第179話 何に対しての恐怖か
「実際のところ、どう思っているの? 貴女としては」
「ん? あー、前回の件か?」
野営中、皆がテントで寝静まった頃。
見張りとして外に出ている俺とエレーヌは、適当に珈琲を啜りながらそんな会話をしていた。
「正直、さっぱりと言う他ねぇな。前回ノーライフキングの呪いを見た時もそうだったけど、仲間達と若干の“ズレ”が発生しているのは分かってる。けど、今回のはマジで分からん。魔術適性なのか、それとも他のステータスなのか。それ以外に違いの無い筈の俺等に、何かしらの差異が出るならソコなんだが……」
「今回は、私にも“見えた”」
そこなのだ。
俺と他の皆を比べるだけだなら分かりやすい。
それこそ正確な数字として、ステータスが存在しているのだから。
しかしながら今回の一件で、その辺が曖昧というか……更に分からない事が増えてしまった事例だとしか言いようが無いのだ。
俺と魔女にしか見えなかった敵、相手の攻撃だってそうだ。
あの霧すら目視出来なかったと言うのなら、それこそ全く気が付かない内に全滅していても不思議はなかった。
しかしながら俺の感覚としては、その事自体が異常。
だって……こう言ったら自惚れにしか聞こえないが、“俺等”だぞ?
世界にとっても異常としか言い様が無い能力を有している、ゲームのアバターをそのまま引っ張って来たかのような四人組。
その内の三人が、呆気なくやられる危険性を孕んでいたのだ。
もしかしたら、俺だけ遺跡でシステムに触れた影響かも……なんて事も考えたが。
そうなって来ると、エレーヌの存在が謎になって来るのだ。
こいつも確かに、“アレ”には触れた。
システムメニューなんて大袈裟には言えないのかもしれないが、警告文のブラウザは確認した人物だ。
そこだけを注目して、それを結果とするのならこの話題は終了になる訳だが……。
敵を目視で来た理由が、あまりにも極端と言うか。
曖昧な部分が多すぎる気がするのだ。
実際のところ、俺と魔女の共通点は何かと聞かれれば。
正直パッと思いつくところの方が少ない程。
エレーヌは適性って言う程の適性を調べた事は無いらしいが、得意なのは魔剣を使っての戦闘と、元から持っていた治癒能力。
後は魔力量が多い、これだけなのだ。
MP総量で言うのなら、ダイラだって今回のヤツが見えてもおかしくはない……気がするのだが。
「少しだけ、嫌な質問をして良いかしら?」
「なんだよ? 今更気を使う仲でもないだろ」
答えが見つからず、モヤモヤした思考のまま相手の言葉を聞いていると。
魔女は珈琲を一気飲みしてから、スッと目を細め。
仲間達の眠っているテントの方へと視線を向けた。
「貴女達は……本当に“同列”なの?」
「どういう意味だ?」
俺達パーティの一人一人の差異、そんなもん上げ始めたらキリがない。
誰も彼もやりたい事に特化した状態だし、方向性だって様々だ。
だからこそ、“全てが同等か?”と聞かれればNOと答える他無いだろう。
しかしながら、コイツが聞きたい事はそういう意味ではないというのは分かった。
「変な事を言うようだけど……私には、所々分からない個所があるわ。全員の方向性が違う、けど向かう先は一緒。だからこそパーティというモノを組み、共に戦う。そこまでは分かっている。見下したり、一点だけを見て比べている訳では無いの」
「あぁ~えぇと。能力と担当項目の話じゃなくて……ベースとしてって意味合いで良いのか?」
「そう、その通り。貴女達がやっていたという遊び、その操り人形としての肉体。これが今の貴女達の身体……で、良いのよね? その素体に関しては、違いはあるの?」
ちょっと説明が難しくなってくるが、ひとまず俺等がやっていた“ユートピアオンライン”の説明から始めてみる。
たった一人のプレイヤーになれる、という触れ込み。
これは他のゲームと比べてどういう意味を持つのか。
大体のネトゲなんてのはスキルツリーの方向性が決まっており、“どういうキャラ”を作りたいか。この時点で考える事が終わってしまう。
あとはプレイヤースキルの違いであり、それこそ素体となるアバターの能力値はそこまで変わりはない。
しかし俺達がやっていたネトゲに関しては、育て方によって根っこの部分から変わって来てしまうという説明もし始めたが……これがまた、他の例えを出していると長い事長い事。
極端に言えば、どの人形を使ってどんな人がプレイするのかが一般のゲーム。
そしてユートピアオンラインに関しては、その人形を作る事自体が目的というか……。
しかしこれらの話を抜きにした所で、レベルなどの熟練度。
