第176話 消えろ、跡形も無く
俺と魔女の遠距離攻撃が大地に降り注ぎ、そこら中を破壊していく中。
「見えた! あそこだ!」
「どこっ!?」
「あの山だ! 掴まれエレーヌ!」
「……山?」
不思議そうに首を傾げる魔女を抱きかかえ、もう一度MPポーションを二人分。
それを飲み干してから、随分な速度で地面に向かっていた身体を無理やり方向転換。
かなり地面スレスレの所まで急降下してしまい、思わずヒヤッとしたが。
しかしながら速度をそのままに、派手に巻き上がった土埃を突き抜けて問題の場所へと飛んでいく。
サモナーの職分を警戒し、魔人か普通の人間か、というのも想定していたのだが。
そこに居たのは。
「山くらいデカい相手って事だよ! アレだ!」
「……あぁ、なるほど。コレだけ攻撃したのに、妙にピンピンしている場所があるわね。“擬態”の類かしら? どこまでもいやらしい、意地汚い戦い方をする相手ね」
それこそ視界に映る全てを攻撃するつもりで、端からスキルを使ったのだ。
周囲は荒れ地どころか、死の大地って表現が合いそうなほどにボロボロになっているというのに。
一か所だけ、まだ雪が残ったかのような色をした山が……動いているのだ。
そしてエレーヌの予想が正しかったのか、その姿は徐々に色を変えて行き。
やがて現れたのは、馬鹿デカい……タコ?
海に居るソイツにしては無駄にゴツゴツしているし、ここから見る限り目が六つもギョロギョロしているが。
更には、足の数が異常に多い。
「ハッ! どっかの神話に出て来る支配者様のなりそこないってか?」
「貴女の世界には、あんな神様が居るの? 知り合い? 随分変わった繋がりがあるのね」
「実際には居ねぇわ! 神様の知り合いなんぞ居て堪るか!」
少々気の抜けた会話を挟みながら、超巨大なソイツの前に先回り。
ウネウネウネウネと大量の脚を動かしながら進行してくる姿は、マァジでキモい。
更に言うなら、脚の間……というか口か?
そこからは、真っ白い霧を吐き出し続けているではないか。
つまり俺等の周りに発生していたアレは、コイツの吐息か何かだった訳だ。
「生臭ぇ息を散々嗅がせやがって、徹底的に消臭してやるから覚悟しやがれ」
「置いて行ける首は無さそうね。なら、跡形も無く消えなさい。目障りよ、軟体生物」
二人揃って、武器を構えた。
エレーヌは正面に切っ先を向け、俺は天に向かって杖を振り上げる。
もはや肌で感じる事が出来る程に、両者の身体には魔力が纏わり付いて来るのが分かる。
さぁて、こんなのが相手だ。
一番ド派手なので相手してやろうじゃねぇか。
「よぉ、タコ面。良い夜だな? テメェの霧にさえ邪魔されなければ、こんなにも“月明かり”が綺麗だ」
「でも気を付けなさい? “満月”の夜は、狩人の血が騒ぐ……なんて言われるのだから。まぁここに居るのは、魔女と魔王だけど」
ニッと、口元を吊り上げた。
これだけデカい図体なんだ、マジで山。
そんなのを相手にするなら、適当なスキルじゃ失礼だよなぁ?
散々チクチク虐めてくれたんだ、お礼は倍にして返してやらねぇと。
という事で、俺が選ぶスキルは一択。
月の光を魔力に代え、まるで身体に輝きが纏わり付いてくるかの様。
だがその状態でも、重い身体を動かして相手の方へと杖の切っ先を向けてから。
「覚醒……ぶちかませ、“サテライト・レイ”!」
「“覚醒”しなさい……滅せよ、血喰らい!」
月からは極太の眩いレーザーが照射され、相手を飲み込んだ。
魔女の剣からも、これまた極太の真っ赤な光。
その二本の先が一点に集まり、北の大地ごとタコの化け物を……文字通り、“蒸発”させて行く。
今までの戦闘に比べたら、本当に一瞬。
大技をぶっ放しただけで、大した事なんぞしていない。
しかしながら、スキルを停止させてみれば。
これまでに無い程、御大層なクレーターが月明かりの元に晒される事になった。
「クハハハッ! 軟体生物風情が、大した事ねぇなぁ?」
「デカいだけで、私達の敵じゃないわね」
二人揃って歪んだ笑みを浮かべたまま、ゆっくりと地上へと降りて行くのであった。
よく分からんエンカウント性フィールドボス、討伐完了だ。
「というかエレーヌ、さっき“オーバードライブ”使った? 覚醒、って言ってたけど」
「…………皆に合わせただけよ、私にはそんなの使えないわ。別に良いじゃない、ちょっとくらい真似したって」
あらま、随分と可愛らしい事で。
※※※
「クウリクウリクウリィィ!」
キャンプに戻ったら、トトンから突進を食らった。
それはもうズドンと、ちびっ子の頭が俺の腹に突き刺さる感じで。
ぐはっ! と声を上げるどころではなく、そのまま後ろに吹っ飛ばされたんだが?
