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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
9章

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第206話 アナタの望みは


「やぁ、方向性は固まったみたいだね」


「俺にはこれしか思いつかなかった、とも言えるがな。でも仲間達のお陰で、この選択に迷いが無くなったのは事実だよ」


 瞼を開けてみれば、そこにはやはりスーツの男。

 本日もまた、こちらに珈琲を差し出してからニコッと微笑んで見せる。

 これまた夢の中で、コイツで話す事が出来る様だ。


「こちらでも、最大限手を尽くすと約束しよう」


「そんな事が出来るのか?」


「君が思っている程分かりやすい変化ではないさ。けど、私は創造主……なんて、大したモノではないが、しかし“管理者権限”がある。一つのモノとして確立してしまった世界ではあるが、“繋がり”があり、北の門という入口がある限り緩やかな変化は加えられる。それこそ、プロローグやエピローグを少し書き換える様なものさ」


 よく、分からないが……まぁ力を貸してくれると言うのなら有難い。

 例えどんな小さな変化だろうと、こちらが有利になる状況を整えてくれる存在が居るというのは、何よりも頼もしいというものだ。


「俺の使える“権限”ってのは? やっぱり北の門に着いてからじゃないと、確認出来ないのか?」


「いや、どちらかというと……本来は何をしようが確認出来ないと認識した方が良い。私も、結局コレに気がついたのは、他のプレイヤー達を巻き込んだ後だったからね。しかもはっきりと“コレだ”という様な、分かりやすいモノではないのは確かだ。どちらかと言えば、君が仲間達を作り出したソレこそが“転生者の特権”と言われた方がしっくりくるだろう」


 使い勝手が悪いな……なんて言いたくなるが。

 コレに関しては俺等の中で“権限”という言葉を使っているだけであり、本来はただただ“転生者”が感染源となり、世界そのものを束ねる何かに情報提供をするというシステム。

 しかし今回は元がネットゲームの世界だからこそ、コイツがその管理者権限に割り込めるという形になるのだろう。

 だからこそ、俺が“狙った相手に招待を送る”というのだって……実際にやってみないと分からないって事なのだと思う。

 この“転生”とも言える流れに対して、決定的な何かを知り得ているのなら……彼も多分、既に解決法を口にしている筈だ。


「俺等とは直接関わらなかったが……過去にも、あのゲームから“こっち側”にプレイヤーが来てるんだよな? 変異した“成れの果て”とは会ったけど」


「その通りだ。しかしどのタイミングで、君より後か先か。そういう事に、意味はない。君の次に“転生”を経験した人物が、大昔に姿を現す事だって実際に発生する」


「タイムパラドックス……みたいな事は……」


「君個人が考える事では無いね。君という“個”がそこに存在している以上、その世界はそのままだ。もしも過去に何かあれば、現状でも資料として確認出来る筈だよ。逆に未来で何かが起こった場合は……君自身が、対処する可能性はある。とはいえ、存在そのものが急に消えたりはしないから、そこだけは安心してくれ。大きな変化でも発生したのなら、それはまた別の“世界線”とも言える所で起きた事例だ」


 そこまで話の規模を大きくしてしまうと、流石に俺個人では理解も把握も出来ないだろう。

 もしも俺の言った様な事例が発生しても、世界全体の方でバランスを取る。

 もしくはそれはそれで、“新しい世界”が出来るとでも思った方が良いのかもしれない。

 確かに相手の言う通り、現状俺という個体が存在している以上、過去に何があろうと物質が消失する方が摩訶不思議だしな。

 そういう意味では、こっちが想定していたBANの処理方法ってヤツが、一つ予想から外れたと考えても良いのしれない。

 急に俺等っていう命が生れている訳だし、完全に無いとは言い切れないのだろうけど。

 まぁ、警戒し過ぎても仕方ない。


「後はまぁ……実際に北の門に辿り着いて、その後どうなるか試してみないと何とも言えない感じ?」


「頼りなくてすまないが……そういう面は大きいね。前も言った通り、私は“神様”ではない。だからこそ、どれくらい君の理想を叶えられるかは約束出来ないんだ。だからこそせめて、“有利になる条件”ってヤツを色々と準備しておく。そして……こちら側でサーバーを落とし、私が“終わった”と認識した瞬間。私は“そちら側”との繋がりを完全に断たれる事になるだろう」


