第177話 ラストステージへ
「本当に、世話になった」
「いえいえ、こちらこそ。そんじゃ引き続き、お仕事頑張ってくださいな」
それからしばらくして、最前線とやらの砦に到着した俺達。
今回同行した兵士の皆様が、滞在していた人達と交代。
今までココで働いていた人たちは、前回の中間地点まで後退するらしいが……。
前の所と違って、随分と雰囲気のある建築物。
“決戦の場”なんて言葉が似合いそうな、どこからどう見ても戦う為の建築物が拵えてあった程。
そしてこれからしばらくの間、ここにお勤めする方々は俺達と一緒に来た兵士達だけではないらしく。
別方向からこの地へ向かって来た別の隊とも、今後合流を済ませるそうだ。
ま、そりゃそうか。
軍団ともなれば当然戦力は上がるが、もしも前回の様な大物と遭遇した場合は全滅不可避。
こういう砦も各所にあるらしいが、それでもそこらを闊歩する全ての魔物を止められる訳では無いのだから。
もしも被害に遭ったとしても、少しでも交代要員をこの場に連れて来る方が重要なのだろう。
「未だに信じられないが……君達の報告にあった“見えない敵”、結局アレはなんだったんだ?」
「さてね、俺等にも良く分からん。俺とエレーヌだけが見た幻だったって疑ってくれても良いぜ?」
「幻影一つで大地をあそこまで荒らしたのだとしたら……魔物より君達の方が恐ろしくてしかたないな」
ハハハッ、乾いた笑い声を洩らす隊長さんだったが。
実際のところ、数日前にエンカウントしたあのタコボスの詳細は不明。
俺とエレーヌにしか霧も魚も見えなかったのは謎だし、あのタコくらいは見えてもおかしくないんじゃ……とは思ったものの。
俺達が派手に攻撃した影響で土埃が盛大に巻き上がり、仲間達からすれば視界はゼロに近い状態だったようだ。
そんな訳で、他の冒険者達からはかなりビビられる結果に。
そして兵士の皆様は隊長さん以外皆目を合わせてくれないという、物凄い事態には陥ったのだが。
そっちはまだ良い。
今回参戦出来なかったという事が、仲間達に結構利いている様で。
イズは悔しそうに顔を歪め、ダイラは今回の事態に困惑気味。
最後のトトンに関しては、俺だけステータスが確認出来る様になってしまった件も含め、かなり心配性になってしまったと言えよう。
今でもガシッと俺の服を掴んでるし。
本気装備の場合はほぼ掴む所が無いので、ずっと引っ付いてくるが。
「それで君達は……本当に、ここより先に進むのか? 我々……というか、人類が一切手を加えていない地域だぞ? ここまで辿り着いたんだ、此方としても君達の実力は認めているし、今更駄目だとは言わないが……」
「ま、それが俺等の目的なんでね。ちょいと最北まで観光してくるだけだよ、御心配どうも」
「ハハッ、頼もしいと笑うべきか。それとも呆れるべきなのか分からないな」
困った様な笑顔を作りながらも、相手は此方に掌を差し出して来て。
「何はともあれ、同行感謝する。君達が居てくれて、本当に助かったよ。お陰で、此方の荷物に被害はゼロだ。冒険者に関しては……」
「犠牲者一名。しかも戦闘終了後じゃないと仲間でさえ認識できなかったっていう……妙なオマケ付きだな。後味悪いけど」
「こう言っては何だが、それでも信じられないくらいに被害が少なかったと言える実績なんだ。君達が居なければ、あのまま全滅していてもおかしくなかった。だから、ありがとう」
そんな言葉を貰いながら握手を交わし。
ゴッツい門を開けてもらって、俺達は更に北へと視線を向けた。
「達者でな。“観光”が終わったら、是非俺達にも感想を聞かせてくれ」
「あぁ、土産話を楽しみにしていてくれよ。それじゃ、またな」
なんて、随分とあっさりとした別れを済ませ。
俺達五人は、現状人類が到達できる最終地点を後にするのであった。
目の前に広がるのは、未だ冬景色とも言える光景。
そしてエレーヌが言っていた様に、少々岩々が連なる様な景色へと変化し始めている訳だが。
「謎は増える一方、ってな雰囲気ではあるものの。世界の事を調べるのに、専門家が一人もいないんだ。こればっかりは仕方ないか」
