第201話 逃げ道だとしても、生きていける
「トトンに関しても、良いんだな? 前からお前の意思は変わりなし、と言ったところか?」
「ん、俺は変化なーし。むしろそれしか残る手段が無いのなら、コレに賭けるしか無いでしょ~ってなもんだよ」
先程ダイラとイズが、結構真面目な感じで話していたのに。
残る俺がこの調子っていうのは、あまり締まらないのだけれど。
そうは言っても、やっぱり気持ちは変わらなかった。
というか、皆は結構難しく考えているけど。
此方としては、もっと単純な思考回路でサラッと答えを出してしまったにも等しい。
だって、ねぇ?
今が人生で一番楽しいって思っているのに、ソレが終わらない可能性が1パーセントでもある。
なんて言われたら、全力でそこに乗っかるでしょ。
そもそも戻る云々の話が的外れ、逃げて放置しても“今”がいつか終わってしまう。
しかも特別なのはクウリだけで、俺達はそのオマケ。
自分達は、いったい何者なんだー! みたいな、大袈裟に考えると分かんない事だらけ。
だったら……皆と一緒にこれからも居る可能性に、全力で賭ける。
駄目で元々の命と言われ、逃げたからってこの世界が許してくれないというのなら。
今この場に居る俺は、最後まで皆と戦うタンクになる。
だって俺、“トトン”だし。
元々の人間が、とか。
今の自分はなんなのか、とか。
正直、何だって良いのだ。
俺は今、トトンとして生きている。
このキャラクターは、現実が嫌で逃げた先に作った写し鏡。
見た目も性格も、実績も覚悟も、全部に自信が無い自分が作った……それでも“自分自身”というモノを、誰かに好きになって欲しくて。
最後の一握りの希望を託して、精一杯自分に似せて作ったキャラクター。
でも弱い俺は、皆に“言葉”で嘘をついた。
取り繕って、皆と合わせたくて、本当の自分を知られてガッカリされたくなくて。
だからこそ、その嘘が。
最後まで皆にバレずに済んだというのなら、最後の最後まで“トトン”で居られるのなら。
それで良いやって、逃げる選択肢を選んでしまった結果でもあるんだけど。
「戻るっていう選択肢が出て来た方が、俺としては困っちゃうし。それで良いかなぁ~って。逃げても駄目! 進んでも消えるかも! 全部クウリ次第! とか。なんとも責任重大な事ばっかりで、ウチのリーダーは大変だねぇ~」
なはは~と笑ってみせると、ダイラは困った様に微笑んだが。
イズに関しては、少しだけ悲しそうな目で此方を見ていた。
「本当に、良いんだな? トトン」
「なんだよぉーイズ。俺に関しては皆の中で、一番“向こう側”に心残り無いって知ってるでしょ? だから良いの、俺は“こっち側”の方が好きだし。これからもこっちで生きるって選択肢があるなら、秒で選んじゃうって」
なんて、笑って見せたのだが。
「勘違いだったら……すまない。リアルに踏み込まないというネットゲームのマナーと、今更“向こう側”の事を言われても、とは思うだろうが……本当に、良いんだな? 俺から見たお前は、“本当の自分”を知って欲しいと思っている様に見えたんだ」
その言葉に、笑顔のまま固まってしまった。
だって、え? そんな……そんな訳、無いじゃん。
俺が一番知られたくないの、元々の自分自身だし。
なんて言葉にしようとしたのに、上手く唇が動かなかった。
ただただ無言のまま固まり、視線だけはどうにかイズから逸らしていく。
「あのゲームが終わると知った時。真っ先に皆の連絡先を聞き出す事をしたのは、お前だっただろう? 結局そっちではまだ連絡を取り合っていなかったが」
「だ、だって……さ。ユートピアオンライン、楽しかったし。四人であんな高成績叩き出してさ、一目置かれるパーティになった訳じゃん? だったら今度は他のゲームで、また皆でゲームしたいなって……」
嘘だ。
ユートピアオンライン以外で、もうあんな事出来る気がしない。
だって“自分になれる”ゲームだったのだ。
他のゲームに移って、例え皆が集まっても……多分、同じようにはならないって分かっていた。
でもあのゲームでは、俺は“トトン”だったのだ。
固定のメンバーで、ずっと一緒に遊んで、本気で冒険して。