 やはり、そうなるのか。

 この世界が元は『ユートピアオンライン』から始まったソレだったとしても。

 既に開発者の手を離れつつある。

 一つの世界として確立してしまったからこそ、独自の進化を始めているという訳だ。

 それでも干渉出来るのは、彼が“管理権限”を持っているから。

 もしもコレが無かったり、未だに“転生者”だと認識すら出来ない状況に陥っていれば。

 俺に届いた運営のお知らせやら、システムコンソールそのものなど発生しなかった可能性がある。

 もっと言うなら北の門に辿り着いた所で、問答無用でエンディングを迎えさせられていた可能性だってある訳だし。

 だが……そうなってくると。


「サービスを終了しただけで、未だアンタはあの世界にアクセスできる……要は、メンテナンス中みたいなモノって事で良いんだよな?」


「そういう言い方も出来るね? 逆に“こちら側”とは、あまり時間の概念が関係ないからこそ。“向こう側”では未だサービス終了さえしていないとも言える。この事例を観測する者次第で、捉え方が変わって来るんだ。分かり辛くて、私も嫌になるけどね」


 そんな事を言いながら彼は、大きなため息を吐いてから珈琲を一口。

 つまり現状、彼は俺と関わる為のこの空間というか……俺に手を貸すという履歴を最後に追加したって事に等しいのかもしれない。

 実際俺の認識では、あのゲームはサービス終了間近だったのだ。

 あと数分間でゲームそのものは終了、だというのに俺は“こっち側”に来てから、随分と長い時間を仲間達と一緒に旅して来た。

 時間云々の話は関係ない、なんて言われてしまえばまたややこしい話にはなって来るのだが……。


「ストーリーってさ、やっぱ見る側……てか、ゲームの場合はプレイヤーだけど。“その他大勢”ってヤツを、なるべく多く納得させる結末を用意するって……ホント?」


「まぁ、そうだね。あの世界は私の欲望と願望で生まれたとしても、コレの開発には多くの人達が関わっている。だからこそ、全てを好き勝手に出来る訳じゃないんだ。だからこそ大衆受けの良いシナリオ、会社として批判を買わない様なエンディング。そういったモノは求められてくる」


 だよ、ね。

 俺等プレイヤー、ってか消費者側からすれば……あっちが嫌だ、こっちが嫌だと色々口にしたりはするが。

 それは多くの人が考えて、そちらの方がより多くの利用者が満足すると予想して出した答え。

 当たり前だけど、仕事なのだ。

 だからこそ制作陣だって、本当に好き勝手な“我儘”ばかり言えるはずもない。

 でも、だとしたら。


「あの……さ。俺もまだ色々聞きたい事とか、分かんない事とかいっぱいあるんだけど……」


「あぁ、そうだろうね。私に答えられる事であれば、何でも聞いてくれ」


 此方の言葉に対し、彼は笑う。

 とても優し気で、信用出来る人って感じの雰囲気。

 でも……なんていうか。

 今までは、というか“前の俺”の認識では多分、気が付けなかっただろう。

 これが当たり前で、周りの人も似たような表情を浮かべる人が多かったから。

 “慣れてしまっていた”からこそ、それが普通だと認識していた。

 けど、アバターの影響っていうか。

 ここの所、感情だけはすげぇ若くなった感じがするからなのか。

 こっちの問題がある程度整理出来て、心に余裕が出来た瞬間思ったのだ。


「アンタは……これで、良いのか?」


 この人……俺に手を貸してるほど余裕あるのかなって、思ってしまった。

 だって、すげぇ疲れた顔をしているのだ。

 それでも無理に笑っているみたいに、どうにかこっちを不安させない様に笑顔を作っているみたいに。

 そんな“大人ならでは”と言ったら良いのか……。

 社会人では当たり前だし、客商売なら相手に愚痴を洩らすなんて以ての外ってのは分かってる。

 けど今は、違うじゃん。

 確かに俺はプレイヤーで、向こうは開発陣だけどさ。

 こうして目の前に居て、話をして。

 その上で、“人生”の話をしている訳じゃん。

 俺にとっては、今後生きて行く為の話。

 そしてこの人にとっては、“過去の自分”と向き合っている世界の話なのだ。

 ユートピアオンラインは……この人の作った、“夢の世界”なのだから。


「俺なりにさ、ストーリー考察っていうか。ゲームのままだったら、どんなラストなのかなって考えたんだけどさ……“作られた物語”だった場合、エレーヌは北の門に辿り着いて。その後は門を潜って、愛した人の元へ。みたいな感じなんじゃないのか? それこそ、笑顔でプレイヤーの方を振り返って、これまでに無い笑顔でお礼なんか言ったりしてさ」


「…………」


 あの見た目なのだ、そりゃそんなシーンを見せられたらプレイヤーにはグッと来るだろう。

 そんでもって公式キャラクターとして売り出され、グッズとかフィギュアとか出ちゃったりしてさ。

 アイツのコスチュームとか武器のガチャが出たり、それこそ“両手剣”を使える職が公式から発表されたり。

 イベントステージではストーリーと関係なしに、また連れ回せるNPC的な扱いになったりするのだろう。

 一番ありそうで、一番満足感が高そうなエンディング。

 賛否両論で、否定的な意見だって出るだろうが、それでもプレイヤーを納得させられる終わり方。

 でもコレは……“俺達”を納得させているだけなのだ。

 だったらこの話を書いた本人は? 本当にソレで幕を閉じたかったのか?

