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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
7章

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第168話 勘違いとすれ違い


「お客様、本日のお夕食は別室にご案内いたします」


 風呂場で起こった魔女と魔王の衝突事故、なんて言うと大げさだが。

 俺とエレーヌのアホな行動により、完全に毒気が抜かれてしまった俺達が部屋でのんびりしていると。

 いつもの夕食より少し早い時間に、ウィスロンさんが部屋まで迎えに来た。

 昼間会った隊長さんの手配か~なんて、特に何も考えずゾロゾロと彼に続いていくと。

 案内されたのは、何か随分とカジュアルなお部屋。

 普段の大食堂の様なお堅い雰囲気は無く、長いテーブルには既に並んでいる料理の数々。

 そしてその向こう側には、今回の仕事で組む事になった兵士さん達がズラリ。


「おっ、来たな? 今日は俺達の奢りだから、好きなだけ食べてくれ」


 ニカッと笑う隊長さんが腰を上げ、俺達の元へと歩み寄って来たかと思えば。

 此方の格好をジーッと見つめた後。


「お嬢さん達……こう言っちゃなんだが、昼間とはまるで雰囲気が違うな。魔獣に派手な攻撃をぶっ放した子だってのに、今の恰好からじゃ想像も出来ないよ」


「似合ってねぇのは分かってますよー、あんまりイジらないで貰えると助かります」


「いやいやいや、そんな事は言ってないさ。皆よく似合ってるし、どこかのお姫様が来たって言われても納得しそうだ」


 なんて、随分とナンパっぽい台詞を吐く隊長さんだったが。

 他の兵士さん達の様子を見る限り、笑われている様子は無さそうだ。

 ついでに言うと、俺等に“お姫様”って単語出されてもちょっとなぁ。

 中身がアレな上に、こっちの知っているお姫様は随分とアクティブなので。

 当然ながら、何を言われてもドキッとは来ない訳ですよ。

 むしろ、乾いた笑い声が漏れてしまう程。


「そりゃどーも。んで、この雰囲気からすると……今日は堅苦しいテーブルマナーは無しでよろしいので?」


「当然。ここは宴会場、キチッとお綺麗に食事をする為の場所ではないので。綺麗に着飾ったお嬢さん達には、些か不満かもしれないが」


 とか何とか、クックックと揶揄う様な笑みを向けられてしまったので。

 此方もハンッと歪んだ微笑を返してから装備を変更。

 全員揃って、いつも通りの冒険者スタイルに戻ってみると。


「おぉ、こりゃまた珍しい魔法な事で。そっちの方が俺達としては接しやすいな」


「なら、今日は“こっち”にしようかな。仕事の話、するんだろ?」


 お互いに、ニッと牙を見せて微笑を浮かべるのであった。

 ちなみに、魔女だけは早着替えが出来ないのでいつも通りの赤ドレススタイル。

 コイツは何処に行っても変わらないね、ホント。


 ※※※


 お堅い御挨拶は無し、みたいな雰囲気になった瞬間。

 皆、随分とダレた。

 兵士の皆さんは好き勝手飲み食いしているし、本当に宴会みたいな雰囲気になっておられる。

 普段から周囲の魔獣殲滅ばかりやっている影響なのか、騒げる内に騒いでおけーみたいな空気が凄い。

 このノリはトトンにもよく合ったらしく、ちびっ子も他の人と一緒に騒ぎながらモリモリとご飯を頂いている御様子。

 お目付け役として、ダイラとエレーヌも一緒に付いて回っている様だが。


「こんな席で仕事の話ってのも申し訳ないが、大丈夫かな?」


「もちろん。というか、口調崩しても問題無いですよ? ちょこちょこ荒っぽい所出てますし」


「んじゃ、そうしようか。“お互いに”な?」


 隊長さんだけは俺とイズの近くに座り、食事をとりながら今回の仕事に関する書類を取り出していく。

 その中には、冒険者の個人情報まで記載されている物もあるみたいだが……俺等が見てしまって良いんだろうか?


