第185話 屍の箱舟
「ギャウギャウギャウギャウ、うるせぇんだよミイラ共! “カオスフィールド”!」
デカい船、というか思いっ切り海賊船。
そんな物がすぐ近くまで寄って来たかと思えば、今度は甲板から溢れ出す様な数のミイラが降って来る。
このボスの取り巻き、雑魚モブな訳だが。
どこにこんな数が乗ってたんだよ! と言いたくなる程の量が降って来るのだ。
それはもう、滝の様に。
んで、そんな奴等に対して範囲攻撃。
しかも呪術系持続ダメージ、HP全ロス後は魔力爆発を伴うスキルなんぞ使えば。
「ちょぉぉぉ! クウリ、爆発が連鎖して船に届いちゃいそうだって!」
「うぎゃぁぁぁ! 俺が殺し切る前に誰か中間地点を攻撃してくれぇぇ!」
ダイラの叫び声に対し、今度は此方が悲鳴を上げてしまう始末。
いつもだったら気にする事ではない。
呪いの連鎖で敵は殲滅できるし、相手の乗り物にも被害を出せる。
此方としては万々歳の状況なのだが。
コイツは、それでは駄目なのだ。
ストーリー終盤、というかアプデされていた所の最終段階に近い場所に配置されたボス。
“屍の箱舟”。
砂漠地帯で遭遇するコレは、船長たる海賊のトップが怨霊化した為に発生したとされている。
つまりゴースト系エネミー。
それこそ俺の得意分野だろって言われそうだが、生憎とボス相手では普通に戦う事しか出来なかったという訳だ。
そしてさっきから警戒している事例、それは相手の船を“大破”させてしまう事。
ストーリー上、こちらも船に乗ってコイツ等と戦う事になるのだが……此方の船を、それはもう厳つく強く改造する事は出来るのだ。
砲撃を繰り返し、こんなミイラを相手せず完封する事だって可能。
だがそれは、“第一形態”のみ。
もしもここで船その物を壊してしまった場合、第二形態で更に苦戦する事になる。
あのデカい海賊船その物がゴーストとなり、タイミングを合わせないと“物理的に”触れられなくなってしまうのだ。
つまりターン制のボスキャラ。
此方の船から相手の船へと飛び移り、実体化している間のみ高火力を叩き込める。
しかし攻撃ターンが終了した瞬間ゴーストシップは霊体化し、その場で振り落とされる。
地面に落ちたプレイヤーにさっさと自分の船に戻らないと、音によって集まって来た砂漠地帯のモブエネミーに齧られるという訳だ。
と言う事で、最短ルートを目指すのであれば海賊船の被害は最小限に。
第二形態に進んでも、船が残っていれば乗り物はそのまんま。
なので、無理矢理こっちと相手の攻撃ターンを重ねる事が可能になる。
「まさかスキル一発でここまで連鎖爆発するとはな……」
「とりあえず、後続との間を空ければ良いのかしら?」
雪崩れ込んで来る敵陣のド真ん中に二人の剣士が突っ込み、それはもう盛大に暴れはじめた。
少々派手にやり過ぎて、周囲の他のエネミーも寄って来て居る気がするが。
それは良い、何とかする。
そんでもって魔力爆発に巻き込まれている個体と、そうでない個体の間に空間が発生し、何とか連鎖は終了。
マァジで助かった。
あのまま呪いが連鎖してしまっては、初手で海賊船をぶっ壊す恐れがあったので……。
「トトン! 上手い事誘導してくれ!」
「あいあいさー! お任せっ! と言いたい所だけど……走り辛い!」
「バフ全盛りするよ! 何とか頑張って!」
環境的な阻害を軽減するバフを端から貰ったトトンは、手前のミイラなんぞ気にせず走り出し。
そこら辺の地面に向かって、何度も大槌を叩き込んでいく。
