第173話 疲れるのは嫌です
「拠点を跨ぐとは言っていたけど、まさかこうなるとはねぇ」
「予想していたよりも、ずっと残ってくれたさ」
一つ目の拠点に到達した所で、隊長さんとそんな言葉を交わしていた。
目の前に広がるのは、まさに戦場の簡易キャンプとでも言う様な建物やテントの数々。
そんな中に、数多くの兵士達が疲弊した表情を浮かべて周囲を警戒していた。
このキャラバンは、もう一つ向こうの砦まで向かう予定。
なので、ここには物資を下ろすだけでそのまま先へと進まないといけないのだが。
「すみません……俺等は、この先は無理です」
そう言いだした、数多くの冒険者。
残ったのは本当に数パーティと言ったところ。
おいおい、こんな所でドロップアウトが大量に出るのかよ。
なんて言いたくはなってしまうが、コレばかりは仕方ない。
魔人も襲って来たし、ここに着くまでも連日魔獣に襲われていたのだから。
兵士側からすると、むしろ一つ目の拠点に辿り着く前に、勝手に帰る冒険者が出なかっただけ関心しているそうだ。
今回に関しては、俺等が居たから怖くて帰るって言えなかっただけの可能性があるけど。
「ここに残った皆はどうなる訳?」
「しばらくはここに滞在、その後兵達と一緒に街に戻る形になるな。その為には、俺達が無事に最前線に辿り着く必要がある」
なんでも俺達が一緒に居る兵士さん達。
このまま前に出張ってから、最前線を守っている人達と交代するのだとか。
んで、そこの人たちがココまで下がり、今度はココにいる人達が街に帰ると。
随分と物資と同時に兵の数も多いし、更には当人達が戦闘を控えている様子があったが。
どうやら最北の砦に辿り着く為、負傷を負わない様にする為だったらしい。
ま、そうじゃなきゃ冒険者をこれだけ集めたりしないか。
御大層なローテーション作業もあったものだと関心してしまったのだが、ここに滞在している兵士達はいったいいつから戦場に立っている事やら。
ホント、お疲れ様です。
一斉に交代出来ればそれが一番なのだろうが、他の場所の拠点も多いみたいだし。
人数や物資の問題もあり、なかなかどうして全部を叶える事が出来ない状態なのだろう。
そして撤退組の準備が整うまで、途中離脱の冒険者達はこの拠点にお世話になる訳だ。
多分雑務なんかはやらされるのだろうが、個人で帰るよりずっと安全というもの。
「しっかし、こっから先は更に戦闘が激化するんだろ? 冒険者の数、これで大丈夫なの?」
「正直、不安要素の方が多い。兵だけでも潜り抜けられる戦力を集めたつもりだが……今回は魔人まで出て来た訳だしな。しかし同時に、それすら討伐する君達のパーティが居るのは幸運としか言いようが無い。すまないが、頼って良いか? 兵を一人でも多く、前線に連れて行くのが仕事なんだ」
と言う事で、俺に頭を下げて来る隊長さん。
その間も荷物の積み下ろし作業は順調な様で、何台かは空荷になったのか。
こちらのキャラバンから離れ、馬小屋へと運ばれていく。
残ったのは半分程度の荷物、そして半分以下どころか、大幅に戦力が低下した冒険者達。
そして、兵士の数は変わらずってところ。
なんともまぁ、大変なお仕事です事。
「なら、隊長さん達は出来るだけ戦闘を避けな。冒険者組はこっちで貰う、兵士達は砦に入ってからお仕事開始なんだろ? 逆に俺等の仕事は、この荷物と“アンタ等の護衛”って訳だ。その後は好きにさせてもらうんだ、それまでは協力するさ」
「……感謝する。流石は“魔王”を名乗る冒険者、と言ったところかな?」
「……それは言わないで下さいお願いします」
なんて会話をしてから、軽く休憩を取っただけで更に北へと進み始めた俺達。
さぁて、どうすっかな。
戦闘自体はそこまで問題じゃない、前の魔人みたいなのがわんさか出てこない限りは。
それこそ残った数パーティの冒険者達でも、冷静に対処すれば何とかなるだろう。
であれば。
「こっから先は、“俺等流”でいかせてもらおうかな」
「一応、こっちにも情報を共有してくれよ? 信じていない訳ではないが、本当に全てを任せた訳じゃないからな」
「わぁってますよぉ~。ま、試し試しになるから。まったりと旅を続けようじゃないの」