「これはギルドから提出してもらった、今回俺達の部隊に同行する面々の詳細……というか、実績だな。勿論お嬢さん達のもあったが、君達はちょっと特殊過ぎて良く分からなかった」


 ま、ネットを通して情報共有する世界ではないからね。

 そう考えれば、俺等が“ギルドを通して”目立った機会ってのは案外少ない。

 どうしたって勝手に動いたり、他の経由から仕事を貰ったり。そんな事ばっかりだった気がする。

 実際ギルド同士でも冒険者個人の情報なんて共有には時間が掛かるだろうし、何より結果と報告でしか情報を得られないんだ。

 この街で活動している人間でもない限り、正確な情報など掴めたものでは無いだろう。


「ま、来たばかりだしね。大した事書いてなかったでしょ、俺等」


「だな。しかし戦場で見せた動きでは、他の者達を遥かに凌駕しているとしか言いようが無い。それに……お嬢さん達、一回も“本気”出してないだろ」


 うへ、やっぱりこの世界の兵士さん達は優秀です事。

 戦い方を見ただけでも、そんな事まで分かっちゃうのか。

 くわばらくわばら、なんて軽い態度を取っていたのだが。

 相手の視線はスッと細くなり。


「そういった意味も含めて、お嬢さん達にはより一層俺達に近い所……というか、行動方針として共感してもらいたい。可能なら冒険者としてではなく、思考を俺達寄りにしてもらって、その上で行動を共にしてもらいたいと考えている」


「具体的には?」


「俺等は何があっても“逃げる”って選択肢が取れない。もちろん全滅の恐れがあれば撤退の判断はするが、それはあくまで“不可能だ”と判断される事態が起きた場合のみだ。しかし、冒険者は違う。悪い言い方をするのなら、仕事をほっぽり出して逃げる事だって可能だ」


 詰まる話、お手伝いではなく本格的な協力を求められている。

 更には向こうの事情を此方に話し、こうして裏で手を組んでおく事で。

 “最後まで付き合え”と言われている、と考えて良さそうだ。

 例えそれが、命に関わりそうな事態だったとしても……逃げるなと、お願いされている訳だ。


「確かにこっちはまだ隠している手札は多い。だが言葉にした所で信じられないだろうし、俺が自分達の実力を大袈裟に話す可能性だってある。なのに、アンタはソレを信じて命を預けるのか?」


 さぁどうする隊長様。

 何処の馬の骨とも分からない冒険者風情に、アンタ自身の命。

 そして部下の命まで預ける様な位置に、本当に俺達を置く事が出来るのか?

 もしもこの先疑い続けたり、逆に何も考えずにYESと答えるのなら。

 それこそ止めた方が良いってもんだ。

 そんな口約束だけでは、多少の金を動かしただけでは。

 人間ってのは平気で裏切るのだから。

 更に言うのなら、俺だって指揮を執る立場に居る。

 相手の求める所と、何故“あの程度の戦績”だけで此方を懐に入れようとしているのか。

 これを明確にしてくれないのなら、こっちだって簡単に頷く事など不可能だろう。

 なぁんて、完全に煽った様な表情で問いかけてみれば。


「見ただけでも分かる、なんて言えばお嬢さん達は笑って退室して、そのまま仕事をキャンセルするんだろうな」


「おぉ、お見事。良く分かっていらっしゃる」


 パチパチと軽い拍手を送ってみると、隣のイズからは溜息が聞えて来たが。

 ヤベ、いつもの魔王テンションが悪さしている。

 俺の見た目でこんな煽り入れても、生意気なクソガキにしか見えないよな。


「ではまず、俺等が欲しがっている項目から話そう。はっきり言って、君達に変な期待を抱いている訳では無いんだ。ただただ、この目で見た実績で評価し、その上で欲しいと思った項目の為に声を掛けた」


