第178話 お誕生日会
「これはまた、盛大ね」
「懐かしいアイテムを掘り起こしてたら、つい……ね?」
周囲には雪、そしてゴツゴツした岩。
道らしき道もない、辺鄙な大地のど真ん中。
そんな場所で、インベントリから広いテーブルを引っ張り出し。
それはもう数々の食べ物が並んでいた。
「もはや思考放棄で、パーティー仕様で揚げ物ばかり作ったが……大丈夫か?」
「旨そー! 俺こういうのすげぇ久しぶり!」
「サラダだけはいっぱい作ったから、そっちもちゃんと食べるんだよー?」
テーブルの上に乗っているそれらは、完全に食いたい物食おうぜ! という頭悪い感じで、男達の飲み会風景に他ならない。
インベントリを皆して漁り、あっちもあったこっちもあったと色々取り出してみた結果。
すんごい事になっていた。
イズが作ってくれた色んな物の唐揚げ、更にフライドポテト。
そしてダイラが大量に作ってくれたサラダが、デンッとボウルのまま鎮座しているので、そこだけは救いだが。
他に関しては。
「異世界、の筈なんだけどなぁ……」
トトンのリクエストである七面鳥の丸焼き、そしてやけにデカいケーキ。
この辺は、クリスマスイベントか何かだったか?
あとはXLサイズのピザに、サイドメニュー的な物もチラホラ。
こっちは、普通にリアルの店に売られている状態でアイテムとして登場した為、パッケージまでそのまんま。
グラタンとか、ホットパイなんてサイドメニュー的な物も並んでいる。
そして全く空気を読まない感じで、カツカレーやら寿司、ステーキにハンバーグなんて物まで登場しているではないか。
誰だもんじゃ焼きを鉄板ごと出した奴は、匂いが強いぞ。
人が居ない大地に、とんでもなく良い匂いを漂わせる湯気が立ち上ってるぞ。
「食おう食おう! 誕生日会みたい!」
「あははっ、ここまで豪勢だと凄い誕生日だね。あ、それなら変なグッズもあるから、そっちも出そうか」
「ではトトン、お前はここに座れ。所謂“誕生日席”だ」
悪乗りし始めた皆がトトンを特別席に座らせ。
ダイラの方はインベントリから蝋燭を準備。
そのままケーキに突き立て、イズが指先から小さな炎を出して灯りを灯していく。
こんな所でいったい何をしているのやら。
というか、いつの間にかちびっ子の誕生日会みたいになってしまった。
「バースデーソングでも歌う? ならクウリにお願いしようか、吟遊詩人モドキだし」
「その場合“詠唱”として効果が発揮するのか……?」
「俺が歌って、リジェネが発動しても知らねぇぞ? また変なのが寄って来るかもしれん、月の魔力が~とか言って」
「あら、祝いの歌かしら? 簡単なモノなら知っているから、私が歌いましょうか?」
「なになに!? この流れって、俺が蝋燭消して良いヤツ!?」
もはや、完全に遊んでいた。
その後はエレーヌが祝いの歌? 的なものを披露し、これに関しては思わず拍手。
俺がリジェネ使う時の“寝落ちの歌”、というか鼻歌とは比べ物にならないくらい上手かった。
コレが終わればトトンがテンション爆上げのままケーキの蝋燭の火を吹き消し、ノリだけで皆して盛り上がっていく。
あとはもう、好き放題やりたい放題。
「クウリ~寿司取って寿司、食べたーい」
「あいよ。何が良い? 小皿に分けるぞ?」
「サーモンとイクラと~タマゴ!」
「お子様メニューか!」
「いーじゃん! 色綺麗で美味しそうなんだもん!」
トトンに関しては、もはや本気で堪能している御様子。
誕生日会みたいな雰囲気を全力で楽しんでいるのか、喜んで主役を買って出ているし。
あっちもこっちもと手を伸ばしては、満足そうな表情でモリモリと料理を減らしていく。
ま、楽しめてんのなら何よりだが。
「イズ、これ何の唐揚げ? 美味しいけど、ちょっと食べた事ない気がする」
「ん? あぁ、それか。鮫だな」
「鮫!? コレ鮫なの!?」
「俺の地元では普通に食べられていたんだが、初めてか? 鯨の竜田揚げとかも旨いから、是非食べてみてくれ」
「え、どれ!? どれが鯨!? 食べてみたい!」
イズとダイラも盛り上がっており、寿司を食っている最中のトトンも参戦。
皆揃って揚げ物を齧ってから、思い切り表情を緩めていた。
「ハハッ。兵士から、お前達本気で死地に向かうのかー!? みたいな雰囲気で見送られたのに、今の状況を見られたらなんて言われるんだろうな?」
「良いじゃない別に。食べたければ付いて来いって言ってあげれば」
「そうじゃねぇのよ、雰囲気の話なのよ。つか普通、パーティー料理食う為だけに未開拓領域まで付いて来ねぇって」
エレーヌの少々ズレた突っ込みに声を返しながら、さっきから黙々と食事を進めている魔女の方へと振り返ってみると。
「…………」
「とても、伸びるわ」
両手にピザを持った魔女が、口からミニョ~ンとチーズを伸ばしておられた。
いや、うん、伸びてるね。
何かコイツがピザ両手に持っている時点で、欲張りか! ってツッコミを入れたくなるが。
絵面がヒデェ! 言っちゃ悪いが滅茶苦茶マヌケ!