「まぁ……そうかもしれないな」
歩き出してからポツリと零してみれば、イズは少々気まずそうな視線を此方に向けて来る。
だからこそ、あえてニカッと笑みを作って返し。
「んだよ、まだ気にしてんのか? それこそMP総量が多くないと目視出来ない敵だった、なんて可能性だってゼロじゃないだろ? それこそ幻惑耐性とかな。相手のプロパティが拝めないんだ、俺等だけで考えたって分からないさ」
「それはそうなんだがな……歯痒い気分だよ」
これに関しては、他の皆も同じ感情なのか。
少々気まずい空気が漂ったりしている訳だが。
そんな空気の中、グゥゥゥと盛大に腹の音を鳴らす奴が。
「ねぇ、そろそろご飯にしない? 人目が無い以上、何をしても、何を作っても問題無いでしょう? ある意味、これまでよりずっと楽になったと思えば良いわ」
空気を読まない魔女が、お腹空いたとばかりに腹をさすりながらそんな事を言いだした。
コイツのマイペースっぷりは、本当に底無しだな……。
ま、何でも良いさ。
「だぁな。どうせ分かんねぇ事をずっと悩んでも腹は減るし、答えが欲しいなら“北の門”とやらにとっとと向かえば良いだけだ。いつまでも暗い顔してんじゃねぇよお前等、それこそ“らしくねぇ”だろうが」
カッカッカと笑って見せれば、こっちに引っ付いていたトトンからも腹の虫が鳴き声を上げ始め。
「うぅ……腹ペコが移った」
「魔女の空腹は感染する仕様だったのか」
「そうよ、知らなかったの?」
「おぉ、これはまた。俺等の知らない事が一つ出て来ちまったな」
何だかんだ言いながら、エレーヌの方も皆に気を使ってくれているらしく。
表情を緩めつつも、下らない冗談を挟んで歩き続ける。
そんな事を続けていれば、やがて仲間たちの様子も落ち着いて来て。
「では、歩きながらメニューを何にするか考えるか。今日は何が食べたい?」
「間違っても見られる事が無い訳だし、ゲーム時代の食料とかでも良いねぇ。普通に考えたら、どう持ち運ぶの? って豪華な料理のアイテムとかだってあったし。というか、その方が俺もイズも楽」
「そういえば確かに……七面鳥の丸焼きとかあった! 俺アレをガブッて食ってみたい! でもイズのご飯も食べたい……」
「ならいつもより軽めに飯作ってもらって、オマケとしてアイテムから出してみるか? 回復量多いヤツじゃないと保管してないけど。それこそたまには、イズとダイラにも楽させてやんねぇと」
「貴女達の収納魔法は、本当に何でも有りなのね」
などと会話を続け、いつも通り笑いながら陸路を歩く。
こっから先は、マジで何もない大地。
目指す先にある“北の門”以外は、他人も居ないし街もない。
それこそ、空を飛ぶのだって人目を気にしなくて済むのだ。
魔女の言う通り、魔獣さえどうにか出来るのなら、これまでよりずっと気を使う事の方が少ないだろう。
とはいえ、そんな事ばかりしていては旅って感じがしないので。
「あっ! 盛り盛りのラーメンがある! 食品コラボのアイテムだったかな……? これ、コンバートすると丼ごとデンッて出てくるのかな?」
「トトーン? インベントリ漁るのは良いけど、目をつぶったまま歩かないの。また転ぶよ?」
「こっちは……ワニ肉か、何のエネミーからドロップするアイテムだったか。結構淡白な味だと聞いた事があるが、食べてみるか? 唐揚げか何かで試せば、食べられない事は無いだろう」
「おーい前衛二人、お前等が二人揃って目を瞑ったまま歩いてどうすんだよ。一応危険地帯だからなぁ~?」
「そっちは私が見るわ、今は食事の方が重要よ」
「お前、実はかなり腹減ってんな?」
本当にいつも通り。
ゲームで例えるのなら、それこそラストステージに踏み込んだ場面だろうに。
こんな所でも飯の話をしているというのは、少々気が抜けるが。
ま、普段からこんなもんだったしな。
俺等の異世界放浪記としちゃ、それこそ悪くないってもんだろう。
なんて事ばかりを考える様にして、今後の事から少しでも目を背けるのであった。
もしかしたら、本当に終わりが近いのかもしれないのだから。