スキルも使って馬鹿デカい音を立て、周囲からヘイトを買っていく訳だが……今トトンが集めているのは、フィールドに居る雑魚モブの方。
決して、ミイラではないのだ。
「来た来た来たぁ! 大漁だよ!」
叫びながらトトンが反転してみれば、周囲からは砂が盛大に巻き上がり始める。
砂の中を泳ぐ魚や、ドジョウみたいな奴。後は巨大ミミズの様なモブエネミーがワラワラと姿を現したではないか。
そんでもって、ソイツ等を引きつれながら……今度は、海賊船に向かって一直線。
「前衛二人はトトンの援護! ちびっ子は身長を生かして捕まらない様に走り回れ!」
未だ船から溢れて来るミイラ達。
群衆の間を走り抜けるトトンを追って、砂漠地帯のエネミーが襲い掛かる。
結果、出来上がるのは。
「さぁて、祭りの始まりだ!」
ボスの取り巻きと、周辺のモブが食い合うという地獄絵図が発生した。
もうそこら中で戦闘が起きているし、デカい砂漠生物はビッタンビッタン暴れるし。
取り巻きだって、ミイラとはいえちゃんと海賊をしているのだ。
もはや戦争と言っても良いくらいに場が温まって来た。
これはゲームでも出来たミイラの対処法、だが難点が一つ。
砂が舞い上がり過ぎて、なぁんも見えねぇ。
と言う事で。
「全員こっちに集まれ! ある程度数が減った所で“翼”を使う! 一気に突き抜けるぞ!」
「そんな事したら空からもエネミーが来るけど、良いの!?」
「餌なら船からいくらでも湧いてくるんだ、気にすんなダイラ! ヘイトを散らしてやれば勝手に食い合う!」
「んもぉぉ! これだからこのボス嫌いなんだよ! ずっと忙しい!」
後方に残された俺達はそんな会話を繰り広げていたが、残る三人も全力ダッシュで此方へと戻って来て。
「ぶえぇぇ……砂だらけ」
「ゲームなら視界だけで済んだが……リアルだと酷いな、コレは」
「……ドレスで来る所じゃないわね」
見事に全員砂まみれになっており、トトンとイズに関してはもう嫌って感じにゲンナリ。
魔女に関しては、今更過ぎる感想を残しておられるようだが。
「さて、ある程度片付いたら一気に船に乗り込む。んで、船長だけを討伐。その後第二形態にシフトしたら魔法攻撃メインに切り替え、ただし船には可能な限り攻撃しない事。良いな? その後の第三形態に関しては――」
『魔王様、よろしいでしょうか?』
おや? これは珍しい。
呼んでもいないのに、俺の影からヌッと骨ボスが頭を出したではないか。
ちなみに今太陽は真上、しかも砂漠地帯。
なので、俺の股下から骸骨が出て来たという酷い絵面にはなっているが。
「どした、ノーライフキング。最近呼んでないから暇になったか?」
ローブを広げてどうにか影を広げてやれば、上半身くらいは出て来たけども。
相変らず絵面が酷い事で。
などと呑気な会話を繰り広げていると、骨はやけに真剣な……雰囲気? で海賊船を見上げてから。
『初手を、私に譲っては頂けませんでしょうか? もちろん、魔王様が相手した方が早いのは理解しております。しかし……』
「ほぅ? それはどういった理由で?」
すると、砂漠から生えたローブ付き骸骨はスッと此方に向かって頭を下げてから。
『声が……聞こえるのです。彼の、悲痛な声が』
声? さっきから周辺でモブと取り巻きが食い合っているから、そっちの声なら煩い程聞こえるが。
それの事ではないのは明白。
そして今回の相手はゴースト、ある種コイツと同類な訳だ。
だからこそ、互いに何か感じられるモノでもあったのだろうか?