ノックバックが発生しただけで、ダメージは無い筈。
しかしながらイズに殴られた時同様衝撃は来るようで、一瞬意識が飛びかけた。
こっちは本気装備を纏っているというのに、トトンはコレと言って痛みを訴える様子は無し。
コイツの頭は石頭を通り越して鉄頭か何かなのだろうか。
「相変わらず……好かれているわね」
「コレを見て、まず言う事がソレか……無情な奴め」
さっきまで一緒に戦っていた筈のエレーヌからは、非常に呆れた視線を向けられてしまった。
ぐへぇ……と地面に倒れ伏していれば、ちびっ子は俺の上で起き上がり。
「何がどうなってんの!? 俺等には何も見えないんだけど! ねぇ大丈夫!? 本当に平気!? 何と戦ってたの!? こんなに攻撃しないといけない程ヤバイ奴だったの!?」
物凄い勢いで、質問攻めして来るトトン。
戻って来たらまず説明を求められるとは思っていたが、まさかこういう状況になるとは。
パッチリお目目に思い切り涙を溜め、滅茶苦茶心配そうな瞳で此方を見下ろして来るちびっ子。
俺等の行動を疑う云々の前に、コイツの場合はこうなっちゃうのか……。
というかアバターの影響が強まっているのか、マジで女の子みたいな泣き顔浮かべているし。
「あーうん、大丈夫だ。とりあえず俺と魔女で何とかした、もう平気平気。だから頼む、退いてくれ。痛ぇ、普通に痛ぇから」
「二人共本当に大丈夫なの!? 一応ポーション飲んで! どうせクウリ、MP回復の方しか飲んでないんでしょ!?」
此方の身体の上に乗っかっているちびっ子は、勢いのままHP回復ポーションを俺の口に突っ込んで来た。
待て待て待て、大丈夫だから、本当に大丈夫だから。
頼むから、仰向けの状態でドリンク一気飲みさせようとするな。
陸地で溺れるわ、瓶と俺の頭を押さえるな。
もはやゴボッ! グボァッ! みたいな変な声を上げながらポーションを何とか飲み込んでいると。
「クウリ、エレーヌ! 大丈夫か!? 何があった!」
「二人共無事!? さっきの空襲みたいな攻撃は本当に何!? 戦争跡地どころじゃない事になってるよ!?」
残るイズとダイラも駆け付けてくれたが、俺の上に居るトトンが更なるポーションを準備しているではないか。
おい、本当に止めろ。
フレンドリーファイヤが無いにしても、普通に窒息死はありえるから。
「ちょいちょいちょい! トトン止まれ! 今説明するから、頼むから止まってくれ! ホラもうダイラ来た! 回復はそっちに頼めば問題ねぇって!」
「ダイラ! 早く回復! それまではポーションで回復させるから! エレーヌもコレ! 回復ポーション飲んで!」
「お前のは回復じゃなくて攻撃だって言ってんだよ! 頼むから止まってくれ!」
「……仲、良いわね。あと、ありがとう。頂くわね」
「お前も見てないで止めろよ魔女! ポーションで殺される魔王が見たいのかよ!? 北の門に着く前に俺死ぬぞ!? いいのか――ゴボボボッ!」
そんな訳で、暴走トトンが止まるのはしばらく後になってからであった。
正確にはダイラがちゃんと回復スキルを行使するまでの間、俺はポーションを飲まされ続けた。
あぁぁ……気持ち悪い、腹の中タップタップ言ってるし。
やっぱアレだな、リアルだとポーション使いまくって何とかする戦法は駄目だな。
MP回復のポーションだけでも腹に溜まるってのに、HP管理までポーションに頼ったらマジで水分取り過ぎだわ。
皆には色々事情を説明しなきゃだし、今回の疑問点も相談しなきゃいけないのに。
ホントもう……水分取り過ぎて、トイレ行きたい。




