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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
1章

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第21話 前衛、イズ


「何だ、お前は……さっきのチビもそうだが、やる気があるのか?」


「生憎と、まだ攻撃指示を貰っていないのでな」


 相手の剣を受け流しながら、とりあえず時間を稼いだ。

 トトンとクウリの装備替えが終われば、本格的な戦闘が始まる。

 であれば、俺は今タンクの役割りだ。

 だからこそ、とにかく時間を稼ぐ事だけ考えれば良い。

 しかしながら。


「チッ、安物め……」


 さっきから、ギシギシと長剣が嫌な音を立てていた。

 流石にボス相手にこの装備は無謀だったか?

 攻撃力という意味合いなら、キャラクターの素の能力とスキルでどうにでもなるが。

 耐久性に関しては、どうしても武器に依存する。

 だからこそ、このまま防戦一方というのは不味い。

 などと思いつつ、舌打ちを溢した瞬間。

 相手はニッと口元を吊り上げた。


「何を笑っている、ラム肉の分際で」


「ラム……なに?」


「頭に来た、殺さない程度で攻撃に転ずる」


 敵の攻撃をギリギリで回避しながら、一気に懐に飛び込んだ。

 大きい、非常に。

 普通こんな化け物みたいな奴が居たら、男の頃でもビビっていただろう。

 しかしながら今は、俺が作ったキャラクター“イズ”。

 だからなのだろうか? 口元が吊り上がるのを感じる。

 だってこのキャラは、俺が使っていた大豆豆という女の子は。

 竜にだって平然と切り込む前衛だったのだから。


「スキル……は流石にダメか。そのまま、斬り込ませてもらう」


「小娘っ!」


「小娘かどうかは、剣を見て判断する事だ」


 相手の次の攻撃が来る前に、五回ほど攻撃を叩き込んだ。

 切れ味が悪い、相手の毛皮も固い。

 しかしながら、力押しで無理矢理刃を通した。

 結果、色んな個所から出血し始める魔族。


「ク、クハハッ! そんなものか? 魔族。この程度の武器で、負傷を負うか」


「き、貴様……」


「この状態の俺一人に苦戦している様では、話にならないな。そしてどうやら……向こうも準備が終わったらしい。リーダー、どう料理する?」


 フッと笑い声を上げつつ、視線を向けた先には。

 何やらもっさりとした恰好の、非常に地味なクウリが変な杖を構えていた。

 何その恰好、動き辛そう。とか思ってしまったのは心の中に仕舞っておいて。


「イズとトトンは位置を交代、緊急時のみスキルを許可する! イズはマジで素の能力、トトンはパリィのみ使用許可! ダイラはローヒールとロープロテクションメインで、初期スキルは使用可! 誰かが死んだ場合は“リザレクション”もOKだ! そんでもって俺は……初期攻撃魔法と、スキルは“ストーンバレット”のみ。いけるな? お前等」