プレイヤーにはどうする事も出来ない基礎の基礎という部分に関しては、皆一緒なのだと説明してみると。
「魔王、焔の剣、幸運の聖女、超合金……なんだったかしら」
「超合金ロリ、あと聖女は“性女”な」
「……うん? まぁ良いわ。確かに、そんな二つ名がつく程全員が強いのは良く分かる」
そんな事を言いだした魔女は、おかわりの珈琲を淹れるのに苦戦しているが……あぁもう、俺がやるから貸せ。
インスタント……モドキくらい、俺でも淹れられるわ。
「ありがと」
「どういたしまして」
カップを差し出し、再び彼女は珈琲に口を付けてからフゥっと一息。
そして。
「皆強い、誰も彼もが他では絶対に代用できない存在なのは理解出来る。けど……本当に貴方達は、“同じ存在”なの?」
「それこそ、どういうこった?」
レベルで言うのなら、全員カンスト状態だからマジで一緒。
それ以外の項目で言うなら、やはりステの振り方。
これの他に違いを上げるのだとすれば、やはり課金具合か。
ダイラはフリーターだったみたいだし、トトンは自由に金が使える環境では無かった。
イズに関しては節度ある程度だったみたいだし……どちらかと言うと、皆プレイヤースキルで成り上がって来た方向に近いのかもしれない。
とはいえ、ある一定以上は課金しているのは確か。
トトンの装備何かに関しては、余計なお世話だと分かっていながらも、俺がちょっと手を貸したりしていたしな。
そして俺に関して言うのなら……正直、あんまり思い出したくない。
他の社会人から見れば、間違いなく“馬鹿か”と言われそうな金の使い方をしていたのだから。
夏のボーナスネトゲに全部溶かすとか、マジで馬鹿。
しかも結果として得られるのは、ほんっっとうに微妙なステータスの差だったり、ちょっと便利になるアイテムだったりするのだから。
いや、ネトゲってそういうものなんだけどね? そういうのが後々になって、結構な違いになったりするんだけどね?
などと、言い訳まがいに説明してみると。
「多分……そういうのじゃないわ。少しの能力値とか、道具とか。そんな些細な違いじゃないと言うか……」
「なんだよ、結局何が言いたいんだ?」
いつまで経っても中途半端な言葉を残す魔女に対し、ため息交じりにそんな言葉を投げかけてみれば。
相手は更に目を細めてから、ジッと此方を覗き込み。
「私が“魔女”であり、他の人達と違う様に……クウリ、貴女からはそれを感じる……気がするの。でも、他の三人からはそういう気配がない。気を悪くしないで欲しいんだけど、あくまで私の“感覚”でしかないわ。侮辱の意図は無い」
「異物感……みたいなモンか? だとするとやっぱり、遺跡でシステムに触れた事が原因なんじゃ――」
「もっと前からよ。それこそ、初めて出会った時から。全てに絶望し、諦め。まるで灰色に見えていた世界の中、貴女だけには色が付いている様に見えた。これまで白黒の世界に居たのに、艶のある漆黒の鎧、銀色の髪、輝く紫色の瞳。そして何より、誰よりも“悪役”という言葉が似合いそうな笑みを浮かべる魔王。私にとって、それが貴女」
随分と御大層な評価があったもんだと、思わず呆れた笑い声を零してしまいそうになったが。
エレーヌに関しては、一切ふざけている様子など無く。
とても真剣な眼差しで、俺の事をまるで射抜く様に見つめてから。
「貴女達は……本当に、“四人”で転生してきたのよね? これだけは、本当に間違いない?」
「……どう言う意味だ?」
その言葉に、意味も分からずゾクッと背中が冷たくなった気がした。
彼女の言葉を聞いて、今俺は何を恐れた?
何を思って、この感覚を“違う”とすぐ否定出来なかった?
何故彼女の言葉に、俺達は四人で一緒にこの世界に来たんだと即答出来なかった?
質問に質問で返す様な真似ばかりしてしまっているのに、エレーヌはそのまま言葉を続け。
「私から見て、他の三人は確かに強いけど……その、他の人と一緒というか。いえ、一緒ではないのかしら。けど、貴女とは違う様に見えるの。それこそ……“プレイヤー”、だったかしら? 説明を聞いた限り、それは貴女だけなのかと思ってしまう程に」
魔女の言葉に、此方は言葉を失ってしまった。
どうして? 何故否定しない?
俺の思考回路は、間違いなく違うと言っているのに。
だとすればコレは……アバターから来る、拒否反応?
俺はいったい何を恐れているというのか。
身体そのものというか、俺の直感や本能は何を感じ取っているのか。
その答えは……この短い会話だけでは、全然見つかりそうも無かった。




