第18話 広範囲攻撃、テスト
「大体この辺かぁ~?」
「……酷い目に遭いましたわ」
観測地として地図に記載された場所に到着する頃には、ステラがげっそりしていた。
まぁ普段戦闘なんて目にする事もない立場の人だろうからね。
見ているだけでも疲れちゃったんだろうね。
知らんけど。
「クウリ、もう少し加減した方が……俺達が来た道、今までより見通しが良くなってしまった」
イズの呆れた声を聴きながら振り返ってみれば、うーむ……見事な焼け野原。
ある程度射程は絞って、あまり被害を出さずに殲滅したつもりだったのだが……駄目だねこりゃ。
道中の奴らも回収して売るつもりで居たとしたら、やっぱり俺は役に立たん。
というか、自然破壊で怒られるレベルだ。
まぁ魔獣がウジャウジャしているよりかは、安全になったと言う事で。
「とはいえ今回は馬車を止めず、殲滅をクウリだけに任せた訳だし……多少は、ね? でもダンジョンの中では絶対止めてね!? 間違いなく崩れるから!」
「わーかってるって……正直、途中からテンション上がってやらかしたのは自覚してる」
ダイラからも怒られてしまった。
俺、また何かやっちゃいました? ではなく、完全にやらかしているのだ。
オーバーキル云々じゃない、ステージそのものからぶっ壊して殲滅して進んで来た。
駄目だね、ホント。
社会人なんだから、もっと学習して経験を生かさないと。
いやぁでも、リアルでポンポン魔法連射すんの楽しいなぁ……ある意味ロマンが現実になった訳だし。
あと遠慮くなくスキル連射出来るのが楽しくて仕方ない。
癖になっちゃいそう。
「あ、黒クウリが抜けきってない。マナポーションでも飲んで落ち着け~」
呑気な声を上げるトトンが、コチラの顔面にグイグイとポーションを押し付けて来る。
まぁ、結構MP使ったからもらうが。
でもアレだなぁ、今回戦って改めて実感したけど。
術師にとって残りの魔力が感覚だけになってしまうのは、結構問題だ。
MPのゲージが表示されている訳でもなく、ステータスを開いて細かい数字を確認する事も出来ない。
この微妙なバランスを確認し、リキャストタイムを計算しながらスキルを選択していたのだが……それが、今では全て記憶と感覚に頼る事になってしまった。
あまり調子に乗ってバカスカ撃ちまくってると、そのまま魔力切れでパタリ。
なんて事もあるかもしれないだ。
ホント、注意しておこう。
「こうなって来ると、インベントリに頼ってばかりだと不味いな。いざって時にMP切れは怖すぎる。敵を目の前にして目を瞑るってのも問題だしな」
そんな事を言いながらマナポーションをグビグビ。
あ、意外とウマい。
けどこんなの何本も飲んでたらお腹タポタポしちゃいそう。
そういう意味でも、飲み物で回復って現実になると問題になるのか。
むしろポーション飲み過ぎ注意! とかあったらどうしましょう。
レイド戦とかだと、馬鹿みたいな量のポーションとか使って戦ってたんだけど。
中毒症状とか、出ないよね?
