第194話 飲めや踊れや
「今度の“蝶”は赤いのね? どういう違いがあるの? さっきは青かったけど」
「えっとね、青い方は結構な材料を食うし効果も短め。でも広範囲に相手の特殊能力を抑える効果……つまり、色と柄の効果を打ち消す訳だね。赤い方はもっと狭い範囲しか守れないし、敵避けってくらいの効果しかないの。でも安価で出来るって感じかな? 青が戦闘用、赤が休憩用って覚えて?」
なんて、ダイラがエレーヌにアイテムの使い方を教えている。
手に持ったランタンを不思議そうに見つめる魔女様だったが、君が持つと本当に魔女だね。
森の中とかで会ったらさぞ怖そうだ。
とかなんとか思っている内に、イズがキッチンから戻って来て。
「皆、食事にしよう。こんな所ではガンガン進む訳にもいかないからな、今の内にストレス発散しておけ」
そんな事を言いながらも、目の前に現れたのは大量のスライスされた肉。
更には山盛りの野菜野菜野菜。
この後も、次から次へと様々な種類のお肉様が登場する訳だが。
これは、まさか。
「みんな、好きのを好きなだけ焼いて良いぞ? 辛気臭い場所で静かに食事をとっても不安になるだろう? 豪華に、賑やかにいこう」
「「焼肉だぁぁぁ!」」
テーブルとは別に、デンッと登場した巨大網焼きセット。
そこへ炭を放り込み、イズの魔法で着火。
未だ濃い霧の中だというのに、んなもん知るかとばかりに焼肉パーティーの準備が整ってしまったではないか。
現状、先程戦闘した場所から少し進んだ程度。
なんかもう霧が濃すぎて時間感覚も狂うし、足場も悪い。
という事で、野営出来そうな場所を見つけた瞬間、本日はここを拠点とする! なんて宣言した。
その後ダイラはとにかく魔道具作り、イズはご飯の準備。
他の面々は周囲の警戒をしていたのだが。
ここに来て、パーティ五人とも一気に集まって手を合わせた。
いただきます! と元気な声を上げた俺達に、それぞれトングが渡され。
あっちもこっちも好き放題お肉と野菜を並べていけば、すぐさま網の上がいっぱいになっていく。
「ホラ、タレも準備してあるから。あとはもちろん米、それから飲み物だが……クウリ、今日だけは酒を飲んでみても良いかもしれないぞ?」
「ほわぁ!? マジか!」
「いやいやいや、イズ何言ってるの。こんな所じゃ余計に飲んじゃ不味い……って、あ、そっか。でもちょっと待ってクウリ、まずこっちで試すから」
急にそんな事を言いだしたイズは笑い、ダイラは「そういえば」みたいな雰囲気でガシッと酒瓶を掴み取った。
そして……普段だったら、絶対やらないラッパ飲み。
ちょぉぉ!? 確かにイズやダイラ、そしてエレーヌは悪酔いしているイメージは無いが。
そんな事して大丈夫なの!?
などと、ちょっとだけ心配してしまったが。
「ふぅ……うん、大丈夫そうかな。俺でも、こんな強いお酒飲んだら流石にクラッて来るけど。今日は全然問題無し、ストーリー通りだね」
なんか凄い事言っているけど、大丈夫?
酒飲んでいる相手に対し、いつもなら「良いなぁ~」って指咥えて見ているだけなのに。
今回ばかりは流石に心配してしまったのだが……あ、そっか。
「ここのボスの影響か、ストーリー的に。酒好きで、自分のテリトリーに入った奴から“酔い”を吸っちまうんだっけ? だから、旅人もこの谷じゃいくら飲んでも酔えないとかなんとか」
そういや、そんな設定だっけか。
思わずポンッと手を叩きながら納得してしまったが、でも流石にあの量一気飲みは……もしもボスが居なかった場合、普通に急性アルコール中毒とかになりそうで怖いんだけど。
などと思った瞬間に、何故二人がこんな事をしたのか理解してしまった。
「あ、あぁぁ~……つまり、“居る”って事か。レイドボスが」
「だ、ねぇ……むしろ俺が今ここで酔い潰れて、明日は一日お休み~っていう方が、まだ嬉しかったかも」
「ハッハッハ、なんとも嬉しくない検証結果だな。という事で、クウリも飲んで良いぞ。“酔い”は全てボスが吸ってくれるからな、むしろ飲め。相手の弱体化の為だ」
という事で、俺の前にも酒瓶が並んでいく。
このエリアに居るレイドボス、“龍神”。
ぶっちゃけて言おう、以前のペレなんぞとは比べ物にならない程ヤベェ。
戦闘に関しては思い出したくも無い程苛烈だし、何より運営がクリアさせる気が無いんじゃないかってレベルで、プレイヤーは阿鼻叫喚した程。
それくらいに強いレイドボスなのだ。
まぁ、俺等一応勝ったけど。
でも何度も何度も全滅したし、あの時ロスした出費やらアイテム。
デスペナルティの影響で消耗した時間などなど、非常に苦い思い出となっているのも確か。
