第19話 アクセサリーの効果
「これはまた見事に……」
ダンジョン入口付近まで近づいた俺達が周囲を見回してみれば。
それはもう悲惨な光景。
爆心地は綺麗に何も無くなっているし、周囲の木々も枯れてボロボロ。
もはやちゃんと原型が残っている木の方が少ない。
ついでに言えば、ミイラみたいになった魔物の死体がそこら中に転がっている。
「デバフ系の魔法も、こんなに効果が出るのならもはや殲滅魔法だな」
「ゲームの時でも“老化”のデバフってエグイマイナス率だったけど……そうだよね、呪いが解除されるまで老化し続けるなら、こうなるよね……こっわ」
イズは生き残りでも探しているのか、周囲に視線を向け。
ダイラは完全にデバフの効果にビビっていた。
最後のちびっ子に関しては。
「とぉっ! うわぁ、すげぇ。でっかい木もスッカスカだ」
盾で枯れ木をブッ叩いて状況確認していた。
原型がまだ残っていたデカイ樹木だったのに、トトンの攻撃でバターンと倒れたかと思えばバラバラに砕けてしまったではないか。
うん、これ大丈夫かな?
イズが炎系の魔法とか使ったら、この残骸に全部火が付いちゃうかも。
「うーん……だとしたら、やっぱ潜った方が早いかぁ?」
「クウリ?」
「あーいや、ちょっと俺もココまで“老化”のデバフがエグイとは思わなくて。木が全部枯れちゃったのは予想外だった……ゲームだと敵にしか効果なかったし」
と言う事で、仲間達と相談した結果。
しばらくダンジョンの様子を見ようという答えに行きついたが、数時間ほど待っても溢れ出して来る様子は無し。
たまにチョロッと出て来たかと思えば、イズのスキル一発で終わり。
スタンピードってこんなにゆっくりなの? トトンとか飽きて寝ちゃいそうなんだけど。
「もういいや、待つのが面倒くさい。攻め込むか」
「一応ダンジョンだから、分かれ道もあるだろうが……大丈夫か?」
俺等がAという道を選んだ後に、Bという道から溢れ出して来ないかって話なんだろうが……まぁ、中でどんどん減らして行けば溢れる事も無いんじゃね?
という雑な結論を出し、四人揃ってダンジョンの入口に立った。
岩壁にポッカリと開いた洞窟の入口って感じで、外からだと暗闇しか見えない。
恐怖と興奮、どちらが勝つかと言われると……正直、面倒くさいって感想が真っ先に来てしまうのだが。
まぁ、試すならここしかないのも確かだし。
「ちょこっと作戦変更。洞窟内で火を使うってのも怖いから、基本物理で頼む。俺は小技、イズとトトンが特殊効果なしの武器とスキルで先行。ダイラは基本回復を準備しながら明かりを頼む」
「え、と。バフとかは良いの?」
「素の実力を試す訳だからな。普通の武器で全力出した方が、まだ分かりやすいだろ」
「あ、なるほど。であれば了解」
そんな会話をしつつ前衛は装備を変え、ダイラが明かりを灯す魔法を使ったのを確認してから。
「では皆様。初ダンジョンへ、れっつごー」
「クウリ、全力が出せないからと言って……もう少し警戒した方が」
「やる気ねぇ~」
「今中は魔物だらけなんでしょ!? ちゃんと守ってよ!?」
と言う事で、のんびりとした雰囲気のままダンジョンへと踏み込んでいくのであった。
まぁ大技の確認はさっきしたし、俺は今回サポートに回りますかねぇ。
※※※
「前方からミノタウロスの集団、防ぐよ~ん」
トトンの緩い声が洞窟内に響き渡ったかと思えば、迫って来たミノタウロスの斧を良い勢いでパリィ。
ノックバックが発生したのは確認したが、先頭の奴が吹っ飛ばされて後ろの奴等はドミノ倒し状態に。
うん、そっか。現実だと、こうなるよね。
狭い所に大集団で攻めて来るとか、デメリットしかないよね。
「トトン、俺が出る」
「了解~。あ、イズ。魔法は無しだよー?」
「洞窟内だからな、分かっている」
そう言ってイズが突っ込めば、慌てて起き上がろうとしていた魔物達が次から次へと細切れになっていく。
スキルも魔法も使ってないのに、イズ強ぇ……。
というかアレだな、スタンピード直前だからって理由で相手が多い。
俺等みたいなステータスが無ければ、確かに物量で押し返されてしまうかもしれない。
が、しかし。
「クウリ! う、後ろ! 後ろからも来た!」
