第187話 その軌跡を
屍の箱舟、そう名付けられたエピッククエストのボス。
コイツは砂の海に居ると言い伝えられている“砂漠の竜”を追い求めて、旅に出た砂漠の国の貴族だった。
仲間達と共に設計から船に携わり、ソレに乗って自ら舵を切り、大冒険に飛び出した若者。
だがしかし、その旅は決して楽なものではなかったと記されていた。
ストーリー上で見つかる、彼の残した手帳。
それに記された日記では、様々な苦悩が色濃く残されていたのだ。
戦いの度に仲間を失い、同胞達とだって何度も衝突が起き。
彼は何度も何度も説得を試みて仲裁し、その度に船を下りる船員、残っても戦闘の度に命を落とす多くの船員。
本当に様々だった様だ。
けど街に寄る度に彼等の夢に惹かれ、共に歩もうとする人々は多く居たのだとか。
その為人が減ったり増えたり、現実的な問題が常に襲い来る日々。
でも彼は諦めなかった。
夢見た砂漠の竜を追い求め、これを討伐し、自らは竜殺しなんだと……俺達は英雄なんだと語るが為に。
そんな夢を追い続けた男の末路。
最終地点で見つかる彼の日記には、意識も朦朧としながら、正常な判断力さえ失いながらも……“竜を見つけた”、と記されていたのだ。
この後は本人からの詳しい情報は無し。
そして始まるこのボス戦を見る限り、相手はきっと幻影か何かでも見たのだろうと多くのプレイヤーは想像した。
死の間際、旅した仲間達と共に見た最後の光景。
それは追い求めていた“砂漠の竜”の幻。
だからこそ、亡霊となった彼等の船が砂の海に沈んだその場所から、件の“竜”が顕現するのだと。
コレは彼等の追い求めた幻想を、彼等自身が作り出した虚像なのだと。
そう、思っていたのだが。
「立派なもんじゃねぇか、海賊船長……お前等は本当に“砂漠の竜”を見つけ出してたんだな! ソイツを追って、コイツの首を落とすまで死ぬに死にきれなかった亡霊って訳だ! そうだよなぁ、そりゃそうだ! コイツを殺す為に何人も死なせちまったんだもんなぁ! 今更後戻り出来ねぇわなぁ!」
「言ってる場合じゃないよクウリ! どうするのコレ!? 第一形態と第三形態同時に相手するって事!?」
クハハハッ! と高笑いを浮かべてみれば、ダイラからは悲鳴の様な声が返って来てしまったが。
でも俺、こういうストーリー大好き。
男は度胸、そんでもって人生賭けてロマンを追い求めた奴が……こんな姿になっても諦めなかった。
しかもこれまで死なせた数多くの仲間達さえも全部覚えていて、全員をこの船で運んでいる。
誰一人置いて行かない。
コイツ等は皆仲間で、全員揃って英雄なのだと存在が語っているかの様。
その執念をはっきりと感じる程の力強さ。
こんな立派な船なのだ、そこらの一般貴族って事はまず無いだろう。
それなりに立場があって、コイツの旅に“仕事”として付き添った連中だって数多く居た筈だ。
だがそれら全てを傲慢に語る事などせず、この船の船長は全て“仲間”と記した。
プレイヤーからしたらスキップ上等の、くっそ多い文字列の数々は、全部乗組員のフルネームだった訳だ。
様々な問題に遭遇し、次々と仲間を失って、もう後には戻れなくなってしまった男の物語。
ソイツの最終頁だけを、プレイヤーが掻っ攫ってしまうというエンディングだったってこった。
まったくこのゲームの運営は質が悪い、というか性格が悪い。
平気で胸糞エンドも作るし、変なところで情報を絞る。
だというのに、本当にソイツという人間が存在していたかのような、やけに生々しいフレーバーテキストを添えて来るのだから。
で、あるのなら。
「聞けぇぇぇぇ! 亡霊共!」
喉が避けるんじゃないかって程の声を張り上げ、杖を振り上げた。
そして注目を集める為だけに、空に向かって攻撃魔法を一発ぶっ放してから。
「お前等の船に、邪魔するぜ? わりぃが船長、ちょっと手を組もうや」
ニィッと口元を吊り上げてから宣言してみれば。
先程までノーライフキングと戦っていた亡霊船長が動きを止め、静かに此方を見つめているではないか。
