第208話 寝落ちの詩
昼間、随分と大変な戦闘を繰り返したというのに。
その日の夜、キャンプ地には……でっかい甲殻類を焼いたり煮たりと大忙し。
確かにゲームならエネミーから食材もドロップするし、現地の生物を食おうとするのは生きる上で間違いじゃない。
とはいえソレは、自らの安全が確保された状態か、もしくは他に食い物が無い時にやる事じゃないか?
なんて、思ってしまうのだが……。
「普通に、ウメェし。というか、でけぇし」
デカヤドカリの脚、めっちゃカニだった。
イズ曰く、普通なら貝殻に埋まってる方? を食べるのが一般的なヤドカリの食い方みたいだが。
コイツ等の脚、妙に長かったので。
試しに調理して、関節部分から割ってみれば。
マジでカニみたいに、ズルッと身が出て来たのだ。
最初こそダイラの回復ありきで食べてみる、みたいな感じだったのに。
一口食べてみれば、めっちゃ旨かった。
ついでに言うと、ステータスが見えている俺が試食係を務めたのだが。
これと言ってバッドステータスが表示されたりもしないし、今の所身体に不調も無い。
という事で、毒見を済ませてみれば……皆揃って、ムッシャムッシャと喰い始めたという訳だ。
普通こういうのも、もっと慎重にやるべきなんだろうけどなぁ……。
万能回復役の性女は居るし、食いたいと騒いでいたのは魔女と龍だし。
もうどうでも良いか……俺等の身体も、普通より頑丈だろうしね。
もっと言うのなら、サブ職“料理人”のイズが触れても、食材として認識できたみたいなので。
まぁ、食えるって事で良いんだと思う。
そんな訳で、馬鹿デカいカニの脚をムシャムシャしていたが。
「あ、そうだ。なぁなぁお前等、ちょっと聞きたい事があるんだけど良い?」
ふと思い出して声を上げれば、本日は食っている間だけ物凄く静かだった面々がこっちに視線を向けて来た。
“向こう側”でもカニを食う機会なんて滅多になかったが、これを食っている間だけは皆静かになるってのはどこでも一緒なんだね。
デカいけど。
「俺が“リジェネ”使う時の歌……まぁ俺の場合は鼻歌なんだけどさ。アレの原曲って知らね? 昔に聞いた記憶があるから、多分ちょっと古い曲か、ゲームか何かに使われた音楽なんだと思うんだけどさ」
夢の中で、アイツが言っていた事。
月の魔力の何とやらに使った、“詠唱”とも言える詩。
随分と不思議な事を言われてしまったので、違和感自体は残っていたのだが。
やっぱりアレも夢の内容って事なのか、それとも“こっち側”とはまた違う括りになってしまうのか。
若干記憶からすっぽ抜けたりするんだよな。
小難しい内容に関しては、こっちもガッツリ真剣に聞いているので案外覚えているんだけど。
「俺等で言う所の、“寝落ちの詩”か。そうだな……俺は、聞き覚えが無いかな? そもそも若い頃、あまりゲームなどに触れていなかったのもあるのかもしれないが」
ありゃま、年齢的には俺とそれなりに被っていそうなイズに一番期待したのだが。
お家の事情? それとも本人の事情? で、当てが外れてしまった様だ。
その他二人も首を傾げながら。
「こっちもイズと同じかなぁ~? なんか作業ゲーになってきたぁって時に、ふとクウリが口ずさんでたってイメージしかない。綺麗なメロディだなぁとは思ってたけど、あと聞いてると本当に眠くなる」
ダイラに関しても、やはりイズと同意見の様で。
こちらも首を傾けつつ、はて? といった感じで思い当たる節が無い様だ。
そして最後、トトンに関しても。
「俺はクウリの鼻歌聞いて覚えた! 途中でいつも寝るから、最後まで聞いた事ないけど」
「お前は本当にすぐ寝るもんな……マジで子守歌、俺歌詞すら歌ってねぇのに」
カニの脚に齧りついているちびっ子に至っては、本当に予想通りの答えが返って来た。
やっぱりあの歌、誰も知らないんだよな。
俺としては、子供の頃にやったゲームとか、人気のアニメとか映画の曲だったのかなぁって思っているけど。
ダイラとトトンに関しては、若干俺とは年代がズレているし。
イズはゲームそのものに触れたのが遅かったと言っている。
ゲーム限定で言えば、これはもう分からず仕舞いかなぁって所だが。
こうなってくると、映画やアニメの曲って線も薄いのか。
俺はあんまりそっちに詳しい訳では無いし、それこそ有名どころしか見る機会がなかった。
だからこそ、やけにコアな作品の音楽って事は無いと思うのだが……。
なんて事を思いつつ、チラッと魔女の方へと視線を向ける。
アイツもエレーヌがどうとか、妙な事を言っていたし。
いやでも、流石にコレばかりは外れでしょ。
だってコイツに出会ったのなんか、それこそ“こっち側”に来てからなのだ。
もしもエレーヌが知っていた場合、本当に繋がりというか……時間軸が意味の分からない事に――
「……普通に子守歌よ? 知っていて歌っていたんじゃないの?」
いや知ってるんかい!