あと現実じゃ絶対そんなに飲めない、物理的に。
戦闘中にトイレ行きたくなっちゃうよ。
「それで、一応見通しの良い所までは着きましたけど……これからは、どのように? ダンジョンに近付けば近づく程、敵は増える一方ですわ」
メイドさんに支えられながら、ステラがコッチの会話に参加して来た訳だが。
どうしようね、ホント。
流石にダンジョンまで一直線~という訳にはいかず、一度現場を確認出来そうな高台に連れて来てもらったんだけど。
うーむ、遠目で見るだけでもワラワラしてんねぇ。
何かデッカイ人型とかも、ノッソノッソと歩いてるし。
そのまた向こうに口を開けたデカイ洞穴。
アレが多分ダンジョンの入口なのだろう。
「スタンピードがいつ起こるのかとか、分かんない? 分かるなら、そのタイミングでいっぺんに潰すけど」
「それはちょっと……どうしても確認のしようがありませんね」
だよねぇ~ゲームのイベントじゃないんだから。
中に人がいないって話を信じて行動するとして、こっからどうしましょう。
むしろ全力を出すなら、さっさとスタンピードが起こってくれた方が早いのだが……。
「ダンジョンもろとも吹っ飛ばしちゃうのが早いけど、それじゃ何の検証にもならねぇしなぁ」
「せめてボスくらいは確認しておきたい所だな。というかダンジョン自体、壊してしまって良いものなんだろうか?」
「とりあえずクウリ、周りにウジャウジャ居るの吹っ飛ばしちゃったら? ダンジョンには当てない感じで」
「あ、あんまり派手にやり過ぎて怒られない様にね……?」
各々口を開いてみれば、ステラが遠い目をしながら俺達を見つめていた。
何か凄く引かれている気がするんだけど、おかしいな……道中の件はアレだったが、本命にはまだ手を出して無いぞ。
「皆様の話の規模が大きすぎて、もう良く分かりませんわ……」
だ、そうです。
加減するのも難しいんだけど、派手にやるぜって決めてもやっぱり難しいのね。
マジでここまで能力値が高いのも考え物だな……すんごくやり辛い。
※※※
「んじゃとりあえずフィールド作って、順次溢れて来たのを討伐。長期戦になるかもしれんけども、出来ればボスも引っ張り出すって形で良いなぁー?」
「あぁ、問題ない」
「長期戦かぁ……モンスターを呼び寄せるアイテムとか使ってみる? その方が早く終わりそうだし」
「森の中じゃ戦い辛いし、見通し良くしちゃってクウリ~」
と言う事で、とてもとても雑な作戦を立てた。
ダンジョンは壊さない方針で、一度周りのお掃除。
森が広がっていて見通しも悪いので、一度整地してしまおうという訳だ。
後はまぁ、行き当たりばったりって事で。
あまりにもスタンピードが起こらなそうであれば、そのまま突入するしかないのだろうが。
「そんじゃいくぞー、“エージング”」
それだけ言って掌を上空に伸ばしてみれば、黒い球体が発生し空中に浮かんでいた。
一見“カオスフィールド”とも見た目が似ているが、あれみたいに広がったりしない。
というかアレよりも殲滅力が高いスキル、つまりMP消費も多ければ攻撃力も高い。
「あ、あのクウリさん……それはいったい?」
「まぁ、見てれば分かるよ。ホイッと」
軽い声を上げながら、高台から森の中に黒い球体を放り投げる。
実際に掴んで投げた訳ではないが、手を振り抜くとソレに合わせて狙った所に投下された。
すると。
「おぉ、ゲームの時より派手だな」
「な、なぁっ!?」
ズドンと低い爆発音が響き、落下地点を中心とした広い範囲が吹っ飛ばされる。
立て続けに紫色の煙が溢れ出し、まるで霧の様に広範囲に広がっていった。
そして、煙に触れている木々がどんどんと枯れていくではないか。
傍から見ると、“森が死んでいく”という表現が一番しっくりくる気がする。
「これは……何が?」
「着弾時の爆破ダメージと、広範囲に広がる“老化”の呪い。デバフって意味が強いんだけど、急速に老化が進めば……まぁ普通は死ぬか、そうだよね」
「風に乗って此方に来たりしませんわよね!?」
お姫様のステラと、メイド達が物凄く慌てているが。
見ている限りその心配はなさそうだ、こっちの方が高台だしね。
そしてエージングの煙も、風に影響されている様子は無い。
うむ、検証出来て何より。
「流石にあの中に突っ込んでいく気にはなれないな」
「効果時間終わってからで、良いよね? 数日でこれ以上姿変わっちゃっても困るんだけど……老化の呪いこっわ……」
「すげー、森が無くなってく上に、バッタバッタ死んでく」
トトンだけは呑気な声を上げつつ、現場を見下ろしていたが。
ゲームでは爆発の部分にしか仲間へのヒット判定は無かったが……残る二人の言う様に、確かに飛び込みたくはないな。
というか、リアルで見ると効果がエグイ。
「見通しは良くなったから、煙が消えたら真正面から攻めるか。次はイズのスキル試すからな」
「了解した、武器は……メイン武装で良いのか?」
「思いっきりやってみるって決めたかんね、頼むわ。とは言え山火事にならない程度に」
ちなみに、姫様達はココでお留守番。
周りの魔獣も殲滅して来たし、ダンジョン前でコレだけ派手な魔法を使ったのだ。
ヘイトを買っているとすれば、間違いなく俺達な筈。
ダイラに結界も張って貰ったし、問題は無いとは思うのだが。
そんな事を思いながらも、俺達四人はゆっくりと現場に向かって足を進めるのであった。
さぁて、どうなることやら。