「お前等の目的はあの“砂漠の竜”、俺等の目的もあの邪魔者をぶっ殺す事だ。よぉ、だったらチマチマやってる暇なんぞ無いだろう? 獲物をみすみす逃がすつもりかよ?」
『――――! ……、――!』
こちらに向かって、何かを叫んでいる船長さん。
しかし、詳細は分からなかった。
でも、今回だけは“何か言っている”事だけは分かった。
だからこそ、更に口元を吊り上げて牙を見せる程微笑み。
「ハッ! 聞こえねぇなぁ、そんな小せぇ情けねぇ声じゃ。どうした、テメェはこの船のリーダーだろうが? コイツ等まとめて英雄にする為に、最後まで船を動かした英雄様なんだろうが……だったら聞こえる様に喋れや! ゴースト以外には聞えませんなんて羽虫みたいな声じゃ、俺等には届かねぇぞ!」
叫んでからガツンと杖を甲板に叩きつけ、更に叫ぶ。
船の近くに出現し、今も砂の海を泳いでいる……第三形態、“砂漠の竜”を睨みながら。
「俺達は今から、あの“竜”を狩る! テメェ等はその為に砂の海に出たんだろうが! 余所者に獲られても良いのか!? ちげぇよなぁ、許せねぇよなぁ!? どいつもこいつもミイラになっても、それでも戦う意思は残ってるんだ。だったら自分達の手で討伐して、“本物の英雄”ってヤツになりてぇよなぁ!?」
もはやそこら中に居るミイラ達すら、俺の事を眺めている。
その全てが、こちらの声に異を唱えるかの様子で何かを叫んでいる様だが。
聞こえないんだよねぇ、お前等の声が。
仕様だって言われちゃそれまでなんだけどさ。
けど、今はゲームじゃないんだよ。
リアルなんだよね。
だからこそ、こんな英雄譚を目の前で見せられちゃ……乗っかるって選択肢以外ないでしょうが!
自分達の事を考えれば、こんな事をしている場合じゃないってのは分かるけども。
それでも、だ!
「お前等だけじゃ討伐出来なかったんだろう!? 手数も力も足りなかったんだろう!? だが今は、俺等が居る! あの恐竜を殺し切れる力を持ったプレイヤーが、こんなにも居る! だったら“仲間”にしなくてどうするよ! 余所者に取られるんじゃなくて、仲間にして皆でアイツをぶっ殺そうぜ! よぉ雑魚共! お前等はどうしたい!? 雑魚のままで良いのか!? ちげぇよなぁ!」
完全にテンションだけで叫んでいた。
既に船長など知らんって勢いで、甲板の手すりに踵を乗っけながら杖を肩に担ぎ。
思い切り、次々溢れて来るミイラ共に向かって煽り言葉を吐いた。
どいつもこいつも、何かを叫びながら此方に敵意を向けて来る。
ふざけんじゃねぇって、そう言われているのが雰囲気だけでも分かる程だ。
そうだ、もっと怒れ。
もっともっと感情的になり、これまで以上に“我儘”になれ。
コレはゲームではなくリアル。
であれば、所詮リーダーなんてものは独裁者であり続ける程が難しいのだ。
こういう狭い空間で、皆のトップであり続けるのなら。
それは、集団の意向こそが力となる。
皆の心を拾い上げつつその方向性、そしてどうにか納得させられる地点へと舵を切るのがリーダー。
つまり、俺みたいな存在って訳だ。
そして目の前に居る海賊船長は、間違いなく俺と似たようなタイプ。
ふんぞり返って命令を出すだけのトップではないと、彼自身の資料が物語っている。
さぁどうする、亡霊の親玉。
お前の大事な仲間達は、俺に反抗的な感情を噴出しながらも、誰もが叫んでいるぜ?
声は聞えなくとも、分かる。
“あの竜を狩るのは俺達だ”と、全員の意思が一つになっている。
「さぁどうする船長! 俺等の手を借りて皆で英雄になるか!? それともまた“竜”を逃すか!? お前はこの後悔を何年、何十年繰り返して来た!? さぁ選べ、今回もお前等だけで竜に挑み負けるか……俺達、“魔王のパーティ”に協力を求めるか。どっちか決めろよ、リーダー?」
ニヤッと牙を向き出しにしながら笑いかけてみれば、相手は。
『――――、力を』
そう言って、刃を鞘に納めたではないか。
やっと聞こえた、コイツの声が。
そんじゃ……やりますか。
御大層な船で、御大層な人数揃えて。
全員揃って、“竜殺し”のお時間だ。