そうなってくると、これまた“リアルになったからこその影響”って事になるのだが……。
コイツも既に、ただのボスエネミーってだけの存在じゃない訳だ。
まぁ、俺が渡したレイド武器装備してるしな。
この時点で普通じゃないのは確かなのだが。
「あまり長引かせて良い相手じゃない、それは分かるな?」
『えぇ、この惨事を見れば……大方理解出来ます。しかしこの地は、あまりにも“悲し過ぎる”。以前の私なら、大いに喜んだ事でしょう。しかし今となっては……私同様、救ってやりたいと感じております。どうか、お許しください』
更に頭を下げ、物凄く真剣にお願いされてしまったが。
何か今、凄い事言ってなかった?
ノーライフキングと“同じ様に、救って欲しい”と言ったか?
え、待って。それってさ、つまりさ。
「フ、フフフ……」
「あちゃぁ……クウリが悪い顔しちゃった」
「間違いなく、“救う”人間の顔では無いな?」
「場の雰囲気くらい合わせようよ……考えるのは勝手だけど、表情に出すものじゃないって」
仲間達から、物凄く呆れた視線を向けられてしまったが。
知らん、今は関係ない。
だってノーライフキングだって、こんなに役に立つボスキャラなんだよ?
しかも今では、俺がテイム出来ちゃってるんだよ?
この先何が起こるか分からないし、やはり戦力は多い方が良いと思うんだ。
と言う事で。
「それで、どうするの? 骨に任せるの? 私達が潰すの?」
早くしろと言わんばかりに、エレーヌが急かして来るのだが。
どうするか? そんなの決まってんだろ。
いつまでもこんな砂漠地帯を、テクテクテクテク歩っていられるかよ。
「作戦変更ダァァ! ノーライフキング、一旦お前に任せる! 相手の事を、そりゃもう根掘り葉掘り全部調べて来い! 当然俺等も現地入りするが、お前が何とか出来るなら……というか俺が“テイム”出来る状況を整えられれば、そりゃもう全部マルッと頂いて――じゃなかった、俺が救ってやると約束しよう!」
『感謝いたします、魔王様』
そんな言葉と共に、影から完全に姿を現すノーライフキング。
昼間だから弱体化しているのか、ちょっと透けていたりはするが。
しかし周辺にはコイツの配下とも呼べる亡霊兵達が次々と出現し、これまた俺等が渡した武器を掲げた。
『聞け! 同士達よ! あの船には、未だ彷徨い続ける同胞が残されている! 魔王様から、彼等にも恩恵を与えて下さると御言葉を頂いた! ならば戦え、そして救え! 身体が朽ち果てようと天に帰れぬ我々に、癒しの泉たる存在は魔王様の他にない!』
なんか、ノーライフキングが凄い事言いだした。
これに感化されているのか、亡霊兵達も手に持った武器をザッザッザッ! と地面の砂に叩きつけて音を上げているし。
わ、わぁ……なんか俺よりずっと魔王っぽい。
というか、ちゃんと統率者してる。
『進め、戦え、そして共に歩もうではないか! 我々は所詮亡霊、生者からの理解など得られぬ! だがソレを覆す我が主の元に集った我々は、その責任がある! 力がある! 未だ嘆く事しか出来ぬ魂を救済し、共に戦う同士となろう! さぁ、我に続けぇぇぇ!』
うぉぉぉー! って感じに、ミイラ対砂漠動物の戦争に突っ込んでいく、第三勢力。
今度は幽霊。
わー、やべぇ。
さっきよりずっと絵面がヒデェ。
などと思っている内に、亡霊兵士達はどんどんと戦場を突き進み。
此方から見ても、早速海賊船に取りつき始めたではないか。
「魔王、どうするの?」
「ん~……とりあえず」
「とりあえず?」
思いっ切り、翼を広げた。
さぁ乗れ、とばかりに仲間達をチョイチョイ手招きしてみれば。
誰も彼も呆れた顔で俺にしがみ付いて来て。
「まずは……あの海賊船、俺が貰う! 俺が船長じゃぁぁ!」
叫んでから、思い切り低空飛行で加速するのであった。
ここ最近悩んだり、忙しい事ばっかりだったからね。
だったらたまには、馬鹿になって大騒ぎするのも悪くはないというものだろう。
上手く行けば、戦力増強じゃい!