何をやるにしても四人一緒で、無茶苦茶でしょって難易度のステージにこんな少人数で挑んだりして。
でもやり遂げたんだ。
全員が全員を頼って、言葉にしなくても連携とか取れちゃって。
あの感覚が、俺を受け入れてもらえたって実感が……心に焼き付いていたんだ。
だからこそ、無駄かもしれないと分かっていても。
その繋がりに、縋りついた。
「なんで……? なんでそんな事言う訳? 俺は良いって言ったじゃん。パーティ全員が北の門に向かって、そんでもって一番良くなる可能性に賭けるって言ったじゃん。それで……問題無いでしょ?」
「あぁ、そうだな。“今の俺達”という言葉を使うのなら、多分生存の道はソレしかない。クウリと違って、俺達はオマケみたいなモノらしいからな」
「だったら!」
「でもな、トトン。妥協や打算ではなく……もう、お前の本心で語っても良いんだぞ? お前も、アイツと同じくらいに不器用なのは知っている。何も隠すなとは言わないが……無理は、しなくて良いんだぞ? ずっと“トトン”を演じなくても、プレイヤーとしてのお前もまた、お前自身なんだ。あまり否定してやるな」
そう言ってから頭に掌を乗っけられてしまった。
意味、わかんない……だって俺、無理とかしてないし。
トトンを演じるとか、してないし。
ゲームの中でくらいやりたい事やって、思いっきり楽しめれば良いって。
そんな言葉ばかりが、頭には浮かんで来るけど。
「うぅぅ……うぅぅー!」
「ハハッ、怒らせてしまったか? 悪気は無いんだが、頑張って明るく振舞っている様にも見えたのでな。許してくれ」
笑いながら、こちらの頭を撫でて来るイズ。
いつも通り子供扱いされている、くらい分かっているのだが。
何故か、胸が苦しくなって涙が浮かんだ。
違うもん、無理して無いもん。
そう否定してやりたいのに、少しだけ“素の自分”を受け入れてもらえた気がして、嬉しかったのだ。
元々弱い人間だから、少しでも褒められると嬉しくなっちゃうようなガキだから。
それは自らも理解している事だし、皆に依存しきっている事も自覚しているけど。
でもその上で、“トトン”という枠組みを超えて、大嫌いだった自分自身まで認めてもらえた気がして。
「今じゃもう叶わないって分かってるけど、前にさ……クウリに、言ってもらったんだ。“どっち側”に居ようと、顔上げろって。そしたら、見つけてやるって」
「あぁ、そうだな」
「二人もさ……俺が、全然予想と違う感じの、すっげぇダメダメなヤツだったとしても……受け入れてくれる? 実際リアルで顔会わせて、超嘘つきじゃんってなっても……俺の事、仲間とか、友達だって思ってくれる?」
こんな事言ったって意味が無い事くらい理解している。
実際に顔を合わせれば、どうなるかなんて分からないのだから。
でも二人は、フッと表情を緩くしてから。
「それを言い出したら、俺が一番距離を置かれそうで怖いな。今でこそこんな見た目だが、中身は道場の跡取りでゴツイ男……というかおっさんに片足突っ込んだ年齢だからな。普通にドン引きされそうだ……リアルで会う事があったのなら、俺の方から仲良くしてくれとお願いしないといけないな」
「あははっ、その辺に関しては俺も同じかなぁ。ゴメン、ゲーム内だとこんなだけど実際はこうなんです! 見捨てないでぇぇってなりそう。ゲーム外で通話しただけでも、は? お前誰って言われちゃいそうだよ」
そんな事を言いながら、二人揃って笑ってくれて。
そして。
「誰だって隠し事の一つや二つあるさ。だがそれを気にして、無理に笑う必要はない。お前も、助けて欲しい時は言葉にして良いんだからな? そしたら俺達は、きっとどこにだって駆け付けるさ」
「今じゃ戻るって選択肢は無くなっちゃったけどね。でも実際オフ会とかしてみたかったなぁ……あのゲームってキャラボイス設定すると、ボイチャにもボイスチェンジャー掛かる謎仕様だったからね。素の声とかも、聞いてみたかったかも。そんな事したら、俺も驚かれちゃうと思うけどね」
なんて言って、本当にいつも通りの空気に戻ったのであった。
あぁ、ホント……俺、このパーティ好きだ。




