投げ捨てた。
「本当に……最後まで。どうしてこんなはた迷惑な事をする相手に惚れたのかしら、元の私は」
「そう言ってやるなって……俺等にとっちゃ、それこそ“ゲーム”だったんだから」
この世界のエレーヌ・ジュグラリスにとっては。
元々敷かれていたレール、というかこのストーリーは無用な物となった訳だ。
ただそうなって来ると……マジで、どうなるんだ? コレ。




