第181話 極地、パーティは一つ
「クウリー? おーい、ク~ウ~リ~? 朝だよー?」
「……んぁ?」
ペチペチと頬を叩かれる感触に目を開けてみれば、目の前には……物凄く近くにトトンの顔が。
何しとんじゃお前は。
「ちけぇ」
「なはは、確かに。でも全然起きないんだもん、珍しいね? 意外とキッチリ起きるのに」
俺の上に乗っかっていたらしいトトンが退いてから、上体を起こしてみれば。
寝ぼけた頭でも分かる、普通にテントの中だ。
昨夜、エレーヌと一緒に夜の見張り番をして。
その後他の三人と交代。
普通にテントに入って、俺と魔女……あと棺桶と一緒に寝たところまでは記憶している。
だからこそ、なんの違和感も無い朝。
の、筈なのだが……。
「何だ……? 今の夢」
「夢? 何か面白い夢でも見てたの? 寝坊するくらいに」
はて? とトトンは首を傾げてみせるが。
こっちとしては、正直……気味が悪いとしか言いようが無い夢だったのだ。
これまで俺が経験した“夢”ってヤツは、結構曖昧だったり、目が覚めると忘れちまったりと色々。
だというのに、何故か……先程まで、ちゃんとソコに居たかのように。
あの男と話をした記憶が、ハッキリと残っているのだ。
ユートピアオンラインの創設者、そして現代の偉人とも言える程の天才。
アイツの話していた内容が、頭から全く離れない。
「クウリ? なんか……平気? 怖い夢だったの?」
やけに心配そうな顔をしながらも、再びトトンがこっちに寄って来たかと思えば。
何を思ったのか、ボケッとしていた俺の頭を正面から胸の中に抱き込んで来た。
「なぁにしてくれちゃってんだよ、トトン。お前は普段こういうポジじゃないだろ」
急に変な事をやりだしたちびっ子だった訳だが……まぁ、俺等の中で一番アバターの影響を受けている可能性があるからな。
精神が本格的に女の子になり始めているのなら、こういうボディータッチってのも普通……なのか?
俺が見て来た限り、男達より女の子同士の方が触れ合いって多いイメージではあったのだが。
コイツの場合も、そんな感覚なのだろうか?
まぁ実際、抱き着いたり膝枕なんてのも平気でやっているからな、俺等のパーティ。
見た目の影響と中身がごっちゃになって、感覚的には訳わかんない事になっているのは確かなんだけど。
「なんか、クウリがまた悩んでそうだったから……」
「それだけでハグはしないだろうが、普通。それとも何か? お前は普段からこうしてくれる彼女か女友達でも居たのか? 羨ましい奴め」
何となく気恥ずかしくなってしまい、適当な言葉を吐いた後。
自分でも「ヤベッ」と、軽口に対して後悔した。
俺等みたいな関係でリアルの事情を上げる云々の前に、コイツの場合は……。
「なはは、そんな人居ないよ。昔っから、ずっと。というか、あんまり俺の事情とか気にしなくて良いよ? クウリ、すぐ顔と雰囲気に出るんだから」
「……わり」
詳しく聞いた訳では無いが、家庭環境的に問題があったらしいからな。
あまりこの手の話は、トトンに振るべきではない。
それは理解していた筈なのに、寝ぼけていた影響か、それとも他の事に悩んでいた影響なのか。
何も考えず、おかしな台詞を吐いてしまった。
気にするなと言われても、やはり気になるのが人間というもので。
どう言葉を続けて良いか迷い、少しだけそのまま考えてしまっていると。
「だ~から、気にしなくて良いってば。俺は今幸せだし、それこそ今は同性な訳だし。多少くっ付くくらいなんの問題も無いでしょ」
気を使わせてしまったのか、こちらの頭をガシッと抱いていたトトンは俺の頬を引っ張り、そのまま顔を上げさせてきた。
「ん、だな。つぅか女の子同士って、なんであんな普通にくっ付くんだ? 俺等男からしたら、想像出来ねぇわ」
「なははっ、俺からしたら何であろうと羨ましーって感じだったけどね、そんな仲良い友達が居るの。でも“こっち側”なら皆とくっ付けるし、あんまり難しく考えてなーい。ホラ、ご飯行こ! もう出来てるよー」
「お気楽なもんで。ま、何でも良いか」
ちびっ子に解放され、こちらものびーっと身体を伸ばしたりしていた訳だが。
……今は?