 また、とんでもない事を言いだした。

 でもまぁ、これまでの戦闘で俺達は常に“やり過ぎた”。

 だからこそ誰の目も無い場所で、今後の為に練習をするなら。

 これくらいの“縛りプレイ”の方が丁度良いのだろう。

 安全の為に鎧などの装備はそのままにして欲しかった気持ちもあるが……アレらも、攻撃力の向上効果があるからな。

 それさえも取り去って検証しようとしているのだろう。

 これからこの世界で、この世界の物を使って生きていくのなら。

 あまり装備にばかり甘えていられないのは確かなのだから。


「了解、リーダー。やってみようか、“普通の戦闘”というものを」


 それだけ言って、トトンと場所を交代した。

 随分と軽装になったトトンは、みすぼらしい大盾を振り回し相手の攻撃を防いでいく。

 それでも全く押されている雰囲気を感じないのは、流石という他あるまい。

 そして。


「お前等、タイミング合わせろよ!? “ストーンバレット”!」


 クウリが距離を置きながら横から飛び出し、石礫を相手の顔面に連射していく。

 初期の初期、本当に初心者が多用する様な牽制スキル。

 それでも、相手には十分な効果が発揮されている様だ。

 まぁ、小石が物凄い速度で飛んでくるのだ。

 痛くない訳が無いか。


「怯んだ! イズ、行け! ダイラはサポート!」


「了解だ」


「えと、ローヒールとロープロテクションメインだから……何かあった時にしか対処出来ないからね!」


 怯んだ相手の元へ即座に攻め込み、長剣を叩き込むが……やはり、切れ味が悪い。

 素の能力があっても、コレだけボロボロの長剣ではまともな斬撃は繰り出せないか。

 などと思っていれば。


「っ!」


 相手の平手が、俺に向かって迫って来たのが分かった。

 三メートル近い化け物、しかも筋肉隆々。

 こんな奴の平手など、普通の人間が食らったどうなるか分からない。

 なんて、思っていた俺の前に。


「“ロープロテクション”!」


 ダイラが作った魔術防御が、斜めに展開された。

 それに沿う様に、相手の平手は俺から逸れていった。

 そう、コレだよ。

 誰も彼もが、何かしら特出した能力を持っている。

 普通ならただプロテクションを張り、防御だけで済ませる所を。

 ダイラはあえて角度を変え、相手の攻撃を止めるのではなく“空振り”させる。

 その際に出来た隙は、非常に大きい。


「攻め込む!」


 振り抜いた腕の下、脇へと両手の剣を連続で叩き込んだ。

 急所も急所、脇の下なんぞぶった切られれば普通は血が止まらなくなる。

 しかし相手は腐っても魔族。

 すぐさま剣を振り上げ、コチラに対応しようとして来るが。


「ストーンバレット! 視界遮断! トトン、イズと代われ!」


「あいあいさぁ~」


 クウリの魔術が再び相手の顔面を襲撃し、トトンが敵の剣と俺の間に飛び込んで来る。

 そして、何の危なげもなく。


「ホイッ、パリィっと。ジャスガと同じで、タイミングさえ合わせれば耐久値減少も最小に抑えられるもんねぇ」


 呆気なく、ドデカイ大剣が弾き返された。

 やはり、このメンバーは凄い。

 皆が皆高い水準の能力を持っており、それが組み合わさっている。

 であれば、俺だって。

 あまりサボってはいられないな。


「イズ、連撃! さっきの傷を広げろ!」


「承知した!」


 クウリの指示により、トトンの後ろで両手の剣を構え直した。

 昔から、剣を教わって来た。

 そして色々あって……ゲームやアニメで使う技を真似してみた事があった。

 実際にソレを現実で使う場合、最大限威力が出せる様になるにはどうすれば良いのか。

 そう言った事を考えながら、師範に挑んだ結果。

 勝てたのが、このゲームのスキル。

 本当に、よく考えられているよ……このゲームの剣術は。

 まるで本当にその剣術が使われているんじゃないかって程に、形から応用までしっかりとしている。

 そんな事を考えながら、素の状態で連撃を叩き込んだ。

 相手の脇から、心臓に向けて。

 指示通り傷を広げる形で。


「耐えてみろ、化け物」


 両手の剣を力いっぱい振り回し、例え全身に血を被っても連撃を止めなかった。

 殺せ、ココはそういう世界だ。

 止まるな、殺してからでは無いと、仲間に被害が出るかもしれない。

 だからこそ、相手が動かなくなるまで剣を振り続けてみれば。

 ボギンッ! と凄い音を立てながら片方の剣が折れた。


「チッ! 耐久値が保たなかったか……」


「イズ! スイッチ!」


 クウリの声が聞こえて、相手の攻撃が迫って来たのだと直感的に感じた。

 だからこそトトンと位置を交代する意味で、位置を変えるのかと判断したのだが。

 生憎と、眼球にも相手の血液を被ってしまった俺には何も見えず。

 大人しく後ろに下がった瞬間。


「ストーンバレット!」


 すぐ近くから、後衛であるはずのクウリの声が聞えて来た。

 おいおいまさか、リーダーであり、司令塔である筈の彼がココまで前進して来たのか?

 こんな事、今までにほとんど無かった。

 クウリという人物は、基本“ぶっぱ”。

 だからこそ、遠距離か中距離に居るのが当たり前だった筈なのだが。


「イズは一旦下がれ! ダイラに清浄魔法掛けて貰え! ヤギ羊から変な病気貰うんじゃねぇぞ!?」


 そんな声と共に身体を後ろに引っ張られ、そのまま後衛の位置まで連れて行かれた様だ。

 あぁ、そうか。

 魔族の血を全身に浴びてしまったから、心配になって出て来たのか。

 本当にクウリは、魔王みたいなプレイスタイルを好む癖に、こう言う所では仲間想いだ。

 会話の節々から、ずっと感じていた事だが。

 我が身がアバターとなってからは、本当によく分かる。

 この人は、本当の意味で“リーダー”を担っている。

 ちゃんと考え、ゲームだから、良く分からないからと割り切らず。

 本当に俺達の事を考えてくれている。

 誰よりも率先して、あらゆる可能性を試していく。

 だからこそ、俺は。

 このパーティが好きだったんだ。


「すまん、クウリ。殺し切れなかったか?」


「安心しろ、イズ。このままでもどうせ勝手に死ぬさ。でも、ゲーマーってのは時短が好きだろう?」


「確かに。あまりグダグダする戦闘は、好きじゃない」


「だよな。なら、任せろ。オラさっさと死ねぇ! “ストーンバレット”!」


 視界は未だに戻ってこないが、クウリが初級魔法を連発しながら突っ込んで行ったのが分かった。

 全く、本当に。

 全力なら魔王だけど、こういう縛りプレイをした時のクウリは。

 即断即決で頭の回る、頼もしいプレイヤーなのだから困ったものだ。

 本当に、憧れるくらい恰好良いよ。

 そんな感想を残しながらもダイラに魔法を掛けてもらい、戦闘はクウリとトトンに任せてしまう結果になってしまった。

 俺も、前衛としてまだまだだ。

 リアルでの戦闘となると、返り血にも気を付けないと不味いな……。

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