第190話 条件
「おめでとう、更に魔王へ一歩近づいたという所かな、クウリ。やはりゲーム的な制限が無いと、君はどこまでも強くなるね」
「そりゃどうも。自分でも、こんな事やってる場合じゃねぇって事は分かってるんだけどね」
「いいや、君がこの世界で“特別”である事は、とても良い事だよ。そのまま続けてくれ、その方が君達も“飽きない”だろう? ゲーマーに取って、飽きとは感心の消滅を意味する。それでは、世界に“呑まれて”しまうからね」
そんな事を言いながら、こちらに珈琲を差し出して来る相手。
今回もまた、夢の中。
スーツに身を包んだ彼は、嬉しそうに微笑みながらそんな事を言って来るではないか。
「それこそ、世界に存在を示し続ける必要がある。的なアレ?」
「その通り。“転生者”にとって、平穏は許されない。それはプレイヤーではなく、MOBの仕事だ。本来であれば、ゆっくりと世界に“馴染んでいく”と表現したい所なのだが……私の経験からして、間違いなく後悔することになる」
「忙しい限りだな……ホント。生き辛いったらねぇよ」
思い切り溜息を零してから背もたれに体重を預け、だらしない姿勢のまま頂いた珈琲に口を付けていると。
本日は茶菓子まで用意してあるのか、皿に乗ったケーキが此方に寄せられてきたではないか。
もしかして、ボスイベを攻略したお祝いだとでも言いたいのだろうか?
些かチョイスが子供っぽいというか、女子か! って言いたくなったけど。
いや、今は俺が女子か。
だからケーキとか準備してくれたのかもしれない。
「まぁ良いや、あんまりゆっくりしてる時間はないんだろ? 今日も“答え合わせ”をさせてくれ」
「あぁ、また君の質問に答える形にした方が良いかな?」
ある程度此方と情報共有が出来る事に安心し始めているのか、最初よりも焦っている様子は感じられない。
今では「ホラ、ケーキ食べて」みたいな雰囲気でどうぞどうぞと促して来るし。
まぁ、食うけどさ。
と言う事で、ショートケーキの真上からフォークをドスッ!
そのまま持ち上げて、バクリと口に運んだ。
「豪快だね……」
「こんな見た目でも、中身はおっさんに片足突っ込んでるんでね」
そんな訳で、すぐさま茶菓子を完食してから珈琲をグビグビ。
一息ついた所で、改めて。
「北の門、アンタは“ゲート”って言ってたけど。アレについて教えてくれ。辿り着いた所で、俺達は何をすれば良い? そこに行ったら結局どうなる? どうすればこの“縛り”から解放される? それとも、自由に生きたきゃ“世界の同化”ってヤツを受け入れるしか無いのか?」
やはり聞きたい事に関しては俺達自身に関わって来る内容ばかりになってしまうが、こればかりは仕方がない。
どうしてもこの辺の答えが明確になっていないと、どれもこれも手探りになってしまうので。
すると相手は、一つだけため息を零してから。
「門に辿り着くとどうなるのか、という点に関しては……そうだな、あまり難しい事は無い。世界のアーカイブを閲覧出来るようになる、とでも言えば良いのか。しかしソレも一部だけの情報でしかない、君の場合は正式に“ログイン出来る”と表現するが一番明確な答えかな? そして今後どうなるかという質問に関しては……君達次第と言う他無い」
これまた、フワッとした答えが返って来てしまう。
とはいえ相手も全てを理解しているという訳では無い、と言っていたからな。
どうしてもその辺りは仕方ないのかもしないが。
しかし彼は“この世界の基盤は自分が作った”と言ったのだ。
だったら、知っている情報はかなりありそうなものだが。
「世界のアーカイブ、というのは……正直、君達が求めているモノではないと断言しよう。今を生きている世界がどうこうではなく、他の世界との繋がり、“転生”とは何なのか。それら履歴の一部が見られる様なモノだと思ってくれ。要はその世界が、他の世界と関わった過去の記録だ。そこに少しだけ触れられる機会を得る、と言ったところかな」
「探究家なら、泣いて喜びそうな内容だけどな」
「しかし君達も、私も違う。必要なのは、まず自身が関わっている事例の内容。だろう? その答えとして私が提示できるのは、君達が居る世界は“何も覚えていない状態”の私が組み上げた世界だという事」
つまりどういう事だってばよ、なんて突っ込みそうになってしまったが。
相手は此方にお代わりの珈琲を淹れてから、そのまま言葉を続け。
「世界にとって特別であり、他者に影響を与える事を求められる、それが“転生者”。つまり普通に生きていれば、以前の事など全て忘れてしまう。その結果……記憶の片隅に残る、“何となく”脳裏の片隅に焼き付いた程度の光景になってしまうんだ。それを参考に、私は“ユートピアオンライン”を作った」
と言う事は、この人があのゲームに関わった当初。
むしろ作り始めたその時は、自らが“転生者”だという自覚も意識も無かったという事か?
