第204話 作って楽しい、食べて美味しい
「さぁさぁそろそろ良い時間だ、もう夕餉にしようじゃないか。今日も今日とて宴にしよう」
「毎日毎日宴になんぞするかっての……ていうか、本当について来てるし」
龍の谷、抜けた筈なのだが。
未だにシュウが居る、というか俺等に同行している。
え、なにこれ。
現地人最強種の魔女だけではなく、名実共に最強種のレイドボスまで仲間に加わったの? 嘘でしょ?
システムの関係上なのか、それとも不完全なログインしかしていないからなのか。
俺のメニュー画面でも、エレーヌの情報は見る事が出来ない。
そんな訳で当然シュウの方も、パーティに加わっているのかなど全く分からない訳で。
試してみるのなら、コイツに向かって攻撃魔法の一つでも放ってみるしかないのだが。
いや怖ぇわ、気軽にレイドボスに向かって攻撃なんぞ出来るかっての。
んでもって結局、そのまま付いて来ちゃいました。
そして、本日も野営。
シュウのエリアを抜けたという事で、周囲には普通の魔獣が確認出来る。
なので、コレまで通り警戒を怠る訳にはいかないのだが。
「なぁに、これくらいなら年長者に任せてくれれば良いさ、虫避けは任せたまえよ。そんな事より、ホラ。夕餉にしよう」
「お前の頭の中は、食う事と酒を飲む事しかねぇのかよ」
思い切り呆れたため息を零してしまうが、周囲に霧を発生させるシュウ。
なんでも自分専用のエリアではないから、効果や能力自体は低下するらしいが……魔獣避けくらいなら、全く問題無しとの事。
コレを便利だと喜べば良いのか、仲間になった瞬間弱体化するタイプだと嘆けば良いのか。
俺にはちょっと、分からないけど。
ついでに言うと、どう反応したら良いのか分からないのは俺だけではないらしく。
「一応……その、なんだ。“守り神”的な扱いだったよな……普通の料理で良いのか?」
「敬い、祈りを捧げる程の対象が、常に高価で高級な物を求めると思ったら大間違いだよ? 考えてもみてくれ、調理されていない野菜や肉の山。豊かになれば最高の品だと自慢げに語りながら、毎度同じ様な食事を食べさせられるんだ。でも貰う以上文句は言えないだろう? けど言いたいだろう? 簡単に言うと私だってもっといろいろ食べたいんだよ!」
「……苦労、していたんだな」
何やら力説されたイズだったが、その瞳は完全に残念な子を見る目に変わっていた。
だって本当に残念だし。
こいつレイドボスだよ? 俺等ヒーヒー言いながら攻略した相手だよ?
だというのに、何だこの失望感。
返せ、ゲーム時代の俺等の頑張りを。
お前のドロップ品全然出ねぇし、強化にも専用素材使い過ぎなんだよ。
一回でもキツイのに、周回なんぞ簡単に出来る訳ねぇだろうが。
などと、恨みの籠った眼差しを送っていると。
イズが取り出したのは……デカイ、鉄板。
そんな物を前回雪国で仕入れた炭セットの上にズドン。
そしてインベントリから、カット野菜などの品々を取り出していけば。
「……コレは? また焼肉かしら?」
「ふっふっふ。エレーヌ残念、今日はちょっと変わり種だよ?」
本日のメニューを知っているらしいダイラも、次々と道具を準備していく。
もはやコレを見ただけでも分かる。
丼に盛り分けられた野菜の山、肉やら海鮮やらをちょちょいっと乗っけて。
何やら、俺では作れないであろう液体をトロトロと丼の中に注ぎ込まれたソレは。
「「お好み焼きだぁぁぁ!」」
「ヘラも全員分買っておいたからな、皆で焼こう」
俺とトトンのテンションが爆上がりし、それぞれに“あの”ヘラを配っていくイズ。
来た来た来た。
シュウには宴なんぞするかって言っておいて何だが、コレは宴だ。
焼いて楽しい、食べて美味しいお好み焼き。
こんなの宴以外の何物でもないでしょうってなもんで。
「焼いて良い!? もう焼き始めて良い!?」
「俺も焼きたい! 焼くの初めてだから教えて!」
低身長組、既に“待て”が出来ない状態。
これに対し、エレーヌとシュウが不思議そうな表情のまま首を傾げている。
「野菜と、少量の肉……チーズなんかもあるね? そして大きな鉄板……ただの炒め物なら、これ程大きな物は必要無いだろうし。どんな物を作るのかな」
「これは私も見た事が無いわね……どうすれば良いの?」
異世界組に関しては、やはりお好み焼きを知らない御様子で。
そんな訳で、丼を受け取った俺とトトンが、液体と野菜をスプーンで混ぜ合わせていく。
こっちじゃ“お好み焼きの元”、なんて当然売ってないだろうし。
多分イズとダイラで作ってくれたのだろうが……よくこういうのまで作れるよね。
山芋が入ってる、くらいしか知らないんだけど俺。
などと思いつつワッシャワッシャと混ぜ合わせていると、魔女と黄龍も真似してワシャワシャ。
自分が今何をしているのか分かっていない御様子だが、苦戦しながらもどうにか下準備を進めていた。
「どわぁ、野菜が零れる……」
「あるある、お好み焼きの野菜は基本デカデカカットだからなぁ~こういうのって、地域によっても違うんだっけ?」
「入れる物が結構違う話は聞くが、カットの大きさはどうなんだろうな? 俺の地元だと、これくらいだったが」
「お店で出て来るヤツとかは少し小さめカットなイメージだねぇ~俺もそこまで食べ歩きした訳じゃないから、詳しいって事も無いけどね?」
元々知っている面々はそんな話題で盛り上がりつつ、順調に下準備は進んでいく。
良いよねぇ、この天かす……揚げ玉? これも場所によって言い方が違うのか、それとも俺が知らないだけで種類が違うのか。
詳しくは分からないけど、こういうのが入ってて混ぜている内からサクサク言う感じが堪らん。
こんなのもよく売ってたなぁ……なんて思ったけど、もしかしてコレもイズがこっそり作っていたのだろうか?
