第191話 熱烈な口づけはダメージ判定
「クウリ、朝だ……って、今日は起きていたか。おはよう」
「ん、おはよイズ」
“屍の船”を手に入れた事により、現状砂漠で野営する必要など無くなった。
その為、船の中へとお邪魔してちゃんとした寝床で睡眠を取らせてもらった訳なのだが。
今日に関しては、俺以外にも寝坊組がいるらしく。
目を覚ましているのはイズとエレーヌの二人。
ダイラとトトンに関しては、未だに布団に包まれて丸くなっている。
この光景を見て、何故かホッと息を零してから。
「なぁ……俺が絶対に“納得しない”終わり方って、なんだと思う」
先程まで見ていた夢の事を思い出しつつ、ガシガシと頭を引っ掻きながらイズに問いかけてみると。
相手は、ふむ……と首を傾げ。
「また夢で何か見たのか? 相変らずお前の所にしか出ないんだな。まぁ良い、納得しない終わり方……か。この世界の事、ひいてはこの旅の終わりの事で良いんだよな?」
少々悩む様子を見せたイズが、ピンッと指を立ててから此方に改めて視線を向け。
「パーティに関する何か……だろうな。俺達に何かが発生する、または誰かの記憶が消えるなどなど。今のお前なら、間違いなくそのエンディングだけは納得しない筈だ」
いやまぁ、確かにそうかもしれないけど。
改めて言葉にされると恥ずかしいな。
イズの言う様に、例えば役目を終えた俺達全員の記憶がリセット。
その後は現地人として生きて下さい~って、ある意味“解放”された所で。
プレイヤーとしては、ふざけんなって言いたくなる事態だろうな。
コレが発生した場合は、ガチでストーリーの進行役としてこの世界へお呼ばれした事になる訳だし。
本来正しい姿なのかもしれないが、下手なモブみたいな終わり方用意するんじゃねぇよって言いたくなるだろう。
しかしあのゲームの事だ。
そんなふざけたエンディングを用意してあるとは思えないのだが……それにアレはオンラインゲームであり、プレイヤーが主軸とならなければいけない物語の筈。
であれば、この線は薄い気がする。
こんな事なら、夢の中でケーキなんぞ食ってる時間も全部質問に回すべきだったな。
などと思いつつ、うむむ……と悩んでいると。
「お前は、“こっち側”に来てから非常に感情的だ。しかし、俺が見る限り……それとは別に、自らを客観視している癖もある。言葉を悪くするなら、自らを軽視している所も見受けられるな」
「うっぐ……」
また痛い所を突かれ、思わず変な声が漏れたが。
これに対してイズは笑い、エレーヌは呆れた様な視線を向けて来ている。
普段通り、お説教が始まる雰囲気は無さそうだけれども。
「別にそこに対して今何かを言うつもりは無いさ。それが“クウリ”というプレイヤーだった、という話だからな。しかし……そうだな。全て俺の想像になるが」
寝床に腰掛けたままの俺の前で、イズは膝を折り。
静かに此方を見つめながらも、ゆっくりと口を開いた。
「お前が“絶対に納得しない”終わり方、それは多分仲間達と“共に居られなくなる”状況だと思う。俺達に何かしらの役割が与えられており、それを達成した瞬間世界からBANを食らう。これだって酷い終わり方が……ソレが“役割だ”、と認識した状態なら多分お前は何も言わないだろうな」
「え、どゆこと?」
ちょっと言っている意味が分からないというか、普通にその終わり方も嫌なんですけど。
俺死にたくないし、断固反対だけど。
とか何とか思いつつ、相手の次の言葉を待っていると。
「“ソレ”を達成するためにこちら側に呼ばれたプレイヤーであり、役目を終えたから“元の状態”に戻される。コレなら、お前は多分何も言わない。それが自分達の仕事だったのだと受け入れるだろうな。だからこそ俺と同じく、“戻るべきだ”と発言した。違うか?」
なんか、ちょっとだけ納得してしまった。
それが言葉通り“戻る”という行為では無かったとしても、こちら側の俺達がただただ消滅するだけだったとしても。
世界にとっても異常だと感じていた存在の俺達。
コレが無くなり、また世界には平穏が戻りましたとさ。
だったらまぁ、個人の意見云々の前に“あるかも”って納得してしまった気がする。
この時にもしも、仲間の誰かが置き去りになるとか。
そういう話になって来るとちょっと感想は変わってくるかもしれないけど。
けど全部忘れてしまって元の世界へ戻る、みたいなエンディングはそこら中に転がっている気がするのだ。
けどこれまでの情報だと、俺達には“戻る”という表現は正しくない。
それにアイツだって、“もっと我儘になれ”みたいな事を言っていたくらいだし……。
マジで、何なの? って感じではあるのだが。
最終結果に関しては、ゲームマスターでさえ把握してないって事態に陥っている可能性もある上に、言い方が妙に引っかかったのは確かだ。
となると……マジで、何?