キョトンとした顔を浮かべながら、カニを貪っている魔女。
身がデカいからね、もはや丸焼き肉か何かを豪快に食っている様な気の抜ける光景になっているが。
「え……え? どう言う事? クウリが歌ってたアレって、“こっち側”の音楽だったって事? あ、いや……エレーヌが元々別の世界の人で、ユートピアオンラインに関わっているエレーヌはまた別で……あれ? よく分かんなくなって来た」
若干混乱気味になったダイラが声を上げるが、こちらとしても同じような心境。
でもそうなって来ると、本当におかしいのだ。
アイツだって、俺がボイチャオンの状態で適当に歌っていたアレを聞いて、色々“思い出す”きっかけになったみたいな雰囲気だったし。
今思い出すとそれも恥ずかしいけどね?
あのゲームはキャラボイスを決めると、普通の会話でもボイスチェンジャーが掛かるから、結構気軽に適当な事を声に出していたのが裏目に出た様だ。
元々は個人情報漏洩対策とかなのかなって思って、すげーとしか思わなかったけど。
今思えば、“ただ一人のプレイヤー”になる為の第一歩だったのかもしれない。
まぁソレは良いとして。
でもそうなると、当時の俺は完全に“向こう側”の存在だった筈だ。
なのにエレーヌの世界にあった詩を、その時の俺が知っているのは変だ。
彼女のキャラクターをクリエイトする時には、アイツも当時の記憶が無かった様な発言をしていたが……まぁ意識せず組み上げた結果、発表もしていないオリジナル曲を別の奴が歌っていたらビックリだわな。
そしてそれを“俺が知っている”、というのが異常。
実は俺も、昔はそっちの世界の住人でしたー! 知らない間に、異世界転生してましたー! だったら話は終わりなんだけども。
いや、そんな記憶全くねぇぞ。
ある意味今回の“転生”に巻き込まれた原因が、この歌を聞いたゲームマスターを俺に興味を持った。
なら、“招待”される理由にもなる気がするが。
今はそっちではなく、もっと原点。
俺、この歌どこで覚えたの。
「ち、ちなみに……エレーヌさんや。その歌を聞かせてもらうなど、そういうリクエストは……受け付けてもらえたり?」
「別に良いわよ? ただし、食事が終わってからなら」
あ、はい。
どうぞお召し上がりくださいませ。
そんな訳で、とりあえず魔女が満足するまで食べ物を準備し始めた。
仲間達も、若干混乱した様子ではあったのだが……。
「クウリ、またアレか? 夢で、何か言われたのか?」
「まぁ、そんな感じ。とはいえ今回は、マジで雑談中に零れて来た話って感じなんだよ。だから、本気で謎。あんまり俺等とは関係ない話なのかもしれないけど、気になっちゃって」
イズとコソコソ話しながらも、ひたすら飯のおかわりを準備。
知ってたけどさ、これまでも散々見て来たけどさ。
この魔女気に入ったもんがいっぱいあると、ひたすらに食うな!?
その細い身体のどこに入るんだよって言いたくなるくらい、めっちゃ食うよな!?
俺等も他人の事言えないかもしれないけどさぁ!