しかしあのゲームが数多くのプレイヤーたちを魅了し、ある種“特別”になり上がったところで、“こっちの世界”の記憶……かは、分からないが。
そういったモノが蘇って来た、という事で良いのだろうか。
「無意識ながらも、私はあの世界に“救い”を求めたんだ。私の愛した人が、置いて来てしまった女性が、いつか前を向ける結末を。ただただその我儘を叶えるためにユートピアオンラインは存在し、あの広大な世界は……本当の意味で“世界”と認められてしまった。その結果発生したのが、君達の様なプレイヤー。つまり、被害者と言う訳だ」
「転生者は世界から監視され、他のヤツにも“感染”する。その影響を受けた奴からもデータを収集、他の世界でも活用するってアレか……」
「その通り。私は知らず知らずの内に、“転生者”という駒としてしっかりと役割りを果たしてしまったという訳だ。君達の前にも、幾人ものプレイヤーがその世界へとたどり着き、そして誰もクリアまでは至らなかった」
この世界そのものの“クリア”という概念。
オンラインゲームにそんな物があるのかって話にもなってくるが、コレに関しては間違いなくあるはずなのだ。
彼が一つの事を目的としてゲームを作ったというのなら、ソレがクリアの絶対条件となって来る。
それを達成したからと言って、何がどう変わるのか。
こればかりは彼に聞いても“不明”という答えが返って来そうだが……。
「他の奴の夢にまで出て、俺に助言した程だ。間違いなくアンタが俺を使って“クリア”へと駒を進めているのは分かる。そんでもって、前から話を聞いている限り……いちいち言っている事やら設定が、どっかの誰かさんと被るんだが。“そういう事”、で良いのか?」
「まぁ、大体予想はついているだろうね。そう、その通りだ。私がこのゲームに求めたモノ、それは……“エレーヌ・ジュグラリス”の、心の解放だ」
つまり、あの棺桶に入っているのはコイツの死体。
以前はこの世界で一緒に旅をしていた筈の……って、ちょっと待った。
「あれ? 何か順番がおかしくないか? この世界はアンタが作って、エレーヌは転生に失敗したんだよな? でもアンタだけは成功して、“そっち側”の世界で新しく生まれた。じゃぁ起点はどこだ? 平行世界だの、時間が戻ったのって話じゃない限り、色々おかしくないか?」
こっちで二人は旅をして、北の門を一緒に潜った。
しかしこの人は死亡、そして無事転生を果たした。
ソレに失敗した魔女だけは取り残され、今もこの地を彷徨っている状態。
けどそれじゃ、順番が違う。
だって転生後、この人が“ユートピアオンライン”を作った後じゃないと、こっち側の世界は存在しない筈なんだから。
「世界にとっての異物たる、転生者。これには色々と条件があるみたいでね……例えば元の君はAという世界に存在する、しかしBという世界にも“クウリ”として存在する。この繋がりが無いと、転生者としての“条件”を満たさないみたいなんだ。それはデータと言う意味で、現在生きているかどうかは関係ない。ABどちらにも一人の人間が存在している、していた、という証明が要る」
え、えぇと?