「あぁ、はいはい。“チェインライトニング”」
ダイラの叫び声が聞こえたので、振り返って雑に杖を向ける。
その先から雷撃が発生し、近くに居た魔獣達に連鎖するかの様子で次から次へと電流が流れる。
その為、後ろから来た集団はまとめて黒焦げになってしまった。
洞窟内で火は、とは思ったけど……雷も不味いのかな、よくわからん。
そういう小難しい知識は、正直あまり持ち合わせていないので。
というかデカイスキルばかりに目を向けていたから、こういう細かいスキル必要最低限しかとってないんだよな。
スキルツリーの関係上取らないといけないってだけで、強化もあんまりしてないし。
でもこの威力。
喜んで良いのか嘆けば良いのか分からないね。
「う~ん……戦い辛いって印象しか残んねぇなぁ。あと、つまらん」
「絶対に広範囲魔法はダメだからね!?」
しつこいくらいにダイラに怒られてしまい、ヘイヘイと両手を上げてみる訳だが。
前衛二人も、サクッと戦闘終了。
周りの人に見られている訳でもないし、こりゃ本当に面倒な戦闘続けてる気分だな。
ダンジョンのトラップとか、お宝とか、ボスとか。
潜った後では、もうそれくらいしか調べる事残って無さそう。
こんな事なら、街に残って売れる物捜した方が有意義な気がして来た。
「もう、アレだな。一気に進むか。ダイラに防御魔法使って貰って、トラップとかも無視して」
「賛成~、俺もちょっと飽きて来たー」
「落とし穴とかには気を付けてくれ……と言いたくなるが、クウリには翼があるからな。確かにこれでは時間ばかり掛かる、高速移動を試しても良い気がするな」
「うえぇ……本気? 確かに一気にボスの所に行きたい気持ちは分かるけど……」
ゲーマーにとって、飽きとは一番怖い事なのだ。
身の危険がすぐそこにある状態では、何を甘ったれた事を、と言われてしまうかもしれないが。
でもこのままの状態で長時間せまっ苦しい所に閉じ込められたままってのも、精神衛生上良くない。
今回の件でよく分かった。
ゲームならまだしも、実際に存在するダンジョンなんてモノはクソだ。
小技しか使えないし、普通の状態だったら他の冒険者だって居る訳だろ?
戦い辛いったらない。
「よし、んじゃ“羽”使うぞー。ダイラ、“プロテクション”」
「と、飛ぶんだよね……俺ジェットコースターとか苦手なんだけど、大丈夫かな……」
青い顔をしたダイラが俺の背中の片翼にガシッと掴まり、俺達全体を球体の様な防壁に包んでいく。
正面から腕に収まったトトンを抱え、もう片方の翼にイズもしがみ付いた。
物凄く変な状態でくっ付いた皆を確認してから。
「“浮遊”」
一言呟けば、俺の翼が広がり全員の体重が無くなったかのようにフワリと浮き上がった。
おぉ、ゲームと一緒だ。
アクセの効果を使うのは今回が初めてだが、上手く行きそう。
そんでもって後は……俺が飛行操作をミスらなければ、高速移動が可能になる。筈。
「では……前進んんん――!?」
「クウリ! クウリ流石に速い! コレは曲がれるのか!?」
「うぎゃぁぁぁ! ジェットコースターより怖いぃぃぃ!」
「あーでも、ゲームでもこれくらい速くなかった? このアクセって、減速とか出来るの? いつもはクウリが面倒くさがって、全力飛行してるのかと思ってたけど」
狭いダンジョン内で、俺の羽が全速力を出し始めた。
待った待った待った! コレはかなりヤバイ、滅茶苦茶な反応速度求められてくるぞ!
そこらのレースゲームよりもヤベェ!
俺はトトンみたいな反射神経なんぞ持ってないぞ!?
「クウリ! 右だ! 右に曲がらないとぶつかる!」
イズの警告により、思い切り体を傾けた。
しかしいきなりそんな上手く操作できるはずも無く。
「どわぁぁぁ! ぶつかったぁぁ! というか擦ったぁぁぁ!」
「これまでで一番プロテクション削られてるって! クウリ、本当にしっかりして!」
「おぉ~ジェットコースターというより、ミ〇四駆だ……」
コレ、やべぇわ。
ゲーム内でもガッツンガッツンぶつかってたから、ダイラに防御してもらっていた訳だが。
滅茶苦茶狭い所で戦闘機にでもなった気分。
あっ、やべ。
今、魔物の群れを正面から轢いた。