作られたストーリーとして、そして彼が求める内容としてエレーヌ・ジュグラリスが深く関わっている事は間違いない。
しかし俺達にも気を使っている、というかやけに助言してくるし、納得する必要はないみたいな言い方だし……。
と言う事で、チラッと魔女の方へと視線を向けてみると。
「……何?」
シレッとした雰囲気で、エレーヌは此方を見つめていた。
とんでもなく美人であり、まるで“作り物”であるかのような魔女。
今更ながら、俺達と同じアバターというか……そういう存在なんだと言われると納得してしまうというか。
「お前が実は俺等と同じ転生者……天人だっけ? そういうのと一緒だったって、今更言われたらどう思う?」
「あり得ないわ、私にはこの世界で生きて来た記憶があるもの。しかも、百年以上も。貴女達と同様の存在というのは、可能性としてはゼロよ。そもそも私は、間違いなく“転生”に失敗しているからね」
そう言って、プイッと視線を逸らされてしまったではないか。
でっすよねぇ、いきなりこんな事を言われても困っちゃうよねぇ。
全部が正解とも限らない……なんて、今更あの夢を疑うつもりは無いが。
それでも……コレ、どうやって説明すっかなぁ。
その記憶ですら元々の“設定”として用意されたモノであり、本当の人物はそもそも違う世界に存在しています~なんて言っても、普通納得しないよね。
こんな事を言い出しても、俺等が悩んでいた自分達は何者なのかって疑問が、コイツの場合は更にややこしくなるのだから。
なんて考えつつ、更にウムムっと唸っていると。
急に、船が揺れた。
揺れたとかそういうレベルではなく、車が事故ったみたいな衝撃。
全体が急にガクッ! と止まったと言うか、皆壁までふっ飛ばされたし。
「グハッ!? って、ぶはっ! 痛ってぇぇぇ……」
ベッドに腰掛けていた俺は壁に顔面からキスをして、振り返る間もなく後ろから吹っ飛んで来たトトンが激突。
物凄い衝撃を受け、口から中身が出るかと思った程。
だというのに。
「す、すまんクウリ。そっちは間に合わなかった……」
「急に何なの……?」
起きていた方の前衛二人に関しては、吹っ飛ばされながらも空中で身体を捻り。
何と壁に着地してから、その後重力に従って床に戻って来たではないか。
イズに関しては、吹っ飛んで来たダイラをちゃんとキャッチしてるし。
なんだその身体能力、羨ましいなぁオイ。
そんな事を思いながらも、トトンに潰されたままグヘェ……と情けない声を上げていると。
「……んぁ? おはよぉ~クウリー」
「おはよぉクウリ~じゃねぇのよ、トトン。頼む、退いて……普通に痛かった」
「うん? んん~?」
寝ぼけているらしいトトンはノソノソと起き上がったが、ダイラに関してはイズの腕の中で未だスヤスヤ。
ウチのナイト様に関しては、お姫様をキャッチする能力まで完璧だったらしい。
起きていたのに顔面から壁に激突した俺、ダサ過ぎでしょうが……。
あ、ヤバイ。
船の壁と熱い口づけを交わしたせいで、鼻血出て来た……普通に痛い。