 しかも転生云々の話を思い出した後なら、この結末は……。


「そもそも“転生”って言葉自体が間違っている、そう言ったよな? つまり北の門を潜っても、エレーヌはアンタの元に辿り着かない。この世界から“消滅”するだけであって、アイツの願いは一生叶わない事になる」


 裏側の事情まで観測しなければ、きっと愛した人の元へ行ったのだろう、なんて予想で終わってしまう。

 けど俺達は知ってしまったのだ。

 今居る世界という枠組みから抜け出す事は不可能、他の世界で存在している自分は、同じ自分でも全く別の存在なのだと。

 生まれてしまったからには、生きるしかない。

 それこそ、死ぬまで。

 とんでもなく当たり前で、裏側なんぞ知らなければ妄想の類でしか無い話なのだが。


「そういう意味でも、アンタは俺に“北の門”を破壊しろって言ったんじゃないのか? アイツに、エレーヌ・ジュグラリスに生きていて欲しいから。“こっちの世界”の中で、幸せになって欲しいから。過去を思い出せずに結末を描いたアンタと、思い出した今のアンタから生まれた決定的な違い。だったらアンタは……これで良いのか? 今後、こっちと関われなくなるかもしれないんだろ?」


 言葉にした所で、じゃあ何が出来るのかって話にはなって来るのだが。

 けど、本当にこのままで良いのかって気持ちにはなるのだ。

 すげぇ余計なお世話だろうし、相手は仕事としてやって来たんだ。

 更に俺みたいな、巻き込まれるプレイヤーがこれ以上発生しない為にサービスを停止する決断をした。

 もしかしたらエンディングを向かえないまま、この世界は続くかもしれない。

 終わるにしても、当然シナリオ通りにはいかないかもしれない。

 むしろ、シナリオ通りに進むと魔女が消える未来があるからこそ、俺に深く干渉して来た。

 楽園を現実に……なんて言っていたのに、魔女の自由や北の門の破壊を望む理由。

 用意されたエンディングでは不具合が続くからこそ、その未来を変えようとしているのではないか?

 これ等の想像が合っているのなら……彼の本当の望みは、今の願いは。

 いったいどこにあるのか。

 今だけは責任とか、仕事って話じゃなくて。

 相手の本当の心を聞いてみたいと、思ってしまったんだ。


「君は、本当に“魔王”という存在に向かないな……自分の方が大変な環境にあるだろうに、私の事など心配して」


「……気になったんだよ、わりぃかよ」


 ムスッとしたまま、残りの珈琲を一気飲みした。

 確かに、話の振り方が雑だったかもね。

 今更そんな後悔は襲って来るが、言ってしまったものは仕方ない。

 という事で、相手の言葉を待ってみると。


「私もまた“転生”というモノが出来るのなら……今すぐ彼女の元へ駆け付けたいよ。私自身じゃなくても、自身のコピーだって構わない。大好きだって言葉にして、抱きしめてあげたい。けどね……不可能なんだ。私の居るこの世界には、彼女は居なかった。ただ、それだけなんだ」


「…………」


「あぁでも、一つだけ不思議な体験をした。人生で一番驚いたというか、それをきっかけに自らが“転生者”だと気がついたというか……とても、不可思議な体験だ」


「へぇ……どんな?」


 視界には徐々に霧が出始め、夢の終わりを告げている。

 けど今は、相手の言葉を止めたくなくて。

 その言葉だけは、聞いてやりたくて。

 微笑みながら、彼の事を見つめていれば。


「君だよ、クウリ。プレイヤーに紛れて、環境テストをしている時……君の鼻歌が聞こえて来たんだ」


「え?」


「君はいったい……どこで、“あの歌”を知ったんだい? だってアレは、前の世界で……エレーヌが私に教えてくれた――」


 彼の言葉は、途中だというのに遮られてしまった。

 濃い霧に包まれ、こちらの意識は真っ白い世界に呑まれていく。

 あぁ……夢が覚める時間だ。


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