感情薄いですみたいな顔してるくせに、行動が思いっ切り子供!
「せめて一切れずつ食えよ……」
「熱い内にと思って」
「左様で」
適当にポテトを摘まみながら、ホットパイに手を伸ばした。
冬の時期になるとファーストード店にも出て来る、ドームみたいな形になっているパイ生地のアレ。
誰も手を付けていなかったのか、未だにまん丸の表面は健在。
ではでは、一番良い所を貰っちゃおうかな?
好きなんだよねぇ、スプーンで最初の一手を加える瞬間。
バリッて突き破って、ほわぁって湯気が立ち上るのが堪んない。
何てことを思いつつ、件のソイツを引っ張り寄せてみると。
「ジ~~」
両手に料理を持っているちびっ子が、いつの間にか隣に寄って来ていた。
おぉ、今度は子供らしい子供が来たな。
どっかの魔女みたいにギャップの塊ではなく、こっちはとても分かりやすい。
「トトン、一口目食うか?」
「良いの?」
「何たって今日は、お前の“誕生日会”だからな」
とか何とか適当に話を合わせつつ、相手にスプーンを渡そうと思ったのだが……。
コイツもコイツで欲張っているのか、右手には唐揚げが刺さったフォーク。
何の肉かは知らんけども、そして左手にはドデカいフライドチキンを掴んでいた。
肉肉しい上に、油っこいヤツだな。
と言う事で。
「ホレ、食わせてやるから口開けて待ってろ」
思わずククッと笑い声を上げてから、トトンの目の前でホットパイをてっぺんから一突き。
我ながら雑か、と言いたくなるが……正しい食い方とかあるのかコレ?
まぁあまり難しい事は気にせず、そのままパイ生地を押しのけてやると。
「良い匂いする!」
「そうそう、コレ割った瞬間マジで好き。ぶわぁって香りが来るよな」
などと会話しつつ、パイ生地と一緒に中のシチューを一掬い。
そのままちびっ子の口に運んでやれば、満足! とばかりに緩い表情を浮かべているトトン。
そんな事をしていたら、反対側で魔女まで口を開けて待機し始めたが。
お前は自分で食えよ、見た目的に。
しかし大人しく待機したままなので、とりあえずもう一人の口にも放り込んでやれば。
「貴女達の世界の料理は、どれも美味しいわね。全く飽きる気がしないわ」
「そうかい、そりゃ良かったよ」
おかしい、こういう保護者的役割はイズとダイラの仕事だった筈。
だというのに、ちびっ子と魔女が俺の周りに集まってあっちもこっちもと食べ始めてしまったのだが。
「ホラ皆、油っぽい物ばっかり食べてないで、ちゃんと野菜も食べなよー?」
デカいボウルに入ったサラダを取り分け、全員に配っていくダイラ。
コイツはアレか、オカンって言うより女子力が高いというべきなのか。
中身は男な筈なのだが、これもアバターの影響なんだろうか。
ありがとうございます、野菜欲しいっす。
俺の中身は良い歳なので、サッパリ系欲しいっす。
「まぁ、今日ばかりは好きな物を食べれば良いさ。どうせ今の俺達なら全部平らげてしまうだろうし。我ながら、よく食べる様になったと驚くが。まぁ、その分動いているからな」
そんな事を言いながら、イズが誰かが出したもんじゃ焼きを摘まみながら酒を飲み始めていた。
ズルい、俺も欲しい。
俺もそっちに行こうとしたら、ダイラに睨まれたけど。
「あっ! ケーキ! ケーキ食べるの忘れてた!」
「そうね、いつ手を出せば良いのかと思っていたけど。アレも食べないとね、勿体ないわ」
「お前等……間に甘味挟むのかよ。若けぇな、というかすげぇな」
と言う事で、各々好きな物に手を伸ばしつつ。
だぁれも居ない北の大地で、俺達はいつもより豪華な食事を続けるのであった。
コレ、傍から見たら相当異常な光景だよなぁ……。