今更ながらちょっとだけ違和感を持ち、テントを出ていくトトンの背中を見つめてしまったが。
特に普段と変わった様子は無く、「クウリ起きたー!」なんて外から声が聞えて来る。
流石に俺の気のせいか。
というか、日常会話なんてそれこそキッチリ言葉を選んで話す奴の方が少ないだろうしな。
※※※
「これはまた……どう見る? クウリ」
「どうもこうもねぇってイズ! ラストステージに相応しい面々のご登場だよ! “プラズマレイ”!」
道中、やはり魔獣や魔物は襲って来る。
しかも急に数が増えた。
もはや軍勢とも言える数で攻めて来たり、やけに強い個体と急にエンカウントしたりと色々。
今回はご立派なヒレが背中から生えている大トカゲ。
そのまま二足歩行でもしようものなら、こういう恐竜居たねって見た目な訳だが。
これらの群れに向かってレーザーをぶっ放し、大方数を減らしていく。
「岩場で死角も多い、前衛は無理に深追いするな! ダイラは全体防御、トトンはヘイト管理! イズは近付いて来た奴のみ対処、エレーヌは周辺警戒! 抜けて来た奴以外、攻撃の手は俺だけでも足りる!」
「後衛術師が頼もしいと、意外と前衛は暇になるのね」
「さてさて、それはどうかなぁっと……クウリの攻撃は、基本的にこっちの視界まで遮っちゃうから――」
「それは確かに。聖女、上よ。防壁をそっちにも作った方が良いわ」
「どわぁぁ! クウリィィ! 岩壁からもいっぱい来たぁぁ! デカいのがくっ付いてるぅぅ!」
魔女と性女の会話を聞きながらも、ぶっ放していたレーザーをそのまま上へと向けた。
いくつもの光線がゴツゴツした岩の壁を綺麗に整えながら、壁伝いに這って来ていたトカゲ共を一掃していく。
「っしゃぁ! 余裕!」
「気持ち良いくらいに片付けるな、本当に。流石だ、クウリ」
「イズ! 途中でプラズマレイが別の方向向いちゃったから、正面と右側からちょっと抜けて来てる! 正面は俺に任せて!」
「おっと、こちらもサボっていられないな」
そんな事を話しながらも、タンクとアタッカーが暴れはじめた。
登場する敵の驚異度は上がった様に思えるし、数も結構なもの。
しかし今の所、問題無く事態に対処出来ている。
ゲーム時代で言うのなら、ふざけた難易度のステージとかもあった訳だし。
フィールドを進むだけでも一苦労って所と比べると、むしろ軽い方だとは感じてしまうのだが。
これだって“リアルだからこそ”の影響が強い。
大技を鼻っ面に叩き込めば、防御力だのHP云々の前に相手は死ぬ。
だがそれは、俺等だって同じ条件にある訳だ。
なので、油断など出来る筈もないが。
「“ウィジャボード”、“エージング”!」
「待ってました! これでしばらく周辺は静かになるね!」
嬉しそうな声を上げるダイラが俺達の周りに魔術防壁を張ると同時に、ここら一帯を呪いの霧が包んでいく。
“老化”の効果により、周囲の岩々も表面がボロボロと崩れ始めるが……それよりも先に、エネミーとして登場した生きた相手は次々と朽ち果てていった。
「うっひぃ……改めて見ると、“老化”のデバフえっぐ。生物に対しては、これだけで対処出来るんじゃないの?」
「クウリの場合、威力と範囲もおかしな事になっているからな。寿命の概念がある相手なら、奥義より効果的かもしれん」
前衛二人からそんなお言葉が聞えて来るが、まぁ確かにその通りかも。
影響を及ぼしたら不味いって対象が居ないのなら、“エージング”最強かもしれない。
どんなに強い人でも、老いには勝てないなんて言うくらいだしね。
とか何とか考えながらスキルを停止してみれば、周辺は随分と静かになってしまった御様子。
「さって、進むか」
終わった終わった、とばかりに杖を肩に担いでみせると。
ダイラの方もホッと胸を撫で下ろし、周辺の防壁を解除。
「そして何も居なくなった、てヤツだね」
「ミイラはそこら中に転がっているけどね。“無に還す”と言う意味では本当に最強ね、魔王。これじゃ普通の仕事にはならなそうだけど」
今回は周辺警戒だけを任せたエレーヌは、少々暇そうにしながら周りを眺めていた。
なんともまぁ、皆揃って気楽な感じだが。
とはいえ、物見遊山とはいかない訳で。
「夜になってもこの調子じゃ不味いからな。どっか休めそうな場所を確保、その周辺を徹底的に掃除する。警戒だけは緩めるなよ、お前等」
そんな台詞と共に、皆揃って歩き出すのであった。
今の俺なら、システム的なマップがあるからこそ方角を間違える様な事は無いが……はてさて、どうなる事やら。
とりあえず、これまで以上に戦闘続きになりそうなのだけは確かだ。