「それは?」


 さて……どんな評価が下されるのか。

 いつものテンションが抜けきらず、少しだけ期待した様な眼差しを向けていると。


「君だ。俺達が求めた能力として、君の対空火力。アレを此方の指示の下使ってくれさえすれば、十二分に価値がある。その為、周りの冒険者に影響されて逃げ出したり、下手な所で死なれては困る。だからこそ、我々が守る。その上で対空戦が必要になった時に、即座に協力して欲しい」


「……あれ? めっちゃ普通だった」


「当たり前だろ。俺達は順当な戦い方をする兵士だぞ? 個性を尖らせる冒険者とは違う」


 ごもっとも。

 予想以上にまともな……というか、言っちゃ悪いが面白くない答えだったのだが。

 普通に考えれば、非常に納得出来る回答を頂いてしまうのであった。

 つまり勝手にあっちこっち行かず、対空砲として扱うからすぐに指示出せる場所に居てね? ちゃんと協力して? って事で、以上。

 難しい事、なぁんも無し。


「あ、あぁ~えぇと。すんません、色々と変なのと絡む機会とか多かったので……交渉の仕方が悪かったですね、ハイ。反省してます。凄く普通で実務的な内容に、ちょっとびっくりしました」


「お嬢さん達は、これまでどんな人達と交渉して来たんだ……」


 急に私兵になれとか言い出すお姫様とか、こっちを煽って来る同業者とか。

 火山の神様と不死の王とも煽り合った仲だし、性格悪い領主の依頼とバトったり、口数少ない上に態度悪い研究者とかですかね。

 なんて、言ったところで絶対信じてくれないけど。

 そうだよね、相手は求めるものがあって俺等に交渉の場を作ったんだから。

 当然欲しい物は明確になってないとおかしいよね、社会人の基本だ。

 いちいちトラブルに巻き込まれていたから、相手の捉え方がいつの間にか歪んでいたのかもしれない。

 マジで反省。


「はい……大丈夫デス。行ける所まで言って、現地でバイバイすると思いますケド……それまで、ちゃんと協力シマス……」


「ど、どうしたお嬢さん。大丈夫か?」


「どうか、気にしないで下さい。最近ウチのリーダーは、腹の探り合いをする相手とばかり話していたので。ごく普通の交渉の場で、テンションを間違えて悶えているだけです」


 言うなイズ、頼むから。

 今の俺、普通に仕事の相談をされた相手に対し、無駄に探り入れようとした馬鹿だから。

 この仕事をお願いします、報酬は此方です。問題無ければ、此方の書類にサインを。って言って来た相手に対して。

 コイツ……何が狙いだ? 何を企んでやがる……? この契約書、何か変な事が書いてあるんじゃ……ってアホみたいに疑って掛かった上、無駄に態度悪くした勘違い野郎になってる。

 あ、出来ます。報酬もOKです、よろしくお願いします。で、済む内容だったのに。


「え、えぇと……まぁ、なんだ。冒険者相手だから、あんまり固い雰囲気は不味いかと思ったんだが……それが良く無かったかな? とにかく、そんな訳で。今夜は君達のこれまでの活動内容とか、他にどんな事が出来るだとか。あとはあの対空戦力で、どれくらい連戦出来るのか。なんて内容を……聞こうかな、と思って……」


「ハイ、何でも聞いて下さい……」


 質問事項もバッチリ絞って来て頂いた様で、それはもうごく普通の交渉……というか、相談の場だった御様子で。

 そだよね、対空火力が欲しいとは言っても、現場では一回限りだったし。

 使おうとするなら、どれくらい連発出来るかとかも知りたいよね。

 一戦やったらしばらく動けないとか言ったら、現場に出てから困るもんね。

 そら事前に聞きますわ。


「クウリ、さっきのは“感覚が染まった”云々ではなく、お前の悪い癖が根付いて来た証拠だからな? 社会人だろうが……交渉の場では、煽る前に要望を聞け」


「スミマセンデシタ……」


 恥っっず!

 これまでと違う意味で、社会的に恥ずかしいわ!


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