と言う事で、隊長さんから許可は頂いた。
残った冒険者を集め、歩きながら今後の方針を話していく。
さてさて、可能な限り皆で楽して行きましょうかね。
※※※
「せってーき!」
「はいはいっと、“プラズマレイ”」
「此方もです! 三時方向! 獣の群れ!」
「リキャストタイムですねぇ。つっても、あれくらいなら大技は勿体ないな……イズー?」
「“フレイムボム”」
「上空! 大型接き――」
「“シューティングスター”」
実に適当な戦場が繰り広げられていた。
馬車の荷台の上に、ある程度の監視員を設置。
んで、全方向を交代で警戒してもらう。
ついでに、俺等も馬車の天井に座り込んでいる状態。
見つけ次第、こっちで“ぶっぱ”。
リキャストが発生している間や、こっちの攻撃から抜けて来た相手に関しては地上部隊のお仕事。
「トトン、正面軽く頼む。冒険者即席パーティ第一部隊、出番だぞー? ちびっ子に続けー」
「あいあーい」
「「「うぉぉぉぉ!」」」
「け、怪我したらすぐ下がってくださいねー?」
心配そうなダイラに見送られ、トトンを始めとする集団が正面の生き残りをお掃除。
周囲から細かいのが集まって来るが。
「ほい、術師と弓兵部隊、攻撃開始ー」
「「「了解!」」」
余ったそれらに関しては、俺等と同様馬車の上から監視していた後衛組が撃退。
その間も残る前衛たちは周囲に目を光らせているが、トトンが攻め込んだ正面側の殲滅が終われば、再び平穏が訪れた。
「ハイ終了~皆お疲れ~、ダイラの所に集まって体力回復してもらって~」
「雑ね、まるで遠足だわ」
呆れた様子の魔女からは、そんな言葉を頂いてしまったが。
だってコレだけ人数が居るんだもん、全部まとめて使えば絶対楽じゃん。
と言う事で、冒険者組に関してはパーティという概念を捨てた。
結構入り乱れた状態にはなるのだが、それぞれにちゃんと仕事を与えればキッチリと動いてくれるというもの。
ま、単純作業だしね。
まず俺等のパーティで、大技を使って御挨拶。
その後残った細かいのを皆に対処してもらっている状態。
ただし、監視に関しては皆でやりましょ~みたいな。
非常に単純、そしてパーティごとにローテとか面倒臭い。
だったら役割が被っている人達で、休憩しながら交代すれば良いじゃんってな訳で。
本来であればヒューマントラブルとか起きそうだけど、ただでさえ人数が減っている上。
更には俺等が派手に魔人戦を見せた影響もあるのか、今の所そういうトラブルは発生していない。
この様子に、兵士の皆様はポカンとした顔で本当に行進しているだけになってしまったが。
「す、凄いな……初手の火力が高いからこそ、これだけ安定しているのだろうが……」
「こっちの方が楽でしょ? 簡単な仕事だけ与えてソコに集中させれば良いだけだし、ごちゃ混ぜにしちゃった方が、皆気を使って余計な不満を爆発させる事も無い」
「君達という抑止力があってこそ、だがな?」
「それはそれ、これはこれ」
隊長さんからは、呆れた声を上げられてしまったが。
それでもこれまでよりもトラブルなく進んでいるんだ、良いじゃないか。
本気装備を見せてから、若干皆俺と距離を置いている気がしないでもないが。
魔道具です! って必死に説明しておいたからね、大丈夫な筈。
あとは知らん、陰で何言われても気にしない様にするしかない。
そんな訳で、トラブルなくキャラバンは進んでいく。
このまま問題無く、最先端の砦まで辿り着いてくれりゃ御の字なのだが……どうしたって野営は挟むのだ、隙が出来る瞬間は絶対に発生する。
だからこそ。
「今日のキャンプ地までもうちょっとだよぉー、ハイハイ皆様頑張りましょ~。その後はゆっくりご飯食べられるからねぇ」
適当な声を上げながら、皆の緊張をほぐしていくのであった。
と、言えれば良かったのだが。
「クウリ、流石にそれは気が抜けるから止めろ。指揮官が緩い口調で呼びかけるものじゃないぞ……」
なんて、イズからお叱りの言葉を頂いてしまった。
駄目か、流石に。
とはいえスノーワームとかメカドウマとか出てこないし、ただただ冬景色ってだけの平原を進んでいるだけだから、変なギミックも無い。
警戒はするけど……飽きねぇ? わりと。