だとしたら、マジで頭が上がらないけど。
普通に鰹節とか登場しているけど……あっちは流石にゲーム時代のアイテムだよな?
少々疑問を抱きながら、大体準備完了。
鉄板の方も良い感じに熱が入った様で、そこに油を広げていくイズ。
そして……。
「でっかい鉄板だし、皆一気に焼く感じだよな? 俺ここー! ここで焼く~!」
「クウリ! 俺も近くで焼いて良い!? やり方見せて!」
鉄板の一部を陣取ってみれば、すぐ隣に寄って来るトトン。
そんな訳で、二人して丼の中身を鉄板へと広げていけば。
ジュワァァァ……と、凄く良い音が夜の世界に広がった。
おぉ~これこれ。
この、行くぜ! ってサウンドがたまらない。
普段料理をしなかった俺でも、店でお好み焼きくらいは焼いた事もある。
チャカチャカとヘラを動かし生地を広げ、まん丸になる様に形を整えてやれば。
特に難しい事は無いので、俺の方をチラチラ見ながらも、トトンも問題無く設置完了。
という事で、ジュワジュワと音を立てるソイツ等を二人揃って眺めていると。
「こう……で良いのかしら?」
「自分で焼いて、すぐに食べる物という事か。良いね、まさに旅人という感じじゃないか」
魔女と黄龍も、鉄板にドバァ。
それらの様子を見つつ、イズとダイラも自分用のお好み焼きをドバァし始めた。
そこら中から聞えて来る、ジュワァァッという食欲を誘う音。
しかも皆入っている具材というか、メインは違うみたいで。
ユラユラと漂って来る煙は、様々な香りを運んで来るではないか。
だがまだまだ、本番はこれからだ。
お好み焼きの最終攻撃とも言える香りは、それこそソースを掛けてから。
アレが鉄板に零れ、ジュワジュワと音を立てつつ運んで来る香りは、それこそ暴力と言っても良い。
初体験となる異世界組がどんな顔をするのか、今から楽しみで仕方ないぜ……。
なんて、クククッと暗い笑みを浮かべていると。
「ねぇクウリ、コレそろそろ?」
「ん? あぁそろそろ良いんじゃないか? 俺はいつもこれくらいでひっくり返しちゃってたけど」
という事で料理担当二人に視線を向けてみると、グッと親指を立ててくれたので。
いざっ!
「そぉいっ!」
「とぉうっ!」
トトンと一緒に、お好み焼きをクルッと180度回転。
こっちとしては慣れてるけど懐かしいってなものだったが、トトンに関しては本当に初めてだったらしく。
「あ、あっぶなぁ……ちょっと崩れそうだった」
ちょっとヒヤッとしたが、無事着地。
綺麗な焼き目の付いたお好み焼きが、無事二枚顔を出してくれたではないか。
「あっとは~焼いて~ソース掛けて~青のり掛けて~マヨに鰹節~」
「クウリ超ノリノリじゃん。でも分かる、これテンション上がる! めっちゃ美味しそう!」
などと、低身長組がワチャワチャしながら自分のお好み焼きの面倒を見ていると。
「ほっ! お、おぉ? ちょっと崩れたが、これは大丈夫なのかな?」
「ふっ! ……おかしいわね、もう一回。ふっ!」
黄龍に関しては、若干着地に失敗。
しかしながら、全く問題無いレベル。
だが……魔女が。
非常に、器用な事をしておられた。
「あのですね、エレーヌさんや」
「大丈夫、分かっているわ。分かっているのだけど」
「一回転させたら……片面しか焼けないんですわ……」
「だ、大丈夫! 何とかするわ!」
魔女がお好み焼きをひっくり返そうとするたびに、何故かその場で一回転するという。
いや逆に器用だな!? と言いたくなる光景が発生してしまった。
コイツ、料理のお手伝いでは器用に見えたのに。
個人で作るって事になると、違った意味でポンコツになるのかもしれない。