なんとなく分かるというか、ざっくりと理解出来るというか。
要はAB両方に居る人じゃないと、そもそも“転生者”として機能しないって事で良いんだよな?
そこに時間や生死は関係ないとなってくれば、確かに居たという歴史というか……。
簡単に言ってしまえば、Aという世界のみでオンリーワンの存在ってだけでは、全体からするとモブって扱いになる訳で。
俺等プレイヤーに関しては、AとBにちゃんと存在が確定しており、両方で実績を残す事で。
そして他の場所との関りがあるからこそ、ある種特殊で居られるというか……。
まぁ偉人なんかで考えるのが一番分かりやすいのだろう。
例え死んでも、その人の名前や実績は後世に残り続ける。
「エレーヌという存在が居て、私は共に旅をした、これは事実だ。しかし……その世界には、“転生する為の門”なんて代物は存在しないんだよ。アレは私がゲームの要素として盛り込んだ、いわばエンディグの為に作られたゴール地点。そしてストーリーを理由付けする為の、そしてプレイヤーを発生させる為だけの“設定”だ」
う、うん?
いやまぁ、ゲームだけに絞って考えれば分かる。
世界にとっては、そもそもプレイヤーはどっから来るんだって話だし。
スタート地点で“発生する命”。
そして旅を進め、世界に影響を与える存在。
まさにゲームのプレイヤーであり、“主人公”になれる訳だ。
だが、そうなって来ると魔女は?
エレーヌ・ジュグラリスは、いったいどこからこの世界にやって来た?
今ここに居るアイツがオリジナルだというのなら、やっぱりかなりファンタジー理論で納得するしか無くなってしまうのだが。
「とても簡単な話だよ。というより、次のアップデートで予定されていたんだ。ユートピアオンライン史上最強のNPCキャラクターであり、物語のキーとなる人物。彼女を救い、この世界の真理に挑む。それがエピック最終章の、ストーリーの幕を閉じるにふさわしい“用意された”結末」
「つまりエレーヌは、転生云々とは全く関係ない……そもそもNPC? いや現地人だとは思っていたんだけど、そもそも土俵が違うっていうか……あれ? ちょっと待った、混乱して来た」
そっちよりまずは俺達の情報収集をしろよと自分でも思うのだが。
どうしても放置して良いフラグには思えないのだ。
もうアイツだって俺等の仲間だし、一緒に旅をしているのだから関係ないとは思っていない。
だからと言っても、何よりも優先すべき内容では無い……筈だったのだが。
「そちらの世界の彼女は、間違いなく私が“作り出した”。ゲームで言う所の、NPCと変わらない。しかしプレイヤーと深く関わり、世界そのものに変化を与えるキーパーソンとして設計された。そして元のエレーヌは、別の世界で確かに存在している。順序が違う、ルールに則っていない。だがこの現象は、大きく見れば……」
「こっちの世界でアイツは……ある意味俺達と同じ“プレイヤー”の括り? アバターと記憶、そして設定まで盛り込まれた状態で“発生した新たな命”。いや、疑似的に“転生者”と同じ状態になっている存在ってだけで、“中身の無いプレイヤー”と言うべきか?」
「その通り。だからこそ彼女は、もうあの棺桶を背負う必要など無いんだ。そしてコレは、君も同じ。過去の自分に縛られ続ける必要も無ければ、新しい生命として人生を謳歌する事を許されている。だが……君はきっと、それだけでは納得しない。もう一つ、“今の君”を失うと不味い理由があるのだから」
それは、いったい?
なんて、声を上げようとしたのだが。
徐々に視界には霧が立ち込めていく。
今回はここまで、タイムアップという訳だ。
しかし。
「私の作ったエンディングなど破壊して、その先を生きるんだ。そして……どこまでも我儘になれ、魔王。それこそ、仲間達を“巻き込む”事だって視野に入れるべきだ。人間は、一人では生きて行けないのだから」
やけに意味深なお言葉を、最後に頂いてしまうのであった。
一人では生きて行けないって……今も一人じゃねぇっつの。