そしてこのステージのボス、大火力高防御力特殊条件付き。
んでもって設定は物凄く凝っているらしく、資料がとにかく多い。
読むだけでも一日使うんじゃないかってレベルで。
多分ダイラが居なかったら絶対クリア出来なかった。
それ程色々難しい強敵だったのだが……その実態は、暇を持て余した“神様”って存在に近い“龍”。
ソイツが住んでいる地域はとにかく不思議な事が起こりまくり、とても人が住める環境では無くなってしまったのだとか。
まぁこれに関しては、周辺に出て来る雑魚モブの設定なのかなぁって思っていたりするけど。
攻略に必要なデータの他にも様々な資料があり、そっちにもヒントが隠されているのだから質が悪い。
その中の一つ、とにかく酒好きな龍という話。
旅人から直接酒を奪う様な真似はしないが、これらと感覚を共有し酒を味わう。
更には“酔う”事が好きで、そっちに関しては全部龍が持って行ってしまうのだとか。
なんじゃいそりゃぁ、身体に入ったアルコールはどこに行くんだよってツッコミを入れて終わりそうな資料だったが。
ここに注目したのがダイラ。
体内のアルコール云々は知らんと切り離し、酒と酔い、そしてこのレイドイベントのタイトル。
『龍は千年の夢を見る』、なのだ。
更に言うのなら、まるで全体が“夢の中”の様な不思議なステージ。
だというのに、あまりにも運営がステージ攻略アイテム用意しない所を見て……ダイラは、一つの検証を試みた。
それが、酒。
ひたすら酒気の高そうな酒のアイテムを作り、フィールド内で不必要な程使用してみたのだ。
ゲーム時代であれば、食べ物系アイテムと同じく体力や魔力の回復。
あとは少々の特殊効果~程度な物だったのだが。
全員がコレを馬鹿みたいに使用した結果、“霧が薄れた”。
ここは龍が見ている夢の世界であり、それが俺達に襲い掛かって来る。
でも酒が欲しくて、実際“酔い”を奪っていく。
という事は、実体のあるプレイヤーから相手の身体に、本当にアルコールが移っているのではないか? という検証。
そしてソレが現に発生しているとなると、龍は俺達の見ていない所で酔っぱらっている訳だ。
んで最後に、ダイラが至った結論。
「アルコール摂取は感覚を鈍らせて、あと単純に眠くなるよね? けどその状態だと睡眠は浅くなるの。眠りが浅い方が夢は見やすいんだけど……感覚はその分ぼやけている訳だから、魔術も“いい加減”になるんじゃないかなって。ついでにボス自体も最後は姿を現す訳だし、酔っ払いをぶっ飛ばした方が楽そうじゃない?」
だそうです。
まぁ実際、ゲーム時代はソレが上手く形に嵌った訳なんですが。
分かりやすく言うと、ボスが酔っぱらって弱体化。
コレだけでは無く、登場する雑魚エネミーも特殊条件がかなり弱まっていたのだ。
という事で、色々と昔の事を思い出していた訳だが。
「はいクウリ、ここなら思う存分飲めるからねぇ? いっぱい飲んで良いよぉ? 今まで我慢してたもんねぇ~」
俺の手にしたグラスに、ドボドボドボ~っと酒を注いでくるダイラ。
待て、それストレートで飲むにしても絶対少量をゆっくり飲む奴。
「そういう事なら、炭酸系は控えた方が良いな。腹に溜まっては飲めなくなってしまう。ほらクウリ、こっちの酒も旨かったぞ。このタイミングでしか飲めないんだ、遠慮するな」
更にデカいグラスを用意したイズも、そこへ別の酒瓶を傾けドボドボ。
その間も肉は焼け続け、トトンとエレーヌが必死に全員分のお肉様を面倒見ているではないか。
「ねぇねぇ! これもう食べて良いの!? 殆ど経験無いから、俺じゃ分かんない!」
「それはもう大丈夫じゃないかしら? 一応肉を焼くくらいなら何度も経験しているから、後はこっちに任せて食べ始めて良いわよ? 向こうの三人は、何やら忙しいみたいだし」
そんな事を言って、二人は普通にご飯を食べ始めた。
ねぇ待って!? 確かに飲酒出来るのは嬉しいけど、量がおかしいの!
この二人止めて!? あと俺にも焼肉食わせて!?
「ささっ、グイッと。今日は付きっきりでお酌してあげるから。何せ酔い潰れたクウリを一晩中介護した経験があるからね、これくらいお安い御用だよ」
「嫌な事思い出させるんじゃねぇよ!? ていうかこんなに飲んだら、間違いなく腹の中タッポタポだろうが!」
「まぁなんだ、コレも攻略の為だ。俺達も飲むから安心しろ」
「安心出来ねぇよ! 身体のサイズ考えろよ! お前等と違って俺ちっちゃいの! 入る量のキャパシティが違うの!」
なんて事を叫びながらも、“龍の谷”にて始まった宴会。
久々のお酒だから、美味しいんだけどね?
こんなにいっぱい、しかも一気に飲みたい訳じゃないのよ。




